第三十六話:竜に漫画
レッドエリアの上空、赤い霧を掻き分けるようにしてグラニュートは悠然と飛んでいた。
ゴーグルに張りついた霧を拭う、防護服やマスクはすっかり赤く染まってしまっている。
こりゃわざわざ防護服を用意するわけだ。
「こりゃ凄い霧だな、雲でも超えれば青空が広がってるんだろうけど」
「我慢しなさい、これ以上高度を上げると貴方たちが死ぬわ」
「ああ、そうだろうな……というかグラニュートはマスク無しで平気なのか?」
【ふん、この程度で死ぬのは人間くらいのものだ】
「ああそうかい」
うん。
人間くらいというかグラニュートやラピュセルが特別なだけだと思う。
「というかウェイス」
「…………」
「おーい」
「は、はいっ!?なんでしょう!?」
「さっきから何だかぼーっとしてるけど、大丈夫か?」
「いえ、気分が悪いとかじゃなくてその、はしゃぎ過ぎしちゃった反動が……」
「ああ、そういや最初の方はめっちゃはしゃいでたな」
グラニュートの竜の背中に乗れると知った時のウェイスの反応は凄まじかった。
目を輝かせながら彼がいかに偉大な存在として伝えられているか捲し立てたものだ。
そのおかげかグラニュートも快く背に乗せてくれたのだが……
見るからにくたくたになっていた、公園に遊びに行った子供かな?
「そ、それで。何でしょう?」
「ああ、空飛ぶって知ってたわけじゃないのに何で防護服持ってるのか気になってさ」
「これはシャルが用意してくれたんです。どうせ要るからって」
「あいつは何でもお見通しなんだな」
「はい」
「………………」
「………………」
「言うまでもない事だけど、寝たら死ぬわよ」
「分かってるよ」
グラニュートが飛ぶ速度を緩めてくれてるのでしがみつく必要はないものの、
意識を失ってしまえばすぐに下へ真っ逆さまだろう。
ただ程良い疲労、上空の寒さ、空気の薄さも相まって油断したらすぐに寝てしまいそうだ。
「リリカは平気か?」
「はいご主人、冬の時期に外で寝てた頃に比べればこのくらい平気です」
「……なんかごめんな」
「?」
「いや、こっちきてすぐその時と大差ない環境に放り込んじまって」
「いえ……それに分かってきた気もします」
「何がだ?」
「こういう感情が、嬉しいって感情なんだなって」
「いや多分違うぞ!?」
こんなクソ寒くて息苦しいのが!?
ドMかな!?
「馬鹿ね、そういう事じゃないでしょうに」
「ほれ見ろ、お前のご主人のご主人様もそう言ってるぞ」
「馬鹿なのはヤマトよ」
「何で俺が!?」
「馬鹿なご主人を持って不幸な奴隷ね……」
「いえ……えっと。そこまでは」
「そこまでは!?」
ゴーグル越しでもラピュセルが呆れたような目をしてるのが分かる。
リリカは何だか申し訳なさそうにしてるし、俺が何をしたというんだ。
「ほら、ウェイスも何か言ってやりなさい」
「え!?いえ、ヤマトさん何か変なこと言ってました?」
「ウェイス!俺の味方はお前だけだよ!」
「おっと、こいつは予想外だったわね」
「すいませんあまり聞いてなかったので……もう一回聞けば分かるかも」
「も、もう私の話はいいです!」
【……ヒト同士の会話であっても、ままならぬものなのだな】
「あら?自分がコミュ障なのは種族のせいだと思ってたのかしら」
【馴染める貴様が異常なだけだろう】
「……ふ、そうかもね。たまには良いこと言うじゃない」
【別に褒めておらんわ】
「そんなあなたに漫画を勧めるわ」
【話を聞け。一昨日見せられたがあんな米粒のような文字読めるものか】
「音読してあげたじゃない」
「いや、わざわざ漫画見せてたのかよ!」
「あら。創作物を嗜むというのは異文化理解の第一歩よ?」
「もっともらしく拡大解釈するな!お前はただ布教したいだけだろうが!」
「そう……ダイの大冒険辺りから入ってもらおうと思ったのだけれど」
「それドラゴンに見せるもんなのか!?……いや、どうなんだ?」
【無理だ、儂はどっちかというとヴェルザーに感情移入してしまうからな】
「お前もかなり把握してんな!?」
一言目にヴェルザーから語る奴いるか!?
というかヴェルザーに感情移入するほど語られてないだろ!?
「というかどんなペースで読んでんだよ!時間的に不可能だろ!」
「魔女の圧縮言語をもってすれば細かい描写込み30分くらいで終わるわよ」
「凄いんだか凄くないんだかよく分からない!」
【惜しむらくは邪龍メインであろう続編が出なかったことだな……】
「うん。断言する、お前かなり漫画好きになる素養あるわ」
多分ダイに感情移入する奴より拗らせてるんじゃないかな。
俺は言うまでもなくポップ派だけど。
「んで、ラピュセルは誰に感情移入したんだ?」
「え?ゴメちゃんだけど」
こいつについても断言できる。
漫画好きなだけで絶対異文化理解できてないわ。
場所:レッドエリア
A級モンスター:砂虫(全域を駆除) 450000000G
B級モンスター:グリムジュ・イニエル 10400000G
C級モンスター:ワイバーン(10体につき) 1000000G




