弟子達 【イラスト有り】
「あ、雪音もう少しで炒め終わるよ」
「わかったよ、こっちもちょうど切り終えたとこだし、タイミングバッチし」
俺がフライパンで野菜炒めを作ってる間に、雪音が肉類を切って火が通った野菜の中に投入してきた。
ジューーーっとなんとも言えない心地いい音と香ばしい匂いとが広がった。
「ミリアナちゃんお皿の用意出来た?」
「あ、はい!」
ここ最近の朝の日課になりつつある3人で1緒に料理だが、経験のなかった俺でも基本的な炒める煮るくらいはできるようになった。
…まぁ最初は雪音に結構苦労かけたんだけども…
「ほい、完成だな」
ミリアナが用意した4枚のお皿に順番に盛り付けて行く。
「こっちも完成っと」
雪音も肉を切ってる間にスープを仕込んでいたらしく、それも完成してカップへそれぞれ注がれていく。
そんな光景を少し離れたテーブルに座って複雑な目で眺めていたシェルシーさんが呟いた。
「…私の家なのに私が客人みたいになったわね」
「なんだかんだで家の事全部雪音が仕切ってますからね」
シェルダーツ村の埋葬式からもう5日ほど経とうとしてる今日この日だ。
流石にミリアナも新しい生活に慣れてきたようで、最初の頃の人見知りな感じはすっかり無くなっていた。
今では何でもやりたがる…と言うか雪音と張り合うくらいに活発な子になった。
これが本来のミリアナなんだろうな。
「それで今日の予定とかってあるんですか?」
「そうね〜。実際のところ五歌君やミリアナちゃんに教えられることも少ないっちゃ少ないのよ」
「それはまぁ…そうでしょうね」
なにせ魔法…使えないからね。
「でも使えないのと知らないとでは意味合いが違うの。魔物だって魔法使う奴もいるわ。そういう相手と戦う時、魔法の知識がなければ厳しいことはわかるわね」
「なるほど。つまり知識…ってことですか?」
「そ。基礎体力とか五歌君とミリアナちゃんの武器の扱いは全部君に預ける。私の専門外だしね。だけど魔法の勉強は1人前以上には教え込むわ。あとは…魔道具の扱い方…かしらね」
「魔道具…無属性で動かす道具でしたっけ」
「そうよ。それは君たちでも扱えるわ。ただし基本的には魔法が使えない人って魔力保有量も少ないから乱用には注意。気を失ってぶっ倒れるから」
つまりは午前中のシェルシーさんが雪音と魔法の練習してる間に俺とミリアナで自主練…と言うか訓練だよな。午後からは雪音が自主練になりシェルシーさんは俺たちの座学を見てくれると。
…シェルシーさんにだいぶ負担かかるような気がするけど…大丈夫なんだろうか…
「シェルシーさん1日中大変なことになっちゃいますね」
「家の事なんも考えなくていいんだから楽なもんよ」
「なるほど…」
「お待たせ〜 スープ持ってきたよ〜」
「うぅん、いい匂いね。なんて言うの?」
「ポトフって言います。もうとょっと煮込めば野菜とかもっと柔らかくなるんですけど、時間が無いので…」
「まぁいいわよ。匂いでもう美味しそうだから」
一つのテーブルを三人で囲んでいつもの朝食が始まった。
際立って嬉しそうに食べるのがシェルシーさんだ。なんでもとってもおいしいらしく、店を出せると雪音の料理を褒めたたえるほど。
聞くところによると、この世界だと味付けがシンプルなのが普通らしい。
それこそ手間暇かけて作る料理は美味しいが、そういうのはレストランとかのシェフの門外不出の専売特許みたいな扱いで、一般の家庭ではおいそれと味わえないらしい。
その味が毎日家で味わえるというのだから、シェルシーさんさんとしてはこれ以上ない幸せなのだそうだ。
「わざわざ人前に出てまで食べたいとは思わないしね」
ふとこの前エストラーニャを訪れた時の町の人の反応を思い出した。
理由はわからないが歓迎されない場所に行っておいしいもの食べても…果たして本当においしく感じるのか…
そういう意味だと伝わってきた。
朝食をおいしく食べた俺達は、少しばかり小休止して早速外に出た。
このまま練習…と言いたいところだが、ミリアナにも仕事が振られている。長くかかることではないので気長に準備でもして待っているのだが…
いかせん安心できないんだよね…
「シェルシーさん…何度も聞いて悪いんですけど、あの畑絶対安全なんですよね…? いつ見てもビジュアルが怖すぎるパックンフラワーとか蛇みたいに動いてるツタとか、脈動するように針が突き出してるサボテンとか…すでに地獄絵図ですよ?」
「心配いらないわよ。あの子たちは認めた相手には従順よ」
ミリアナが向かったのはあの即死級の植物が生い茂ると言われた畑だ。薬の実験に必要不可欠らしいのだが…
「それ以外は…?」
「片足でも土に踏み入った時点で殺されるわね」
「普通にアウトでしょ…」
ミリアナは普通に畑に入っているし、もっと言えばパックンフラワーの頭撫でてるし、サボテンなんかトゲひっこめて構ってちゃん状態。てかツタ。てめぇなに触手にプレイの真似事してんだ
これが認められた…ってことなのか
ちなみに俺が近づいたらただならぬ殺気を受けたからそれ以降近づいてもいない。
お察しの通りミリアナに課せられた仕事は、この獰猛な植物達の水やり…ではなく餌やりだ。
「それにしても良く懐いてるわね」
「あの時は心臓止まりそうになりましたけどね」
「あ~ あれはさすがにビビったわ」
それはミリアナとエストラーニャから帰ってきた翌日。何も知らなかったミリアナがこの畑に入ってしまったのだ。
あの時の雪音の悲鳴は今でも覚えてる。
何事かと俺も家を飛び出したら、今はミリアナに撫でられて満足そうにしているパックンフラワーが大口開けてミリアナに迫っていた。
文字通り頭パックンされてしまう直前だった。
…実際にはその直後にパックンフラワーはゆっくりと口を閉じて、何が起きたのか呆然とするミリアナの頬に犬のようにスリスリし始めた。
シェルシーさんも奴らの人選の基準はわからないらしい。
ちなみに今のところ認められてるのはシェルシーさんとミリアナだけで、言語理解のスキルを持っている雪音はどうかと言えば…
「なんか嫌われてる感じ」
らしい。
「まぁ余り邪険にしないで上げて頂戴ね、ここの子たちの葉や花びら、木皮を分けてもらってあなたを救った回復薬を作ってるんだから」
「え、そうだったんですか!?」
つまるところ…こいつらは俺にとって命の恩人なのか…
仲良くなれそうにはないけど…接し方は考えないとな
「お待たせしました! ご飯あげてきました!」
「うん、ありがとね」
「餌って生肉なんだろ? パックンフラワーはわかるとしてもツタとかサボテンってどうやって食ってんの?」
ひとしきりミリアナと遊んでご飯を食べれたパックンフラワーはいっちょ前にゲップして、眠りに入るのか丸い頭を地面に置いた。
「ニョルはクルクルって巻き付いてきて、お肉を絞って出てきた液体を吸収? する感じです。搾りかすはパックンにあげてるみたいです」
「…ニョルっていうんだ。そっかニョルか」
なんとド直球でわかりやすい名前なんだろうという感想は置いておいて、巻き付いて絞るのか…
蛇は獲物に巻き付いて搾り上げて、全身の骨を砕いてから丸のみにすらしいが同じようなイメージを抱いた。
「ツンは体の上にお肉置いたら、落ちないようにトゲで固定して溶かしながらじっくり食べるみたいですね。ほらまだ残ってます」
ツン…か。たぶんツンツンだからだろうが…まぁ置いておこう。
確かにまだ肉が…あ?
「もうほとんどデロデロじゃん…すげぇな」
シェルシーさんが言うにはツンのトゲは魔法でも簡単には解毒できないような強力な毒針らしい。
人だと引っ掻いただけで即死するし、一本であの猪を殺せるらしい。
なにそれ超素材じゃんと思ったが案の定、表には流通しない超高額な闇商品らしい。
もう何というか…
こいつらが自然界で獲物を捕食してる光景を想像するだけで怖くなってくる。
感謝はしてるが怖いもんは怖い。
「ちなみに森でこの子たちと会ったら終わりよ。この子達って地面の中で根を広げていて、大抵群生地になってるから」
「…ちなみに対処法は…?」
「その一帯を焼き払うくらいかしら。もっとも生きていたらだけど」
「…」
おねむモードの植物達はいったって普通だ。ニョルはツタだし、ツンはサボテン、パックンはスイカとかの果実に見える。
また気づいたらキルゾーンパターンだ。
異世界怖いよー
「じゃ、改めて初めて行こっか」
「よろしくお願いします!」
「お、おぅ…」
人に教えたことほとんど無いからな…妹に自転車教えたくらい…
でもあれ勝手に乗れるようになったというか…
「じゃあ基本的な事は今で教えた通りだ。絶対に守ることは?」
「撃つ時以外引き金に指をかけない、不用意に銃口を人に向けない、確実に使わない時はマガジンを抜いて薬室の弾も抜いておく…です!」
「その通りだな。ちゃんと覚えてくれたみたいで良かったよ」
実は帰ってきてから5日が経っているにも関わらず、1度もミリアナに銃を撃たせてない。
やっぱり俺だって安全管理がしっかりできるかと問われれば…YESと断言できない。だから入念にチェックリストを作って、自分でも勉強しながらミリアナに分かりやすく教えるために考えた。
そうして考えて教えてる間に5日なんてすぐに過ぎてしまったのだ。
「今日はいよいよ本番…射撃の練習するよ。ミリアナが使うのはもちろんヴェクター。前見せたやつだな」
スマホを操作しヴェクターを召喚。リュックから予備弾薬をありったけ並べた。
これも5日待った理由の一つだ。
俺が一度に召喚できる量には限りがある。しかし時間経過で回復しているのは前から知っていた。時間としてはだいたい丸一日ってところだ。
なら確実に緊急事態が起きそうにない日に沢山召喚して、自動回復に任せてまた召喚。こうすることで弾薬ならかなりの数を召喚することが出来た。
練習には沢山弾が必要だと思うし、戦いながら召喚するって言うのも限度がある。
前もって召喚しておくってのは理にかなってた。
ちなみに言うと、以前勝手に召喚していたエムジュウヨンが消えていた件だが…ただの睡眠程度では消えることは無いみたいだ。
少し難しくなった。
自分の意思による睡眠はセーフで、外的要因の気絶はアウトなのだろうか…
これも早めに解決しておきたい。戦ってるうちに消えてしまっては命に関わる。
「頑張りますっ…」
ヴェクターを受け取ったミリアナは、空薬莢で練習したとおりにマガジンに弾を込めるところから始めた。
「っ…」
最後の2、3発はスプリングのテンションでかなり硬くなってる。
ミリアナの力ではギリギリ押し込めるかどうかだ。
それでも何とか弾込めを済ませたミリアナがゆっくりヴェクターにマガジンを挿入。カチンと音が鳴るまでしっかりと押し込んだことを確認する。ここで深呼吸した後、一思いにチャージングハンドルを引いた。
「いい…ですか?」
ゆっくりと頷き返す。
完璧だ。
空薬莢で練習したとおりの手順でここまで来た。
「撃ちます!」
仕方ないことだが、やっぱり本番になると体に力が入っていてガッチガチだった。
多分エムジュウヨンを撃ったときに手から吹っ飛んでいったイメージが色濃く残ってるんだろうな。
でも結構今は前重心だし、後ろに倒れ込むことは無さそうだしヴェクターなら1発撃てれば2発目以降はだいぶ変わるはずだ。
緊張のためか少し間があったが、意を決したように引き金を引き絞った。
【バァン!】
このヴェクターに使われる弾丸は45口径の拳銃弾。そのためライフル弾の様な重い発砲音ではなく、気持ち軽い音が響いた。
同時に短く鋭いリコイルがミリアナの体を走り、僅かに後退りしている。
「…撃て…ましたか?」
「あぁ、完璧かな。撃った感じはどう?」
「意外に…大丈夫そうです」
ヴェクターには反動抑制機構が組み込まれている。反動を下方向に促す機構があるお掛けでこうして体格も体重も大人に敵わない子供でも撃てちゃったりする。
そもそも45口径って反動強いらしいしね。
この機構が無くても肩当ができるヴェクターならミリアナでも撃てたかもしれないが、反動は小さい方がいいに決まってる。
「まだ…撃っても良いですか?」
「そうだな…初日だしあとマガジン2つ分ならいいよ」
「ありがとうございます!」
またすぐにヴェクター構え直して、射撃。
何度が銃声が轟くうちに、どんどん発射間隔が短くなっていく。それに合わせるようにミリアナの体も銃に馴染んできたのか、それほど振り回されなくなっている。
扱う道具に恐怖心というものがあると、どうしてもぎこちない使い方になってしまう。
今のミリアナのように、いつなにが起こるかわからない得体の知れない武器…という恐怖心を捨て、しっかり扱えば思い通りになる道具と知れれば自ずと上達するんだと思う。
すぐに最初のマガジンの弾は尽き、満足そうな顔をしたミリアナがフッと息をついてボルトリリース。ドライファイアして銃を置いた。
「もう慣れた?」
「なんか…前のとは全然違います…最初はびっくりしました」
「扱えそうでよかった」
次のマガジンを渡して、今度はバースト射撃してみてと言ってみる。
フルオートと違って1度引き金を引けば2発発射されるモードがある。
当然単発のセミオートよりはリコイルが立て続けに襲ってくるバーストやフルオートの方がは使いが難しくなる。
「やってみます」
「できれば2、3回バーストした後に残弾全部使ってフルオート試して見て」
「は、はい!」
でもミリアナの様子を見る限り、フルオートもそつなくこなせそうな気がした。
もちろん銃のインストラクターでもなんでもない俺の感想だが、そんな気がした。
…いや厳しいか
「すまん、とりあえずバースト3回してみてくれ。フルオートはやっぱり不安だから」
「わかりました」
2点バーストなら心配いらないはずだ。
「撃ちます!」
【ダダンッ!】
サブマシンガンは弾をばら蒔いてなんぼの銃に変わりはない。だから2発の射撃が一瞬に聞こえるほど発射サイクルが早い。
「…結構きますね」
やっぱり一発目の反動で体がどうしても押される。これは大人でも変わらないが、体が元の場所に戻る前に2発目が発射されて更に後ろへ押される
大人なら体で受け止めて、2発目以降の仰け反りも最低限で済むが、体が小さなミリアナでは目に見えて反動に負けている。
強制的に2発で止まるバースト射撃だから良かったものの、フルオートだとどうなってしまうか分からないな…
「…怪我でもしたら大変だし、フルオートは今回はやめておこう。俺の世界でもフルオートは廃れる方向にあるし、バーストだけでも問題は出てこないと思うから」
そもそもの話、小銃ってのはフルオート射撃に向いてはいない。これはサブマシンガンにも同様な事で耐久性を犠牲にしてると言う話を聞いたことがある。
良く考えれば小銃でフルオートしても全然問題ないのなら、軽機関銃なんて生まれないわけだからな。
戦場でもフルオートは弾の無駄遣いと言われ、セミオート主体なのが現状だ。
無理してフルオートを使う必要は無い…と俺は思った。
「…でも…1度は試してみたいです。もし使わなきゃいけなくなった時…困りませんか?」
「…確かにそれもある」
ミリアナのの言葉も一理ある。現役のM4やAKとか、フルオートを廃止した主力小銃なんてあまり聞いたことない。
やっぱり使えないのと使わないとでは違うんだろうな。
しかし…危なそうなのは変わらない。
「…じゃあマガジンの弾を6発にして撃つか。大丈夫そうなら2発ずつくらい増やしていこ。あと俺後ろで背中支えてあげるから」
結構弾を使うことになるが…致し方ない。
「わかりました! お願いします!」
俺はミリアナの後ろに立って、彼女の右肩を支えるように手を添える。
「よし、いいぞ」
「撃ちます!」
【ババババババァン!!!】
6発の弾丸が一瞬で撃ち尽くされるほどの瞬間火力だ。これぞサブマシンガンとも言うべき迫力だった。
しかし思った通り、その反動でミリアナの体は大きく揺さぶられて俺の腕もグッと押された。
俺の支えがなければ、バランスを崩して危ないことになってたかもしれない。
「っ…」
「やっぱりフルオートは厳しいかもな」
「凄い…力でした」
「フルオートってこんな感じってところかな。暫くはバースト射撃を使ってくれ」
「そうします…」
とりあえず、ミリアナの練習はここまでだ。初日でバカスカうっても得られるものは…多くはないと思う。
一旦冷静になったうえで、また練習した方が新しいものが見つかるかもしれない。
「次は俺が練習するかな」
持ってきたエムジュウヨンを手に取って、予め弾を込めていたマガジンを引っ掛けるように挿入。
「それはエムじゅうよんって言うんですよね」
「そうだよ。M14とかM14とか人それぞれって感じ。俺は”いちよん”かな」
「それって私のヴェクターとどのくらい違うんですか?」
「…どのくらいと言われても説明できないっていうか…でもそうだな…」
少し考えたあと、2回チャーハンを引いて未使用の7.62mm弾を取り出し、まだ片付けてはいなかった45口径の拳銃弾を渡して見比べてもらった。
「そういえば弾丸についてはあまり触れてなかったね」
「見た目…私の方が太いです…五歌さんのは細くて長いんですね」
「細くて長い事で射程が伸びる。更に薬莢もデカイ分沢山の火薬を使って撃ち出せるからさらに射程が伸びるんだ」
「なるほど…だから反動も大きい…?」
「その通り。この世界に合わせるならM14の立ち位置は巨大な弓って所か?」
「バリスタ…とかですかね。…じゃあ私は両手剣ですか?」
「両手剣…か(双剣って事だよな?)。確かに手数で攻めるって感じだしそうだと思う」
そう言えばこの世界の武器ってあんまり知らないよな。町に行った時に少し見た感じだとイメージ通りの剣とか槍とか弓、シェルシーさんみたいな魔法の杖を持っていた人も見かけた。
時間がある時に聞いてみてもいいかもしれない
「あと銃って言うのはその時の状況とか使い方によってパーツを付けれるんだ。遠くを見るものだったり、音を小さくするものだったり、素早く狙いをつけるものだったり、色々自分好みにできる」
「…?」
事前にみつけていた画像をクリック。と言っても俺が持ってた”エアガンの”M14の画像だ。
「M14がもう1つ…?」
「いや、これはおもちゃだよ。当たっても痛いだけのおもちゃ。前に話してもらったボウガンのおもちゃと似たようなものかな」
「そんなのあるんですか!?」
興味深そうなマジマジとした視線を感じた。なんか本物より興味ありそうな感じだ。
…今度サバゲーでもしてみようかな…2人じゃ寂しすぎかな?
とりあえずエアガンが欲しかった訳じゃなくて、それに付属する部品が欲しかった。
恥ずかしいことにベレッタのホルスターと同じく安物中華コピー品のスコープとM14に20mmレールを取り付けるためのマウントだ。
どっちもエアガン用だからしっかりと実銃と互換があるかは不安だが物は試しだ。
素人なんてアイアンサイトで100m離れた的に当てるなんて芸当はできない。
やっぱりスコープがあるのとないとでは天と地ほどの差だ。
あと互換の問題もあるけど、エアガン用に作られたマウントが銃の排莢動作に影響を与えないかが1番の不安。
頻繁にジャムるようなら、実銃に使われてるマウントの画像を探してこないといけない。
安物スコープが実銃の衝撃にどこまで耐えるのかも未知数だ。
「これが…そのパーツってやつですか?」
「スコープって言うんだ。覗いたら多分わかる」
百聞は一見にしかず、だ。
通販で4000円くらいで買ったスコープをミリアナの目の前に持っていく。
「わっ…わっ! えっ… これ凄いですよ! 遠くが見えます!」
「普通の人じゃこれ無しでM14のせっかくの射程なんか生かせないんだ。このスコープがある事で何百メートルと離れた的に当てれる」
「これヴェクターにも付くんですか!?」
「え…? スコープを?」
「はい!」
ヴェクターにつかないことは無いけど…まぁ良いか。
このままエアガンのM14を消してしまうと、スコープも一緒に消えてしまうみたいだから、スコープとマウントだけを別で写真を撮り改めて召喚。
非効率で融通の聞かない地味に手間のかかる不親切システムだ。
このアプリの使い方も慣れてきた頃度が、段々とイライラする部分が見えてくる。
「ヴェクターに関しては少し待ってくれな。スコープより良いの探すから」
「…わかりました」
こんなん運営に改善要望したいところだが、ステルアの開発者も運営も不明なため今のところ出来そうにない。
「…よっしゃ 一応着いたぞ」
よくやったエアガンパーツ!
実銃対応とはやるじゃないか!(耐えるとは言ってない)
「…見た目結構変わるんですね」
六角レンチとか工具使わないタイプで良かったと安堵する中、本当に使えるのかと言う不安がジワジワと湧いてくる。
今は大丈夫でも使ってるうちにぶっ壊れるなんてことは十二分にあり得る。
「よし…撃つぞ」
「はいっ!」
寄り道は長かったがいよいよ俺の練習だ。
スコープを載せたM14を構える。こいつを撃つのはミリアナを助けた時以来で久しぶりということになる。
トリガーガード内のセーフティを弾き出しそっと引き金に触れる。
何を狙う訳では無いが、とりあえず300m程先の木に向けて…
【ダァァン!!!】
肩を蹴られた様な衝撃で多少よろめいてしまうが、同時にヴェクターとは明らかに違う何かが俺達を包み込んでいた。
これが音圧…と言うやつか…
「…凄い音…ですよね」
耳をすませばまだ聞こえそうな銃声だ。
ヴェクターを見たあとだと拳銃弾とは訳が違う事が肌で感じてる。
「さすがに1発程度じゃビクともしないか」
まぁ当然狙った木に当たった気配はない。ゼロインも何もしてないからじっさいどこに当たったのかもわかんない。
しかしさすがにスコープもマウントも大丈夫そうだ。
今日は耐久試験でもしてみるか…
「どうして寝転がるんですか? 休憩…ですか?」
「いや、寝転がると反動のコントロールしやすいと思って」
「へぇ…?」
明らかに分かってない様な顔をされるが、今度やってみてもらう方が早いからあえて説明は後回しにする。
今度はフルオートで撃ち切るまでやってみる
「撃つぞ」
「はい!」
プローン姿勢でM14を構えて、また同じ木に向けて引き金を引き絞った。
【ダダダダダダダッ!!!!!】
銃が暴れる…が、プローン姿勢のおかげで全身で受け止めることが出来ているのか、怯むような衝撃ではなかった。
「壊れてはいなさそう…だな。意外に耐えるもんなんだな」
中華の激安品でも案外使えそうなことに感心すると共に安堵する。
帰ったら画像を取り込んでもっといいのを付けよう
「とりあえず…できるかわかんないけどスコープ合わせてみるか」
少し移動して的とする木に50mの距離まで近づくと、また腹這いになり銃を構えた。
もちろんセミオート射撃。
スコープのレティクルの中心を木の真ん中にちょうどあった節目に合わせて引きがねを引く。
その瞬間に的にされた木の右側面の皮が弾けるように飛び散った。
「随分右に逸れてるな…まぁポン付けならこんなもんか? えぇ…と…弾が右に逸れてるから…右に…うん? あれ…こっちに回せばいいんだっけか」
とりあえず感に任せてスコープ側面に出っ張った調整ダイヤルを回す。
再び銃声が轟く。
「あっ…逆…か?」
なんか今度はかすりもしなくなった。そんなにダイヤルも回してないし、反対に回してしまったようだ。
スコープって難しいな…エアガンならこの辺ってフルオートで撃ってそこにレティクル持ってくればお終いだけど…
実銃はそうはいかない…
しっかり1クリックでどれだけ変化するかっていうのを勉強して慣れなきゃダメだな…
反省して今度は逆の方向に回し、三度射撃。
「…気持ち行き過ぎたか…?」
俺の射撃の腕か、本当にズレてるのか分からなくて、もう一度落ち着いて同じ場所に撃ち込む。
「…いい感じ…か」
「今のは何をしていたんですか?」
「このスコープで狙ったところに当たるように調整してるところなんだよ。本来はこんなに近づかなくても四五発でバッチリ出せるんだけど、そこまではまだ出来ないからね…」
「じゃあ遠くのものでも、狙えば当たるんですか?」
「上手い人は一撃で命中だね。俺の世界で昔、スコープ使わないで狙撃しまくってた狂った人がいたらしいけど、普通の人はスコープないと無理」
左右方向は大体良いとこ出ただろう。距離がもっと伸びてくれば修正も必要かもしれないが…そもそもそんな的に俺は当てられる気はしない。
200m…頑張って木位には当てられるようにしたい。
そんな気持ちで木から大体200m離れてまた射撃。
スコープの視界の中に、突然したから湧き上がるように何かが入ってきた。
「ん?」
「地面に当たりましたよ?」
「あっ…そういう事か」
どうやら地面を抉ったことで土後舞い上がっただけのようだ。
こう言うのは立ち姿勢だとよく見えるらしい。
「てことは…」
今度はスコープの上に突き出しているダイヤルをカチカチと回す。
…2択が弱いと最近感じてる俺だが…今度は合ってるだろうか
意を決して射撃。
「さっきより奥で地面に落ちましたよ」
「おっ…てことは合ってたか」
さっきと同じ方向にもう少し回す。
俺も確認してみたが多分150m程で着弾してる。
もう少しでいいはず…
また同じところを狙って…
「…木に…当たったぞ!」
「凄いです!!」
微調整に微調整を重ねて…
「…で…出来た」
「ピッタリ…なんですか?」
「そのはず…本当はこの距離の何倍も狙えるんだけど…今はこれで限界。肩も痛いし…」
そんな感じで恐らく200mでゼロイン出来たであろうM14でもう一度隣の木に向かって射撃。多少ズレたもののしっかりと木には着弾した。これ以上は俺自身の腕を磨かないと判断のしようがないとひしひしと感じる。
そろそろお昼だなとミリアナと片付けをしながら、戻る準備をしているとふと声をかけられる。
「それが五歌君の銃ってやつ?」
「え? あっシェルシーさん、そうですけど銃がどうかしましたか?」
「なんかバンバンうるさくて様子見に来たのよ。その武器のことも少し興味あったしね それでどのくらい強いの?」
「強いのって聞かれてもなぁ…正直わかんないですよ」
「…じゃあこれ壊せる?」
シェルシーさん自体は何もしてないような感だったが、突如として目の前に薄い膜…いやガラスのような透明な板が現れた。
よく観察してみるとうっすらと赤みを帯びていることに気づく。
透明な壁越しにシェルシーさんが説明を始めてくれた。
「雪音ちゃんはもう分かるわね」
「今日やったばっかりですし…」
「そうよ。これは防御魔法の初歩中の初歩の”魔力壁”みんなはよく魔壁と略すわ。魔壁は魔力を純粋に集めて形にしたもので、どんな属性の魔法使いでも魔力さえあれば作れるものよ。ちなみに魔法使いの属性によってこうして色が若干つくし、それで同じ属性の攻撃に対して若干耐性がつく。その逆もね」
「じゃあ…赤いっていうのは火属性?」
「そういう事ね」
「魔壁…これを撃てばいいんですね?」
「ええ」
できるかな…シェルシーさんの防御魔法ってことだろ?
まだ詳しくは理解してないが魔女は魔法使いより上の存在らしい。
そんな人の防御魔法を貫けるのか…
疑問と不安の中、片付けてたM14に弾を込めて魔壁に向けた。
「撃ちますね!」
安全を考えて魔壁と10m程距離をとって射撃。
1発放たれた弾丸が音速を超え空気を切り裂きながら発射された。
刹那。轟く銃声に紛れてキンッ!と言う聞きなれない音が聞こえたかと思うと、弾丸が命中した魔壁にピシッとヒビが広がった。
「へぇ…」
確認すると弾丸の当たったところともわれるところには10mm程の穴が空いており、そこから放射状にヒビが全体に伸びている。
指先で触れると、魔壁がパンと弾けて消滅してしまった。
「こうもあっさり破壊されちゃうとさすがに悔しいわね」
「多分…盛土の方が弾丸防ぐなら効果ありますよ? たしか10mm位の鉄なら貫通する威力はあるんで」
「10mm…そこら辺の盾でも無理なのね…」
魔壁と言うのがこうもあっさり破壊されてしまったことが、そんなに凄い事だったのかシェルシーさんの様子がおかしい。
「魔力壁って全ての魔法使いが使えるって言ったわよね」
「そうですね」
「魔壁の強度はそれぞれここで違うのだけど、魔壁を破壊できる武器って場所によっては教会によって禁忌にされてるのよ」
「え…なんで?」
そんな理不尽なことがあるか
魔法使い全てが使える防御魔法の魔力壁ってやつを破壊しうる武器の取締って…
それはもう刀狩と同じような…
「まさか、そこまでして魔法の絶対的地位を守ってるんですか?」
ふと埋葬の時にあった教会の爺さんを思い出す。
魔法使い絶対主義…か。
「くだらないことにそれが教会の方針なのよ。魔法以外の力は認めないし、まさにそんな武器は異教の力、果ては悪魔の武器とまで言われるわよ」
「そんな…めんどくさ…」
魔法を使えないってだけでこの世界では言わば負け組なんだ。
魔法さえ使えれば人生の選択肢は広がるし、地位も手に入れられる。
こうして冒険するなら魔法の有無で生死が決まるらしい。
だからこそ魔法を使えない俺が雪音に追いつくには”銃が必要なんだ”
「困った弟子だわほんと。教会に見つかると厄介なのは雪音ちゃんだけじゃないんだもの」
「…でも俺はこれを捨てるなんて出来ないです。やっと雪音と同じスタートに立てたのに…」
「同じスタート…ね。まぁ私はとやかく言わないわよ。教会に目の敵にされてもあなたと雪音ちゃんなら何とかなるし、それに今はもう1人頼れる子がいるんでしょ?」
「えっ…あ! はいっ! 私は五歌さんにどこまでもついて行きます!」
「ミリアナ…」
「むっ…」
教会か。俺の力は確かに魔法の絶対優位を崩しかねない存在だろう。
この世界において魔法使いの絶対数こそ少ないものの、それを補うほど魔法の力が大きい。
出来はしないが俺が魔法を使えない者達全てに銃と弾を与えたらどうなるだろう。
一瞬にして魔法優位は崩れるはずだ。
「そういうことよ。大きすぎる力は目立つ。その事を忘れないようにね」
「五歌君? どうしたのそんなに暗い顔して」
「…なんか嫌な流れだな…って思って」
「何かあったの?」
その日の夜、リビングで雪音の入れてくれたココアを飲みながら考え事してたら向かいの椅子に雪音が座った。
「教会の話あったろ?」
「うん」
「俺はこの世界で銃を手放せない。ってことは必然的に教会との対立は必至って事だろ? シェルシーさんの口ぶりからしても教会って言うのは相当な力と組織力のある。この流れは嫌だなって…」
「そう…だね。私が言うのも変かもしれないけど魔法使えるだけで偉そうにしてるのは違うなって思ってた」
俺達はこの世界のことをまだまだ知らない。魔法使い絶対主義みたいな実態も聞いただけでこの目で見ないとなんとも言えないが、俺の敵になる可能性が高い存在ということ、魔法の地位を守るためにそれ以外のものに力を与えない姿勢に嫌悪感を抱かずには居られない。
もしかしたら教会のせいで魔法以外の武器が剣や弓に留まってるのかもしれない。
もしあの時、ミリアナ達の護衛が銃とまでは言わないがあれ以上の武器を持っていたら…もしかしたら…
「…」
「五歌君…? 顔…怖いよ…」
「ごめん…。でさ、そろそろ元の世界に一旦帰らないか? ここに来てもう随分経つだろ?」
「そっか…色々あったから時間の感覚狂っちゃったね。…うん、戻ろっか。話してたら恋しくなっちゃった」
この召喚能力の存在を知ってから欲しいものが沢山できた。手持ちで持ってくるには限度があるし、武器類なんかはそもそも手に入らない。
一旦帰って色々準備したい。
「じゃあ帰るか」
いつも通りスマホを取り出して確認。当然カウントダウンは随分と前に0になっている。
少し照れるけど雪音と手を繋ぐと俺はそっと親指を動かす。
「少しミリアナちゃん可哀想だね」
「俺たちが帰ってもこっちは時間が進まないんだ。大丈夫じゃね?」
「ううん、そうじゃないの」
「ん?」
気を取り直して今度こそ帰ろうと画面をタッチする直前…
「いかないで!!!!」
「なっ!? みりあ…」
「ミリアナちゃん!?」
どこかで聞いていたのか、涙が溢れそうな顔でどこからともなく現れたミリアナは勢いよく俺に飛びついてきて…
「あっ…」
間抜けな俺の声と共に俺達は光に包まれた。




