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異世界乙女に呼ばれたけれど俺にチート能力をくれ  作者: たけのこーた
第一章:終焉の魔女
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第二十五話:リリカベル

「…………」

「あの」

「…………」

「何か喋って貰っていいかな?」

「はいご主人!」

「うわぁ!急に喋るな!」

「…………」

「あ。今のは突っ込みというか……軽い冗談だから気にしないでくれ」


彼女はリリカベルというらしい。


「先ほどは拾って頂きありがとうございました!」

「ああ良いよ、見ていられなかったもんでな……体の方は大丈夫か?」

「はい!四肢も動きますし問題なく働けます!元気な子も産めますよ!」

「いや、痛い所とかはないのかなって思ってさ」

「はい?」


彼女はきょとんとした顔で首をかしげる。


「あの、聞いてもよろしいでしょうかご主人」

「いつでも何でも聞いてくれ」

「痛いって何ですか?」

「……え?」


彼女は苦痛を感じない種族、というわけではないだろう。

俺はリリカのそばによると、纏っている布をめくる。

その下にある白かった筈の柔肌は、赤く腫れあがっていた。

恐らく、痛みという言葉を知らないのだろう。


「うーん、殴られたときに体に嫌な感じとかしないか?」

「あ、怖いって思います」

「うん。そうだな……それで合ってるかもしれない」


この短いやり取りで既に分かったことがある。

彼女を理解するには遥かに時間がかかりそうだった。


「で、体に怖いところはないか?」

「おなかが怖いです」

「そうだ、それでいい」


俺はリリカの頭を撫でる。

彼女は最初こそ怯えていたが、そのうち気持ちよさそうに目を細めた。


「今までよく頑張ったな」

「……?」

「出来るかどうかは分からないけどさ、お前は俺が守るから」


それは地に足がついていない。半ば無理やり捻り出した言葉だった。

我ながら全く似合っていないセリフだと思う。

でも俺はこれを言われて、嬉しかったから。


「ご主人、怖いです」

「どうした、どこか痛むのか?」

「ここが」


リリカは左胸に手を当てる。


「胸が怖いです」



…………

………………



悲しいことに食堂は閉まっていた。

いつでもやっているわけではないらしい。

服屋でリリカ用の服を見繕うとそのまま宿屋に移動する。

これにて朝の芸で稼いだ硬化も空になった、あとは宿屋に置いてきた金貨二枚だけだ。


「一人追加したいんだけどいいか?」

「はいはい無料で構いませんよ!どなたでも何人でもどうぞ!」


やはり金貨の力は絶大だった。

その気になったら貸し切りでもいけそうな勢いだ。


「着替え終わったら教えてくれ」

「はい、ご主人!」

「ところでリリカ。そのご主人っての、やめてくれないか?」

「え?」

「俺はヤマトって言うんだ、出来れば名前で」

「……いえ、うちはご主人と呼ばせてほしいです」

「そっか、分かった」


それは彼女にしては珍しく、意思を表示した瞬間だった。

その言葉の意図は俺には分からない。

しかしそれは尊重しなければいけないものなのだろう。


リリカに服を渡すと俺は窓の外に視線を移す。

服屋で試着は出来なかったのでここで服を着せる事にした。

誰にもリリカの服の下を見られたくなかったからだ。


「どうですか、似合ってますか?」

「ああ、いまいち服のセンスには自信はないが。いいんじゃないかな」

「ご主人が良いならうちは何でも構いませんよ?」


彼女はくるくると回ると、にこりと笑って見せる。

笑い慣れていないのか、それはすこし不器用な微笑みだった。

仕方ない事だろう、そのうち自然に出来るようになればいい。


「ところでリリカ、答えたくなかったら答えないで欲しいんだが」

「はい!何でしょう?」

「右足の太ももにあったⅢって刺青は何なんだ?」

「逃げ出そうとした回数です。4回目に捕まった時にその足が切り落とされちゃうんです」

「リリカ!やっぱり奴隷が嫌だったんじゃないか!?」

「いえ、私は一回も逃げ出してないんですけど」


彼女は不器用な笑みを浮かべる。


「初めてのご主人様が、一度でも逃げ出さないようにって」

「そんな馬鹿なことがあるかよ……!」


俺は彼女のスカートをめくり、刺青を確認する。

彼女を疑いたくはない、しかし彼女の人生が悲惨であることはもっと信じたくなかった。

そこにはⅢという数字が刻印されていた。

失敗する度にⅠ、Ⅱ、Ⅲと数字が増やされていくならば、多少は不格好になる筈だ。

しかしそれは一度も継ぎ足された形跡のない、残酷なほど綺麗な字だった。



…………

………………


少し不安だったが、宿屋に置いていた金貨は無事だった。

ひとまず安堵すると、残りの二枚を財布に入れる。

そして宿屋を出た俺たちは、金貨一枚で身なりを整えるとカジノの前へとやってきていた。


「本当に出来るんでしょうか……?」

「任せとけって、全部上手くいくさ……頼む!」

「ご主人が望むなら……」


彼女の心核に願いが生まれる。

彼女の心をずっと見ていたが、彼女の願いは出会ってから何も変わっちゃいない。

《ご主人の願いに応えなきゃ》

それだけの、純度の高い鮮烈な願いだった。


「……高らかに唄え!無垢なる乙女よ!《チートギフト・リリカベル》」


彼女の心核を握りつぶす、彼女を一瞬だけ金色の輝きが満たす。


「よし、行こう」

「はい!」


金貨は残り一枚だが、それで十分すぎる。

俺とリリカはカジノへと入っていった。


「……おい、おめえもカジノに来たのか」

「当たり前だろ、こんだけ元手が入ったんだ。今日こそは勝てるね」

「お前もあの変な女に適当に物売ったんだろ?冒険者様様だな!」

「不幸を避ける物ですって言ったらネズミの骨を金貨五枚で買ってたぞ!傑作だったぜ!」

「それにしてもカモになりそうな奴はいねぇな……」

「仕方ねぇさ、冒険者の施設が爆破されたんだ。金ヅル共はそれにかかりきりだろうよ」

「しっ……!あれ見ろよ。見ない顔だ」

「見るからに張り切ってて正装した男女か、しかも若いな……!」

「服も新品だし珍しそうに辺りを見回してるな、カジノに慣れてねぇ証拠だ」

「くくく、長年ここにいるがあそこまで絵に描いたような金ヅルも珍しいな」

「おい!そこのお前ら」

「ん?」


何やら奥の方でひそひそした話をしてた三人組が話しかけてくる。


「どうだい?俺たちと一回勝負してみないかい?」

「ああ、そんな個人戦みたいなこともあるのか」

「そうだよ。算数できりゃ分かるが店員とやったら使用料の分だけ損するんでな」

「まあ店もそうしないと経営できないし仕方ないが……」

「そんなん馬鹿らしいだろ?むしろ賭け事をしたいやつ同士の交流の場がメインだ」

「俺たちとやろうぜ、それなら五分五分だろ?」

「ご主人……どうしましょう」

「ああ」


……心を覗けば丸わかりだ、こいつらイカサマする気満々だな。

俺はにやりと笑う。


「願ってもない」



…………

………………



「あっはっは!笑いが止まらんなぁ!」

「やりましたね、ご主人!」」

「ああ!これで遊んで暮らせるぞ!」


ついでに俺の指も安泰だ。

金貨の数は、10枚に増えていた。

絶対幸運バーストラック、それこそリリカが得た能力。

何か怪しい集団に賭けを持ち掛けられたが、全く敵ではなかった。

心が読める俺と絶対幸運バーストラックのリリカが組めば負けるわけがない。

相手を侮り非公式の賭けを持ち掛けてくるイカサマ師ほどカモりやすい存在もなかった。

言ってしまえば、あの集団に絡まれることでさえ彼女が持つ幸運のうちだろう。

彼女の絶対幸運があれば全てがうまくいくだろう。

万が一足りないものがあれば、その都度チートギフトで補えばよい。

彼女と俺の能力があれば何でもできる気がした。


それから俺はリリカを連れて町を遊んで回った。

喫茶店に入ったり、演劇を見たり、公園を見てみたり、トランプで遊んだり。

コロシアムは彼女の嫌な思い出が想起されそうで避けたけれど。

二人で湖に行ってボートに乗ったりもしてみたりした。


「どうだリリカ。幸せか?」

「幸せ、ですか」


彼女はふと考えるしぐさをする。

それは数少ない、彼女の意思の表明ともいえる仕草だった。


「ご主人は、幸せですか?」

「ん?お前が楽しいのか気にはなっているけど。まあ正直、俺は凄い楽しかったよ」

「うちがご主人に貰った能力は、うちを幸せにする能力ですよね」

「ああ、そういえばそうだな」

「ならば今、うちは幸せなんだと思います」

「うーん、そうなのかなぁ」

「ご不満ですか?」

「不満じゃないけど。俺の幸せに頼らないお前自身の幸せも見つけて欲しいと思うよ」

「難しいですね、でも頑張ってみます」


彼女は微笑む。

だいぶ笑い慣れてきたのか、その笑みは自然に思えた。


「それじゃリリカ、帰ろうか」

「はい!」

「随分とまあ楽しそうね」


ボートから降りた時、目の前に彼女はいた。

漆黒の髪にフリフリのゴシックのドレス。

その姿は黒猫のようで、鴉のようで。夜の到来を告げていた。


「ラピュセル……」

「ねぇヤマト」


彼女はにこりと微笑む。それは木漏れ日の中で笑うかのような、どこまでも自然な笑顔で

――だからこそ、この状況ではどこまでも不自然な笑みだった。


「その子は何?」


場所:龍鳴峡谷―グレイタウン

S級モンスター:開闢の魔女(特記)     討伐を試みたものは死刑とする

A級モンスター:覇翼のグラニュート         250000000G

B級モンスター:該当なし

C級モンスター:ワイバーン(10体につき)       1000000G

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