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異世界乙女に呼ばれたけれど俺にチート能力をくれ  作者: たけのこーた
第一章:終焉の魔女
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第十五話:魔女が旅立つ時

「あなた、私が寝てる間に変なことしたわね」

「お前は少しは俺を信じろよ」


俺、ラピュセル、シャルデンテ、ウェイスは昼食を取っていた。


「それじゃあ何でこの場で漫画の話が普通に出てきて全員に通じているのかしら」

「いやそれは俺がいるいないは関係なくてな……」

「ヤマトさんは悪くないんです!私が地下に行ったから」

「ウェイスは悪くないわ、私が教えたんですもの」

「美しい友情ね。そんなに仲が良いのならば、一緒に地獄に落ちればさぞ本望でしょう」

「ウェイス……」

「ヤマトさん……」

「………………」

「ヤマト?」

「あ、悪いぼーっとしてた。なんだろう、何もやってないのに俺も共犯な気がしてくる」

「どのみちラピュセルコレクションを見た以上生きては帰さないわ」

「もうちょっとマシな名前あっただろ……」

「すいません、禁書のような呪いがかかっている本を避けてたらあれしかなくて」

「あの場所において一番見てはいけないものを見てしまったわね」

「そんなにですか!?」


彼女的にはあの漫画の写しは禁書を超えていた。

いやそりゃ恥ずかしいんだろうけどさ。


「最重要に決まってるじゃない。あれがないと私のサバトでの地位が危ういじゃないの」

「もう隠さなくなってきたよね!?サバトってテレビ見てマンガ読む集まりだよね!?」

「サバト……!伝説の中で語られるこの世の運命を決める七魔女の集い。まさか実在してたなんて」

「いや多分もう手遅れだウェイス。こいつらは絶対そんな高尚なことしてないぞ」

「失礼な、ちゃんとしてるわよ」

「そうそう、最後の五分くらいにちょろっと」

「俺はこの世界が不憫でならないよ」

「異世界の娯楽を見ながらこの世の行く末を決める……なんてスケールが大きいんだぁ」

「ウェイスはよくわかってるわね」

「うちの子ですもの、当然でしょう」

「それに比べてこの唐変木ときたら」

「誰が唐変木だ」


五分で世界の命運決めてる事実は変わらないからな。


「あとシャルデンテ、あなたはさっさとそれを返しなさい」

「開闢の手鏡ね、ふふ。どうしよっかな~?」

「馬鹿は死なないと治らないのね、半殺しにすれば少しは賢くなると思っていたのだけれど」

「あら、怠惰で馬鹿なあなたが好きそうな言葉だこと」

「…………」

「…………」

「あー、もうそこまで!折角ここまで上品ぶってるんだから食卓でメンチを切りあうな!」

「……仕方ないわね」

「くく、ヤマトクンが止めてくれて命拾いしたわね?ラピュセル」

「大事なものなんだから、シャルはラピュセルさんにちゃんと返さなきゃだめだよ?」

「……わかったわよ」


しぶしぶといった感じでシャルデンテはラピュセルに開闢の手鏡を返す。

ラピュセルもかける言葉が見つからないのか、少しぎこちなく受け取る。

こいつら乙女の皮被った小学生男子か。

保護者なのは俺らの方かもしれない。


「なんかごめんなウェイス、気を遣わせちまったみたいで」

「いえいえ、元はと言えば私がボーボボの話をしたのが原因ですから」

「うん、それは言い逃れ出来んわ」


他の漫画ならギリギリ誤魔化せたかもしれないがボーボボは無理だわ。

異世界で初対面の相手にボーボボの話から切り出す奴どの世界にもいないだろ。


「さて、ひと段落着いたところだし。ちょっと席を外すわね」

「あら、どうしたのラピュセル?漫画を隠しに行くの?」

「トイレよ」

「ああ……まあ行ってらっしゃい」

「あなたも来るのよ」

「何で!?」

「連れションよ」


連れションとかいうな、というツッコミをする間もなく、

ラピュセルは俺の手を引くと部屋を後にする。


…………

………………


「どうしたんだよ急に」

「それはこっちの台詞よ。あなた、何か様子がおかしいわよ」

「…………そんなことないだろ」

「何かワルプルギスに吹き込まれたわね?」


どこまで見通しているんだろうか。

彼女はさも当然といった顔で唐突に、しかも的確に俺の心の急所を突いてくる。


「き、気のせいじゃないか?」

「眼球の動き、口調の変化、呼吸の浅さ、右人差し指が動く癖」

「っ……!」

「今言ったのは適当だけれど、今それを確認したわね?」

「くそっ……!」

「やれやれ、マヌケは見つかったようだわ」

「それ言いたいだけだろお前」

「私との付き合いの長さを舐めない事ね」

「昨日会ったばかりだろうが!」

「ぶっちゃけこの場で何を言われたか吐かせるほどの興味もないわ」

「ないのかよ!それじゃあ何で――」

「これだけは言っておこうと思って」


ラピュセルはこちらを見る。


「心配しないで。どんな未来が待っていようとも、私が必ずあなたを守るから」

「……!」


俺は、その言葉を信じていいのだろうか。

俺は、その言葉を信じられるのだろうか。


「さ、それじゃあ。殴り込みに行ってくるわ」

「殴りこむって……どこへ?」

「ワルプルギスの所よ」

「なっ!?」

「気に食わないのなら、その未来を変えさせれば何の問題もないでしょう?」

「あいつが何言ったかなんて、興味はないんじゃなかったのか」

「ええ、けれどあなたにとってはそうじゃないんでしょう?」

「そりゃ、そうだけどよ」

「私が動くには、それだけで十分よ」


ラピュセルと昨日出会ったばかりだが、ハッキリと分かる。

彼女は激怒していた。


「それに言ったでしょう?私は私の玩具に手を出す輩が大嫌いなの」

「あいつは理想の未来が手に入るって喜んでたぞ、そう簡単に行くのか?」

「無理でしょうね。ぶっちゃけどうすればいいのか皆目見当つかないわ」

「お前でもそうなるのか」

「こうして彼女の所に行くのも、彼女の能力のうちでしょうし」

「そのレベルでヤバいのか、ワルプルギスの未来改変は」

「ええ、私が能力を知る中では間違いなく最強の魔女よ。でもね」


その瞳は呆れるほど真っすぐ前を見つめていた。

俺を通してこれからの未来を見つめていた。


「それはあいつがあなたを傷つけて良い理由にはならないの」


――――ああそうか、この時俺は既に。


「……何となくだけど、ワルプルギスがお前の事好きな理由が分かるよ」


そしてそれは、どうやら俺も同じらしい。

彼女を信じているからこそ、彼女に殺されるわけにはいかなくなった。


「俺も行くよ。あいつと戦う理由が出来た」

「あら?それは何故かしら」

「ワルプルギスは俺のライバルだからな」

「ふ」


彼女は心底嬉しそうに微笑んだ。


「ライバルって、あなたがあいつと勝負になると思っているのかしら」

「なってみせるさ、そうでもしなきゃお前の隣は務まらない」

「ふ、ふふっ……!あははっ!……そうね、信じてあげる」


それはこれまで見たことがないくらいに、嬉しそうな笑みだった。


…………

………………


「随分と長い連れションだったわね」

「シャル。用事が出来たわ、ここのメイドは全員クビよ」

「しょうがないお姫様ねぇ、まあいいけれど」

「あんたもさっさと出ていく事ね」

「それは丁度いいわ。どのみちあんたについてこうと思ってたし」

「は?」

「くく、面白そうな話してたじゃないの。

 あのスカした終焉の魔女が敗北する様を見れるんでしょう?これを見に行かない手はないわ」

「……まあいいわ、断ってこそこそされたほうが面倒だし。勝手にしなさい」

「ええ、そうさせてもらうわ。良いわねウェイス?」

「ダメって言っても行くんでしょ、シャルは」



こうして四人は住処を後にする。

目指すはワルプルギスのいる都、アブユルグ。

これからの未来を作るために。

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