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異世界乙女に呼ばれたけれど俺にチート能力をくれ  作者: たけのこーた
第一章:終焉の魔女
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第三十三話:空の雲は全て敵

グレイタウンの上空を無数のワイバーンが旋回していた。

不幸なことにこの空洞自体はこの魔物たちが飛び回るに十分すぎる広さがあった。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「うわぁ!ワイバーンだ!」

「どうして!?この町は竜神様に守られていたはずなのに!」

「騒ぐな!竜神様は不貞を働く冒険者にお怒りなのだろう!」

「あ、あなたは老司教様!」

「グルルルルルルルルルルルル……!」

「さあ竜神様!思召すままにこの町の冒険者をぎゃああああああああああああ!」

「老司教様が食われたーー!」

「もうだめだ!この町は終わりなんだ!」

「うちの子を知りませんか!?さっきはぐれたんです!」


町中がパニックに包まれるのは一瞬だった。

ワイバーンは次々と降下してはグレイタウンの住人を食いちぎる、

あるいは上にある巣穴の中へと攫って行く。


「えーん、えーん」

「メイ!」

「ゴアアアアアアアアアアアアアアア」

「メイィィィ!」


金切り声のような悲鳴が響き渡る。

泣きじゃくる子供に五体のワイバーンが襲い来る。

しかしその五体のワイバーンは真っ二つに斬られた。


「…………ふう、怪我はないでござるか?」

「ああ、ありがとうございます!何とお礼を言ったらいいか!」

「なぁに、冒険者たる拙者が皆さんを守るのに理由なんていらないでござるよ。さて」


その侍風の男は後ろに目配せする。

それを合図に背後にいた大量の冒険者たちは雄叫びを上げる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「こんな竜程度に後れを取るんじゃねぇぞ!おまえら!」

「手柄は俺のもんだあああああ!」

「命に代えても守って見せる!」

「名を上げるにはまたとない機会だ!やるぜぇ!」

「市民の皆さんは僕についてきて!早く!」


冒険者は次々とワイバーンへと襲い掛かっていく。

市民にとってはまるで冒険者が英雄のように見えている事だろう。

全て冒険者ギルドが仕組んだこととも知らずに。


(オーディン殿……いや、ワルプルギス。これがあなたの正義でござるか)


盛り上がる現場を他所に侍風の男はその場を後にする。

この機に乗じた反対派の要人暗殺こそ、彼が請け負った任務だった。

しかし三本目の路地を曲がったところで彼は人影に気付く。

純白の髪、真っ白なコートを身にまとっているその女性に彼は覚えがあった。


「イグルー殿……?」

「見ぃつけたぁ」


しかし彼女は彼女らしからぬ笑みを浮かべる。

それは天使というよりも、魔女のような笑みだった。



…………

………………



「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

「良かったわね、リリカが治癒魔法覚えてなかったら死んでたわよ」

「いだだだだだだだ全身が灼ける!!なあごれ本当に回復魔法なのが!!?」

「馬鹿ね、無理やり治癒能力を引き出してるんだから苦しいに決まってるでしょう」

「すいません。ご主人、今はこれで我慢してください」

「普通はハーブと一緒に使うのだけれど、持ってない者はしょうがないわ」


あのあとグラニュートによって引き上げられた俺はリリカの手で治療を受けていた。

治療の苦痛は傷ついたときの比でない、まるで内臓がミキサーにかけられているようだ。

回復魔法と言えば痛みが和らぐ気持ち良いものと思っていたがそんなことはないらしい。

あまりにも大きな傷を無理に治癒魔法で治そうとするとショック死する事もあるのだとか。


「ぐあああああああああああああ!」

「いずれにしても良くやりました。ゆっくり休みなさい」

【開闢の、さっきの爆発だが】

「ええ、全く滅茶苦茶する奴もいるものね」


痛みで訳が分からなくなりつつ俺の頭を誰かがよしよしと撫でる。

恐らくラピュセルだろう、痛みが微かに和らいだ気がした。


「リリカベル、こいつを頼むわ」

「ご主人のご主人、あなたはどうするのですか?」

「どうせそこに転がってるアホがやりたがるでしょうから」

【……フ、言い訳だな】

「うるさいわね」


ラピュセルはグラニュートの背へと飛び乗る。


「ちょっくらこの町を救ってくるわ」



…………

………………


場所:龍鳴峡谷―グレイタウン

S級モンスター:開闢の魔女(特記)     討伐を試みたものは死刑とする

A級モンスター:覇翼のグラニュート         250000000G

B級モンスター:該当なし

C級モンスター:ワイバーン(10体につき)       1000000G

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