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ステルア旅行記  作者: 芳賀勢斗
始まり?
7/16

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「ど、どこまで行くんですか…?」


「いいから着いてくるっす。この森を抜けると早いっすからね」


日の出と同時にサイガさんに特訓と言われて連れ出されて、初めてシェルシーさんの家を出て森の中を歩いていた。

歩き続けて4時間ほどで森へ入り、底からもう軽く3時間は鬱蒼とした森の中を歩いてるはずだ。


(登山靴買っといてよかった…)


こんな道無き道に耐えてくれるこの靴。あの女性スタッフとあの店に感謝だ。

足自体への負担も結構来ていないし、水もしみてこない。


「この当たりは面倒なやつも多いっす。特に今はあまり声を出すと面倒っすから気をつけるっすよ」


「はい…」


面倒なやつ…

きっとサイガさんは強い人だ。

そんな人でも面倒と言うのだから、俺ではなんの太刀打ちもできない。

あのイノシシにですら殺されかけたんだから…


「もうすぐ森を抜けるっす。君が強くなるためには見ておかなきゃ行けないものっすけど、目を背けちゃダメっすよ」


「…?」


何を言ってるのか…この先に何があるのか全く見当もつかないから、余計に分からない。

目を背けたくなるようなもの…?


森からは確かに抜けた。抜けたと言っても山道に出たというのが正解で、草木が駆られていて少ないが人の往来も感じる道だった。


「あそこっす」


「…っ!?」


散々言われて覚悟はしていたつもりだった。

目を背ける。それはいいことなんかじゃけしてない。


「うっ…」


腹の底から湧き上がってくる感覚に思わず口を塞ぐ。


「これは潰されたんすかね」


冷静に解説を始めるサイガさん。その顔に俺のような動揺は一切なく、平常心のままそれを見つめていた。

俺はそんな訳にはいかなかった。


初めて見る死体。


それも原型もとどめず強引に潰された死体のグロさに本気で吐き気が襲ってくる。

潰されて体の中身をぶちまけた死体は一見なんなのか判別もつかなかった。でも来ていた鎧や服が血溜まりの中でそれが何だったのかを物語る。


「どうすか? これが戦って死ぬってことっす。俺っちは羊飼いの姉御に君を強くしてくれって言われたっす。強さっつうのは色々あるっすけどこっち方面の強さが欲しいんなら、こうなる覚悟。君にはあるっすか?」


「こうなる…覚悟」


こんな深い森の中でこんなぐちゃぐちゃになって、誰にも知られずに朽ちて行く。


「この死体はとある未来の君っす。戦う理由を見つけるのは簡単すけど、最期の時の覚悟だけは中々つかないっす。これを見て強くなりたい気持ちがあるなら進むっす。ないなら帰るっす」


未来の俺…。


見たくはないけど…しばらく肉塊と成り果てた名も知らぬ彼を見つめて…


答えは…出た。


「進みます…このまま雪音に先を行かれて足を引っ張るくらいなら…」


「進むんすね。この先はきっとこれとは比較にならない壮絶な場所っす。当然何が起こるかもわからないっす。俺っちはなんともないっすけど、もしかしたら君だけ死ぬかもしれないっす。死んだら惚れた女にももう会えないっすけど良いんすね?」


このまま帰るのは…ダメだ。

俺なりに決めたんだ。雪音を守る。守られるだけの俺なんて死んだ方がマシだっ…


「…行きます」


「んじゃ行くっす(惚れてる事には反論しなかったすねぇ〜)」


そこからは普通に道なりに進んで歩いた。サイガさんの後に続いて隠れもせずに堂々と。

サイガさんの口ぶりからしてさっきの人が潰された原因を知っているようだ。


あれだけの惨事を招く存在を知っていて、尚も堂々な態度を変えない。


「サイガさんはなんで彼が…あぁなっていたって事を知っていたんですか?」


「あぁ言ってなかったっすね。俺っちは周りより耳と鼻がいいんす。この森に入って時点で彼の悲鳴と…彼らの悲鳴と血の匂い。奴の足音が聞こえてたんでね」


「…やつ?」


「もうそろ君にも見えてくるっすよ。バレても困るんで茂みにはいるっすよ」


思わず息を飲む。

この先に何が待っているのか…あの血溜まりを作り出した存在…

何より…殺し合う現場が目と鼻の先にあることに心臓の高鳴りが抑えられない。


「この音は…」


まず聞こえてきたのは切羽詰まったように叫ぶ沢山の男性の声だ。

震える声も混ざって怯えも感じ取れる。


サイガさんの足が止まった。

俺に振り返ると、小さく手招きをして声の下方向を指さす。


「っ…」


そこにはファンタジーゲームから抜き出したような鈍く光る鎧を纏い、自分の背丈ほどもある槍や1m程の剣を構えた集団がいた。

その彼らの後ろにはいくつもの馬車が止まっていた。横転してしまっている馬車もあって動こうにも動けない状況。

よく見たらそもそも馬車を引く馬が血を流して死んでいたり瀕死になっていたりでそれどころじゃない。


もっと周りを見ると黒い犬…人間位の大きさがある黒い犬…狼がいた。

狼に近い。

何頭もの黒い狼が鎧を来た彼らを囲んでいたのだ。


「これって…」


「あれはフォレストウルフって言うウルフの1種っす。ウルフは総じて組織力がそこら辺の魔物とは訳が違うっす。森で見つかっても直ぐには襲ってくることは無いっすけど、忘れた頃に群でやって来て計画的に狩られるっす。んなんで森の殺し屋とか言われてるっす」


「そ、そんな事言ってる状況じゃないじゃないですか!?」


「んじゃどうするっすか?」


「どうするって…助け」


「助けれるだけの力が君にあるんすか?」


「それは…」


サイガさんの顔は変わらない…けど彼のまとう空気が妙に重くて言葉が詰まる。


「俺っちに求められてもそれはお門違いっす。なんの見返りもないのに体張れるほど俺っちの志は高くないっす。もちろん俺っちはあんな雑魚ならあっという間に消せるっす。もちろんその奥にいるデカ物も同じっす」


「奥…?」


今まで草の影になって見えてなかったが、狼の群れよりよっぽど恐ろしい存在がいた。


「きょ…巨人!?」


「巨人族に張り倒されるっすよ。あれはジャイアントオーガっす。…あれならいい値段で売れそうだすねぇ…」


その瞬間だった。


「あっ…」


そのジャイアントオーガが持つ鉄の棍棒が巨体に見合わない俊敏さで振り下ろされた。

その先にいたのは…一人の男性。


まさにあっという間にここまで響く地響きと粉塵の中に消えて…


「あっ…あぁ…」


俺は腰が抜けたように尻もちをつく。

覚悟はしたつもりだった。理解したつもりだった。

それでも死体が出来上がるその瞬間を目の当たりにして、体が逃げ出したいと言うように除けぞいてしまった。


「理解したっすか? 君は俺っちに可哀想だから命張って助けてあげてって思ったんすよ。誰も親切心で人助けなんかしないっす。彼らを助けたいなら…まずは君自身が1歩を踏み出すべきっす。それが俺っち達と同じ土俵に上がる1歩っすからね」


「…俺が…俺が強くならなきゃ…」


くそっ…全くその通りだ。

無条件にサイガさんに頼りすぎていたと自覚して悔しい。

強くなるって決めたのに…最初からサイガさんに頼った考えをしていたことが…情けない。


それに誰だって他人のために命られるかと言うと、サイガさんの言う通り俺でもそれは出来ない。

もしそれが家族や親友…恋人とかなら命を晴れるっていう人も多いのかもしれない。

でも今目の前で死の危機に瀕しているのは、顔も名前も知らない赤の他人。きっと今見捨てても今後の俺には関係がない人達。








でも…





「偽善かもしれないですけど…やっぱり助けたい…です。ここで逃げたら本当に守りたいものからも…逃げてしまうんじゃないかって」


「ならやってみるっす。死なない程度には見守ってやるっす」


様子を見る。そのスタンスは変わらないと示すように呑気に気にもたれかかって休憩するかのように目を閉じた。

こんな状況でもこんな余裕がある…

普通に考えてやっぱり只者じゃない人なんだと改めて認識したところで…


実際問題今の俺に奴らを倒すどころか、狼1匹すら倒す力はない。


そんなのは今に始まったことじゃないし分かりきってる。


「ん、荷馬車の中にいるのは武器を持たない村人見たいっすね。こりゃ全員食われるっすね」


「えっ…ただの荷物じゃなかったのかっ…」


早くしないとっ…


背負っていたリュックを急いで開けて、頑丈なスマホケースに入ったスマホを取り出す。


「絶対…あるはずなんだっ」


雪音には圧倒的なまでのオンリーワンな魔法の才能があった。

でも俺には何も無い。何も無さすぎた。

魔法の才能がないどころか身体機能のステータスすら平均値。ステータスの上昇スピードが早いのかと期待してたけどそんなことは無い。

なんの取り柄もない。


その無さすぎに疑問をずっと持っていた。


本来この世界に来るのは俺だけのハズだったんだ。


ステルア…使い方を知らないだけじゃないのか…?


今まで基礎体力を付ける訓練で微量だがステータスの向上も確認できていた。体力とかの項目は雪音よりも上を行っていたから、つい嬉しなって頑張れば少しずつだけど強くなれると思い込んでいた。


けどそれじゃあダメだ。


ステルアの謎の最後のアイコン。カメラマークをタップ。


強くなる秘密があるとしたらここだけだ。


画面が一瞬白くなり、無事に画面が切り替わった。


「…ギャラリーみたいだけどどういう事だ…」


空白の四角いアイコンが1つとその隣に+と書かれたアイコンがあった。

見た目できっと+アイコンを押すしか選択肢がないような気がしたから迷わず選択。


すると俺のSDカード内の保存していた画像がずらりと表示された。


「なんだ…どういう事なんだ…」


時間がないんだっ…


さっきから聞いてるだけで汗が吹きでる程の絶叫がここまで届いてきている。

親指が震えてしまって刻々と過ぎていく時間と訳の分からないアプリ操作に苛立ちがたまる。


「くそっ…ここ以外ありえないんだ…」


焦る気持ちを落ちつけろと言い聞かせて、なんの説明もないアプリを冷静に理解しようと睨みつける。

表示された画像はどれもこれも身に覚えのあるものばかりだ。

カメラで撮ったもの、ネットからダウンロードしたもの。

特に分け隔てなく表示されている。


(押してみる…しかないんだよな)


とりあえずなんで撮ったのかは覚えてないエナドリの画像が目に付いたのでタップ。

すると拡大表示されて右下に決定と言うアイコンが新しく現れ…俺は流れに従うように【決定】。


「っ…」


決定を押した瞬間、スマホのフラッシュが突然炊かれてビックリして思わず目を閉じる。

そして目を開けた先には…


「っ!?…これはっ!」


「?」


サイガさんが興味ありげに覗き込んでくる。

そこにはさっきまでは無かったはずの見覚えのあるエナドリが無造作においてあった。


「そうか…そういう事だったのか…」


これで俺は全てを理解した。

なぜ俺には魔法が使えないのか、なぜ俺のステータスは全て平均値なのか。


その答えは全てステルアの中にあった。


そんな思いにふけることなく、俺の指は誘われるようにギャラリーをスクロール。目的の画像を探す。


「あった…」




薄暗い森に2回目のフラッシュが炊かれた。


自然界の動植物のような強靭な体も猛毒も擬態能力も飛行能力も持たない普通の人間が地球上で栄えるにはどうすればいいか。

古くからそれは答えが出ていた。


道具を使うこと。


人類は道具の歴史。


だからその道具はあらゆる分野で進化し続けてこれが生まれた。


何を隠そう銃だ。


「っ…確か…」


重い。それが第一印象だったが、そんなことは今はどうでもいい。

にわかミリオタ程度の知識でも銃を撃つ手順くらいは知ってるつもり…


ありがたいことにマガジンに恐らく満タンな20発入りのマガジンを銃の奥深くで前方から引っ掛けるように添入。

ここまではエアガンと同じことに安心し一呼吸置いて、ここからの未知の領域に手をかけた。


ストロークが長めなチャーハン(チャージングハンドル)を手をかけてゆっくりと手前まで引ききってぱっと手を離す。

ガチャンと重い金属音が響いて、初段が薬室に叩き込まれる。


張り裂けそうなほどの緊張仕切った心臓は今にでも張り裂けそうなほどの高鳴りだ。


本来初めて銃を打つ時なんてインストラクターとかが着くはずだ。

それをうる覚えな初心者が手探りで扱ってるんだ。何が起きるかわかったもんじゃない。


ゆっくりと長い銃を草の上から出して、リアサイトとフロントサイトの先に狼を捉えた。

長い…重いをロマンと喜んでいた過去の俺を殴ってやりたいと思った。


狼との距離は30mとか40mとかのはず。十分エアガンの射程の範囲だ。


(落ち着け…狙えばきっと当たる距離だ…)


完全にこちらに背を向けている1番近い狼に狙いを付けて…人差し指で弾くようにセーフティを解除。

トリガーに指を置いた。


【ダァァァァン!】


「うっ!」


思った以上の…反動だった。肩に当たる鉄のプレートが痛いほどめり込んできた。

それが7.62×51mmNATO弾を撃ち出すスプリングフィールドM14の躍動だった。


秒速850mを誇る7.62mm弾は50mにも満たない超近距離の狼に向かってほとんど減速することなく真っ直ぐに直進。


圧倒的な動体視力と鋭い聴覚と嗅覚を持ってしても、音よりも高速で迫り来る死へ対応することは不可能。

なんのアクションも取る暇もなく鳴り響いた銃声とともに、ビクンと体を硬直させて狼は倒れた。


弾丸は浅い角度で背中から侵入し、背骨を砕いてそのまま体内を押しのけながら内臓を破壊。FMJ(フルメタルジャケット)弾は更には肺まで到達してそのまま体を突き抜けた。

減衰することなく突入したことで衝撃波が内臓をかき乱し、血管を大小関係なく引きちぎった。

更に背骨を砕いたことにより神経も破壊。


一撃で絶命したのだ。


俺が反動に驚いている間に、M14はボルトを後退させ役目を果たした薬莢を宙へ投げ出しで新たな弾の装填を済ませた。


俺が立ち直る頃にはいつでも撃てるM14が待っていた。


(う、うるせぇっ…)


正直耳が痛かった。

それでも倒れて動かなくなった狼を見て…倒したんだと実感が湧くと自信という物が湧き上がってきた。


しかし1発の銃声はとても良く響く。

当然ウルフたちの注意は全て俺に集まった。


「っ!」


仲間がやられたことに一瞬狼狽える仕草を見せるも、人周り体の大きいリーダー格の狼の一吠えで統率が取り戻されて俺へ襲いかかってきた。


慌てて射撃。

一発目の衝撃から多少は身構えて撃てて、1発で仰け反るようなことは無いがそれでも連射はキツい。

体格のでかいアメリカ人でさえ抑えきれなかったフルオートは今の俺がしても意味は無い。

セミオートで群れの先頭目掛けて引き金を引いた。


やっぱり弾丸の回避は不可能の様で、少しズレた弾丸は足の付け根辺りに命中。バランスを崩した狼がころげ回るも、それを乗り越えて狼が湧いて出てくる。


「ダメだっ! 早すぎるっ!」


元々50mない距離だ。狼の足ならほんの数秒で走り抜けられる距離。


狼の荒い息遣いが聞こえるほど距離を詰められた俺は瞬時にフルオートにツマミを回す。

歯を食いしばってトリガーを引き絞った。


【ダダダダダダダダッ!!!!】


連続した銃声が森にこだまする。


(これっ…ヤバいっ!)


物凄い勢いで空薬莢が宙へ舞い、無煙火薬の独特な微かな白い煙が立ち込める。

しかし覚悟していたとおりフルオートの衝撃は凄まじかった。

肩を思い切り蹴られたような衝撃の後に、元に戻ろうとする合間もなくまた次の衝撃が来る。結果としてどんどんと押されるが足元は踏ん張らないと倒れてしまう。

つまり上体が仰け反ってきて銃口が上がってしまうのだ。


結果としてフルオートで打っても大して命中弾はなく、運良く銃口が跳ね上がったことで飛びかかってきたウルフにまぐれで命中した以外無かった。


【カチンッ】


フルオートは大量に弾を消費する。それも一瞬でなくなるのだ。


(ヤバい…弾がっ…)


もうどうにもならない距離にまでウルフは迫っていた。


3匹が俺を囲むように襲いかかってきた。

反撃も出来ない間合いだ。完全に終わった…


【なかなか面白いものを見せてもらったお礼っす】


突然目の前にサイガさんが現れた。


「ほいほいほいっと」


まるでパスされたボールを蹴り返すみいなフットワークで3匹の狼を軽くあしらう所か、軽くけっただけように見えるのに蹴り飛ばされた狼は数メートル先の木に激突。

気を揺らすほどの衝撃で骨でも折れたのか変な格好で地面に落ちた。



手を使うまでも無いのか終始手はポケットの中で、全てが右足1本で済まされていた。


「分かってはいたっすけど準備運動にもならないっす」


初めてサイガの実力を間近にして改めて思った。人間の常識を超えている。

目で追えない程の移動と蹴り。

どんなに鍛えても到達できるレベルではない。


「ウルフはやってやるっす。君はデカ物をやってみるっす。なに、踏み潰されなければ大丈夫っすから」


「は、はい!」


興奮状態というのだろうか。アドレナリンが吹き出してると言うのか…

とにかく俺はやるしかない。

その一心で駆け出していた。


弾が無いけどマガジンだけの画像はなかったはずなので、また改めて銃とセットでM14を出現させてマガジンを付けてチャーハンをガチャコン。


茂みを飛び出して馬車の横転する道に飛び出した。


ジャイアントオーガだったか…

やつと正対する。真上から見下ろされる重圧感が重くのしかかるも、振り払うように俺の魔法の杖、M14を構えた。


【ダンッ!】


【ダンッ! ダンッ!】


狙うのは当然頭だ。

頭は全ての動物の弱点。脳さえ破壊できれば生物は生きては行けないのだ。


その原則はこの世界でも同じはず!


トリガーを引くのとほぼタイムラグがない一瞬の攻撃は、オーガに対して初弾が少しズレてしまい禿げた頭の皮膚組織を抉りとるも、浅い角度で撃ち込まれた弾頭はその奥の固く分厚い頭蓋骨に弾かれて貫通はならなかった。


しかしM14はセミオートライフルだ。

自動で空薬莢の排出、そして次弾の装填を言われるまもなく済ませる。

ある程度距離を取っていたから慌てることなく頭部に照準を合わせた。


「ダメかっ…」


ヒグマの頭蓋骨だって浅く入ったライフルなら充分弾くんだ。

これくらいで…怯えてはダメだ。


奴の頭蓋骨が避弾経始の装甲だとしたら、1番貫通しやすいのは当然…


(ど真ん中だっ!)


続け様に2発が発射される。

音速を超えた弾丸が今度はオーガの頬を弾け飛ばし、よろけるオーガの顎を砕くように2発目が命中。

顎を砕いても勢いが止まらなかった弾丸は少し弾道を変えて下顎から突き出してきてそのまま胸付近にめり込んだ。


人間と同じならほぼ気管支を撃ち抜くコースだ。


充分これでも致命傷になり得る…はずだが…


「死なないっ!?」


やはり図体と相まって生命力も尋常じゃなかった。


1時は膝を地面に着けたオーガだったがそのまま倒れ込むことは無く、むしろ俺へ向ける殺意の目がより一層増しただけ。

顔面から血を流しながらも棍棒を杖にして立ち上がってきた。


「くっそ!」


倒れないオーガに次第に増す恐怖心のせいで若干冷静さを失ってしまって、考え無しに撃ってしまう。


【ダンッ! ダンダンっ!】


オーガが棍棒片手に俺へ向けて走ってきた。

1歩がでかいだけにここまでくるのは一瞬…


巨体が太陽を覆い隠し、俺の周囲は暗くなった。


見上げるほどでかい。


滝のように流れ出る血液がベチャベチャと目の前に落ちてきて一瞬で血溜まりを作り出す。


【ガァァアアアアッ!!!!】


俺への怒りか。天に向かって吠えたオーガは手に持つ巨大な棍棒を振り上げた。

吠えた反動で筋肉が引き締まったのかなんなのか分からないが、7.62mmの弾丸が突き破った皮膚から血が吹き出す。

そしてやはり気管からも出血していたのか、吠える口からは血飛沫の様な赤い霧が薄く吹き出していた。


「あぁああああッ!!!!!」


俺だって必死だった。

足がすくんでしまって、動けない。

未だかつて経験したことがない物理的にも精神的にも強大過ぎる敵に、1度根付いた恐怖が全身に回るように体を硬直させた。


それでも人間の本当なのか、恐怖心から来るパニックなのか。


俺の体は銃を構え続け、トリガーを引き続ける。


いつの間にかフルオートにツマミが回されていて、弾倉に残っている全ての薬莢のケツをピンが叩き込まれた。


【ダダダダダダダダ!】


機械的な一定リズムを刻むM14の銃声。

俺の叫びもその銃声の中でかき消されて、振り上げられた太陽を隠す程巨大な棍棒が振り下ろされる瞬間を見続けた。


死ぬ…


【ンガァッ…】


そう覚悟した時、詰まったようなオーガの声が聞こえた。


1発の弾丸が運良くオーガの下顎に命中。真下から突き上げるような弾道で、骨のない隙間を抜けて脳まで至ったのだ。


脳を破壊されたオーガは糸が切れた人形のようにフラっと体をよろけさせる。固く握られていた棍棒もパッと手放されてそのまま遠心力で十数メートル吹っ飛び、地響きと共に地面にめり込んで制止。


でも…


目の前には絶命したジャイアントオーガが勢いよく倒れ込んできていた。

まるで壁が倒れてくるようにも感じる。

死体に…殺されるのか…


「っー!」


【よっと】


そんな軽い声とともに現れたのは、やっぱりサイガさんだった。

人とは思えない跳躍でオーガの顔面付近まで飛び上がると、どうやって体を動かしているのかは分からないが、そのまま空中で回転蹴をオーガに浴びせた。


すると、巨大な体のオーガの倒れ込むコースがズレるどころか、90度方向を変えて吹き飛ばされたんだ。


「あ…あぁ…」


そのまま何事も無かったように華麗に着地すると、虫でも着いたかのように服の裾をほろい俺へ向いた。


「せっかく殺したのに死体に殺されるとか、酒のいいネタにでもなるつもりなんすか? そういう面白い話好きな人いるんでネタを提供してくれるってんなら良いんすけど」


心臓の高鳴りは衰えることを知らないかのように、未だにドクンドクンと脈打ち、俺自身も助かった…と言う実感がわかなかった。


「ま、ジャイアントオーガ倒せたことには素直に驚きっす。棍棒で叩き潰される所を助けようと思ったんすけど、倒しちゃったんすもんねぇ〜」


「え…あ…はい…」


「それで、君はどうするんすか? もうほとんど生きてる人はいないっすよ」


「…そうですか」


戦いには…一応勝てた。だけど…俺の敗北。

誰一人救えなかった…


「くそっ…」


悔しい…。この力を…このアプリの使い方をもっと早く知っていれば…もっと救えたんじゃないかっ…!


けしてうぬぼれから来る気持ちではなかった。

何十人という人の命が目の前で途絶え、救えるかもしれないと思った時には…もう手遅れ。


こんなんで…雪音を守れるのか…


「んま、1番後ろの馬車の中。1人だけ生きてるみたいっすね。呼吸、心臓の音が聞こえるっすよ」


「…え?」


何かに駆られたように立ち上がると、一番奥に止まっている馬車に駆け寄る。


「う…」


木組みで作られている馬車からはおぞましいまでの死臭が漂っていた。

下を見れば馬車の中からシミ出したであろうドス黒い血液が地面の色を変えて、白い布壁も内側の飛び血だろうか? 外まで染み込んできて車内の中の悲惨さを物語っている。


「行かないんすか?」


「い…行きます」


俺は大きく深呼吸して布に手をかける。


「だ…誰か…生きてる…人は…んうっ…!」


抑えきれないほどの吐き気をもようす悲惨すぎる状況だった。

日本ではまず見ることは無いであろう肉塊に成り果てた人の死体。


さっきの狼にやられたことが明らかな裂傷。その中からは色んな臓器が溢れ出るように床に広がって、辛うじて頭が首の皮一枚で繋がっているような無残な死体の数々。


本当にあんな所に生きてる人が…居るのか?


サイガさんを疑う訳では無いがとても人が生き残っている様には見えなかった。


食い散らかされたあまりの光景に言葉を失うこと数秒。ふと足元をみた。

そこにはまだ30前にも見える…いや…勘でそう思った女性が力なく横たわっていた。

しかし彼女の首はあらぬ方向へ無理やり曲げられたのか、変な方向に向いていて伸びに肉が耐えきれなかったのか首の一部が裂けた死体があった。


血が吹き出し真っ赤に染った顔をこちらに向けている。


「…」


目元から糸筋の細い模様が見えた。真っ赤な顔の中で若干色が変わった部分。

それが狼の歯型と血だらけの彼女顔でも…目から流れた涙だと言うことは分かった。


どんな思いで襲われたのか…。


物言わぬ彼女の顔に複雑な思いを抱きながら腰を落とした。ゆっくりと彼女の顔に手を添えると、無理に曲げられた首をあるべき方向に戻し色を失った瞳をそっと閉じた。


「ん?」


彼女の体に触れて初めて気づいた違和感。


(なんか…下にある?)


一見女性の体型は痩せ型な方。背も俺と同じくらい。

なのに何故か大きく見えた。

具体的に言うと、人一人重なってるみたいな…


(ごめんなさい…動かしますよ…)


ゆっくり彼女の体の下を確認するように体を持ち上げると…

まず、小さな手が見えた。そして腕、肩、そして小さな体が女性の下からでてきた。


ゆっくり女性の亡骸を傍らに寝かせて、すぐさま女の子に駆け寄った


「こ、子供!? さ、サイガさんっ! 女の子が!」


この女性…この子の母親なのか…身を呈して隠し通したんだ思えた。

女の子に酷い傷はなかった。それどころか擦り傷ひとつ無い体はこの惨状の中で奇跡と呼べるに相応しい。


ゆっくりと女の子の首元へ手を当てる。


その瞬間女の子の体がピクっと驚いたように震えた。さらに力強い脈動も手を伝って俺へ流れ込んできた。

脈はとっても早い。子供だからなのか…いやそれ以上に早いと思う。


「…生きてる…生きてます!」


「そうすか、良かったっすねぇ〜」


全身が血で真っ赤に染まった女の子。目は開かれてはいないが…触れた時の反応と言い早い鼓動と言い何となく意識があるんじゃないかと思い、そっと女の子に話しかけた。


「もう大丈夫だよ…ウルフも…オーガももう居ないよ」


「…」


返事はなかった。

それでもやっぱり反応はあった。

助かったって言う言葉をかけた瞬間、女の子の目元に涙が溜まって、体も少しばかり震えていた。

それでも頑なに目は開けようとしない女の子にまた話しかけてみた。


「俺は五歌、矢霧五歌だ。君の名前は…?」


「…」


また同じだ。口がモゴモゴと動いた気はした。だけどやっぱり目も口も開かれることはなくて、何か思いとどまってる様にも見えた。


その後はそれ以上聞き入ることはせずに、ゆっくりと女の子の体に手を回して持ち上げた。

ドロドロした血が固まって服がペキペキと音を鳴らして床と引き剥がされていく。ヌルヌルなのか、ザラザラなのか…よく分からない気持ち悪さもあったが一思いに女の子を持ち上げた。


抱き上げた感想としては…服や髪に血が染み込んで少し重くなってるはずだがそれほど重くは感じなかった。

10…2、3歳の女の子を持ち上げる機会なんてないし比べる材料がないからあれだけど、思ったより軽いという印象。


そのまま馬車のステップを降りて、近くの木陰になってる芝生へと下ろした。


ずっとあの場所にいるのは俺とこの女の子にとっても精神的に良くないと感じたからだ。


「血拭くからね」


肌の色が見えないほどに浴びた血を一先ず落とすためにリュックからウェットティッシュを取り出して取り合えず顔と首、手と腕、足の血を拭き取る。とりあえず地肌が見えてる範囲だ。


近くに水辺もなさそうだし血に濡れた服は…今はどうしようもない。


俺が女の子の体を吹いておると、後ろから平常運転のサイガさんが話しかけてきた。


「こんだけの死体の処理は正直面倒なんで、とりあえず羊飼いの姉御に現状報告してくるっす」


「え、おれは…」


「大丈夫っすよ。ジャイアントオーガにビビって森の魔物はこの近くにはいないっす。もし血肉に誘われたやつが来ても君ならなんとかなるっす」


「そそ、そんな事っ!」


ここからシェルシーさんの家までは普通に半日以上かかる距離だ。

いくらサイガさんでも一瞬とまでは行かないはず…


その間俺はここで留守番…?


「いやいや普通に考えて無理ですよっ!」


「その子を助けるって言ったのは君っす。この馬車と死んたやつらを放置できない以上、どっちかが行かなきゃならないんす。この子の力じゃ森を歩くのは無理っすから当然の判断っすよ」


「で、でもっ! こんな深い森の中で…もうすぐ夜になりそうなんですよっ!?」


「助けたからには最後まで責任持つっす。最後まで守り通してみろってもんすよ」


「っ…」


「じゃあとは頼んだっす、そうっすねぇ〜戻ってくるのは夜明けくらいっすかね〜死なないように気をつけるっすよ〜」


「ちょっ…」


いつも通りの軽い口調でそう言うと、そよ風と共に視界から消えてしまった。

呼び止めるまもなく置いていかれてしまった事に、徐々に心細くなってくる。

何かあっても…助けてくれる存在がいない…完全に俺一人の力でなんとかしなくちゃいけないんだ…


ゴクリと唾を飲んで落ち着けと言わんばかりにペットボトルの水を飲んだ。


深呼吸してまだ横たわる女の子の隣に腰を下ろして一先ず落ち着きを取り戻す。


「…喉乾いてない?」


「…」


起きてるんだよなぁ…絶対飲みたそうにしてる。

見ただけでわかる仕草に逆になんで頑なに目を開かないのか謎が深まる。


「…なんで目を開けないの?」


「…」


ダメか…


諦めた俺はとりあえずスマホを取り出して、改めてこの機能…を調べることにした。

俺には魔法がない分…これに頼るしかないのが現状な訳で使い方を知らないなんて事はもう絶対に許されない。


急ごしらえでM14を…なんと言うんだろう…召喚でいいのか?

他に言い方も思いつかないし、とりあえず現状では召喚だ。


M14を召喚したものの、単発で撃つならまだしもあれだけ群れで襲われると正直扱いきれない。

屈強なアメリカ兵でさえM14のフルオート射撃を抑えきれない部分もあったわけだから、俺なんて話にもならない。


「他になんかあったか…?」


召喚…をするにはどうやら写真などの画像が必要なようだ。M14は結構前にネットから落としたただの画像で、特に特別なことは無い。

つまり…


「ミニミとかなかったっけ…拠点防衛ならM2とかミニミとかの機関銃だよなぁ」


あの類ならミニミなら二脚、M2重機関銃なら3脚で俺への負担も少なく、尚且つその重量からリコイルコントロールも容易だ。

ただし機動性にかける点もあるけど…


(ジャイアントオーガとか言ったっけ…あいつ7.62mm弾きやがったしな…絶対ボスクラスだしおいそれと出てくるものでは無いだろうけど…12.7mmの方がいいよな…)


うっすらM2の画像を落とした記憶を頼りにしてしばらくスクロールしていく。


「あっれ…どこいった?」


(あ、戦車…10式か…動かせないにしても戦車にこもってた方が安全なのでは…)


少し冷静になって考えてみるも、頑丈な家ができると言う事だからデメリットはなさそう。


興味本位で偶然見つけた10式戦車をタップ。拡大されて右下に現れた決定を押すと…


【レベル不足】


「は? レベル不足?」


慌ててステータス画面に飛んで自分のレベルを確認する。


(23…随分上がった…か? これがウルフ数匹とジャイアントオーガの結果か…。それにしてもレベル23ってどんな感じなんだ? なにが出来てなにが出来ないのか、それが分からないとこのレベルの判断しようがないんだよなぁ…)


これがゲームなら直ぐに修正が入る事案だ。


「ん? これは…」


ステータス画面全体を改めて眺めると、小さく【NEW】と目立つ項目があった。


「召喚…? やっぱり召喚なのか…」


このスマホでM14を召喚したことでアンロックされたのか…レベルが上がってアンロックされたのか分からないが、新しく現れた【召喚】と言う項目をタップすると以前雪音と開いた魔法欄の時のように詳細表示された。


さっき選択したM14の画像が2枚と、HPとかMP表示とかでよく使われる見慣れたグラフが表示される。


俺が注目したのはそのグラフだ。


「上限値が23? それが今は減ってて14?」


つまり素直に受け止めるとM14を2つ召喚したことにより9を消費したことになる。

1つ当たり4.5を消費したと見ていい。しかし4.5って一体なんだ?

特に意味は無い…のか…

それとも何か規則性があるのか…


あとグラフの上限値である23という数字は今の俺のレベルと同じものだ。これも単なる偶然とは考えずらい。

レベル=召喚の上限値と考えるのが妥当かな。


つまり戦車を召喚しようとしてレベル不足と言われたのはどうやらこの事だったらしい。


「まぁ…最初から戦車使えるわけはないか…。銃使えるだけ恵まれてるしね」


M4やらMP5の画像はちらほら見かけるが、なかなか目当ての銃が出てこない…。

5.56mmなんで専ら対人用だし、9mmの拳銃弾なんかこの状況においてお呼びじゃないし論外。

最低でも7.62mm×51NATO弾に相当するものか、12.7mm…とりわけM2重機関銃じゃないと安心はできない。


「スカーHとHK417かぁ…」


どちらも7.62mm弾を使うアサルトライフル…いやバトルライフルというのか?

マークスマンライフルというのか…

とりあえず使えそうではある銃だ。


でも今持ってるM14と形は違うものの根本的な問題は何も解決してない。


7.62mm以上の弾丸を使えて、尚且つフルオートでも扱えるという条件には当てはまらないのだ。


それにしても確かにM2の画像落としたはずなんだけど…どこいった?


睨みつけるようにスクロールし続けること数分、どんだけ保存してるんだ…整理しとけよと自分自身にイライラしながらどこまでも続く画像の海に潜る。


「っ!?」


突然道の反対側でガサガサと音がした。


慌ててスマホをポケットに放り込んで、傍らにおいてあったM14を構えた。


(近くに魔物はいないんじゃなかったのかよっ!)


明らかに風の仕業ではない草の動きだ。

一気に心拍数が跳ね上がって、落ち着いたはずの心も一瞬でざわめきを取り戻す。


(スマホに集中しすぎたっ)


未だガサガサと動き続ける背の高い草。生き物の気配を感じ場所を変えるため静かに立ち上がると…


「ん?」


腰あたりで違和感を感じた。

引っ張られているような感覚…気になって確認してみると…


「やっぱり起きてるんじゃないか…君、もう目を覚ましてよ」


「っ…」


俺の服を引っ張っていたのは助けた女の子だった。

行かないでと言わんばかりに掴まれてはいるが、モタモタして奴らが道にでてきたら真っ先に見つかってしまう場所にいる。


このめま寝てるつもりだったら引きづってでも連れていくつもりだったけど、自分で歩けるならそれに越したことはない。


「なにか来るんだよっ、隠れなきゃ」


「…怖いの」


「え?」


初めて聞いた女の子の声だった。

とても震えていて今にも泣き出しそうな弱々しい声。


「目を開けたら…そこはお母さんのいない世界…やだ…見たくない…私1人なんて…嫌だよ…」


「っ…それは…」


この子は知っているんだ。母が身を呈して守ってくれたこと。そしてその母はもう居ないこと。

それを受け入れることが怖くてずっと目を開けなかった…開けれなかった。

目を開けたらそこに母の姿はなく、自分一人の孤独な世界。

思わずかける言葉を失った。


それでも近づいてくる何かは着実にこちらに来ていた。


「とにかく今は隠れるんだよ、お母さんに守ってもらった命ここで捨てる気かっ!」


「っ…でもっ」


とうとう近づく何かが発しておろう不快に感じる声が聞こえてきた。

近い…さすがに近すぎる


「くそっ」


本当にモタモタしていたら取り返しがつかなくなると判断した俺は有無を言わさず女の子を持ち上げて、草むらの中に飛び込んだ。

日が差さないジメジメとした空気に思わず汗が垂れる。


M14を草の合間から突き出して、伏せたプローン姿勢でじっと身を潜める。

この体勢ならフルオートでも多少はマシになるからだ。経験は当然ないので知識に頼った部分は大きいものの間違いでは無いはず。



(何だこのキーキーする音は)


会話でもしているのか若干異なった方向から複数聞こえてくる。

間違いなく人ではない。この森で人以外の存在なんて俺は魔物くらいしか知らないし見てない。


チャージングハンドルをゆっくりと引いて、あまり大きな音を立てないようにゆっくりと戻す。

トリガーガード内にあるセーフティを人差し指で弾いて、奇妙な声が聞こえる方向に銃口を向ける。


(来た)


草木を掻き分けて道に出てきたのは…薄緑色の肌をした1m程の小さな人型のなにかだった。

小柄な体型の割に出っ張った目立つ腹に、極端に細く短い手足。


「ご…ゴブリン?」


こいつは俺の知識の中にしか居ないはずのゴブリンそのものだった。


「ひっ…」


(静かにっ)


しまったっ…


一斉にゴブリン達の視線が俺たちの方に向いた。

正確な場所はバレてないにしても…奴らは確実にこちらに気づいたっ…


どうする…撃つか…仮に撃って一体倒せたとして…この数全てを倒しきれるのか…

サイガさんっていう助けてくれる人はいないんだ。

しくじれば死ぬ…1つのミスで死ぬ…一歩間違えたら目の当たりにしてきた無残な死体たちと同じになる…


(うっう…)


人生で迫られたことの無い程の選択だ。


「っ…お前…」


ぎゅっと暖かな手が俺の手首を包んだ。

小さな手だ。幼さが残る子供の手が小刻みに震えて居るのが感じ取れる。

視線をずらした先にいたのは…


【助けたからには最後まで責任持つっす。最後まで守り通してみろってもんすよ】


あぁ…そうだよ。

やってやる…!


「…大丈夫。絶対助ける」


気づいたら腹ばいの状態でスマホを取り出していた。

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