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灰色の魔女  作者: 瀬戸 生駒
DDH-24 「カージマー18」
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コンタクト

「データまわして!」

 短く私が告げると、目の前のパーソナルモニターを数字が埋め尽くした。

 もう一手間かけるというか、本来はこの数字を元にコンピュータが2Dや3Dの図表にしてくれるけれども、その変換にはプログラマーの「クセ」みたいなのがあって、同じデータをベースにしても微妙に違っていたりする。

 会ったこともない、名前も知らないプログラマーのクセを覚えるよりも、数字を直接読んだ方が、手間も間違いもない。


 さっきの「0600」というのは……めんどうくさい!

「06」時間「00」分、つまりは6時間だけども、船乗りは格好をつけて「0600」と言う方を好む。

 まして、ブリッジクルーのほとんどが元軍人なので、「まる・ろく・まる・まる」と言い慣れてしまっている。

 それに私も慣れてしまって、コロニーに降りたときについ「ひとごーさんまる、集合なー」などと口走ってしまい、軍人に誤認されたこともあるけれども、私は、私たちは立派な「民間人」だ!


 この船の正面を映すディスプレイを左にスライドさせて、かわりに船の周囲を、天井と全壁面に投影した。

 カージマー、つまりDDH-24型の姉妹艦にはDDH-22がいるが、そちらは木星のどこかのコロニーで、旗艦として奮戦しているらしい。

 それをさらに改良改善したのがこの船で、武装を別にすれば、最新鋭の軍艦と言える。

 後継の船を作ろうにも、その造船ドックは「木星紛争」の最初期に爆散してしまったから、しばらくはできないだろう。

 ともあれ、軍艦が持っている武装以外のソフトとハードは、もれなく持っているといっていい。


 私はペロリと唇をなめて、その投影映像とパーソナルディスプレイの数字を見比べた。

 映像の小惑星やデブリと数字を見比べて、それぞれがどれに対応しているかをはじきだす。

 さらに、それぞれが自転・公転している天体をどう避けるか、あるいはぶつかったとき、どう飛ぶかを計算する。

 というと大変そうだけれども、チェスとビリヤードとテニスを一緒にプレイする、ゲームやパズルと大差ない。

 一度ハマれば、結構面白いよ?


「0530です!」

 報告に、私は違和感を覚えた。

 映像では自転しているのに数字が動いていない天体や、逆に数字が動いているのに映像が動いていない天体がある。

 私はそんな、映像と数字があっていない天体の1つに向けて、短く赤外線をとばしてみた。


 すー……。


 赤外線は映像の天体をすりぬけ、宇宙の虚空へ消えていった。


「ゴミゴミしてる思うたら、やっぱダミーや」

 そう言って、チラリと副長を見た。

 気がついた副長がこくんと頷く。

 そして、彼が声を上げた。

「アクティブ1発、全周囲!」


 向かう先のコロニーが、こつこつ時間をかけてダミー天体を打ち上げ続け、面倒くさい航路だと思わせるつもりならば、とがめるつもりは毛頭ない。

 そうやって「自衛」するのは、古典的な政策だ。

 が、この船に気がついてダミーをばらまいたのならば、それをした工作船、おそらくは「軍艦」がいる。

 それも通信管制と灯火管制をして、こっそり隠れているのが。


 レーダーは基本、パッシブレーダーという受信専用レーダーを使う。

 それでも、近づけば推進器のノイズや電波の漏れを拾うことができるから。

 対してアクティブレーダーは、こちらから探知波を放って、隠れている相手を探すのに使われる。

 ちょうど、サーチライトを走らせるようなモノだ。

 隠れている相手を見つけられる確率が増すが、こちらの所在もハッキリと相手に知らせてしまう。

 外洋では海賊船を呼び寄せかねないし、相手が近くにいて敵意があれば、ドラマのサーチライトと同じ運命をたどる。

 つまり、真っ先に銃撃を受けて、照明灯が割られるように……ドラマならばここからが活劇の始まりだが、船の場合は「終わり」、それもバッドエンドだ。


「機関長。アクティブと同時にスラスター10時、11時全開! トレインを曲げる!」

 続けて言った。

「30度曲がったところで全スラスター、最大出力!」

 わずかな加速でしかないが、アクティブレーダーを打ったらすぐ移動するのは、基本中の基本だ。

 加速はわずかだが、発熱を伴わないスラスターの場合、案外気づかれずに移動できたりする。

「わずか」を積み上げて「確実」まで持っていくのが船長の仕事だ。


 カーン!


 実際に音はしないだろうが、相手のレーダー担当官には、確実に聞こえただろう。

 間髪開けず、「カーン!」と打ち返してきた。

 副長が手のひらを開いて上に向け、肩をすくめてみせた。

「わからない」と。


 こちらの想像よりもはるかに秀でているか、あるいは単純なバカか。

 アクティブレーダーは、自らの所在をハッキリさせる。

 つまり、せっかく隠れていたのが、全くの無駄になるのだから。

「こちらが先にアクティブレーダーを打ったじゃないか?」と思われるかもしれないが、一瞬で、しかも全周囲に向けて打ったし、本当のデブリも実際に浮いている。

 それに紛れてしまうのは雑作もないし、副長ならそうするだろう。

 せっかく隠れていたのに、「ここにいるぞ~!」と手を振るに等しい行動なのだから。


 が、バカを演じて、こちらを油断させるという手もある。

 考えれば考えるほど、ドツボにはまる。


 私は船務長に顔を向けた。

 待ち構えていたかのように船務長が「ガハハハハ」と笑い、「いつでも行けるぜ、嬢ちゃん」と、腕を曲げて力こぶを作って見せた。


「機関長、距離わかる?」

「0020。ワンアクション行けます」

 即答があって、船務長が再び高笑いをあげた。

「嬢ちゃんは船で寝ていてくれ。

 教育に悪いって……怒られちまう」

「うっさいわ、ダボ!」

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