森と少女
【はぁっ!!?? 五歌君を1人で!?】
「う、うるさいっす…だから俺っちちゃんと監視してるんで大丈夫っすから」
【サイガくん、前から思ってたけど君っていい加減よね】
「そ、そんなに怒気を強めなくても…」
【まぁ、サイガくんが”しっかり”見ててくれるなら、五歌君の為にもなるし良いんだけどさ、もし何かあったら…】
____灰にするわよ?
「あ…はい」
たらぁっと一筋の汗を垂らしたサイガはまるで電話越しに上司と会話するような引きつった顔で魔結晶をポケットにしまった。
「ふぅ…何とか姉御に話は通したっと…灰にはなりたくないんで保護者再開っす」
木の上でソファーに腰かけよかのように背中を倒すと、心地よさそうな木漏れ日を浴びで…目を閉じた。
(…にしてもダンジョン…どこにあるんすかねぇ…)
羊飼いの魔女の家に訪れた本来の目的は…もちろん姉御の頼みを無視する訳には行かない…からなんだが…もう1つお嬢から無理難題のように押し付けられた「ダンジョン探してきて。あっちの方角」と言う????みたいな仕事も兼ねてだったりする。
モタモタしてると聖剣持ったお嬢がやってきて森の木を全て伐採しかねないから、そこまで長引かせることも出来ない。
(アンダーサーチ)
昼寝してる様な格好で静かに呟いたあと、ポンッと口に溜めた空気を吐く。
空間に広がる波紋のような歪みが一瞬現れる。
(めぼしい反応はないっすか…)
至る所から反射してくる音を元に主に地下空間を探知しようと試みたが…
この一体にはなんの反応もなく、ダンジョンどころか空洞ひとつ無かった。
本当にあるのか…そもそもダンジョンの情報のソースはどこから…
今回の仕事は…いつも通りの適当加減と言い…情報が冗談みたいに少なすぎぃ…
今回ばかりはきちぃっす…
「もぅ…お嬢に【んなもん出来るわけないっすよ!】っなんて口が裂けても言えないし…物理的に口が裂かれそうっす…」
(俺っちの人権…なくね?)
その時、聞き覚えのある音…と言うかとにかく馬鹿でかい爆音が森に響き渡った。
【ダァン! ダァン! ダァン!】
「うおっ!?」
慌てて下にいる五歌?の様子を見る。
(ゴブリンっすか。ダンジョンに集中しすぎて気づかなかったっす)
上から見下ろすサイガの視界には、唯一の生き残った少女とそれを守るように戦う五歌の姿があった。
サイガは観察するように五歌をじっと見つめる。
(にしてもなんすかね〜あれ。魔法も感じないし何かの道具なんすけど、見た感じリムの無いボウガンなんで何か飛ばしてるんすかね? 俺っちの目で追えないとなるとかなりの強武器)
木と金属で出来た長いそれを使う五歌に対して、いつの間にか羊飼いの魔女の弟子と紹介されたあと女の子よりも…ある意味興味が湧いていた。
あの女の子だって十分に凄いのだろうが、分類分けすると才能のある強い魔法使いだ。
でも彼は違う。
魔法を使えないのにも関わらず召喚魔法のように物体を出現させ、剣を持たせてもゴブリンにすら負けそうな貧弱な体なのに、見たこともない武器を使ってウルフやジャイアントオーガまで仕留めきった。
魔法は使えないし、体も至って普通で強くない。
しかし道具を使ってそれら全てを補い余る心とは不釣り合いな実力を持っている。
(面白いっす)
魔法を使えないものは多い。だけど魔法を持たざる者が力を追い求めた先にある姿が今の彼のような気がした。
「耳抑えてろっ!」
「はっ…はい…」
私は言われるがまま両手で耳を覆い隠して目の前の人を見つめた。
すぐ近くには魔物。
それもたくさんのゴブリン…私でも群れていたら大人の人でもやられちゃうのは知ってる…だから怖い…
「…」
この人も怖いんだ…。体が震えてる…。
(なんで…そこまでして助けてくれるの…?)
【ダンっ! ダンっ! ダンっ!】
「ひぅっ!?」
突然ピカっと眩しくなったのと同時に、耳を塞いでも耳が痛くなるような大きい音がなった。
(馬車の中で聞いた音と…一緒?)
【ダダンっ! ダンっ! ダンっ! ダンっ!】
クラクラするほどの大きな音に耳を抑える手により一層力が入る。
(…怖いよ…怖いよお母さん…)
幾度となく体を叩くような衝撃と頭に響く爆音の度に体がビクッと硬直する。
「あぁクッソ」
気づけば大きな爆発音みたいな音が止まっていることに気づいた。
(終わった?)
そう思って怯えて伏せていた顔を上げ、彼を見た。
そこには焦った顔で、木の杖?
長い杖みたいなものをカチャカチャとなにかしている姿があった。
その手には黒い小さな箱が握られていて、一瞬見えた中身からはピカピカ金色に光るものが見えた。
それを杖に差し込もうとしている…みたいだけどそれがなかなか入らなくて困ってるみたい。
「なんでこんな時にっ…クソックソッ!」
あっ…そう言えば…
私は恐る恐る草むらの奥に視線を向けた。
村によく現れて人を攫ったり殺したゴブリン。見間違うはずがないゴブリンが目と鼻の先にいた。
「あ…ぁ…」
くるっ…来てる…
その事実を再認識した瞬間…また声が出なくなるほど萎縮してしまう。
死の恐怖…
お母さんの下で震えていた時の恐怖…
お母さんから流れ出てきた生暖かい液体…そして徐々に冷たくなっていくお母さんの体。
…私は独り。
お母さんは私のために死んだ…
…私がお母さんを殺した
私はこの世界で独り。
「嫌だ…やだ…いや…【よしっ】」
ガチャンと言う金属音が私の言葉を遮った。
”大丈夫。絶対助ける”
…そう言ってくれた人がいた。
動かなくなった母の体の下からわたしを引きづり出してくれた人
オーガやウルフを倒して…私に親切にしてくれる人
返しきれない恩をくれた人
「よしっ奴ら何が起こってるのか理解出来てない!」
(私はこの人に救われた…?)
【ダァァン!!!】
「っ!?」
またこの音…何をどうしてこんな大きな音が出るのかも検討がつかないし、何をしているのかも分からなかった。
だけどそれが今わかった。
大きな音と稲妻のような一瞬の光が照らしたかと思うと、彼の持っている木と金属で出来た杖の先にいたゴブリンが血を撒き散らしながら倒れた。
ほぼ千切れた腕がぶらんと垂れ下がるゴブリン、頭が弾けるように砕け一瞬で事切れるゴブリン。
腹から血を流したゴブリンは悶えながら徐々に動かなくなっていく…。
魔法とも弓とも違う見たことない攻撃。
村の人どころか話にも聞いたことがない攻撃だった。
「凄い…」
思わず口に出て頃にはもう既に十数体の群れで現れたゴブリン達は殆どが倒れ、最後に残されたゴブリンも訳が分から無いうちに撃ち殺された時だった。
(この人…強い…人?)
恐怖か緊張か…ゴブリン達を倒した人は…肩で息をするほど荒い呼吸で、沢山の汗が流れ出ていた。
本当に強い人なのか…ハッキリとそうは見えないことに疑問が生まれた。
「…随分暗くなってきちゃったな」
「…」
ゴブリンが襲ってきた時、初めて会話出来たからもしやと思ったが…やっぱり女の子は無口に戻ってしまった。
返事はしてくれなくとも、あれから少し変わった事もあった。
「お腹空いてない? 料理とかはちょっと無理だけど食べ物ならあるし、食べる?」
「…」こくり
小さく首を縦に振ってくれる。
反応してくれるようにはなった事だ。少し嬉しい。
「亡くなったお母さんの側にずっと居るのは辛いだろうけど、俺の知り合い? 仲間…いや先生みたいな人がこの事を知らせに行ってくれてるんだ。ここから離れられない。それだけは分かってくれ」
「…」こくり
声は出さないが相当気が滅入っているみたいだ。見ただけでわかる。
親を失う気持ち。俺にはまだ分からない。そんな事考える歳でもなかったしそんな危険なことも起きるような生活じゃなかった。
この世界で親を失ったこんな女の子が1人で生きていけるのか?
孤児院とか教会とかそういうのはあくまでアニメとかゲームの設定として知っているけど、孤児院がこの世界にあったとしてその表も裏もラノベを読んで知ってはいるつもりだ。
この子が本当に幸せに暮らしていける環境を誰が作ってあげられるのか
きっと誰も居ないんだ。
【目を開けたら…そこはお母さんのいない世界…やだ…見たくない…私1人なんて…嫌だよ…】
お母さんが死んだ現実を受け入れたくないという気持ちで目さえ開けられなかった小さな彼女がこれから1人で自分の人生を送っていかなきゃ行けない。
酷な話だと素直に思う。
「…そう言えば名前は? 呼ぶ時に困っちゃうんだよ」
女の子の様子を伺うように少し待ってみた。
少し悩んでいたみたいだけど、静かに待ってたら久しぶりに彼女の声が聞けた。
「…ミリアナ…です」
「ミリアナ? そっかミリアナ…ね」
「…ミリアナはこれから行くあてはあるの?」
せっかく会話が出来た。度切れさせてはなるまいと聞いてみる。
いきなり少し重い話かなと思ったけどいずれは聞かなければならない事だ。
俯いたままのミリアナは小さく首を左右に振る。
ない…のか。
親戚も近しい存在もきっと…
「…兄がいると聞いたことがあります」
「お兄さん? それに聞いたことがあるって…?」
「詳しくはわからないです…会ったこともないので…。昔お母さんから聞いただけで名前も居場所もわかりません…」
「凄いな…色々」
居場所も名前すら分からないとなると宛にはなりそうにないのか…
っていうかその兄は何者?
顔も見た事ないって事なら結構歳離れてるのかな?
お先真っ暗。
こんな子供でも生きていくためのお金を稼げる社会ならまだ言い。努力すればなんだってできるってことだ。
でも実際こんな子供が働ける環境なんて滅多にない。
あったとしてもきっとそれは碌でもないやつだ。
お先真っ暗…
必然的にミリアナの顔も暗い。
「そろそろかな」
「…?」
場の雰囲気を変えるように少し明るい声で言うと、俺は白い湯気が昇る鍋に手をかけた。
グツグツと沸いたお湯を半分まで開けきった容器に注ぎ込む。
「それ…は?」
「これはラーメンって言うんよ。お湯注ぐだけで美味しいラーメンが食べられるんだ」
「らーめん?」
家の物置から持ってきたLEDランタンの明かりが照らす中、少し興味ありげにカップラーメンにお湯が注ぎ込まれる様子を見ていた。
待つこと3分。
ミリアナはなんで食べないんだろうと疑問に思う3分だったが、俺にとっては少しと言うかだいぶ危険地帯で食べるカップラーメンと思うだけで、待つのも一瞬に感じた。
「よし、いいな。きっかり3分、これミリアナの分ね。あっついと思うから気をつけてね」
この世界には無いであろうスチレン製の容器をミリアナに渡すと不思議そうに湯気がたつラーメンを覗き込んだ。
「パスタ?」
「パスタと同じ麺類だけど、パスタとは全く別物だよ。とりあえず食べてみ?」
見本というわけではなかったが箸で麺を掴んですするように食べてみた。
二口目。
俺がウマウマと麺をすすってると、不意に視線を感じた。
見ればミリアナが困ったような顔で俺を…とりわけ俺の手元を凝視していた。
「あ、あ…そういう事か。これはすまん、箸なんて知らないもんな」
どうやら箸の使い方…箸を知らなくて俺が箸を使うのを見様見真似で試してみるも上手くいかなかったようだ。
外国人に箸で食べろって言ってもその文化がないんだから無理な話だよ全く…
気づいてあげられなかったことに少し反省。
リュックを漁って先割れスプーンがあったはずだと探し出し、ビニールを破ってミリアナに渡した。
「先割れスプーンって使いづらいけど今フォークないんだ…すまん」
「いえっ…そんなお構いなく…いただきます」
渡された先割れスプーンにも一瞬戸惑いを見せるが、すぐに理解出来たらしくようやくラーメンを口に運んだ。
「あふっ…」
「ラーメンは熱いから美味い。って言葉があるらしいけど実際熱いから気をつけなね」
「はい…」
今度は慎重にふうふうしながら口に運んだ。
やっぱりパスタみたいにクルクルと丸めてパクリと行った。
「っ!!!」
「ど、どう?」
ポカーンと少しばかり放心状態だったミリアナ。
暖かいものを口にしたからなのかほんのり頬を赤らめながらゆっくりと俺の目を合わせた。
「…美味しいです」
「おぉ…おう。それは良かった」
それから少しの間、静まり返る夜の森にLEDランタンの青白い人工光と麺をすする音が広がった。
「ところで夜明かりをつけてるのはどうなるだろ。魔獣とか寄ってきそうでもあるけど」
「…寄ってきますけど明かりがないと戦えないですし、明かりをつけてなくても襲って来る魔物もいます。逆に光を嫌う魔物もいます。なので普通は明かりをつけます」
「なるほどね。確かに気づいたら死んでるってのはどうしようもないか… ありがと、ミリアナって物知りなんだな」
「いえ…常識かと…」
「あれ…」
少し怪訝な顔で見つめられた。これは少しへましたか…?
それからチラチラと視線を感じること1時間。
ランタンの光が届く範囲の外は一切何も見えない暗闇だ。
上を向いても木々の葉が生い茂っていて空は少ししか見えない。
木々がなかったところで今日は曇り空のような気がするから星々の光すらない完全な闇夜だ。
「こっわ」
「あんなにお強い人が怖がる事もあるのですね」
「だってあの暗闇に何か潜んでるかと思うと怖いしょ…それに…俺は強くなんかない」
「…? ゴブリンの群れを1人で倒したのに…ですか?」
「それは…」
どう説明するべきか…そもそも説明するべきなのか?
名前しか知らないミリアナ。
お互いに何も知らない。
そんな関係で俺のこの銃を説明する? それにはここまで来た経緯も関わってくる。
正直ボロを出さずにやりきる自信はない…
「色々あってね…まだ戦うことに慣れてないっていうか…」
「不思議な方ですね」
「そうみえる?」
「それは見えますよ…戦いになれてないって言ってるのにゴブリンの群れどころかウルフの群れもジャイアントオーガも倒しちゃうんですもん…不思議に決まってます」
聞けばゴブリンの群れですら単独の冒険者ではまず生きて帰っては来れないそうだ。群れの規模にもよるが少なくとも5人は必要らしい。
ウルフの群れとなると数が多ければ多いほどいい。
ジャイアントオーガクラスになるともう一介の冒険者では太刀打ちできなく、魔法使いも複数含んだ複数のチームが協力しなければ倒せないそうだ。
「まぁ…偶然偶然。運が良かっただけだよ」
納得いってない…のは見ただけでわかるけどそれ以上は追求しては来なかった。
とりあえずこの場は凌げた…という事でいいのだろうか?
それにしてもこの子。見た目12…14歳くらいに見えるけど結構言葉遣いがしっかりしてる。
何か同級生と真面目な会話をしてるような感じ。
「ところでミリアナって何歳?」
「12…です」
「…そかそか」
12歳かよ…見た目通りではあるけど、精神年齢的には高校生くらいあるよな
これも日本との生活環境の違いってやつかな?
「私の歳がどうかしたんですか?」
「いや見た目によらずしっかりしてる子だなと思って」
「普通だと…思います」
その後、数時間ほど他愛のない話をミリアナと交わすことが出来て、その間も魔物は襲ってくることは無かった。
以外に何とかなるもんなのかもしれない。
「眠い?」
気づけばミリアナが眠たそうに目をこすっていた。初めて感じた12歳っぽい仕草だ。
相当疲れたのだろう。辛いこと沢山あったからね…
「大丈夫…です」
「無理しない方がいい。俺が起きて見てるから」
「…はい」
思ったより素直だ。
それとも限界に近かったのかな…?
「あ、あの…」
「ん?」
「隣…良いですか…?」
「い、良いけど…」
隣にスっと座わり、同じ木にもたれかかった俺とミリアナ。
小さい…な。
こんな小さい女の子が死を間近に感じなきゃいけないのか…
不憫だ。
見れば見るほど同情してしまう。
この歳の女の子が深い森の中、見ず知らずの高校生と命懸けの野営中…
「ふぅ…」
一旦頭を整理してから、気持ちを切り替えるようにスマホを開いた。
(うっ…眩しい…)
画面の明るさを最低にして改めて画面を見た。
バッテリーは80%。まだまだ安心だ。
今、襲ってくるものが居ないうちにできる限りこのステルアの召喚? 機能を把握しておきたい。
何が召喚出来てなにが出来ないのか。どういう制約があって俺のレベルとどう関係してるのか。
そこら辺がまだまだ不明確。
(とりあえず車) 【レベル不足】
(手榴弾) 「あ、出来た…」
手当たり次第に保存されてる画像を試しめみた。
車やバイク、船、戦車や戦闘機とかの乗り物系はレベル不足でアウト
手榴弾とか小さいものなら召喚可能だった。
「んぅ…」
「なら自転車」
高校の通学用に親が自転車買ってくれるというものだから、ただのママチャリと言うのもなんか嫌だったから少し自転車について調べた時があった。
まぁ、たどり着いたのはロードバイク。もちろん買えもしなかったがかっこよかったから保存した画像。
「あ、出来た」
ん???
乗り物…自転車も列記とした乗り物のはず。
自転車が召喚出来ちゃったって事は乗り物が召喚できない…ということではなさそう…
「なら…飲み物はどうなんだ」
なぜこんな画像があるのは覚えてないけど、何故か天然水2Lの画像を発見。
…
普通に出来た。
目の前に綺麗な水が入った見慣れたパッケージのペットボトルが転がる。
良く冷えているのか結露で少し濡れていた。
「消費は…2…2?」
まて…2?
なぜだかピンと閃きのような感覚が俺の中に生まれた。
「まさか…」
続けて天然水を3つ、6L召喚。
すると…
思った通りポイントの消費は6。
「レベルってのは召喚できる総重量って事か…?」
つまりは今の俺のレベルだと23kg分の召喚が可能ということ。
M14は…5kgくらい?
まぁ…いい線いってると思う。
「はは…車なんて1000レベ? 戦車なんて何十万レベ必要なんだよ…」
確定ではないにしろ召喚の仕組みを少し理解出来た嬉しさもあったが、逆にレベル23の心もとなさと、力を手に入れるための途方もない道のりを実感して喜んでばかりもいられなかった。
その後、本当に重量が基準なのかという検証を何度かしてみた結果、やはり想定通りと言うかレベルがそのまま俺の召喚できる総量と言う見方で間違いはないと言うことになった。
さらに召喚したものをアプリで消せば消費したポイントは返還されるし、こまめに使わなくなった物は消すとか大物を1つ召喚しないとか、そいうことを心がければポイントが全部なくなるようなことは無さそうではある。
「レベルがあればなんでも召喚できると受け止めるべきか…レベ上げしなければ強くはれないと言われたと言うべきか…」
今後、どんなことが起きるかは分からない。
でも敵がこれからも存在してさらに強くなっていくとすれば、俺が使う武器はより大型化していくだろうし今よりも弾薬も大量に必要になってくるのは確実。
レベルが低ければそれも叶わない。
つまり死に物狂いで今まで通りレベル強化が欠かせなくなった。
今までは何となくステータスの数字が上がっていく=強くなってる…
気がしていただけだったが、これからはレベルの上昇=武器の強さ…に繋がるんだ。
必然的にレベル上げの重要性が改めて身に染みてきた。
すやすやと小さくて可愛げのある寝息をたてるミリアナ。
この子をどうするべきなのか…先のことではあるが後回しにもできない問題だ。
「むぅ…」
困ったようなため息を着いて、深い森の闇夜を過ごした。
「シェルシーさん、五歌君って…」
「彼はね…夜どうし特訓みたいよ」
「ええ!? 夜どうしって…ど、どこでですか!?」
「落ち着きなさいっての」
不安に満ちた顔で詰め寄る雪音に、どうしたものかと困った表情を作るシェルシー。
「一応ね、さすがに一人ってわけじゃないわ。サイガ君も影で見てくれてる…はず」
「はず…はずってなんですか!? 五歌君って私と違って魔法なんて使えないんですよ!? 体だってそんなに強くないのに運動神経も人並み…全然強くないのに強がるのに…そんな無理ですよ!」
「あなたボロくそいうわね…でもどうかしらね」
「え?」
「五歌君、早速ウルフの群れとジャイアントオーガを倒したみたいよ?」
「ウルフ…狼? じゃいあんと…おーが?」
「そっか…そっからか…」
シェルシーは一旦魔法の特訓をやめて、休憩がてら魔法で土を盛り上げて整形した即席ベンチに雪音と座る。
この光景にすっかり馴染んで驚きもしなくなった雪音がどういうことだとシェルシーに聞きよった。
「まずウルフね。ウルフは色々な種類がいるの。それをまとめてウルフって呼んでるんだけどあの森だとフォレストウルフかしらね。フォレストウルフは単体だとそれなりの冒険者なら難なく追い返せるし討伐もできる。ただ…群れとなると5人…いえ、10人は欲しい。群れの規模によってはそれ以上ね」
「さ、さっきウルフの群れって…」
「そ、サイガ君はウルフの群れって言ってたわ。五歌君がどんな手を使ったのか分からないけど、倒したらしいわ」
「五歌君が…」
不安を通り越して信じられないと言う顔をしていた。
「ちなみに五歌君が最初に戦ったアイゼンエーバーなんてウルフの群れなら余裕で捕食対象よ。ウルフの群れにアイゼンエーバーは勝てないししっぽ巻いて逃げるわ。ジャイアントオーガなんでそのさらに上の上」
「え…」
雪音は思う。
あれが…逃げるほどの敵?
ウルフ…の群れ。その更に上の存在のジャイアントオーガ…
そんなのを五歌君が倒した…?
…どうやって?
”サバイバルナイフとかスタンガンとか唐辛子スプレーとか持っていこうと思う”
五歌君がここに来る前に行っていた言葉…。
サバイバルナイフ。見せてもらったけどよく見る剣みたいなものを想像してた割には家で料理に使う包丁を少し分厚くしただけに見えたやつ。
…あれでウルフの群れが?
今でも思い出すだけで震えが止まらないほどのアイゼンエーバーを、ただの餌として狩りとってしまうウルフの群れを倒した?
ううん…絶対無理
スタンガンも唐辛子スプレーもその他の道具で撃退できるなんて思えない。
「大根のゴーレムさえ捕まえられなかった五歌君がね…にわかには信じ難いけどサイガ君は嘘はつかないから多分事実。ほんと何があったのかしらね」
「五歌君…どうか無事で…」
「あっ、ウルフの群れから”女の子”1人助けたみたいよ。今日はその子と2人きりだって」
「…へ、へぇ…そうなんですか」
シェルシーさんは面白可笑しそうに笑い始めた。
私だってなんでこんなにムカムカするのかは分からない。
…違う。
分かってるけど…
「うううぁもう!!!!!」
「雪音ちゃん!?」
「私も行きます! 私だって実践訓練したっていいはずですよね!?」
「え、あ…うん?」
「行きましょう、今すぐ」
「今すぐって…もう日が暮れるわよ!?」
「暗くなるなら照らせばいいじゃありませんか!」
そう言うと雪音はまぶたをそっと閉じて空中に手をかざし、息を整えるように落ち着かせる。一瞬静まりかえる野原。
ふぅ…と短く息を吐き目を開けたその瞬間。
手をかざした先の空間に揺らぎのような歪みが発生。
歪みはたちまち光を帯初めてほんのり熱さえ感じさせるほどに膨張。
「…無詠唱で…サンライト…こんな短期間で…」
シェルシーさんもこれにはさすがに言葉を失う。
日が落ちかけた夕焼けの空にでもハッキリと存在がわかる直径5m程度の光球。
現代人ならきっとこれを人工太陽と呼ぶだろうか…
「ちょ、ちょっと! サンライトなんて長時間使えなんてしないわよっ! それにそんな高等魔法行使してたらいざってとき他の魔法が…」
「大丈夫です。もうサンライトはほっといても平気です」
「え? 何言って…」
サンライトは光属性魔法の照明として機能させる中で最上位に位置する魔法のひとつ。
見た目はまんま太陽。
夜空にサンライトで太陽を作り出せば村ひとつ真昼間のように照らし出すことが出来てしまう。
ただ反面、魔力の消費量、コントロールが非常にネックになってサンライトを使ってる間は他の魔法なんて考えてる余裕なんてない。
光属性を持たないシェルシーでも知ってる知識だ。
はずなのに目の前の雪音は今朝教えたばかりのサンライトを顔色一つ変えず、汗ひとつ流さずに平然と維持している。
「確かにサンライトって結構頭使いますけど、消費量? 的には全然苦じゃありませんし、維持するだけなら維持してもらう魔法を作っちゃえばなんてことは無いです」
「維持する魔法…?」
シェルシーですら理解が追いつかない領域だ。
「これで完璧です。シェルシーさん行きましょう!」
「えっ…ちょ…まっ…」
「五歌君が”心配”ですから」
「え、えぇ…」
シェルシーは最近雪音の成長が恐ろしくも感じ始めていた。
全属性持ちっていう常識からかけ離れた存在で、さらなる魔法への探究心から雪音に魔法を教え始めて1週間。
教えた教えただけ吸収して、自分のものにしていく。
このサンライトだって実際手本とイメージしか教えていないのに数時間でこれだ。
(五歌君も大概だけど、雪音ちゃん…やっぱりあなたは異常よ)
「さぁ行きましょう! 何かあってからでは遅いですからっ!」
「何かって…はぁ…からかった私も悪いけど…そこまで気にするんだったらもういっその事付き合いなさいよ」
「ふぇ!? あ、いや…ええ!?」
「ええ!? じゃないわよ…魔法は一流でも恋愛はダメね」
「だ、ダメって…そんなに言わなくても…」
その力がどれだけの価値があるか理解してるのかしらと頭を悩ませたシェルシー。
ともあれ雪音に催促されるがままサンライトの明かりを頼りに森へ向かって歩いた。