第四十一話:砂上の楼閣
「沈黙の魔女だと……」
ウプムプマプラプ。
異物を実体化させたかのようなその魔女は静かにたたずんでいた。
最悪だ、よりにもよってもう一人魔女が来るなんて想像もしてなかった。
しかしまだこの魔女の能力次第によってはまだ希望はある。
ワルプルギスは動いていない、未だ幻覚の中にいるままだ。
ならば全てにおいて万能なワルプルギスに匹敵する能力があるとは考えにくい。
だがラピュセルやシャルデンテ並みの能力であっても相当厳しいだろう。
こいつが彼女達よりも遥かに格下であることを祈るしかない。
とりあえず会話で時間を稼ぎつつ、リリカに絶対幸運辺りを付与すればあるいは――
「何でお前がワルプルギスに味方するんだ」
「人類は発展を続けています、これもワルプルギスが人類の脅威を排除していればこそ
これからこの世界が平和であり続けるためには、この人に倒れてもらっては困るのです」
「知ったことかよ、それに別に命まで取る気はない」
「少なくとも能力は消し去るつもりでいた」
「……じゃないと勝ちようがないだろ」
「同じことです、能力を失ってしまっては人類の脅威を排除できなくなる」
「だから、知ったことじゃない」
俺は別にこの世界に人類として生きるために来たわけじゃない。
ただラピュセルと共に歩んでみようと思っただけだ。
それに、気に入らない。
人類のトップがワルプルギスで、未来改変によってそいつが思った通りに進むだけの世界。
結局それは魔女に支配されているだけじゃないか。
そんなもの、人形ごっこと何が違うというのだろう。
「そうですね、別世界から転移されてきたあなたにとってはあまり関係ないでしょう」
「よく分かってるじゃないか」
「ええ。なので。私はあなたの敵なのです」
「人間に味方する魔女が二人、か」
それは少し意外な情報だった。
てっきり魔女というのは、もう少し人間を嫌っていると思っていたから。
いや、嫌うほど実力が拮抗していないのだろう。
こいつらにとって人間は好き嫌いの対象ですらなくて
ただの玩具だ。
「それに、個人的にはラピュセルは責任を果たすべきだと思ってますので」
「あいつが、何をしたって言うんだよ」
「あなたは二人目の転移者なんですよ」
それはあまりにも唐突な話だった。
自分の足元がぐらりと歪むようなそんな感覚。
「ワルプルギス。彼女こそラピュセルに招かれてこの世界に来た最初の人間」
「だから、ワルプルギスはあいつを――!」
「ええ、なので…………どうせあなたもそのうち彼女に――」
待ってくれ。
こいつは、こいつは何を言おうとしている?
その続きだけは絶対に
「――捨て」
「黙れえええええええええええええ!」
俺は背後に手を伸ばすとリリカの心核を掴む。
リリカだってこの状況を何とかしようと考えているはずだ。
なら俺は、それに賭けるしか
「チートギフト!リリカベル」
しかしどれだけ心核を握ろうとも
それは砕けることはなかった。
「チートギフトが、発動しない……!?」
「私の能力を知りたそうですね、教えて差し上げましょうか」
「か……はっ……?」
爆発音も何も聞こえない。
何が起こったか全くわからないままに。
リリカは目を丸くすると全身から血を噴き出しながら吹き飛んでいく。
受け身もろくにとれず、砂煙が舞い散る。
「私の能力は二つあります。一つは完全無詠唱」
「リリカッ!」
「おっと」
駆け寄ろうとする俺の右腕を沈黙の魔女はぐいと引っ張る。
勢いあまって俺は反対側に倒れ込む。
そっと掴まれているだけなのに、右腕が全く動かない。
まるでコンクリートの中に埋められたようだ
全く力を入れてなさそうだが、それでも分かる。
こいつの筋力はラピュセルをはるかに上回っている。
「くそ、離せ!」
「離しませんよ、もっとも離したところで何かできるとは思えませんが」
「離せってんだよ!このままじゃ――」
「……なるほど、砂虫なら心配ありませんよ」
「ああ!?」
急いでリリカの方を見る。
彼女は静かに地面に横たわっていた。
あれほど派手に地面に叩きつけられたというのに砂虫が動き出す様子は全くない。
「あの魔物の核となっていたマナ――破壊のクオリアは先程の砕星魔法で完全に使い切られましたから」
「これもワルプルギスの狙い通りってか……?」
「ええ」
彼女はにこやかにほほ笑む。
「これでグレイタウンの物資を迅速に運べるようになりましたね」
「でもあそこはもう、天井が崩れてワイバーンが……まさか」
「ふふ、気づかれましたか?」
彼女は笑みを崩さない。
「あの赤竜。グラニュートが死んだ今、もうあの町にワイバーンは出ないのですよ」
「それだけの理由でグラニュートを……!」
「ワイバーンの被害も馬鹿になりませんし人類のために駆除したまでですよ」
「……あいつの未来改変なら、もっと穏便に出来たはずだ」
「それもそうですねぇ。でも、それじゃつまらないじゃないですか」
「それを聞いてよく分かったよ」
やっぱりお前らは、人類の敵だ。
そして未来改変を知っていることから分かることは
こいつのもう一つの能力、おそらく考えられる限りで最悪の部類の能力だ――
「チートギフトが発動しなかったのも、お前の能力だな……!」
「能力審判」
沈黙の魔女はにこりと微笑む
「この世界で行使される全ての能力は私の許可がないと行使ができません」
「……そんな無茶苦茶な話があるか、それじゃまるで――」
「はい」
何でもない事のように彼女は微笑む。
「この世界、ひいては全宇宙でいまどんな能力が行使されているか私は全て把握してます」
「……!」
「ワルプルギスの未来改変も、私の許可なくしては行えません」
リリカもラピュセルも地面に倒れたまま動く気配がない。
今の状態は考えられる限り――いや想像以上に最悪の展開だった。
沈黙の魔女。ウプムプマプラプ。
ラピュセルやシャルデンテに匹敵するどころの話ではない。
こいつは、ワルプルギスさえ凌ぐ能力の持ち主だ。




