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異世界乙女に呼ばれたけれど俺にチート能力をくれ  作者: たけのこーた
第一章:終焉の魔女
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第三十二話:それを人は運命と呼ぶ

次々と地面が弾け飛んでゆく。

グラニュートは微動だにしていない、ただ視線を変えているだけだ。

これはフェイント、こっちは誘導、次はフェイントのフェイントで本命はこれか!


「ふっ!……くっ!」

【なかなかの精度で心を読む】


心が読めるからこそ分かる。

こいつは全く本気を出しちゃいない。

その気になればひと睨みでこの部屋を容易く吹き飛ばすだろう。


【避けてばかりでは何も出来んぞ】

「くそ、わかってるよ!」

【そうだな、仮にもし我に血を一滴でも流させたら認めてやろう】

「うおおおおお!」


俺は爆発の狭間を掻い潜り接近する。

近くで見ると分かる。その鱗は全身逆立ち、おろし金のようになっていた。

俺は懐から金貨を取り出すとグラニュートの後ろ足に殴りかかる。

手持ちで武器になりそうで、一番硬いのはこれしかない。


「なっーー!?」


しかし金貨は瞬く間にザリザリと音を立てて半分に削り取られていった。

冗談みたいな硬度だ、もし素手で殴ろうものなら拳がこうなるだろう。


【ふん】

「ぐっーー!」


いや、まだだ。

俺は振り下ろされた後ろ足を転がるようにして回避すると、足元にあるものを拾い上げる。

それはワイバーン化していない、他ならぬグラニュートの鱗。

鱗と呼ぶにはあまりにも大きなそれは短剣と呼ぶにふさわしいものだった。

同じ鱗同士ならば、硬さで負けることはないだろう。

俺は竜鱗を握りしめると、比較的柔らかそうな関節部に向けて思い切り振り下ろす。


「っらぁ!」


ガキン!

しかしその刃はグラニュートの体を貫くことはなかった。

そして気づく、ささくれ立った鱗の下にさらに堅固な鱗の層があることを。

金貨を削り取った鱗でさえ、彼にとっては剥がれ落ちる寸前の脆弱な部分に過ぎないのだ。


【――気は済んだか?】

「がっ!?」


鋭くしなる尻尾が腹部に直撃する。

ささくれ立った鱗が体に突き刺さる。

――少しでも踏ん張ったら削り取られる。

そのまま俺は壁際へと吹き飛ばされ、たたきつけられた。

一瞬意識が暗転する。


「ぐっあっ……!」


グラニュートの眼が赤く輝く。

引きずるようにして俺は爆発を回避する。


【ちょこまかと、うっとおしい奴よな】

「あんたなら、もっと攻撃範囲を広げられるはずだろ」

【ひと思いにこの周囲を吹き飛ばしてもいいが生憎この寝床は気に入っているのでな、

これ以上出力を上げるわけにはいかんのだ】

「そりゃどうも……」

【まあ、種は大体わかった】


グラニュートは地面に尾をたたきつける。

砂埃が舞い上がり辺り一面を覆いつくした。


【要は、狙いをつけるから避けられるのだろう?】

「くそっ本当に殺すつもりか……!」

【当然よ、貴様がいると奴は死ぬ】

「奴……?ラピュセルのことか」

【開闢の巫女が来たと、わしは気づきもせなんだ】

「どういうことだよ」

【分かるか?昨日見た時の奴も見ていられなかったが今日はその比ではない】

「まさか……!」

【何をさせた?奴は儂など比較にならぬほどボロボロで、弱り切っておる】

「――!」

【貴様は確実に殺す、それが奴への礼儀だ】


次の瞬間、周囲の地面が次々と爆ぜていく。

まるで狙いなど定めていない、当てずっぽうの一撃。

だからこそ、心を読んでも回避ができない――!


…………

………………


「ご主人!ご主人!」

「やかましいわね、黙ってみてなさいよ」

「ご主人のご主人は平気なんですか!?」

「正直不可能だと思ってるわ、スライムにすら勝てないような何も持たない人間がグラニュートに傷をつけるなんてね」

「だったら……!」

「でもね、これで負けたら軽蔑するわよ」


ラピュセルは立て続けに爆発が起こっている辺りを見る。


「ここまで体を張ったんですもの、ちょっとは応えてくれないとねぇ。ヤマト?」

「――当たり前だ!」

【何、まだ生きているだと……?】


砂煙が晴れる。

俺は右手にグラニュートの竜鱗を握りしめていた。

これがワイバーンに成り損なった鱗ならば、それは本来のマナが足りていないという事だ。

つまり大抵の魔法であれば、この鱗に吸収することが出来る!


「迷惑だってかけるさ!これからも足だって引っ張る!」

【それが開闢の巫女を殺すことになると、何故わからん!】

「誰にもあいつを殺させねぇよ!殺されねぇし殺させねぇ!」

【力を失ったとしてもあの女は強者の理論で歩み続ける!止まりはせんぞ!】

「止めてダメならそん時は、俺があいつを守りながら進むさ」

【……守れるわけがない!万に一つもあり得ぬわ!】

「万にゼロでも億に一かもしれねぇ、億にゼロでも兆に一かもしれねぇ」

【……なに?】

「絶対幸運なんて必要ねぇ!それがあいつと歩むのに必要だったら!

 億でも兆でも無量大数だとしても!俺は掴んでやる!」

【ならば掴んでみろ!この場で全力で捻り潰してやるわ!】


雄叫びとともにグラニュートの口がこちらに迫り来る。

今から飛んだところで避けられるような大きさではない。

牙の一本一本がワイバーンのそれよりも太く、凶悪な形をしている。


その瞬間だった。


まるで巨大な爆発が起きたかのように洞窟全体が激しい揺れに包まれる。

それに合わせたかのようにこの部屋半分の――俺の足元が崩落する。

頭上でガチンとグラニューとの顎が閉じられる音が聞こえてくる。

俺はそのまま下へと落ちていく。


その下には一面黄金の沼が待ち構えていた。

竜の肥溜め、ラピュセル曰く猛毒の塊。


どうやら天は俺たちの味方らしい。


ラピュセルは言っていた、これは魔法の肥料だと。

ならばこの沼は、魔力の固まりそのものなのだろう。


「――――っ!」


声は出さない。

俺は右手を沼の中へと突っ込む。

竜鱗を介して黄金沼に蓄えられ続けた膨大な魔力が伝わってくる。


この魔法だけは知っていた

何度も目の前で繰り返し見せられたから

だがこの魔法は打てなかった

それは俺のマナが圧倒的に足りなかったからだ

だがここでなら、使うことが出来る。

――この一帯の魔力、全て持っていけ!


【何だと……!?】

「こちとら、守られるために一緒にいるわけじゃないんだよ!」


「――――砕地爆破魔法カタストロフ!!!」


右手から放たれた魔法は、グラニュートの顔面で炸裂する。

耳をつんざくようなすさまじい爆発音が周囲に響く。



俺はそのまますっかり魔力を失い茶色の汚物と化した塊に突っ込む。


「…………!」

【…………】


しかしグラニュートは無事だった。

直撃したはずの頭部にはかすり傷一つついていない。

これがA級、今なお語り継がれる伝説の竜。


【……フ】


しかしグラニュートはにやりと笑う。

その巨大な牙を伝うようにして、一滴の血がぽたりと俺の隣に落ちた。


【儂としたことが、つい舌を噛んでしまったわい】

場所:龍鳴峡谷―グレイタウン

S級モンスター:開闢の魔女(特記)     討伐を試みたものは死刑とする

A級モンスター:覇翼のグラニュート         250000000G

B級モンスター:該当なし

C級モンスター:ワイバーン(10体につき)       1000000G

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