とりあえず…ようこそ
「いててて…全くミリアナ飛びついてきやがって…」
「ご、ごめんなさい…居なくなっちゃうと思ったら…いてもたってもいられなくなって…」
俺の視界には大きめの木が見えていた。隙間からは青い空と白い雲…1本の飛行機雲が伸びていた。
「ミリアナちゃん…来ちゃったね」
「あぁ…あぁ…連れてきちゃったよ」
「ごめんなさいっ!」
「いや…もういいよ…。怒ってないから」
「でも…」
「確かに困ってはいるよ。特にミリアナをどこで住まわせるかって…」
念の為またあっちの世界に行けるまでの時間を確認する。150時間…えぇっと…6日と6時間か…
「丸々1週間か」
「1週間ミリアナちゃんどうする?」
「そりゃどっちかの家で泊まってもらうしかないんじゃないかな」
「だよねー」
困ったな…いきなりどこから拾ってきたかも分からない幼い女の子を家に招いたら…通報されそう。
しかもアジア的な顔立ちでもないから尚更だ。
「雪音のほうはどう?」
「んーミリアナちゃんをどう説明するかって感じ。それさえ何とかなればうちのお姉ちゃん家で仕事する人だから面倒も見てくれると思う」
「確かお姉さんと二人暮しなんだよね。お姉さんってどんな人?」
「仕事は小説書いてるって言ってたよ? なかなか教えてくれないんだけど結構売れてるみたい。昼間は1日執筆してて、夜ご飯食べたあとはお酒飲んですぐ寝ちゃう人?」
「なんかすごいな…小説家か…どんな小説書いてるのか気になるけど…ミリアナの見た目だと留学でホームステイしに来た…なんてことも言えないしな」
「友達の妹…でも厳しいよね」
困ったなぁ…
ミリアナはまだ状況を飲み込めてないみたいだけど…うーん
困った。
「正直に話す?」
「いや…さすがにそれは信じて貰えなくないか?」
異世界から女の子連れてきちゃいました。1週間泊めてあげても良いですか…?
って、言ったもんならからかってるのかと怒られそう。
「あっ由良なら行けるか…?」
「ゆら?」
「で、なんで私を呼んだの? 彼女とのデート中に?」
「彼女じゃねぇよ 彼女は雪音、クラスメイトだよ」
「初めまして! 五歌君の妹さん…だったよね」
「え、はじめまして…矢霧由良です。それで? 何の用なの?」
彼女は俺の妹の矢霧由良だ。今中学1年だったかな?
由良ならミリアナと同級生って事でも見た目年齢ならおかしくは無いはず。
あとは親がヨーロッパの人とかのハーフとかっていえば完璧だ。
「由良、一生の頼みを聞いてくれないか」
「え、嫌」
「頼むっ!」
即答…か。予想の範疇ではあったが…
辛いものがあるな
「ちなみになんなのよ」
「母さんにこの子の友達って感じで1週間泊めてあげたい」
「何それ…てか、その子誰? 外国人?」
「ミリアナ…です」
「そのミリアナさんってどこから来たの? 兄さんとの関係は?」
そりゃそうだろう。こんな小さな女の子と高校生の俺の接点なんて本来有り得ないんだ。
更に日本人とはかけはなれた顔立ちと相まって、俺との関係性が不自然すぎる。
「…あっあの…」
「すまん、今は話せない感じなんだ。でもこの子の両親はもう亡くなっていて、もうこの子に身寄りはない。由良が協力してくれないなら途方に暮れるところだよ」
「はぁ!? 何よそれ! もう意味わかんない!」
中学1年の女子はよく荒れる年頃とよく言うが…これは俺が悪いな…
「もうわかったわよ…でも絶対理由は聞くからね!」
「まじかっ! マジで助かる!」
「由良ちゃんありがとね!」
「…でもいくら友達でも1週間もお泊まりしないし、そもそも学校行く時どうするのよ」
「…」
「…」
「考えてなかったの?」
くそぉーーーー!!!!
夏休みまではまだ大分ある…今日は確か土曜日…
「土日なら何とかなるか?」
「なるんじゃないの?」
チラッと雪音を見ると…
「うん…わかったよ。一応お姉ちゃんに話してみる」
「助かる」
「由良の目怖かったなぁ」
「そりゃそうだよ。いきなり女の子連れてきたと思ったら家に泊めたいって言い出すんだもん。あれは完全に誘拐犯を見る目だよ」
「家帰ったらパトカー待ち構えてるとかないよな」
「さすがにそれは無いんじゃないかな」
由良は母さんにこの事を話すべく一旦家に戻った。
終始ミリアナと俺を見る目が戸惑っていたが何とか今日明日は何とかなる。
「問題は明後日以降だな」
「まぁ何とかなるかと思うけど」
とりあえず由良と別れた俺達はいつまでも公園にいる訳にも行かなく、適当にそこら辺を歩いていた。
「ミリアナどう?」
「なんか…わかんないです」
俺の服をギュッと握りしめながら着いてくるミリアナはやっぱまだ可愛らしい子供なんだと思わせてくれる。
ミリアナにとって行き交う人や自転車、車に至るまで全てが未知のもので、あの日俺があの世界でドラゴンを見上げた時と同じだ。
「そうだっ! 今日まだ時間あるんでしょ? ならミリアナちゃんを案内してあげようよ」
「確かにな。ミリアナは興味あるか?」
「はい!」
「じゃ決定だ。ってもどこ行く?」
「そう言われると…って感じだよねぇ 実際あっちの世界の方が楽しいことあるし」
「まだお昼前で時間あるし、遊園地なんてどう?」
「金あるかな…結構使ったからなぁ」
只今絶賛金欠中だ。銃を召喚…と言うより召喚と言うことが出来るならあの時通販やらで買い漁った武器…のようなものは全くの金の無駄となったわけだ。
惜しいことをしたと今でも思ってる。
いや待てよ…?
お金を召喚すれば…
いやいや…なんかそれは行けない気がした…本当にやばい時以外やめておこう。
「いくら持ってるの?」
「3000円ちょっと…」
「あちゃぁ…それじゃ無理だね」
いやぁ本当にこの世界は楽しいことないな。コンクリとアスファルトで塗り固められた街にドキドキワクワクなそんな展開は少ない。
「そう言えばさ、魔法ってこっちの世界でも使えるの?」
「使えるよ? ただ前に試してみてわかった事だけど、補充されないって言うか…多分こっちには魔素が無いから魔力に変換できないんだと思う」
「魔素…確か魔力の元になる物質的…だったっけ? つまり今雪音の体に溜まってる魔力を使い果たせばもう使えないわけか」
「だと思う」
「あっ…ミリアナなんか話し込んでてごめんな。…なにかあった?」
つい雪音と話し込んでしまってミリアナが放置気味だったことに気づき、一旦ミリアナの様子を見て見た。
「あれって何ですか?」
ミリアナが指さした先にはドーナツ屋があった。よくあるミス・ドーナツだ。
「あれはドーナツっていうお菓子屋さんだよ? 食べてみたい?」
「良いんですか?」
全然行き先が決まらない俺たちにとっては良い選択肢だった。美味しいものを食べ歩こう。数時間前に晩御飯食べたばかりだったとしてもお菓子くらいなら食べれるだろう。
「ドーナツか…久しぶりだな」
「そうなの? 私よく食べるよ〜♪」
まるでスキップするかのようにミリアナを連れてミスドに入っていく雪音を見て、少しおかしくなって苦笑いしながら後を追った。
「パン…に穴が空いてる?」
「そんな感じ。チョコとかクリームとか色々あるから好きなの教えてね」
「色んな色…綺麗…これ本当にお菓子なんですか? どれでも選んでいいんですか?」
「おう、1個100円だしな、好きなだけ食え」
初めて見るカラフルなお菓子とそこから香るクラクラするほどの甘い匂いに本能的に美味しいものだと感じたミリアナが、まるで母親にねだる様に雪音にドーナツを取ってもらっている。
「そんなに食べきれるかな…」
「ダメだったら五歌君に食べてもらえばいいから、気にしなくていいよ〜」
「俺の扱い雑だな」
なんか時折妙な空気になる2人だが、今この時ばかりはニコニコしながら姉妹…仲のいい友達の様に見えた。
やっぱ根っから仲が悪いみたいではないようだ。
そんな2人を片目に、残飯処理させられるかもしれないと思った俺のトレイには数個のドーナツが乗るだけだった。
ぱくっ…
「んぅーーーーー!!!!」
「美味いか」
「こんなの食べたことないです! チョコってこんなに甘いんですか!? 私の知ってるやつはもっと苦いというか…」
「甘くないチョコってってあるよね? 私そんな好きじゃないけど」
「というか元々チョコって甘い食べ物じゃないしな。ミリアナの知ってるチョコがチョコの祖先だよ多分」
元祖チョコってカカオが主成分で苦い食べ物と言われていたらしい。
案外有名な話だと思ってたけど雪音は知らなかったようだ。
「柔らかくて…甘くて…」
「そんなに喜んでくれるなんて嬉しいな。まだ沢山あるからな、ゆっくり食べろよ〜」
なんかココ最近の1番の笑顔を見ているような気がする。
母が死んでしまった悲しみを少しは紛らわせれたかな…
「でもねミリアナちゃん。こんなに美味しいドーナツだけど食べすぎると太っちゃうんだよ?」
「っ…え? 本当…なんですか?」
「…まぁ美味いもんにはカロリーあるからな…多少太りやすくはなるんじゃないか?」
「…どうしよう…まだこんなにある…」
なんか本気で理不尽な現実に打ちのめされてるミリアナを見て、雪音も俺も2人して笑ってしまった。
幸いこの店には俺達みたいな学生がよく来るからそれなにり騒がしく、目立つことは無かったが、全く状況が分かってないミリアナはポカーンと俺たちを見ていた。
「わ、わるい…大丈夫だよ。今それ全部食べても太りはしないから」
「それにミリアナは絶賛成長期だし、多少多く食ったって大丈夫だから安心して食べな」
「あはは ミリアナちゃんごめんね、冗談だよ」
ここでようやくからかわれていた事に気づいたミリアナがムスッとした顔になり、雪音のドーナツに手を伸ばすとそのままパクッと口に運んだ。
「あっ! 私のお気に入り!!!」
食べ物の恨みは怖いというが…俺は今後からかわないようにしよう。
目の前で雪音が子供のようにお気に入りのドーナツを取られたことに抗議して、そんな雪音を無視してひたすらパクパクとドーナツを平らげてるミリアナの光景を見た俺は…
「どっちが子供だかわかんねぇな…」
その発言がまた波紋を呼ぶことになったが…まぁなんだ。
結局は楽しんでくれたようで俺は満足だ。
「ったく! 人を呼び付けといてあんなめんどくさい頼み事するなって! それになんなのよあの子は!」
「絶対怪しいでしょ! どっから連れてきたのよあんな外国人美少女!」
まるでアニメの世界から連れてきたような日本人離れした綺麗な瞳。外国人らしいヨーロッパ系の顔立ち。
あの様子だと誘拐してきたわけじゃなさそうだけど、訳ありすぎでしょ…
「ミリアナ…だっけ」
「一応は友達という設定なんだし…少しは仲良くしなきゃダメよね」
訳分からん正体不明の外国人美少女だが、それゆえ正体が気になった。
だから兄さんに理由を聞き出す代わりに頼み事を引き受けてしまった…
「それに…」
雪音…さん?
あの人本当に彼女じゃないのかな?
綺麗だしスタイル凄いいいし、兄さんには勿体ないくらいの美人さん…
今まで兄さんからそんなこと聞いてなかったしそんな素振りもなかったけど…
何があったし…
「ただいまー」
「あら早かったのね」
「まぁうん…でね、今日なんだけど友達泊まっても良い?」
「あら急ね、まぁ良いけど…何ちゃん?」
「ミリアナちゃんって言うハーフの子なんだけど…」
お母さんにハーフの子がいるなんて話したことないし…緊張するなぁっ…
てか、なんで私がこんな思いしなきゃいけないのよ!
「可愛らしい名前ね〜。部屋片付けておきなさいよ〜」
まじかっ!
「う、うん〜ありがと〜」
何とか…なったかな…
一応は兄さんのからの頼みも何とかなったよね…
「連絡しとかなきゃ」
LINEで【お母さんには言っといたよ。今日明日はおっけーだって。約束通り今夜ちゃんとミリアナちゃんの正体聞くからね。嘘ダメだからね】
送信…と。
てか…あの子私の部屋で寝るのかな
…そりゃそっか…いくらなんでも兄さんと寝るのは不味いよね
部屋を見渡す。
色々と物が溢れていて床に散乱している。正直女子の部屋としては汚い…
「片付けるか」
思えば友達を家に泊めるのはいつぶりだろう…
ミリアナちゃんって子は友達っていう設定なだけだけど…誰かを呼ぶってことにわ変わりないわよね。
小学校の時はけっこう友達とお泊まり会みたいなことしてたけど…中学に入ってからはてっきり繋がりなくなっちゃったしなぁ…
「なんで私だけ北中になっちゃったのかな…」
聞きなれたLINEの通知音が聞こえた。
ベットの上に投げ捨てるように置かれていたスマホの画面が光ってる。
「兄さんかな…やっぱり」
【マジで助かったよ! 今駅前3人でぶらついてるんだけど、良かったらお前も来るか?】
は? これ以上私になに求めるのよ…私は忙しい…って
【友達って言うことになってるんだから、お互い仲良くなれてないと不自然かなって思ったんだよ】
「…」
【分かったわよ。北口前に行くから】
送信…
送信……
なんで押せないんだろう…あの3人の中に入るのを怖がってる…?
なんで…?
よく分からないモヤモヤにイライラな止まらない。
「もう!」
勢いに任せて私は送信を押した。
「お、きたきた」
結構いやいやが伝わってくる態度だけど、なんだかんだ言って来てくれた妹の由良に少し頬を緩ませる。
それに嫌々と言う割には結構ちゃんとオシャレしてきてるあたり…面白いね
「何?」
「見た目だけなら可愛いんだからそんなにムスッとするなよ」
「兄さんにだけだから安心して」
「はいはい…」
やれやれ…いつからこんなに冷たくなったのか…
いやこれが普通か。きっと中学生の妹を持つ兄としてはきっとマシな待遇なのだろう。
「あのっ…ご迷惑おかけしてごめんなさい!」
「な、なによ急に…み、ミリアナさんだっけ?」
「はい…ミリアナです、私が考え無しにしたせいで皆さんに迷惑かけてしまって…」
「べ、別に迷惑…とかじゃ…」
ミリアナは良くも悪くも素直だ。まだまだ他者への遠慮が抜けきらないのか、そもそもこれが素なのか…
どちらにせよ自分のせいで迷惑をかけている。と感じたミリアナが思い出したように落ち込んでしまった。
「…」
どうしてくれるんだよ
と、由良と目を合わせるが逆に(この子どうすんの!?)みたいな目を向けられて、仕方なく俺がミリアナに近寄った。
「ごめんな、なんか妹が機嫌悪くて。別にミリアナに対してじゃないんだよ」
「…本当に?」
「あぁ。証拠にミリアナの為に服まで着替えてくるんだからな」
「ちょ、それは話が違うわよ!」
図星だったようで顔を真っ赤にして怒ったように声を上げるが俺と雪音、そしてミリアナにはそれが照れ隠しなんだと何となく伝わってきた。
「いい加減素直になれよ」
「はぁぁ!?」
「別に嫌ってない。それだけ伝えれればいいってことだって。今は一方的な俺の頼み事の付き合いかもしれないし、これからミリアナがどうなるかもわかんないけど、由良にはミリアナの本当の友達になってくれたらなって思ってたりする」
「なに、え? どういう事?」
「仲良くやってくれってことだよ」
なんだかこの2人って正反対だよな。さっきも言った通り素直すぎるミリアナと、いつもツンツンしてて素直じゃない由良。
俺がミリアナと普通に接すれたのも、性格は全然違うけど妹の由良と似たような感じだったからなんだろう。
「友達…?」
じっとミリアナが由良の顔を見上げた。
気まずくなったのか顔を地味に背けた由良だが、ミリアナの視線はずっと由良を捉えていた。
「…わ、私は…ただ…」
「そうよっ! 私はあなたの正体が知りたいの! どこから来たのか! 兄さんとどういう関係なのか!」
「えっ…それは…」
「答えれないならいいの! 話したくなるくらい仲良くなればいいって事よね!?」
「!?」
なんか自分で盛り上がってもう収拾つかなくなってる我が妹を見て、なんだかんだで俺と同じように初見の人と話すのが苦手みたいだ。
「由良ちゃんも友達になりたいってさ? ミリアナちゃんはどうする?」
「…私で…良いのなら…お願いします」
純粋な容姿でいば同年代と言っても食事環境の違いで妹の由良の方が体の大きさは勝っているし、子供特有の可愛さと言うのも目立たなくなってきている。
しかしミリアナの体格は小さく身長も低めできっと背の順の先頭くらいにいるような背だ。
手足も基本的に細くてあどけなさが残ってる。でもミリアナが持つアジア人には持ちえないヨーロッパ美人の素質そのものに、それらを補うだけのインパクトがあった。
「なんだかんだで仲良くなりそうだね」
「そうだな…ミリアナって俺達と話してる時は笑ってはいるけど結構気を使ってる時あるよね」
「あ、五歌君も気づいてたんだね」
「そりゃな。だから友達って必要かなって。シェルシーさんの家にいたんじゃそんな友達なんて出来ないだろ? あの植物達を友達って言い出したらと思うと悲しくてね」
「…あの子達もあの子達でミリアナちゃん慕ってるから一概に言えなくもないけど、確かに気兼ねなく話せる関係は大事かもね」
「だから今回の件は結果オーライってことにならないかな。本当に由良と仲良くやってくれるならたまにならこうして一緒に来てもいいかなって思ってたりする」
「本当にたまに?」
「…どうだろ」
目の前でミリアナと由良が早速何やら話してる姿を見る。
やっぱり見た目年齢は由良の方が上に見える。でも実際話してる立ち振る舞いを見てると由良にはやっぱり子供っぽさが抜け切れてないところが多々ある。
しかしミリアナの外見が子供っぽい所はあっても、何気ない相打ちやしっかりと相手の目を見て話を聞いているなど、些細なところでしっかりとした雰囲気が伝わってくる。
「由良が普通って考えるとミリアナは少し大人すぎっていうか、年相応にもっと遊ぶべきじゃない?」
「んー。それはこっちの世界の都合を押し付けてるみたいに思うな。あっちではミリアナちゃんが普通なのかもしれないし。それに今みたいに大人っぽくても私はいいと思うよ? もちろんミリアナちゃんが今よりも楽しく過ごせるようにするって言うのは大賛成だし、友達ができるのもいい事だと思う。だけど必要以上に私たちが子供扱いするのはミリアナちゃん自身どう思うのかな?」
「…そっか」
「私がミリアナちゃんなら、五歌君にずっと子供扱いされるのは少し…ううん、だいぶ辛いと思うな…」
「え…?」
わからなくていいんだよ…っと言い残すと有無を言わさず雪音は2人の元に行ってしまった。
置いてかれるように出遅れた俺は少し離れたところで3人の様子を見ていた。
相変わらず雪音の雰囲気は明るい。きっと周りからは姉妹とその友達かと見られてるかもしれない。
今どき外国人なんて珍しくないし、駅前ということもあって結構見かける。
故にミリアナが2人のの友達って言うのが周囲に自然に受け止められてる印象を受ける。
「五歌君もおいでよ! とりあえず歩こうよ!」
「お、おう…」
女の子3人と並ぶ俺って周りからどう見られているんだろうか…と少し気になってキョロキョロしてみると…思った通りやけに目が合う。
みんな俺を見てる…。
「改めて私は矢霧由良よ。…よろしくね」
五歌さんの妹さん…確かに目元とかよく似てる…かな。
「こ、こちらこそ…ミリアナです。よろしくお願いします…」
これで合ってるのかな…良いのかな…
よく…分からない。
シェルダーツ村にいた時は物心着く前からの付き合いだった同年代しか居なかったし、それもたった数人。
同い年ぐらいの子とこうして改まって挨拶するなんて…初めてかも。
「…」
「ぇ…ぇ…」
なんかじっと見られてる…
私の顔…そんなに変なのかな…もしかして髪の色…?
でも茶色い毛の人も結構見かけたよ…?
そんなに珍しい…?
あっ…服が変なのかな…
どうしたらいいんだろ…
「どこから来たの?」
「…私の口からは…」
「へぇ〜。やっぱりか。まぁいいわよ…後で兄さんに聞くから」
喋り方とかシェルシーさんに似てるのかな…
「それで私とミリアナさんは友達同士ってことでいいんだよね?」
「…私でいいんですか…?」
「友達に言いも悪いもないでしょ? 悪い子には見えないし友達よ」
「友達…」
もう出来ないと思ってた。全部失くして全部消えちゃって…もう諦めてたのに…
今こうして友達って言ってくれた…
私の事を友達って…
「っ…あれ…」
「ちょっ!? なに急に泣いてるのよ!」
「ご、ごめんなさい…つい嬉しくて…」
「も〜なんなのよもぉ〜! 後ろは後ろでイチャついてるし…いきなり泣き出す子はいるし…もう今日一日で頭パンクしそう」
「…友達なんですよね」
「え? まぁ…うん?」
「えへへ」
「…??」
混じりけの無い素から出たミリアナの笑顔に少し照れたのか由良はバツの悪そうにそっぽ向いて頬っぺたをポリポリと掻いた。
「っ!? なんですかこれ! つぶつぶがモチモチでほんのり甘いです!」
透明で大き目なカップの中には茶色の飲み物が入っていた。底の方を見てみると何やら本当に粒粒としたビー玉くらいの物がたくさん入っていることがわかる。
「どお? おいしいでしょ!」
答える必要もないほど夢中で太いストローをくわえるミリアナを覗いて満足そうにニヒっと笑った由良。家ではいつも気怠そうで決して見れないであろう楽しそうな顔だった。
「これが噂に聞くタピオカか」
「五歌君は食べたことなかったの?」
「完全にJKの飲み物だと思ってたし、行列の話聞くとねぇ」
「あはは 札幌じゃ行列なんてできないよ~それにもう落ち着いた頃合いだしね」
なぜかいきなりはやり始めたタピオカブーム。少々乗り遅れたらしいが今回初めてタピオカミルクティーなるものを飲んでみた。
これは由良の提案だ。やっぱり遊園地とかは予算オーバーとなり、残されたのはショッピングと食べ歩きの続きとなった。
だがショッピングと言っても生活様式が全く違うこの世界の品物なんてミリアナが理解するには無理があってミリアナが楽しめないと雪音の意見でやっぱり食べ歩きしか残されてなかった。
「楽しそうだから正解だったかな」
「美味しいは世界共通ってことだね」
タピオカのチョイスが上手くいった事に気を良くした由良がミリアナの手を取って次の場所と走っていった。
「…以上っす」
「…で? どこにあるのかしら」
「姉さん…ですから見つからないっす」
申し訳なさそうに一人の女性の前に頭を下げるサイガ。
目の前の女性から感じるオーラに俯いた顔はピシピシと震えている。
「ふぅ…隅から隅まで探したのかしら? シェルダーツ村が壊滅した話は届いているわ。私もあなたと同じようにダンジョンから湧いてでてきた魔物だと思って発見の報告を待っていたのだけど…見つからないって…」
「本当に見つからないんすよ…? 周囲20kmは探したっす。それでも見つからないって…本当にあるんすか?」
「そんなの私は知らないわよ? あの方があると言うのだからダンジョンはあるのよ。あなたはそれを探し出すの。あと3日で見つからなければ”私達”も駆り出されることになるのだから早々に結果を出しなさい」
「…わかった…っす」
意見し辛いほど立場が上の人からの命令がステルの姉さんを通して俺っちに流れてきた。
探知系の能力が高いからと言うのは重々理解してるっす。
ただ、無いものは無いんす…
使える手はとことん使って探したっす。
だけどダンジョンどころか洞穴ひとつ見つからなかったっす。
ただこうしてステルの姉さんに報告しても、探せっつう命令は変わらないっす。
こんななんの情報もない理不尽でいい加減な仕事するくらいなら、姉御の弟子を見ていた方が気が楽っす。
「そう言えば羊飼いと会ったようね? 噂の弟子達はどう?」
「えっ…あぁ。1人は姉御曰く”私を超える魔法使い”らしいっすよ」
「へぇ。羊飼いを超える…ねぇ。あとは?」
「あとの二人は面白いっすよ? 魔女の弟子なのに魔法使えないんすよ」
「本当に? ただの平民を羊飼いが弟子にとるとも思えないけど?」
「そうっすよね。自分も最初はそう思ったっす。人の生死すらまともに直視できない少年がなんで魔女の弟子になったのか。でも分かったっす」
「?」
そう。あれは魔法が使えないただの平民なんかじゃない。
魔法を使わずジャイアントオーガを倒せる力をもつ…
「あれは化けるっすよ。恐らく今ある対魔法兵器の中で1番有効な武器を操れる。それが彼の力っす。姉御を超える魔法使いも気にはなりますっけど、俺っちは断然彼…五歌っちに興味あるっす」
「そんなに強いの? その彼の武器は」
「そりゃもう…五歌っちがもう少し成長して本気で対峙したら…俺っち勝てそうにないっすよ?」
「そう…それは興味深いわね」
サイガの話を聞いたステルフィンはますます興味が湧いたように目を細めた。
彼女が今なにを考えているのか。
そんな事はサイガには推し量ることは出来ない。しかしいつも無表情から表情を崩さないステルフィンがこんなにもあからさまに興味を示した事は誰も見た事がないだろう。
誰もが見惚れる美貌と、他者を寄せつけない冷たいカーテン。そして立ちはだかる何人をも斬り捨てる冷酷さと強さ。
あの方を除けば本気になったステルフィンとやり合える存在は、恐らく羊飼いの魔女のみ。
「でも広めるのはやめた方がいいっす。本人達も姉御も有名になることは避けてましたっしね」
そんなの分かっているわよ




