第二十七話:『一緒に行こう』
それはある日の記憶。
目に見えるもの全てが新鮮だった幼い日の記憶。
この世の全ての光と闇をかき混ぜたような鮮烈な夕焼けの中に俺はいた。
泣きじゃくる俺に、誰かが話しかけている。
「×××××××××」
その人がほほ笑むと、なんだか俺も嬉しくなって笑顔になった。
その人は俺にとって、世界の全てだった。
その人に手を引かれて歩む祭りの帰り道。
青色の信号を、夕焼けが赤く照らしていた。
…………
………………
「あれ、何の夢を見ていたんだっけ」
起きると涙が頬を伝っている事に気付く。
何か夢を見ていた気がする。
結局それが何だったか思い出すことは出来なかった。
「随分と遅起きだこと」
布団から起き上がると声のする方へと顔を向ける。
そちらでは部屋の中でラピュセルが紅茶を片手に本を読んでいた。
「え?ああ悪い!今何時だ!?」
「14時よ、まあ疲れでも溜まってたんでしょうね」
「まじか、それでリリカはどこかに行ってるのか?」
「早く起こしてくる事ね、あの子はあなたが言わない限り起きてこないわよ」
「指示って……」
「隣の部屋の布団で寝てろって言ったでんしょう?忠実にそれを守ってるわ」
「まじかよ、あー今度から起きてくるよう言わなきゃ」
隣の部屋に行き、一応ノックすると扉を開ける。
布団の中は空で、彼女は床で寝ていた。
どうやら彼女も俺も学ぶべきことはたくさんあるようだった。
…………
………………
リリカを起こした俺はラピュセルと共に大通りを歩いていた。
「竜占窟、これから私たちが行くところよ」
「なんだその竜に占領されてそうな場所は」
「まあぶっちゃけるとワイバーンの巣ね」
「大丈夫なのかそれ!?」
「レッドエリアを抜けるためには必要な工程よ」
「ふむ、そもそもレッドエリアって何なんだ?」
「搔い摘むと、地面に足がついたらほぼ死ぬ場所ね」
「ロクでもねぇ場所だな!?」
「ええ、だから空を飛べる竜の助けが必要なの」
「ああ、なるほど。大体わかったよ」
竜の背中に乗せてもらってその場所を超えるつもりなのだろう。
孤高な印象の彼女が他の何かに頼るというのは少し意外な気がした。
「私だけで話をつけるつもりだったんだけど、あのジジイ。自分の目であなたを確認するまでは乗せてやらないとか言い出しやがったのよ」
「それならレッドエリアの手前辺りで合流して見てくれれば楽でいいのにな」
「どちらかというと、最奥部に行くまでに死ぬような軟弱者は乗せないって事でしょうね」
「うわ、すげえドラゴンっぽい。俺の事《定命の者》とか言いそう」
「はしゃぐのは別に結構なのだけれど」
彼女は俺を――じゃなかった、その後ろのリリカを指さす。
「その子、宿屋に置いていかなくていいのかしら?」
「ああ……それも考えたが一人だと不安でな……」
「…………私をあまり頼られても困るのだけれど?」
「心配ないよな、リリカ?」
「はい」
「チートギフト、絶対幸運……と。これで大丈夫だろう」
俺はリリカの胸に手を突っ込むと再び心核を割る。
黄金色の光が彼女を包む。
「これで良し、と……怖いところはないか?」
「ありがとうございます。この通り大丈夫です。ご主人」
リリカは突如ベロンと服をめくる。
下着を含めた諸々が白日の下に晒される。
「うわあああ待て待て待て!ストォォーーップ!」
「え、あ。申し訳ありません」
リリカはしゅんとする。
だがその一瞬で分かったことがある。
傷はほとんど完治していた。
何となく彼女を撫でてやる。
リリカは気持ちよさそうに目を細めた。
「……まああなたが良いならそれでいいわ」
「にしても凄いな……昨日あんなにボロボロだったのにもう治るなんて」
「それが古代種よ。一日睡眠を取ればほとんど傷が治るわ」
「はい、怖くて前のご主人には黙っていましたが。傷の治りは凄い早いんです」
「それはいい事だが、あまり無理しないようにな」
「それじゃ、行きましょうか」
それが逆に昨日の彼女がどれほど凄惨な状態だったかを表しているのだからやりきれない。
ラピュセルは俺とリリカを掴むと、跳躍し横に開いている無数の穴の一つに入っていく。
そのまま落ちたり登ったり、狭い曲がりくねった道を幾度も通過すると俺たちは洞窟の前にたどり着く。
地獄の底に通じていそうなその穴からは地響きのような唸り声と、獣と糞と血に塗れた死臭が漂っていた
場所:龍鳴峡谷―グレイタウン
S級モンスター:開闢の魔女(特記) 討伐を試みたものは死刑とする
A級モンスター:覇翼のグラニュート 250000000G
B級モンスター:該当なし
C級モンスター:ワイバーン(10体につき) 1000000G




