第五話:古代遺跡
「――つまりは起きるまで何の記憶がない、記憶喪失だと」
「うん!」
「嘘だろ」
「本当だよ!」
「いや嘘だな」
「本当だってば!」
もちろん真っ赤な嘘だ。だが正直に異世界から来ましたというよりマシだ。それに今思いついた設定にしてはなかなかどうして便利なのではないだろうか。これなら何を知らなくても不自然でない。
「アニキィ、本当なんじゃないですかい?こいついくらなんでも何も知ってなさすぎる」
「俺も伊達に長く生きてない。嘘をついてるかどうかなんてのはすぐ分かるんだよ……が、しかしなぁ。まあ悪いやつではなさそうだが……」
「俺たちはC級モンスターであるデザボーグ狩りを生業にしてる銀獅子団。オーケイ?」
「オーケイ」
「ここはノドカラ砂漠。リーアル大陸の人類可能生存域のギリギリ外にあたる場所だ。」
「リーアル、ねぇ……で、人類可能生存域ってのは何だ?」
「簡単に言うとマナがない場所だな。俺たちはマナがないと暮らしていけないだろ?」
「そのマナっていうのは何だ?」
「MO2だ」
「何言ってんだこいつ……」
「お前こそ酸素って何って聞いてるようなもんだぞ……」
「あ、それなら分かる」
「知識が偏ってるな。砕崖級魔法使っておいて魔法関連はからきしときた」
「そういやこいつ、大蛇の首のうち一つ吹き飛ばしてましたね」
「魔法の概念自体は分かるけどな、その砕崖級魔法ってのは何だ?」
「破壊系統魔法は大きく5種類に分けられる。砕砂級、砕石級、砕岩級、砕崖級、砕地級ってあってな。簡単に言うと砕崖級は崖を容易く粉砕する威力の魔法って意味だ」
「ふーん、ということは砕地級ってのは地面を砕くって事か」
「そんなもんじゃねぇ、そのレベルになると地図を描き変えるものもある」
「んじゃさっきのデザボーグ変異種もそれ使えば倒せるのか?」
「それが出来たら苦労はしねぇ、この場所は人類可能生存域の外っつったろ?ここは魔法の元となるマナが存在しないからそもそも大規模な魔法は使えねぇんだ」
「ああなるほど……」
「そんな中でお前は自前のマナだけで砕崖級魔法を打ったんだ。行く宛がないんなら冒都アドベルチアにでも行けばいい。拾ってくれるところはわんさかあるだろうし思う存分調べものもできるだろう」
「……正確には魔法協会が定めた分類に砕崖級魔法なんてものはない、砕岩級から砕地級の間があまりにも開きすぎてるから冒険者たちが勝手に間のランクを作ってるだけ」
「お、先生!解析は終わったのか!」
「ある程度はね、通常種とは比較にならないくらい多くのことが分かったよ」
ウェイスは心底嬉しそうに話す。
「このデザボーグが身に纏ってる機械は通常種が持ってるものと比較にならないくらい古いうえに硬い。年代的に2000年前くらいだね。これは伝説上にある機械文明が存在していたと記される年代と一致してるんだ」
「というか本部とやらから応援を呼ばなくていいのか?ウェイスだけじゃ大変だろ」
「いいよ、私だけでだいたい全部わかる。例えばほら」
彼女は右手に持っていた小さなパーツを見せる。いや酷く傷んでいるガラスの中に何かが微かに動いている。
「これは……?蝶……?」
「変異種の心臓部にあったものだ。デザボーグみたいな半機械生物と違って、小型ではあるが完全機械生物の一種だろうね」
そういうと彼女は握った手に力を入れバリンとガラス球を割る。
「うおおおおおお!?何やってるのおお!?」
「変異種が止まった今、こいつは長くは生きられない――さて」
蝶はひらりひらりと頼りない軌道を描きながら、しかし不思議と弱くはない風の中をものともせずに一定の方向へとゆっくり進んでゆく。
「他の調査は後でもできるわ。今は古代の道案内人に従ってみようじゃないか」
「…………おーいチチン!ピララ!テツを叩き起こせ!もうひと踏ん張りだ!あと武器の手入れもしておけ!」
――――――――――
「おい、止まっちまったぞ」
「電池切れじゃねぇのか?」
「いいえ、私の探知にはまだ反応がある。ということは、ここね」
懐から小さい石板を取り出すと軽くウェストは息を吸う。瞬間、風が止み周囲を沈黙が包み込んだ。
『おお我らの偉大なる子よ。時を歯車に閉じ込めて』
『回れよ回れ。くるくる回れ。星座のように、銀河のように』
『我らの全て、この世の全て』
『全ては偉大なる我が子の中に』
彼女の言葉に応じるように蝶を中心として魔法陣が広がっていく。
地面が盛り上がり、地面の中から小屋ほどの大きさの箱が出現した。
「何で呪文が分かったんだ?」
「大蛇の身体に書いてあったものを組み合わせたのよ」
「ってちっちゃ!?」
「なんでぇ大したことねーじゃんかよ!」
「油断しない事ね、これは恐らく転移装置」
「転移装置だぁ?そんなおとぎ話じゃあるめぇし」
無音で扉が開く。中を覗き込むとその小さな外見からは想像できないほど巨大な空間が内部に広がっていた。
「ウェイスはあまり驚かないのな」
「想定の範囲内だから」
――――――――――
中に入った途端に錆びた鉄のような臭いが鼻を突く。正面に巨大な青銅で出来た建造物がある以外は辺り一面砂に覆われていた。同じ砂漠にしては砂の感覚というか大きさが異なっている……?。
「これは砂じゃないわね」
「ああ、すっかり錆びちまってるが鉄だろうな」
「機械のなれの果てってワケか」
「とりあえず中に入るわよ」
「なあ、松明を忘れちまった。いったん引き上げねぇか?」
「必要ないわ、照明魔法なら使えるから」
「そうか……俺は万一に備えて警戒しておくから手早く頼むぜ」
「ええ」
しかし心配は杞憂だった。
内部は天井に電球が浮かんでおりまんべんなく室内を照らしていたからだ。
「少し待ってて、パパっと調べ終わっちゃうから」
彼女は手際よく手元の機械を操作すると次々と画面が浮かんでは消えていく。何が書いてあるかはさっぱり分からない。まあプログラミング言語のようなものだろう。異世界に来たからなんとなく全ての言語が読めるようになっているような気がしていたがどうもプログラミング言語とかはからっきしのままらしい。
「は?」
「――《銀獅爪》」
突然アニキは跳躍したかと思うとウェイスに向かって切りかかっていた。
ウェイスは横に吹き飛――いや、自らの足で飛んだ。およそ人間とは思えない速度で。
「――酷いわね。何をするの?」
「アニキ!?なにやって――――」
「おめぇらは黙ってろ!」
アニキはこれまでにない剣幕で怒鳴る。それはこの場にいた全員にただならぬことが起こっていることを理解させた。
「それじゃ聞くが……今、何を選択しようとしていた?」
「あら、機械文明語が読めるのね」
「なんだこりゃ?人類を滅ぼす機械か?」
「…………誤解よ、ただ人類を滅ぼす力があるだけ」
「俺は伊達に長く生きてねぇ、何で蝶がすぐ死ぬなんて嘘をつく必要があったんだ?」
「早めに行きたかったからよ」
「つまり俺たちを焦らせる必要があったってことだ。冒険者本部に応援を呼ばなかったのも不都合があるからだな?俺はあんたの護衛依頼を受ける前にもう一つ極秘の依頼を受けててな『ウェイスの死因調査』てのがあったんだよ。先生」
「……そういえばあなたはわたしの事を一度も名前で呼んでなかった。何でウェイスが死んだとばれているのかしら?」
「――銀獅子之八蛇退治!《アルジャリオン・オロチハント》!!!!」
不意打ちに近い勢いで放たれた斬撃は七体のライオンに分裂したかと思うと日中に見せたものと遜色ない威力でウェイスと呼ばれていたものに襲い掛かった。彼女は手袋を甘く噛み手袋を外しただけだった。
凄まじい轟音と共にライオンは破裂する。一つ一つが大蛇の首を切り落とす威力のものが同じ個所で爆発したのだ。単純に個々で爆発させた前回の七倍の威力はあるだろう。
「荒魔喰」
しかし彼女は立っていた。彼女の右掌にある禍々しい口が美味しそうに舌なめずりをする。
「かすり傷もなしだと……?B級の変異種を葬った技だぞ……!?」
「なかなか美味しいライオンだったわ」
「馬鹿な、お前は一体……!」
「1つ教えてあげる。A級っていうのはね。存在そのものが揺るがしようのないものという意味のAbsolute《絶対》から来ているの」
「……!悪い冗談だ……!」」
――A級モンスター:荒れ地の魔女
生きていたころのウェイスが綴った手記にはこう記されている。
この地域一帯はある日を境にマナがほとんど存在しない砂漠となり、人の住めない地域となった。その理由は本来存在していた膨大なマナを全て彼女が喰らったからである――と。
場所:古代遺跡
A級モンスター:荒れ地の魔女 120000000G(生死問わず)
B級モンスター:デザボーグ(変異種) 50000000G(完品のみ)
C級モンスター:デザボーグ(成体) 1500000G(完品のみ)




