第十三話:魔女と共に歩むということ
「それで、その」
シャルデンテは食べ終わった皿の上を見る。
「料理は口に合ったのかしら?」
「ああ、すげえおいしい」
「その調子だとグルメリポーターは無理ね、もうちょっとマシな感想を言いなさいよ」
「思ったより素朴な味がして驚いた」
例えるならばお母さんの手料理というのが一番しっくりくるだろう。
安心する味。異世界にきて初めての料理という点ではこれに勝るものはないかもしれない。
「あら?異世界から来たそのお口には合わなかったかしら、メイドに言っとくわ」
「いや、お前の作る料理だからてっきり甘々なお菓子とか出てくるのかと」
「私が作ったなんて一言も言ってないでしょう!?」
「お前の性格からして、自分の作った料理でもないと味の感想なんて求めてこないだろ」
メイドに作らせているのなら『すげえおいしい』の一言だけで満足するに決まっている。
「これで勝ったと思わないことね」
「なんですぐ勝負したがるんだよお前らは」
「それで?何が一番おいしかったのよ」
「ん?ソーセージ」
俺は肉が好きだからな。
「んで?ウェイスは一緒じゃないのか?」
「あの子ならまだ寝てるわよ、昨日も遅くまで本読んでたみたいだし」
「お前……ほんとに身内に甘々なんだな」
「勘違いしないでよね、別に人間ごときと馴れ合うつもりはないんだから」
『わはははははは』
「…………」
「…………」
開闢の手鏡はお笑い番組を映しっぱなしになっていた。
朝っぱらから……と思ったがここは異世界だ、時差も当然あるのだろう。
「……魔女という括りをあまり使いたくはないけどね。
そもそも私たちを人間の尺度で測ろうというのが傲慢で、間違いなのよ」
「普通に分かり合えるんじゃないか?」
「じゃあ私たちが昨日、話し合わずに殺しあった理由を説明できて?」
「……それは」
「返答によっちゃ殺すわね」
手袋を突き破り、彼女の右手にある口から舌が鋭く伸びて俺の首元で止まる。
木漏れ日の中で語り掛けるかのように、彼女は柔和に笑ってみせた。
まるでそれが彼女たちの日常であるかのように。
『すんのかい、せんのかい』
「……お前」
「さっきまで一緒に笑いあっていても次の瞬間には殺されているかもしれない。
……それが私たち魔女と付き合うってことよ」
――俺はラピュセルに殺されると言った。ワルプルギスの予言がいやに耳の中で響く。
「……そうかもな、正直右も左もわかんねーしこの世界の人間と分かり合えるかどうかすら怪しいんだ、
お前らと分かり合うなんて無理かもしれない」
「あら、前言撤回するの?」
「それでも俺は」
「…………?」
「この命がある限り、お前らと分かり合えると思いながら生きていくさ」
逃げても足搔いてもどうせ殺されるのならば
最後まで隣で彼女と笑って生きるのが一番だろう
『手首ドリルすなーー!』
「…………うふ」
「……テレビ消せや!今シリアスっぽい雰囲気になってただろーが!!!」
「ふふふ」
シャルデンテは舌をしまうと、手鏡を閉じ立ち上がる。
「あなたはよほどの馬鹿ね」
「……なんで急に悪口言われたんだ?」
「当ててみたら?それこそ分かり合う第一歩よ」
「ああ分かった、お前の性格が悪いからだな」
「残念、あなたの頭が悪いからよ」
パチンと指を鳴らすと、食べ終わった皿に足が生えキッチンのほうへ走っていく。
彼女はそれらの後に続くようにゆったりと食堂を後にした。
「……あいつもとんでもない当たりを引いたもんだわ」
「なんかいったか?」
「いいえ、何も」
「?」
こいつらを理解するのは、確かに一筋縄ではいかなさそうだった。