夜襲
「うぅ…さっむ…」
今にも寝てしまいそうだった俺をこの森のひんやりとした冷たい空気が包み込む。
まるでクーラーの風が吹いてるかのように冷たい風が肌を撫でるとブルっと体が震える。
「寒くないか?」
「…」
隣で俺にもたれ掛かるミリアナはぐっすり寝てるみたいだ。リュックからレインコートを静かに取り出して多少マシになるかなとそっとかけてあげる。
これでも風は防ぐからね。だいぶ違うかなと自分の中で思っていた。
「あぁ…ねみぉ〜お〜」
大きなあくびをした後、長い深呼吸。あくびは眠気を誘う。あくびは呼吸の現象で起きる。
深呼吸はその場しのぎで結構有効。
テレビでやってた…。
「モンエナとかコーヒーあれば違うのかなぁ…」
夜もこうしてうかうか寝てられないことを想定してなかったから、今の持ち物に眠気覚ましなものは無い。
非常に試されてる。
ミリアナの眠りを妨げない程度の独り言で眠気を紛らわし耐えていた。
「こんな事が続くなら今度はワイヤートラップでも貼るべきか…」
軍で使われるような高性能なワイヤートラップが召喚出来たところで使い方も分からないだけでなく自爆の危険が高い。
専門的な知識がなければ爆薬類は使えないと思う。
「防犯ブザーとワイヤーあればそれなりの警報システムは作れそうだよな」
至って簡単、周囲にワイヤーを張り巡らせ片方を木に。もう片方を防犯ブザーの紐の部分に結べば完成だ。
そもそもたった2人でこんな深い森に入ること自体おかしな事なんだが俺はまだ知らん。
「ウェポンライトくらい欲しい所だよな…爆光のタクティカルライトならそれだけで夜の化け物相手なら強そう」
しかし目的のものは残念ながら過去に保存したことは無かったようで見当たらなかった。
そもそも今持ってるM14は1番シンプルなウッドストックタイプで光学機器もなにもついてないドノーマル状態。
このままではライトどころかスコープやドットサイトすら付けられない仕様のままだ。
召喚可能な上限は増やせるものの現状は決められている。
武器に振るか、食料に振るか…。
残り20kg程度。
弾が尽きれば戦う術を失ってしまう…今の俺なら死と同義だ。
弾薬にケチは付けられない。召喚できるだけ、持てるだけ召喚しておく。
いろいろアプリを操作していて得たことは大きかった。
まずマガジンの召喚。これが最初1番悩んだ。
マガジン単体の画像というものがなくて銃とセットでなければ召喚できなかったのだ。
とても非効率だし、ポイントの無駄遣いもいいところだ。
マガジン単体の画像なんて保存してるわけないだろと四苦八苦しながら、ある時ひらめく。
「画像が…あればいいんだろ?」
いったんステルアを閉じ、ギャラリーからM14の画像を表示。マガジンの部分を拡大。
そしてスクショ。
再びステルアに戻り、今度はマガジンだけをスクショした画像を選択。そして…
「出来た…」
目論見通りマガジンだけが召喚された嬉しさで1人ニヤけた。
召喚した複数のM14のマガジンをリュックとポケットに分けて入れる。
多少の戦闘ならフルオート射撃を多用してもすぐには弾が尽きない程度の量だ。
実弾だとそれだけでかなりの重さ。ポイントもごっそり持ってかれてしまった。
「なるほど…ポイントで召喚したものを消去すれば消費した分は返って来て、さらに時間経過とともに回復もしていくのか…」
だいたい10分に1ポイント、1kg分が回復されるようだ。
「ほんと…なんで俺だけこんなゲームみたいな仕様なのか…」
雪音の魔法は明確なポイント制では無いみたいだ。感覚的に疲れたとかそういう類のものだと言う。魔法自体もポイントが決められてるわけでもなく、ましてや自分で創作する魔法だってあるようだ。
雪音の場合は素直に雪音の魔力の量が雪音の力。
俺のスマホに雪音のステータスが表示こそされるものの、それはあくまで目安でしかない。
俺の場合は全くの逆だ。
俺の強さはレベルだ。レベルが高ければそれこそ戦車だって召喚できる。
あのジャイアントオーガだってひき殺せるだけの力だ。
運用はともかく大量の武器、巨大な武器は誇れる力になる。
でもそれは全てレベル次第だ。
今の俺では…せいぜいRPGと小銃+αくらいの力しかない。
単独の敵ならまだしもさっきの群れ以上に襲われたらきっと死んでしまう。
「弱い…やっぱり弱いなぁ…」
ステルアの召喚機能を知って銃を使えた喜びもあった。
異世界で現代兵器を使えばチートできると思っていた時期もあった。
嫌なことがあれば異世界に行きたいと願っていた。
異世界にはワクワクと素敵な出会い…
さらに自分に主人公補正が自動的にかかってくれるのだと妄想に深けていた時期もあった。
「なんでこうなった…かなぁ」
上を見上げたら満天の星空…なら俺のこんな悩みはなんてちっぽけなんだと思えただろう。
ここは深い樹海の中。
見上げてもそこはギリギリランタンの光が届く木々だけだ。
「…」
どんよりした気分になりながらも、ペットボトルに残された水を1口飲んだ。
「おかあ…さん…」
「…」
寝言だった。泣いてる…眠ってもなお家族を失った悲しみと共に居るのだと瞳の涙が語る。
せめて眠っている間くらい…
(忘れさせていいのだろうか…)
母と楽しかった記憶も悲しかった記憶も何もかも忘れてしまった方が彼女にとって楽なのだろうか…
母との記憶。大切な記憶があるからこそ今が辛いのだろうか…
大切な人を失ったことがない俺では分からない問題。
「受け入れる…ことしかできない…のか…」
理不尽を受け入れる事しか選択肢がない。
何度も思うがこんな子供にそんなことを迫るなんて…な。
その時なにを思ったのか…俺はそっとミリアナの頭に手を添えて、静かに撫で始めた。
「捕まらねぇだろうな…」
夜は長い。まだまだ夜が明ける気配はなく静まり返った森が闇を作り出して不気味さがより引き立っていた。
そんな静寂にさざ波が立った。
「っ!」
パキッという枝が折れる音だ。
多分右から。距離はそう遠くないはず。
ランタンの光が届かない闇の奥に俺は睨みと銃口を向けた。
「んぅ…?」
勢いよく背を起こしたものだから、もたれかかって寝ていたミリアナも眠気が拭えない表情で目が覚める。
ミリアナが目を擦りながら俺を視界に収めると、俺の緊張した表情と構えた銃を見て状況を察したようで気に隠れるように身を小さくした。
(くそっ…分かってはいたが全然見えね…)
いかに夜戦装備が重要なのか身をもって知った。
絶対に何かいるであろう暗闇と対峙して数分。先に動いたのは相手だった。
「っ! (いつの間に後ろにっ!?)」
人間の情報認識能力の大半は視覚だ。しかしこんな暗闇では目から入る情報なんて極々限られたもの。
そうした時無意識のうちに他の感覚器官で補おうと感覚が研ぎ澄まされる。
不幸中の幸いか…カサカサと言う音が背後から迫るのを聞き取ることが出来た俺は180°回転。ランタンの光の範囲に飛び込んできた”それ”に銃を向ける。
【ダダンっ!!】
発射された弾丸は”それ”の下方を掠め、2発目が足元の地面を抉る。
突然のマズルフラッシュと銃声に驚いたのか、飛び込んできた”それ”は引き返すように背を向けて闇に消えていった。
「…なんだ今の」
咄嗟の射撃なんて素人の俺が当てれるはずもなく2発の弾丸は外れて、謎の敵を追い返すのにとどまった。
ミリアナが知ってるかもと視線を送るも、本人は怯えた様子で体を小さくしていてとても聞ける状態じゃない。
(でも四足歩行っぽかったな…タヌキとか…犬とかその辺の大きさ…だと思う)
そんなに大きくはなかった…はず。
あまりに一瞬の出来事で判別もできなかったがそのくらいのことは何となくわかった。
くそっ…明かりがないと話にならない…。
その後しばらく気の休まらない静寂が続いた。
必死に敵の気配を聞き逃すまいと呼吸すら身長になる程度に張り詰めた空気だった。
「逃げた…か」
しかし再び襲ってくるような事はなく、少し緊張を緩める。
「やっぱり明かり…見えないと無理だ」
ランタンに目を向ける
(せめてこいつが何個もあれば… ん?)
辺りの警戒もしつつスマホを取り出す。カメラを起動してランタンを撮影。明暗とか苦労しつつも全体を移すことに成功すると今度はステルアを開く。
迷いなく画像選択の画面に飛び、撮影したばかりのランタンの画像を選択。
「召喚だけじゃなく複製もできるのか…」
家から持ってきたランタンが2つに。
とりあえず6個ほど複製して点灯を確認。どれも明かりがつくことを確認したあとミリアナも連れて慎重に移動した。
複製した6個のランタンを四方に配置し広い視界を確保しようと試みた。
ミリアナを連れるのはもちろん1人には出来ないからだ。俺がランタンを仕掛けてる間にミリアナが襲われたら目も当てられない。
そもそも今のミリアナが1人になることを望みはしない。
俺が銃を持って、ミリアナがランタンを運ぶ。
適当な枝にランタンのフックをひっかけて吊るし、照らされる範囲を拡大させる。
「これで…いいの?」
「バッチリ。だいぶこの辺も見渡せるようになったかな」
最初にいた地点を中心としてだいたい20mの距離で6個仕掛けた。それにより1個だけだと10mかそこらの視界だったものが、6個仕掛けたことで全周囲40mほどの明かりを持てた。
薄暗さや影は多いものの、暗闇と思うような環境ではなくなった。
「あとは…M14だよな…」
長い…気になってはいたけどこうも木々が多いと取り回しに気を使う。
飛び込んできたやつを取り回しのせいで撃ち漏らしたとは思ってないけど…それくらいM14は長い。
フルオートと言いベトナムで天下の米兵が苦労したのと同じ苦労をしていると思うと少し複雑だ。
かと言って野生動物…異世界の魔物に対してM16系統の5.56mmを使うかと言えば…それはお断りしたい。
7.62mm弾はこの森では最低限の装備だ。これ以下は正直役に立たないと感じる。もちろん小動物レベルの魔物ならば9mmの拳銃でも何とかなるかもしれないが中型以上は…正直重機関銃でも使いたい気分。
「…そうなるとM500とかデザートイーグルとか…」
大口径拳銃と言う選択肢になる。特にM500なんか撃つことさえ出来れば熊なんかでも狩れる世界最強の拳銃らしい。
そう…撃つことさえ出来れば…なのだ。
尋常じゃないリコイルを腕だけで抑え込まなきゃ行けない…正直実用的では無い。
デザートイーグルもM500と同じ口径の12.7mm弾を使うが、こちらの方がまだリコイルは大人しいと言われてるがそれでも下手に撃てば逆に怪我するレベルだ。
「だと言っても…保存してるのはデザートイーグルだけか…」
大口径拳銃は一部ライフル弾に匹敵するほどのエネルギーを生み出せる代わりに重量も必然的に重くなる。重くなくては拳銃として撃てないのだ。
「残りポイント的にも厳しいけど…必要だしな…」
デザートイーグル本体と別に弾倉2つを召喚。重厚な金属の塊が地面に現れそれを手に取る。
(おっも…通りでポイントが3も取られたわけだ…)
拳銃のくせに2kgもあって、弾倉も含めると…
本当に規格外だ。ガスガンとは全くもって違う…
「これ…全部魔道具ですか?」
「ん〜少し違うけどそんな感じ。それがどうかした?」
「…触ったことない感じ…木でも鉄でもガラスでもない…魔力を込めることもしていませんでした…それに魔道具はとても高価なものです…こんなに沢山…」
「まぁ…そうだな。俺の故郷だとこれが普通…だったんだけど…」
これで凌げるか…?
この子…見た目は幼いが舐めてかかると普通に矛盾をついてくる。
この世界では常識なのかもしれないけど俺よりも知識はあるし、自分で考えて客観的に行動出来る。
日本の子供と同列にしては行けない。
見た目以上に賢い。肝に銘じないと本当に足元をすくわれそうだ。
「そう…なんですか。初めて見る武器と明かりの魔道具…。不思議な方です」
「そ、そうかな…」
「はい…その武器…ボウガン見たいな引き金があるのに弓がないです…不思議です。召喚士…魔法使い様なのですか…?」
「これは…えぇっと…まぁボウガンの強いヤツだよ。…それに俺には魔法は使えないんだ」
一瞬驚いたような目をするが、すぐにじぃぃっと深い紫の瞳が見つめてきた。
日本人には絶対居ないような綺麗な瞳に思わず吸い込まれるように見とれてしまった。
「ま、まぁ…その辺はおいおいと…また今度…ね」
「…そう…ですか」
また今度。俺がそう言った瞬間にミリアナの顔が曇るのを俺は見逃さなかった。
「どうかした?」
「また今度…があるのですか?」
「え?」
こんな状況で話し込むのもどうかとは思ったが…それ以上にミリアナの言葉が気になった。なにより自分から話しかけてきてくれたことに対して答えてあげたかった。
「この森から出られないかもしれない…もし無事に助かっても…そうしたら私は…」
「…」
「い…いえ…ごめんなさい。助けて頂いてるのに…こんなこと…」
「あ…いや…良いんだ」
やっぱりミリアナは今後の自分に不安を抱えていた。
この年で頼れる親を失って、一人で生きていかなければならない。施設的なところで生活できるならまだしも、それすら当てにならないとなると残された道は暗く険しい道だ。
1歩道を踏み外せば後戻りは出来ないような…そんな生活。
そんな境遇が待っているミリアナにかける言葉を俺は持ってはいなかった。
そしてあれが戻ってきたのはミリアナが落ち着きを取り戻した頃だった。
突如草を掻き分けるような音が届く。
隠れるとかコソコソとか、そんなことは一切気にしてないような大胆な音だ。
「ミリアナ、隠れてろよっ…」
「…ひっ」
ミリアナとランタンを仕掛けたおかげでたいぶ視界が確保出来ている。
(焦ることは無いはずだ…。先にみつけて先に撃てば…)
音のする方向にしっかりと銃を向けて音の正体が光に照らされるのを待った。
着実に近づく音の主。
そして…姿が見えた。
【ダァン! ダァン!】
2発の銃声が静寂を破る。
近くで休んでいた鳥達が一斉に飛びだっていきく音がそこかしらから聞こえてくる。
同時に聞こえてくる獣の悲鳴。絶叫にも感じる怒気を含んでいそうな荒々しい声がここまで届いた。
「…っ!? 1匹じゃないっ!」
正面から来たやつは幸いにも弾丸が命中したようだ
だが、敵はそれだけじゃなかった。
敵の絶叫が響いた瞬間、左右からまた同じような草をかき分け走るような音が聞こえてきた。
「ミリアナっ! 逃げるぞっ!」
「…っ」
「早く立てっ! 囲まれたらヤバい!」
こいつら絶対に連携している。
正体は未だ分からない。一瞬見えた感じからして図体は俺たちよりもでかい。
体毛で覆われていた気もする。
それだけだ。
「ミリアナっ!」
「っ…」
足音がさらに近づく。
木々を数本薙ぎ倒しながらこちらに迫ってくる2頭。
「(マジかよっ!)ミリアナっ! こっちを見ろっ!」
地面に踞るミリアナの顔を半ば強引に上げさせると、グッと顔をこちらに向ける。
潤んだ目と手から伝わる震えがミリアナの弱々しさを際立てている。
「いいかミリアナっ! 何度も言うけど君のお母さんはこんな所でミリアナを死なせるために命張ったわけじゃないだろっ! 命かけて守ってもらった命だろ! だからミリアナは命かけて生き延びなきゃ行けねぇんだ! 俺もっ! お前もっ!」
「ひっぐ…だって…」
「だってじゃねえ! お前の将来なんて俺にはわかんねぇよ! もしかしたら俺が助けずにあのまま死んだ方が楽な人生だったのしれない! でも…でも俺が助けちまったんだから死ぬなっ!」
「そんな…そんなの…」
なぜこれ程までに俺の感情が湧き上がってくるのか…
敵が迫ってるから来るパニックか?
ミリアナを奮起させるためか?
違う…な。
「俺だってお前を助けた責任くらいっ取ってやる! だから走れっ! 何も考えずに走ってくれっ!」
「っ!!」
怖かった。
俺が助けたせいで、助けた子が目の前で死ぬ。
それが怖かったんだと思う。
他人が死ぬのは百歩譲って傍観できる。
でも体張って助けて、言葉も交わして、少しだが笑顔も見た。
そんな他人とは思えない子が目の前で苦痛の中で死なせるのが恐ろしかったんだ。
全て…自分のためだった。
背中を突き飛ばすように押された体がが無意識にバランスを取ろうとして足が前に出た。
【走れっ!】
ミリアナの体は条件反射的に動いた。
走れっ!
その言葉がミリアナを突き動かす。
ミリアナが走り出したのと、奴らが草木を掻き分けてやって来たのはほぼ同時だった。
「っ! またお前かっ!」
俺の左右。そして正面に立ち塞がったのは忘れるはずもない。
子供の像程の筋肉質な体に、下顎から突き上げるように生える刀身のごとき鋭い牙。
初めて死を覚悟させられたアイツだ。
「アイゼンエーバーっ!」
すでに正面に立つアイゼンエーバーは前足の付け根が少なくない血で滲んでいた。
…死んではいなかったようだ。
またこのシチュエーションだ。
カッコつけて自己犠牲で女の子を守る主人公的な状況。
(でも今回は”約束”したからな。…なに…素手で倒せるやるらだ。2頭になろうが3頭になろうがさして違いはないっ!)
距離30m。馬鹿でも当たる必中距離!
ランタンの淡い光が照らす中で、銃声と共に俺と猪の死闘が始まった。
まずは数を減らすっ!
正面に立つ殺し損ねた異世界の猪に銃を構え直す。
フルオートだ。ここでやつを仕留め切りたい。
「っ!」
【タダダダダダッ!】
M14のフルオートは消して早い発射サイクルではない。それでも踏ん張らなければ後ろに倒れてしまいそうなほどのリコイルが体を揺さぶる。
発射された無数の弾丸が雨あられの様にアイゼンエーバーを襲う。
音速を超えた弾丸が空気を押しのけて発生するピュンッ!と言う飛翔音と共に、アイゼンエーバーの体に深々と撃ち込まれて行く弾丸。
残念がらこの弾丸は完全に軍用。普通のNATO弾。
ホローポイントでもなんでもないただのFMJ弾。
貫通力が高く十分に弾丸の運動エネルギーを人体に伝える前に貫通してしまう。
もちろん音速を超えた弾丸の衝撃波は、その貫通までの一瞬の間に体内をぐちゃぐちゃにする。
巨大な体のイノシシならホローポイント弾出なくても、FMJが貫通しきれないだけの肉壁がある。弾丸の持つエネルギー全てをぶつけられる。
体感的に弾倉の約半分を撃ち切るのと同時に、弾丸という未知の物体に銃声にしか全く反応出来なかったアイゼンエーバーが断末魔のような叫びを残して【ドテンっ…】と倒れた。
(こいつらなら頭も抜けるっ…)
倒したアイゼンエーバーの頭部は弾丸が命中して、クルミが弾けるように大きく損壊していた。
…人間もライフル自殺すれば花咲くように頭が吹っ飛ぶらしい。それと同じことだ。
頭が抜ける。つまりあいつらの弱点を突けるという事だ。
「っ!!!!!」
魔物も考える力があるのだろう。
いきなり殺された仲間に呆気に取られていた様子だったが、俺を視界に収めた途端思い出したかのように暴れだした。
左右どちらからも自慢の刃をサイの角の様に振り回して突進してくる。
「ぬおっ!!!!」
間一髪ですり抜けると、図体の割に早い突進が仇を生したのか2頭のアイゼンエーバーが互いに正面衝突する。
2頭は衝突の寸前で自分の牙が相手を貫かないように首を背け、脇腹同士で衝突。重く鈍い音が鳴り響いた。
それを逃すほど俺も馬鹿じゃない。
フルオート状態のM14を重なり合った2頭のアイゼンエーバーに向けた。
「バカかお前らっ!!!!!」
引き金を引き絞る。
さすがに巨体同士が全速力でぶつかった反動でまだ体勢を立て直せない2頭に向かって銃弾の雨が襲う。
反動で銃が暴れるが、それが幸を成してか満遍なく2頭のアイゼンエーバーの体に命中していく。
【ダダダダダダっ!!!!!】
【【グビョァギァォォァ!!!!!】】
銃にとってこの距離はほぼゼロ距離に等しい。銃口初速のまま命中する弾丸は体毛を掻き分け、皮をぶち破り、肉を押しのけて、内蔵を一瞬にして掻き乱していく。
銃声が収まるまでの一瞬、妙に静まり返った時間があった。
ドテン…
肉塊が倒れた。
2頭のアイゼンエーバーは銃創からどくどくと血を流して浅い呼吸を繰り返していた。
脈動するように溢れ出る血の量は人間の比ではない。
「勝った…倒せた…俺が…1人で…」
どっと疲労が押し寄せて来た。体自体はそれほどの体力は使ってない。精神面の緊張が尋常じゃないくらい堪えた。
(これが…銃か…。こんな俺でもこんな化け物と戦えるようになる…)
改めて銃器強さを実感していると、背中から声をかけられた。
「あ…あの…」
「み、ミリアナ!? どうしてここに…」
「や、やっぱり1人は…嫌で…」
「…あぁそっか。少し待っててくれ…こいつらにと止めっ…を…」
「…ぇ?」
ミリアナの目が点になっていたことだけ見えた。
あとは脇腹目掛けてなにか飛んできたような衝撃と、そこから広がる違和感。
脳の処理が追いついていないのか、じわじわと広がるように熱くなっていく。
「そ…そんな…」
か細いミリアナの声だ。見ればあまりの衝撃に口を手で覆っていた。
(何が…起きて…)
恐る恐る違和感の正体を確認しようと視線を落とす。
【ガルゥアッ!!!】
「っ!? あっがァァあ!!!!?!?!!!」
反射的に跳ね除けるように振り払う。
その瞬間、僅かな熱?のように感じていた違和感が突如として明確な痛みへと変化した。
腹を掻き切られたような痛み…
思い出される死にかけたあの時の記憶が掘り起こされる。
振り飛ばしたのは黒い犬のような生き物。
いや…見ただけで察した。一番最初にここに飛び込んできたやつだと。
そして改めて見れば…今倒したアイゼンエーバーとそっくり。
つまり…子供なのだと。