第二十一話:宿屋
「お一人様ですね?一晩20セプトになります」
「三泊で……ギルじゃダメかな?」
「ええ、ええ。勿論構いませんよ」
あれから俺は時に何事もなく宿屋へと入っていた。
1ギル何セプトなのだろう、ラピュセルは教えてくれなかったぞ。
「とりあえず……これで」
俺はとりあえずガマ口からいくつかの硬貨を取り出すと並べていく。
「あらこんなに……良いんですか?それでは二階へどうぞ」
「あ、ああ!勿論さ。ハハッ!ありがとう」
これ絶対払いすぎた奴だ。
顔を輝かせている受付のおばちゃんに礼を言うと階段を上っていく。
部屋は決して広くはなかった。
四方を灰色の壁に囲まれ、床にはボロボロになった黄色の絨毯が引いてある。
家具はテーブルと椅子、シングルベッドがぽつんと置いてあるだけだ。
「それにしても追手みたいなの全然来なかったな」
「そりゃそうでしょ、まさに現場で暴れている奴がいるのだから」
窓からラピュセルが入ってくる。
「よっこらせ」
「お前これ普通にやっちゃいけない奴じゃないのか」
「この世界では合法よ」
「俺でもわかる嘘つくなや!」
「はい」
ラピュセルは黒くてもじゃもじゃした毛の固まりを俺に渡してくる。
「……これは?」
「カツラよ、被っときなさい」
「何でこんなん用意してるんだよ……」
「万が一の為よ」
「どんな万が一だ」
「こんな万が一よ」
どうやら冗談で用意したものではないらしい。
指名手配される事を想定に入れてるってちょっと嫌だな
「町人の存在は俺たちにとって関係ないんじゃなかったのか」
「あそこまでアホなことする奴らが同伴してたのが想定外すぎただけよ」
「まだ何もわかっちゃいないけどな……無事だといいけど」
「くたばってるといいけど、まあ無事でしょうね」
ラピュセルはベッドの上にごろんと寝転がる。
「まあ落ち着いたら私たちの方も追われることになるでしょう」
「明日から逃亡生活かぁ」
「あなたは多分大丈夫でしょう、この世界にそこまで精巧なカツラないし」
「……俺はお前らのテクノロジーが怖いよ」
「一人モノ作りが好きな奴がいるのよ」
「こんなピンポイントなカツラ作ってる奴があるか!」
「サバトでコスプレ大会を催したときのものね、取っておいてよかったわ」
「……何だろう、ある意味で地獄の催し感は増えた気がするな」
漫画の写し見ながらテレビ見つつコスプレ大会を開く会て。
逆にこれ以上の情報を仕入れるのが恐ろしくなってきた。
「まあ俺は寝転がるのは気にしないけど……お風呂とか入ってきたらどうだ?」
「あら失礼ね。私は服に埃避けの加護つけているから汚れないわよ」
「まあそんな気はしてた」
「だいたいここに風呂なんてないわよ、風呂屋に行かないと」
「ああ、銭湯か……まあそりゃそうか」
「ちなみに混浴」
「マジで!?」
「の所はめったにないからあまり期待しないほうがいいわよ」
「……してねぇよ!」
「本当かしら?」
「今のはお前あれだぞ、ひどいぞ!誘導尋問だからな!」
「そんな倫理観は通用しないわよ」
「くそったれめ……!」
俺はひとまず椅子に腰かける。
ラピュセルは身体を起こすと俺と向かい合うようにしてベッドに座る。
「あまりいいベッドじゃないわね、まあ貴方が寝る分には問題なさそうだけど」
「まあこのベッドこのクソ狭い中で二人はきついよな……どうするんだ?」
「あら、私はここに泊まらないわよ?」
「……は!?」
「代金も払ってないのに泊まるわけないじゃないの」
「いや、まあ……そりゃそうか」
「何を少し落ち込んでるのか分からないけれど、ここからは別行動よ」
ラピュセルは勢いよく立ち上がる。
「少しの間いなくなるから、散歩がてらこの町を見てきなさい」
「いいのかよ、勝手に歩いて」
「あなたがその場で銃殺刑されるくらいアホじゃないならなんとでもなるわ」
そしてガマ口をトントンと叩く。
「これだけたくさんのギル金貨が入ってるんだもの、使い切る方が難しいくらいよ。
ただし盗賊には気をつけなさい。馬鹿正直に全財産持ち歩かない事」
「ところでラピュセルさん、気になる事があってですね……」
その時扉がトントンと叩かれる。
扉の外でなにやらワイワイガヤガヤ聞こえる。
「あ、はーい!……ラピュセル」
「え、ええ。分かってるわよ」
ラピュセルはすこし戸惑ったような表情を浮かべると窓の外の様子を窺い飛び降りる。
「お客様、ルームサービスです」
酒池肉林が扉の前に立っていた。。
若い女性が10人ほど、さらに肉やらワインやらがわんさか乗った皿が次々と
「わーーーーーーー!いいですいいです!!!むしろ自分!!静かに暮らしたいんで!!!」
「あれほどのお代を頂いておきながら何もしないなんて評判に関わります!」
「いえいえいえ!!お気になさらず!」
「ですが我が宿にはこれ以上のもてなしは出来ませぬ!料理も作ってまいりましたし」
「その、なんだ!お腹いっぱいです!おごりだと思って皆で食べちゃってください!!!」
「は、はあ……」
「ありがとう!すんません!ありがとう!」
半ば無理やり追い出すようにして扉を閉める。
「はぁ……はぁ……」
「あなた、これはどういうことかしら」
肩に手が置かれる、振り返るとラピュセルが立っていた。
笑顔で。
玩具を見つけた子供のような本当に楽しそうな笑顔で。
「いや違うんだわざとじゃなくてこれはぎゃああああああああ!」
「少し躾が必要なみたいね?」
「ギブギブギブ!折れるて!お、おも――」
「…………」
「いだだだだだだだだ!」
彼女は俺を地面に転がすと左足を持ち上げる。
逆エビ固めて!魔女がプロレスの関節技て!
結局、俺の悲鳴を察知した宿屋のおばちゃんが扉をノックするまでこれは続いた。
そして苦し紛れに一人でごっこ遊びをしていたと説明したことで新たな難を得たのだった。
逃れられぬカルマ。
こうして異世界に来て二日目は終わる。
色々あったが、少なくとも明日はろくに起き上がれる状態でないことだけは確かだった。
場所:龍鳴峡谷―グレイタウン
S級モンスター:開闢の魔女(特記) 討伐を試みたものは死刑とする
A級モンスター:覇翼のグラニュート 250000000G
B級モンスター:該当なし
C級モンスター:ワイバーン(10体につき) 1000000G




