第三十九話:終焉の詩を高らかに
「あはは!魔女になってから投貨戦は初めてだ。緊張するね」
「ただの人間風情が、よくもまあここまで出世できたものだわ」
「ボクの能力一つあれば、魔女になるには十分すぎるさ」
「魔女もずいぶん舐められたものだわ」
「おねえさま。結婚しよう?そしたら全部終わらせてあげるよ?」
「あなたに頼らなくても全部終わらせるわよ、ここで全てを」
「辞めたくなったらいつでも言ってね」
「そりゃどうも、私はあんたが泣き叫ぼうが続けるわ」
「ふふ、その趣向も悪くない」
「――は!」
ラピュセルは飛び上がる。
「砕地爆破魔法!」
しかしその言葉も虚しく呪文が発動することはなかった。
「あはは!おねえさま。ボクの能力は知ってるはずだよ」
「――――ちっ!」
「未来改変――おねえさまから魔法の才能を剥奪した」
「あんたはやっぱり、世界一戦いたくない相手だわ」
「被弾命令」
「かはっ!」
ワルプルギスが指をクイと動かす。
ラピュセルはそれに引っ張られるように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ぐっ……!かはっ!?」
「効くだろう?おねえさまの防御性能も人間並みに弄ったからね」
「上等よ。これで勝てなきゃヤマトに笑われるわね」
「――はん!ところでさ、何で砂虫はおねえさまを襲わないんだい?」
「あら?あなたの未来はそれを教えてくれなかったの?」
「うるさいなあ」
ラピュセルは地面を蹴って突撃する。
ストレート、足払い。フェイントからの上段蹴り。
人間の身体能力では到底回避できないように思えるそれをワルプルギスいとも簡単に避ける。
いや、未来改変によって外されているのだ。
ラピュセルの方が当たらないように攻撃の軌道を改変されている。
「まだ理解できないならもっと分かりやすくしてあげてもいいよ?」
「面倒ね……!」
「未来改変――おねえさまから格闘の才能を剥奪した」
「くっ!」
「おねえさま。自分の攻撃が当たりさえすればなんて考えてない?」
「どれだけ魔女を気取ったところであなたは人間だもの、所詮能力だけよ」
「あはは、今のお姉さまも似たようなものじゃないか!」
「――砕地光弾魔法!」
ラピュセルは両手をかざす。
しかし何も起きる気配はなかった。
「だから、無駄だって」
「くっ――」
「おねえさまは、何もできることなくボクに負けるんだよ」
ワルプルギスはラピュセルの目の前にワープすると掌を身体にかざす。
「何を――!」
「防護無力化」
そのままワルプルギスはそっとラピュセルのお腹にそっと触れる。
「なっ――!」
それだけでラピュセルは地面にうずくまった。
「がっ―――!ぐううう!?」
「どう?人間より脆くなった気分は――被弾命令」
「がはっ!」
先程と同じようにしてラピュセルは地面に叩きつけられる。
ただそれによるダメージは先ほどの比ではない。
ラピュセルの口から赤い血が吐き出される。
「あ……ぐ……!」
続けてワルプルギスはラピュセルを蹴り飛ばす。
「ぐあああああ!?」
「もう詰んでるよ、早いうちに降参したほうがいい」
「――詰んでるのは、あんたよ。ワルプルギス」
「強がりを、いったい何を企んでるのかしらないけ……ど……?」
ワルプルギスの視界がぐらりと歪む。
突如ワルプルギスは自分の頭を狂ったように掻きむしり始めた。
「ぎゃああああああああああああああああ!」
「……このレッドエリアで、私に血を流させたわね」
ワルプルギスは絶叫し、頭を抱え転がりまわる。
「おねえざま、なにを……!」
「簡単な事よ。未来を見て攻撃を無効化してるのなら、未来を見て死ね」
ラピュセルの答えは単純なものだった。
未来を見てから対応されるなら、見ることそのものが即死である攻撃をすれば良い。
そうすれば未来視持ちを先手を取って殺せる。
「見ただけで死に至る殲景。幻術『鬼哭四十八景・似亜婁螺』」
「ああああああああ!頭がああああああああ!」
「私一人の魔法の才能を失わせたくらいで油断しすぎよ」
ラピュセルは地面を転がりまわるワルプルギスを見下ろしながら近づいていく。
「あなたは知らない、このレッドエリアが一体何なのか」
ラピュセルはそう呟くと、地面にそっと手を触れる。
その瞬間、彼女を中心に地平線まで魔法陣が展開されていく。
「あなたは今、私を二人同時に相手してるの」
「があああ、頭が!し、思考がまとまらない――!」
「精神的にダメージを追っている今は未来改変、使えないみたいね?」
「あ、あああああ――!」
「不発に出来るものならしてみなさい」
ラピュセルはワルプルギスの顔面を掴むと上へと掲げる。
その掌にこの世の全ての光が収束していく。
『開闢の祖の名において、星へと至る扉を開かん』
「――おねえさまああああああああああああああああああ!」
「――砕星魔法」
それは地を焼き、天を焦がす光。
暴力的な白い光が、赤い地域を真っ白に染め上げた。
最強の盾と言われるシャルデンテですら一撃葬る破壊力を持つ最強の魔法。
それがワルプルギスの顔面で炸裂した。
「これで……終わりよ」
「誰が終わるって?」
「……嘘、でしょ?」
しかし、ワルプルギスは無傷だった。
ラピュセルの顔が僅かに絶望に歪む。
「そんな、確実に当たったはず――!」
「当たったさ、でも無意味なんだ」
「何で……?あなたの耐久は人間とそう変わらない筈、じゃないとおかしい……!」
「――未来改変
未来のボクが無事なら、その過去である今のボクは無事でなくてはならないよね?
つまり未来にいるボクが五体満足であると予め定義してある限り、ボクは無敵だ
あらゆる攻撃は効かないし、あらゆる能力もセットした時間になれば無効化される」
「化け物が……っ!」
「――絶望したね?」
「!しまっ――」
ワルプルギスはラピュセルの胸の中に手を突っ込む。
その手には心核がしっかりと握られていた。
ラピュセルは頭の片隅で早く楽になりたいという想いを欠片でも抱いてしまった。
「おねえさまの願い、叶えてあげるよ――」
「違う、私は。そんなこと望んでなんか――!」
「このまま大人しくしてれば、ヤマトクンに手を出さないでおいてあげるよ」
「――――!」
「――チートギフト・ラピュセル」
「きゃあああああああああああ!」
ワルプルギスは心核を握りつぶす。
ラピュセルは魂を吐き出すかのような悲鳴をあげ――
そして崩れ落ちるように地面に倒れ伏した。
「弱くなった、弱くなったよおねえさま!!!
以前のあなたならこの程度でほんの少しも絶望なんてしなかったのに!!!
……やはり守るものなんて持つべきじゃないんだ――なあ」
ワルプルギスはゆっくりと振り返る。
「そう思わないかい?ヤマトクン」
「……てめぇ」
場所:レッドエリア
A級モンスター:砂虫(全域を駆除) 450000000G
B級モンスター:グリムジュ・イニエル 10400000G
C級モンスター:ワイバーン(10体につき) 1000000G




