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異世界乙女に呼ばれたけれど俺にチート能力をくれ  作者: たけのこーた
第一章:終焉の魔女
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第十話:風呂とシャワーと触手とメイド

「ぶっ殺す」

「いや待て落ち着けラピュセル!」

「久しぶりね……実に三年ぶりといったところかしら……」

「いやそれあんただけだから!俺たちにとってはついさっきだからね!?」

「ええ、思い返せばあっという間だったわ……」


会話が通じている気がしない。時差でぼけてるんだろうかこの人。


「あ、あのうシャル?とりあえず説明しなきゃダメだと思うよ?」


もうおずおずともう一人女性が近づいてくる。こちらは昼間見たものと同じ服装をしていた。


「なっ……!荒地の魔女が二人!?」

「あ、いえその!私は違くて……」


一瞬身構える……がその明らかに怯えた小動物のような態度は明らかに魔女のそれでない。


「そうか。荒地の魔女はもともとウェイスって学者に化けてたんだから」

「そうですウェイスです、お話によると私がいま生きているのは皆さんのおかげだとか」


すうう、と彼女は息を吸い込む。


「――本当に、ありがとうございました!」

「…………」


気弱そうだがそこには感謝を伝えようという意志が明確に込められていた。

きっと、彼女はずっとこれを伝えたかったのだろう。

しばしの間沈黙が流れる。


「……だとさ、どうするよお嬢様?」


俺はラピュセルに目配せをする。


「……とりあえず頭をあげなさい。怒鳴る気力も失せたわ」


ラピュセルは肩をすくめる。


「で、何でここにいるのかしら。居候なら金とるわよ?」

「そもそもここ不法占拠でしょうが。過去に飛んでからコツコツと歴史を改変してね、

 お礼もかねてあなたをこの豪邸の主に仕立てあげたのよ」


荒地の魔女――シャルデンテは自慢そうに胸を張る。


「いやー当時のあなたに気づかれないようにここまでするのは本当に大変だったわ」

「そりゃ大変でしょうね、同情するわ」

「資金調達のために何匹デザボーグの変異種を葬ったかわかりゃしない」

「ほんとやめてよ!シャルが私の姿のままB級モンスター乱獲するから私ただの学者なのに伝説の勇者みたいになってるんだよ!?」

「だって既に冒険者ギルドの人間になったほうが不都合ないもの、その辺のモヒカンぶっ殺して成り代わるわけにもいかないでしょう?」

「それは絶対ダメーーーー!」

「お前もたいがい苦労してるんだな……。あれ、ラピュセル?」

「寝るわ」


ラピュセルはすたすたと歩きはじめる。


「いや……ああ、そうだな。おやすみ」


確かに何をするにも疲れすぎている。

俺も彼女を見送ったら寝るとしよう。


「何言ってるの」


ぐん、と彼女に引き寄せられる。


「こんな敵だった奴がいる場所に放って置けるわけないでしょう、あなたも来るのよ」

「え、ちょ、あの!?」


彼女はぎゅっ、と右手で俺と手をつなぐとそのまま俺をぐいぐい引っ張っていった。


…………

………………


彼女に案内されてたどり着いた部屋はさながらホテルのスイートルームのような広大な空間だった。

たかが寝室なのに冗談みたいな広さだ。


「うっわすっげぇ、めっちゃ広い」

「そりゃそうでしょ、王妃が寝てた場所よ?」


背後でバサバサと衣服が落ちる音がする。――あの


「ラピュセルさん?」

「……こっち見たら殺すから」

「なんだろうな、それを聞いて俺はほんの少しだけ安心したよ」

「へぇ、さっきちょっと撫でただけであんなに喜んでたのにねぇ」

「よ、喜んでねぇよ!人を犬みたいに言うな!」

「お風呂に入ってくるわ、その不潔な格好で布団に入ろうものなら命はないと思いなさい」

「寝室に入るのはいいのな」

「……それは不可抗力」


扉を閉める音がする、改めて自分の格好を見る


「……ひどいもんだなこりゃ」


傷だらけの砂だらけ、靴は破れジーパンもあちらこちら裂けまくっている。

そりゃそうだ、むしろあれだけのことがあって生きているのが奇跡なのだ。

それに比べてラピュセルはあれだけ歩いても砂埃一つついてない様子だった、

あれも魔女と呼ばれていた彼女の能力の一つなのだろうか。

何となしに無造作に散らかされた彼女の服へと視線を向けてしまう。

そこにはーー黒い下着が落ちていて。

それからのことはよく覚えていなかった。


…………

………………



「……布団に入るなっていうのは床で寝てろって意味じゃなかったのだれど」


意識を取り戻したとき、彼女はすでに風呂から上がっていた。


「え、めっちゃもこもこのパジャマ着るじゃん……」

「……何を期待していたのかしらこのエロ河童は」

「だああああれがエロ河童だあああああああああああああああああああああああああ!」


せっかく頭のことを忘れかけていたのに!


「ほら、風邪をひくから早く入ってきなさい」

「子供扱いするな」

「皿に水分を貯めてきなさいよ」

「妖怪扱いするんじゃねええええええ!」


とりあえずこの部屋で脱ぐのは大変抵抗があったので

何となく俺はそのまま浴槽へと足を踏み入れようとーー


「砂を散らすな、ここで脱げ」


ダメだった。


「ほら早く。どうしたの?それとも服の脱ぎ方も分からないのかしら」

「ええいくっつくな!服を脱がせようとするな!」

「きゃっ!」


上着を投げつけ怯んでいる間に素早く服を脱ぎ風呂場に駆け込む。

浴室は思ったよりは狭かった。というかシャワーが置いてあるだけだった。


「これは……」


先程までラピュセルが入っていた影響か石鹸のような甘い匂いが浴室に充満していた。

これは大変心臓によろしくない。


「バイクといいシャワーといい、ひょっとしてこの世界って文明レベル高いのか?」


この調子なら冒険者ギルドも高層ビルの最上階にあったりするのかもしれない。

異世界に来てから一人になったのはこれが初めてだった。

いろいろな出来事がぼんやりしている頭のなかを通り過ぎていく。


「いや、何なら現在進行形で事件は起こってるんだけどな……荒地の魔女いるし」


悲しいことに浴室にはシャボテンが置いてあり体を洗うのは手早く済んだ。

細かい傷口にかなり染みるが……消毒もろくにしてなかったし今は我慢の時だろう。

シャワーを止めたタイミングで後ろの扉があき、タオルが投げつけられる。


「きゃっ」

「自分で開けといてウブな反応してんじゃねーよ……」

「さっさとあがりなさいよ、着替え置いておくから」

「へいへい」


いやすげーなこのタオル、拭いても拭いても湿らずに乾いたままだ。

着替えがあるはずの場所には、際どいランジェリーが置いてあった。


「あの、ラピュセルさん?」

「なにかしら?」

「さっきのことひょっとして根に持ってたりしてます?」

「着たら殺すわ」

「そりゃあそうだろうよ!もうちょっと考えて行動しろお前は!」

「これで勝ったと思わないことね」

「勝手に自爆してるだけだろうが!」


結局俺はバスローブを着せてもらった。

タオルと同じく無限に乾く代物だ。彼女がいいならこれでもいいか。


「そういえば服のことを全く考えていなかったわね」

「はぁ……もう疲れた、疲れ切った。魔女に生気でも吸われてるのか」

「あんたの生気って……煮干しみたいな味しそうだわ」

「……お前は本当に元気だな」

「ともあれ本当にお疲れ様」


彼女はふっと笑うとその滑らかな指で俺の頭をなでる。


「よしよし」

「……なんだよ急に、飴ちゃんなら持ってねーぞ?」

「これでも感心しているのよ?あなたが予想以上に強くて、面白い人だったから」


ラピュセルは布団の上にどさりと倒れこむ。


「そういやここって布団一個しかないけど……床で寝るか」

「あら、バスローブとはいえ私の物を汚す気?」


彼女はくすくす笑うとこちらに手を差し伸べる。

その透き通るような白い指で手招きをする。


「さあ、マッサージしてあげるわ。私はちゃんとご褒美を上げる人なのよ?」

「いや男女が同じベッドで――まあでもどうしてもというなら吝かでもないな!」

「同じベッド?何言ってるのかしら」


彼女はパチンと指を鳴らす。

次の瞬間、ベッドの隣に巨大な触手まみれの生物が出現した。


「あの……ラピュセルさん?」


彼女はにっこりと笑う。


「あら、ここに着く前に言わなかったっけ?私は細かい作業は苦手なの」


その生物は触手を伸ばし、俺の足を掴むと軽々持ち上げその中心へと誘っていく。


「てめえええええええ騙したなああああああああああああああ!」

「明日にはばっちり調子も良くなっているはずよ、おやすみなさい」

「この魔女ちょっとまーー!あっだめっそこはーーむぐっ!むーーーーーー!」


こうして俺の一日目は終わる。

やっぱ神様にあったら全力で殴りに行こう。

そう強く決心した夜だった。


場所:龍鳴峡谷

S級モンスター:開闢の魔女(特記)     討伐を試みたものは死刑とする

A級モンスター:覇翼のグラニュート         250000000G

B級モンスター:該当なし

C級モンスター:ワイバーン(10体につき)       1000000G

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