第六話:荒地に吹くは開闢の風
「ア、アニギ……」
「ヂクジョウ………」
瞬殺だった。彼らが何かしようとした瞬間、彼女の右掌にある禍々しい口から舌が伸び彼らを貫いていた。それはアニキことアニジャンキースも例外ではない。
「な……なにをしたんだ」
「殺意即答。私の舌は敵意を向けた人間に即座に反応して神経毒を注入する。何も出来ない事が逆に命を救ったわね。ヤマトクン?」
はは、その通り過ぎて何も言い返せない。
「――やっぱあの時の爆発はあんたが起こしたのかよ」
「あら、気づいてたの?黙ってたらまた、ちちんぷいぷいってやってくれると思ったのに」
彼女の右掌の舌を伸ばす、俺にぐるぐると巻き付き徐々に彼女の方へと引きずられていく。
「でもね、私はあなたの事。嫌いじゃないのよ?」
「…………」
「《チートギフト》、私にかけてくれないかしら?」
「チートギフト……?一体何を……!」
舌による拘束を解いたかと思うとぎゅ、と彼女は俺を抱きしめる。
「ほら、感じるでしょう?私の心が」
「――――お前は」
確かに感じ取れる、復讐、傲慢、憎しみ、恨み、悲しみ、後悔。
どす黒く殻に覆われ、装飾され、濁った光が見える。
「ぐっ……ああっ……!」
「ほら、ちゃんと掴んで……?」
彼女は手袋をしたままの左手で俺の左手をつかむと彼女の中へと引っ張っていく。
どくん、どくんと脈打っているのを感じる。
「昼間あの男にやったように心核を握りつぶせばいいだけよ。何も考える必要はないわ」
「そしたら助けてくれるってか……?」
「出来の悪い命乞いね……いいわ。約束してあげる」
「この能力は一体何なんだよ……」
「チートギフト。昂っている心を開放することでその者の望む力を与える能力よ」
「そうかい……やなこった」
「そう」
下腹部に鋭い痛みが走る。
「――――がっ!?」
そのまま吹っ飛ばされ壁に叩きつけられる。
彼女の右足が上がっている事を確認して初めて自分が蹴られたのだと理解する。
「……かはっ!」
「まあ別にどうでもいいのだけどね、あなたに頼る必要はないの」
嘘だろ、壁が俺の形にへこんでいるぞ。漫画やアニメじゃあるまいし。冗談みたいな威力だ
「ハッ、ハッ、ハ!」
「この遺跡に眠っていた時空操作装置」
ダメだ、意識を保て。呼吸を整えろ。
「私はこの力を使って時間を超越する存在になるの」
「ふぅーーっ!ふぅーーっ!」
「結果は何も変わらないわ。命だけ損したわね」
「俺だって生きてぇけどよ……」
「…………あら、また命乞い?」
「今この力を使ったら、お前が死んじまうだろうが」
「……何を言ってるの?」
「今のお前の心見たぞ、どす黒い感情が渦巻いててよ……そんな状態の心を開放したら今のお前はどうなるんだ?憎しみに囚われた化け物になるんじゃないか?」
「私は化け物よ、人間ごときが何の心配をしているの?」
「お前は化け物みてーに強いってのはよくわかった。だけどよ、お前は化け物じゃねーだろ」
周囲に倒れてる銀獅子団を見ても明らかだ、全員体を貫かれてはいるものの出血もなく急所も外れている。急所を外しているのを見るに神経毒も致死性のものではないだろう。
「…………」
「おまえ本当はいい奴なんじゃないか?」
「お幸せね。そう思いながら死ねばいい」
彼女は右腕の舌を鋭く伸ばす。その軌道は俺の心臓に向かってまっすぐ伸びていた。
そこに感じたのは恥と矜持に塗り固められた明確なる殺意。彼女の心に少し踏み込みすぎたのかもしれないが、その事に別に後悔はない。
凄まじい衝撃が体を突き抜ける。ビリビリと空気が全身を震わせているのを感じる。
痛みを感じないのは神経毒のせいだろうか。
「――――――!」
恐る恐る目を開ける。結論から言うと彼女の舌は俺の心臓を貫いていなかった。
「私の玩具に手を出すなんて――」
舞い上がった鉄臭い埃が晴れる。俺の目の前にはコテコテのゴシックドレスを着た華奢な少女が、荒れ地の魔女の舌を真っ黒な日傘でもって受け止めていた。
「――優雅じゃないわね、荒野魔女?」
その華奢な体躯からは想像も出来ないほどの存在感を感じる。まるで世界そのものに包まれているかのような錯覚を覚えるほどに彼女の存在は巨大だった
荒地の魔女の目が変わる。恐れなどは微塵もなく余裕を持って彼女を見すえる。
いつの間にか荒野の魔女の左手の手袋は外れていた
「そろそろ来るんじゃないかと思ってたわ――開闢魔女」
場所:ノドカラ砂漠
A級モンスター:荒れ地の魔女 120000000G(生死問わず)
B級モンスター:デザボーグ(変異種) 50000000G(完品のみ)
C級モンスター:デザボーグ(成体) 1500000G(完品のみ)