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異世界乙女に呼ばれたけれど俺にチート能力をくれ  作者: たけのこーた
第一章:終焉の魔女
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第二十四話:初めての喧嘩

冒険者ギルドは定義していた。

以下は世界の均衡を保っているとされる7つの勢力だ。


一剣神

二皇帝

三勇者

四銃士

五賢者

六闘鬼

七魔女

八武者


以上、計36人によってこの世界は動かされていた。

冒険者ギルドはこのうち23人が所属しているらしい。


「……そりゃ天下も取れるわけだよな」


あれから俺は服を着替え、風呂に入り終えると図書館に来ていた。

先程であったイグルーという女性は四銃士の1人という事らしい。

肩書だけ見れば、七魔女であるシャルデンテ、ラピュセルと同格以上のように思える。


他に分かったことと言えば、この世界にキリスト教はなかった。

しかし十字架を刻むと悪霊や魔物に与えるダメージが増える事は経験則的に知られていた。

なので十字架そのものを崇める宗教らしきものはこの世界にあるらしい。

曰く《聖十字は弱き人々に神から与えられた力である》とのことだ。

十字架自体はキリストを処刑した道具なんだから崇めちゃいけないものの気がするが……


俺は『冒険者になりたい人必見!ギルド解説』という名前の本を閉じる。

異世界に来て手に入れるべき情報はこの場所に一通り揃っていそうだった。

図書館も無料だったし、ここならいくらでも時間を潰せそうだ


「とりあえず腹も減ったし、ご飯でも貰いに行くか」


そんなことを考えつつ、図書館を出る。

朝も立ち寄った救民院という食堂に向かっていたその時だった。


「ん?なんだありゃ」

「さあさあ見といで寄っといで!」


何やら人だかりができている。

そこに近づいていくと、その中央には見覚えのある二人組が向かい合って立っていた。

朝の食堂で俺に絡んできた上半身裸の革ジャン男とそれに連れられていた女の子だ。


「レッドエリアの向こうに生息する獣耳種!その獣のような動きで仕留めて喰らった人間の数は無尽蔵! それに対するは我らが町の英雄!ダスト~~ン・トラサルディ!!!」


それからの口上を聞くにどうやらあの二人が戦うらしい。

女の子はフードを脱いでいた、その頭には猫のような耳が生えている

しかし彼女はダストンとやらの部下みたいなものだったはずだが。


「レディーファイト!」


しかしそこからは一方的な蹂躙だった。

ダストンは容赦なく女の子に向けて殴る蹴るを繰り返す。

対して彼女は何もしない、たまに露骨な殴るふりをしてはダストンに殴られている。


「ダストンの黄金の右ストレートが決まったァァーー!」


解説のような人間が叫ぶと民衆もどっと盛り上がる。

皆ダストンの応援ばかりだ、誰もあの子を心配していない。

民衆の一人に話しかける。


「おい、あれはなんでもやりすぎじゃないのか?」

「ああん?なんだお前、外から来た奴か?」

「あんだけ殴る蹴るして、捕まったりしないのかよ」

「いいんだよ、ありゃあいつの奴隷だからな」

「奴隷って……それじゃ勝負になってないじゃないか」

「皆うすうす気づいてるがそんなこという奴は誰も居ねぇよ、そのほうが楽しいからな」

「そんな勝手な話があるか!あの子を何だと思ってんだ!」

「楽しいとこなのにうるせぇなぁ!俺たちは金を払ってんだよ!あの奴隷だってこうしてるおかげで金を貰えてんだろうぜ!俺たちなんかよりよっぽどな!」


「決着――――!」


ダストンの右ストレートが腹に入る。女の子は嗚咽を漏らすと地面にうずくまる。

彼女は全身を布で覆っているが恐らくその下は目を背けたくなるような痣だらけだろう。

それは決して彼女の為ではなく、観客がしらけないための工夫だった。


「おいおい、もう終わりかよ?」

「おれたちゃ金を払ってるんだぜ!」

「立てよおら!根性見せやがれ」


観客から次々に罵声が飛んでいく。


「立て。」


ダストンがそう呟くとその子は無理やり立ち上がる。

観客からわっと歓声が上がる。


「おおっと立ち上がったぁー!さあここから第二幕――」

「ちょっと待ったああああああああああああああああああああああ!」


俺はあらん限りの声でそう叫ぶと群衆をかき分け中央へと進む。

そしてダストンとやらの前に立つ。


「お前強いんだろ?だったら俺が相手になってやるよ」

「おめぇは朝見たナヨナヨ野郎だな……弱い者いじめは趣味じゃねぇんだ。帰りな」

「それじゃあ今朝の金儲けも趣味じゃないのか?」

「あん?」


俺は周りにあまり見えないように金貨を一枚取り出すとダストンに見せた。

完全に隠す必要はない、ある程度は周りに見えてもらわないと困る。


「俺に勝ったらこれやるよ」

「……ははははははははっ!いいぜ、遊んでやるよ!」

「おおっと!? これは乱入者だぁぁあああああー!」


「あれがダストンに勝つって!?おいおい、無茶だろ!」

「人気者にでもなろうってか?馬鹿な奴もいたもんだぜ!」

「いいぞーー!どっちが勝つか分からない戦いなんて久々じゃねぇか!」

「はははっ!あれも演出だろ?ダストンの奴、ちょっとは考えたじゃねぇか!」

「体格が違いすぎるだろダストン!弱い者いじめは程々にしてやれよ!」


俄かに観客席が湧きたつ。

ダストンが置いている木箱にいくつか投げ銭が入る。


「観客の皆さんもご所望のようだぜ!?さっさとやろうじゃねぇか」

「そりゃこっちも同じだ、早くやろう」


俺は金貨を持った手をポケットに突っ込む。

ダストンはズボンに手を突っ込むと、小ぶりのナイフを取り出した。


「言い忘れてたが、武器は何でも使っていいんだぜ?」

「てめっ――!」

「構えも素人だなぁ!喧嘩は初めてか?どういうものか教えてやるよ!」


そう叫ぶとダストンはナイフを振り上げ俺に向けて駆け出す。

振り上げた左手のナイフはフェイントで本命は右のストレートだな。

何が来るか事前に分かれば、俺でも難なく回避できる。

あっさりと避けると続けざまに振り下ろされたナイフを右手で払い軌道をそらす。


「こいつ……!素人の癖にいっちょ前に避けやがって!調子に乗るなよ」

「それはこっちの台詞だ」


俺はスライムには勝てない。

しかし相手が心核のある人間で、心が読めるのならば話は別だ。

次もナイフが囮で本命は右ストレートか。

ナイフだとすぐ勝負が決まるからな。

恐らくぎりぎりまでいたぶって観客を盛り上げようとしているのだろう

はなから避ける読みで軌道をそらしているナイフは避ける必要がない、

俺は右ストレートだけを回避すると、カウンターの要領で左ストレートを叩きこんだ


「ぽげら!?」


それは予想だにしない一撃だったのだろう。

ダストンは慌てて右側の頬を抑えると距離をとる。


「いでぇ!くそっ!ナヨナヨ野郎のどこにこんな力が!」

「パンチに破壊力を持たせるのは簡単だ、中に重くて硬いものを握ればいい」


破壊力とは即ち、速度と重さで決まる。

では筋肉がある人間のパンチがなぜ強いか。

簡単な事だ、それは単純に筋肉で腕全体の重さが上がっているからである。

ならば筋肉などなくても代わりに重たいものを握って殴ればいい。

さらにカウンターならば速度は向こうが勝手に補ってくれる。


「さては金貨を握って……!てめぇ!卑怯だぞ!」

「刃物持ったお前が言える事かよ!」


ダストンは刃物を持っていないほうの手で掴みかかってくる。

さすがに喧嘩馴れしているだけあって賢明な判断だ

取っ組み合いになれば回避も封じられて純粋な筋力の出力勝負になる。

――勿論そのためには相手を掴まなければ話にならない。

心を読める俺にとっては避けることは容易かった。

しかも彼は掴んでからの事に拘るあまり片手に持っているナイフを捨てられずにいる。

両腕で掴みかかってくるならともかく、片腕だけの掴みなど当たる筈がない。

俺は掴みかかってくるタイミングを読むと、


拳に握っていた金貨を奴の掌の中に放り込む。


「あぁ?」


ダストンは戸惑った様子だったが勝利を確信したふうに笑顔になる。


「へ!油断したな馬鹿が!金貨を落としやがった!」


1ギル金貨を奪えたのだ、さっきの茶番で稼いだ金額よりも遥かに価値はある。

しかもこのままだと俺のパンチは破壊力が落ち、ダストンのパンチは破壊力が上がる。


そう考えているな、だからお前は負けるんだ。

もうお前は、その金貨欲しさのあまり俺に対して掴み技を使うことが出来ない。

落とせば周りの観客は試合などそっちのけで我先にと拾いにくるぞ。

そこからは一方的な試合だった。

ひたすらダストンの右ストレートをよけ、左ストレートでカウンターするだけだった。


先程の“解説”も効いたのだろう。

ダストンは左手のナイフも忘れて金貨を握った右手で殴ることしか考えていなかった。

これほど心を読みやすい状況もない。

すっかり考える事をやめた人間は何よりも脆かった。


「あの子は5発殴られていたな。今から同じ場所に入れてやる」

「てめぇ!なめんじゃぶげぇ!」

「素人に殴り負ける気分はどうだ?玄人さんよ!」

「ぐっがっ!おあああああああ!」

「どうした?お前に殴られたあの子は、悲鳴なんて上げなかったぞ!」

「こんなことしてただで済むとぶげぁっ!?」

「少しは分かったか?殴られる痛みってのが!」

「ぐあああああああああああああ!」


丁度5回目の拳を腹に入れた時だった。

ダストンの体が宙に舞う。

そのまま地面に倒れ伏した。


「……立て。」


俺は短くつぶやく。

しかしその言葉に、返事はなかった。


「け、決着~!ダストンまさかの敗北~~!」


あれだけ殴った一方で、拳に痛みはそこまで感じなかった。

ダストンが床に伸びるや否や、俺は両手をパーにして何も持ってない事を伝える。

それを見るや否や観客がわっとダストンの右手に群がった。

そして拳を無理やりこじ開けると、金貨を巡って乱闘が始まる。

どさくさに紛れてその場から離れる、少し落ち着いてからじゃないとこちらに来かねない。



…………

………………




あれから金貨を奪った人間が全力で逃げたらしい、それを追うように群衆は路地へ入っていく。

俺は様子を窺うと、再びさっきの場所に戻ってきていた。

そこには大の字に倒れているダストンと、女の子のみ残っている。


「食うのに困らなくなっても、人間の欲ってのは減らないもんなんだな」

「……てめぇ、今更何の用だ」


俺は金貨を二枚取り出すとダストンに投げつける。


「おい、何の真似だ」

「その子、俺が買わせてもらう」

「は?」


しばし沈黙が流れる。


「く、くく。ふははっはははは!」


ダストンはおかしくてたまらないといった感じで笑う。


「イカれてる野郎だとは思ってたがここまでくると騙す気も失せるぜ!」

「あからさまな奴隷というのは好きじゃないんでな」

「雑種の薄汚ねぇ獣人だぜ!?金貨1枚でこいつみたいなのは十人買える!」

「いいんだよ、これで買えるならな」


獣人だろうが人に値段など付けられるものか。

もし手元に金貨が五枚あったら、五枚投げつけていた。

俺の指の骨よりも、命のほうが重いに決まっている。


「いいぜ、そろそろ捨てようかと思ってたんだ!最後くらい役に立ったじゃねぇか!」


ダストンは唾をその女の子に向けて吐きかける。

女の子は避けるか否か少し悩んだのち、避けずに額に唾を浴びる。


「こいつは今からお前の奴隷だ!優しいご主人様に拾ってもらえてよかったじゃねぇか」

「ありがとう、新しいご主人様」

「別に、そんなんじゃねぇよ」

「俺からも礼を言うぜぇ?俺を助けてくれてありがとうってなぁ!」


殴られたところで、クズはクズだった。

しかし、先程の喧嘩でこの男の評判は地に落ちたことだろう。

この男が奴隷を殴って金儲けすることは当分ない、それだけで十分だ。


場所:龍鳴峡谷―グレイタウン

S級モンスター:開闢の魔女(特記)     討伐を試みたものは死刑とする

A級モンスター:覇翼のグラニュート         250000000G

B級モンスター:該当なし

C級モンスター:ワイバーン(10体につき)       1000000G

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