第二十六話:魔女と奴隷
「で?その子は何?」
「ご主人……」
「この子はリリカベル、奴隷だったんだ」
「そんなの見れば分かるわ」
ラピュセルは腕を組む。
「奴隷をなんで連れてるか聞いてるのよ」
「奴隷じゃねーよ」
「ご主人って呼ばれてるのに?」
「友達だ」
「へぇ、じゃあ彼女に聞いてみようかしら」
ラピュセルはリリカの方を向く。
「あなたにとってこいつは何?」
「うちにとっては……」
リリカは困った顔で俺を見る。
俺はリリカを庇うように前に立つ。
しばし沈黙の後、彼女は言葉を発する。
それは絞り出すような、か細い声だった。
「トモダチ、です」
「…………そう」
ラピュセルは目を閉じる。
「悪かった、お前の金貨で勝手なことしたと思ってる」
「それは別に良いわよ、あなたがお人好しなことなんて分かってたし……ただ」
「何だよ」
「私はあなたを心配してるのよ」
ラピュセルは俺の方を見る。
それは彼女にしては珍しい、物憂げな表情だった。
「彼女の絶対幸運に免じてここは引いてあげる。でもねヤマト」
「ん?」
「彼女のことを思うなら、奴隷として扱いなさい」
その謝罪の意味は分からなかった。
だがそれは重みのある言葉だった。
…………
………………
外が暗くなってきたのて宿屋に移動した。
テーブルの上に紅茶が入ったコップが三つ並べられている。
「あら、猫舌には厳しいかしら?」
リリカはすっかり彼女のことが苦手になったしまったようで俺の陰に隠れてしまってる。
俺とラピュセルは席に座る。
そして俺の後ろにリリカが立っている形だ。
「それにしてもその子どこで拾ったのよ、狙って手に入るものでもないでしょうに」
「ダストンって奴に譲ってもらったんだ」
「へぇ……?」
ラピュセルは興味深そうにリリカの方を見る。
リリカはそそくさと隠れてしまう。
「簡単に手に入るわけないってどういうことだよ」
「その子、ミアキスの古代種よ」
「古代種?なんじゃそりゃ」
「そんなことだろうと思ったけれど、やっぱり知らなかったのね」
ラピュセルはやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
「ミアキスは奴隷用に家畜化された奉仕種族なのだけれど、ごく稀に先祖返りする個体がいるのよ」
「家畜って……」
「私も久しぶりに見たわ」
唐突にラピュセルは俺と掌を重ねる。
後ろでぴくりとリリカが反応した気がした。
なんだ、急に。
「それで、いくつ金貨を使ったのかしら?」
あ、こいつ骨を折る気だ。
「ふふん、見てみろ!」
俺は金貨をざらりと並べる。
金貨は7枚になっていた。
「あら?増えてるじゃない」
「カジノでちょろっとな」
「ああ、悪知恵が働くのね」
「工夫といってくれ……ところで何であんなに金貨持ってるんだ?」
「ん?ああ」
ラピュセルは重ねた掌を解くと両手を合わせて器を形作る。
するとそこから金貨がじゃらじゃらと湧き出てきた。
「びっくりしたぁ!カオナシかお前は!」
「シャルデンテには出来ないでしょうけど私の本質は創造。この程度の魔法なら造作もないわ」
「ほーん」
「シャルデンテには出来ないでしょうけど」
「…………」
ちょっとムキになってないか?
ひょっとしてかなり対抗意識持ってる?
「それは良かった、それでお前は何をしてたんだ?」
「そのことだけれど。ちょっと面倒な事になってね」
ラピュセルは立ち上がると、窓枠に手を掛ける。
「明日出発するわよ、用意しときなさい」
それだけ言い残すと彼女は姿を消したのだった。
…………
………………
「えっと、大丈夫か?リリカ」
「すいません、ご主人の友人にこんな態度を取ってしまって……」
「いや、気にしなくていいぞ」
リリカは顔を下に向ける。
本能的にラピュセルの力量を察しているのかもしれない。
「と、布団が一つしかないんだったな。宿屋の人に持ってきてもらうか。待っててな」
下に降りてわけを話し、隣の部屋も利用できるようにしてもらう。
戻ってきても彼女はそのまま立っていた。
ラピュセルがリリカに入れた紅茶は、すっかり冷たくなっていた。




