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異世界乙女に呼ばれたけれど俺にチート能力をくれ  作者: たけのこーた
第一章:終焉の魔女
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第十一話:終焉の魔女

俺が触手のベッドから解放されたのは、日が昇ろうという時間だった。


「うう……もうお嫁にいけない」


悔しいことに体がめちゃくちゃ軽い、下手に寝るよりよほど疲れが取れている。

俺はベッドですうすう寝息を立てているラピュセルのほうを恨めしそうに眺める。


「くっそこいつはのんきに寝やがってから……に?」


ラピュセルのベッドに不自然なふくらみがある。布団を恐る恐るめくる。

そこには彼女より幼めの少年がラピュセルに抱きつくようにして眠っていたのだった。


「……………」


俺はそっと布団を戻すと、ゆっくりと助走するための距離をとる。

ははは。侵入者は排除しなきゃな。


「コケコッコー―――!!朝だおらぁ!!!」


俺は謎の少年に向けて突進する。飛び蹴りの構えだ。

しかし《なぜか無造作に置かれていたバナナの皮を踏みつけ俺は盛大にすっころんだ。》


「どわああああああああああああああああ!?」


ドンガラガラガシャーン。布団の側面に頭から突っ込む。


「こんな朝っぱらから何をしてるのよ……」


背後から呆れたような声が聞こえる、いつの間にかそこにはラピュセルが立っていた。

飛び起きて回り込んだのだろう……あの勢いなら敵襲と勘違いしてもおかしくない。

ぽすりと、バナナの皮がラピュセルの頭の上に乗る。


「……随分と元気がいいようね。そんなに昨日のマッサージがよかったの?」

「やめてもう触手はいやあああああ!」

「……あら?」


彼女がその少年の存在に気付いたのは

俺の襟をがっしりつかみ触手ベッドのほうへ引きずってゆく途中だった


…………

………………


「あはは、初めまして。ボクはワルプルギス。終焉の魔女っていわれてるんだ」

「え……魔女……?女?」


ワルプルギスと自己紹介した彼女はにっかりと笑う。

ラピュセルのほうを見る。彼女は天井をぼんやりと眺めた。


「今日は厄日だわ……」

「いや判定早いなおい!?」

「そうだよ、まだ何もしてないよ!?」

「これからするんでしょうが……で、何をしに来たの?」

「お姉さまとその新しい玩具を眺めに来たんだー」

「へいへい、こんな面でよければどーぞ拝んでください」

「それじゃあ遠慮なく!」


ワルプルギスは俺の顔を覗き込む。

その瞳は底が見えないほど、あらゆる光を吸い込む色をしていた。


「ーー!」


何となく感じる、こいつはこの世界の何者よりも人間離れしている。

そしておそらくこの世界の中で俺にとって最も苦手な存在だ。


「……自信持ちなよ、十分面白い顔だよ」

「ナチュラル失礼だなお前は」

「君もなかなか失礼だと思うよ。化け物を見るような眼をしてさ」

「……ん、ああ。それもそうだな、悪かった」


どうせ相手は魔女、心でも読んでるんだろう。

《確かに不愉快な思いをさせてしまったかもしれない》

《ワルプルギスには悪いことをした》


「……はぁ。《それで?政治ごっこはどうしたのかしら》」

「ギルドのお仕事?ばりばりやってるよ!僕なしじゃもう回らないくらい」

「エエソウネ、サスガハワルプルギスサマダワ」

「……めっちゃ棒読みだな」

「わーい!お姉さまにそう言ってもらえることがボクの唯一の生きがいだよーー!」


ワルプルギスはラピュセルに抱き着く。おまえはそれでいいのか。


「ラピュセルー?ご飯できたわよー?」


そうこうしていると扉があきシャルデンテがひょっこり顔をのぞかせる。

今日も相変わらずメイド服だ、どうやらしばらくメイドごっこに興じるつもりらしい。

むしろなんかお母さんとかそっちのが近い感じもするが。


「ばっかあなたね、入るときはノックくらいしなさいよ」

「思春期の息子かおまえは」


シャルデンテとワルプルギスの目が合う。


「ゲェェェェ!ワルプルギス!?今日は厄日ね!」

「どいつもこいつも本当にひどいなぁ」

サバト出禁になって以来じゃないの、二度と会うことはないと思ってたのに」

「暴食こそ、お姉さまのとこにいるなんてどういう風の吹き回しだい?」

「あ?次その名で呼んでみなさい?ぶっ飛ばすわよ」

「へぇ……やってみなよ暴食?」

「あー!もう、人んちでやるな!」


二人が懐に手を入れたところでラピュセルの静止が入る。

魔女ってのは戦闘民族か何かなのだろうか。


「お姉さまがそう言うなら……」

「あーえらいえらい、後で飴ちゃんをあげるわ」

「わーい!」

「チッ」

「拗ねないの。シャルの分の飴ちゃんもあるわよ」

「私は別に飴ちゃん要らんわ!」


「それでご飯はどこにあるのかな?」

「あ、ちょっと待ちなさい!あんたの分はないわよ!」


興味はご飯に移ったのかワルプルギスはドタドタと駆け出していく。

シャルデンテもそれを追うようにして部屋を駆け出して行った。

部屋につかの間の静寂が訪れる。


「なんというか……自由な奴だな」

「……5回ってところかしらね」

「何が?」

「あいつが今のやり取りの中で、未来を改変した回数よ」

「……なんだそりゃ?」


未来の改変?それがワルプルギスの――終焉の魔女の能力?


「あのね、ヤマト。私はあなたには自由にして欲しいと思ってるわ」


ラピュセルは目線を落とす。そこにはバナナの皮が置いてあった。


「でも……あいつに関わる回数だけはなるべく抑えて、特にあいつの視界になるべく入らないで。

 聞かないなら力ずくでもそうするから」

「あ、ああ……?」


ラピュセルは再び布団の中にもぞもぞと入っていく。


「邪魔者もいなくなったしそれじゃ私はもうひと眠りするわね」

「え、朝ご飯は?」

「あなたがおなか壊さなかったら食べるわ」

「毒見させるな。お前のほうが絶対に毒耐性みたいなのあるだろ」

「乙女の胃袋をまるで鉄か何かのように言うなんて……まあいいか」

「心も鉄壁かよ。それに俺を敵地に置けないんじゃなかったのか?」

「あなたと一緒に寝たかったからついたかわいい嘘よ」

「この世においてここまで最速でばれる嘘もなかなかないよね」

「ぐーぐー」

「…………」


まあ放っといてやろう。

ラピュセルとワルプルギス。開闢の魔女と終焉の魔女。

おそらく二人の間にはただならぬものがあるのだろう。

しかしそれは、まだ俺が踏み込む領域ではなさそうだ。


…………

………………


「やあ、お姉さまは二度寝したのかい?」


廊下に出るとワルプルギスがそこには立っていた。


「聞いたぞ。お前の能力は未来改変なんだってな」

「ふーん、やっぱり聞いたんだね」


この短いやり取りすら彼女の都合いいように改変されているかもしれない。

そう考えると得体のしれない感情が喉の奥からこみあげてくるのを感じる。


「……俺に話があるんだろ?」

「ご明察!話が早くて助かるよ」


ワルプルギスはぱちんと指を鳴らすと喜んで見せる。

彼女の能力を知ってしまうと全てが茶番に、芝居がかったものに見えてしまう。

この偏見も良くない――その思いすら、彼女の能力が引き起こしているものに思えて。


「ボクはね、君に感謝してるんだ」

「なんだよ、俺が未来で何かしたか?」

「君が来てから未来がちょっと変わってね、ちょっと面倒だったんだけど許すよ。

 だってその結果ボクに理想の未来をくれんだからね!」

「……そうかい、そりゃどうも」


ラピュセルと末永くお幸せにでもなるのだろうか。普通にありそうでいやだなそれ。


「だからね、お礼に君の未来を教えてあげるよ」

「ああ。そりゃどうも」


ワルプルギスは屈託のない笑みで言う。


「――君はね、お姉さまに殺される」

「……は?」


一瞬思考が停止する。


「いや、よく考えたら占いキャラだからってお前が本当のこと言う保証もなかったな」

「ボクは信じないのに昨日出会ったばかりのお姉さまは信じるのかい?」

「正直どっちも胡散臭いし目くそ鼻くそではあるがな……俺は信じたいほうを信じる主義なんだよ」

「自分に言い聞かせてるみたいだね、その誤魔化しがいつまで通じるかな?」

「……俺やっぱお前のこと嫌いだわ」

「ふふ、ボクもだよ」


ワルプルギスは笑う。


「それじゃお邪魔したね、ばいばい――は適切じゃないか」

「ばいばいは本来God-by-with-you……『神の加護がありますように』って意味だっけか?」

「そうそう、ボクは魔女だし君に神の加護を願うのも癪だ。それじゃまたね」

「再会は願うのかよ、次会うときは法廷かもな」

「ふふ、それも悪くない」


このやり取りの中で一つだけ確かなことがある。

多分俺とこいつとは死ぬまで分かり合うことはないだろう。

彼女の背中を見送りながら、俺はそう思った。

場所:龍鳴峡谷

S級モンスター:開闢の魔女(特記)     討伐を試みたものは死刑とする

A級モンスター:覇翼のグラニュート         250000000G

B級モンスター:該当なし

C級モンスター:ワイバーン(10体につき)       1000000G

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