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ステルア旅行記  作者: 芳賀勢斗
始まり?
12/16

別れの時

「おっふとーん!」


そうはしゃぎながら、誰かと同じようにベットに飛び込んだ雪音が、まるで溶けていくかのようにぐでーっと伸びきった。


「疲れたよぉ…ミリアナちゃんは大丈夫?」


「っ…大丈夫です!」


雪音と同じくして部屋に入ったミリアナはそそくさと自分の荷物を収納に収め、静かに買ってもらった服を綺麗に吊るしていた。


「こっちおいでよ〜」


「ぇ…あっ失礼します」


シングルベッドが2つならんだ間の隙間に入ると、ちょこんと端っこに腰掛けて少し経つ。…微妙な空気が漂った。


(何でかな…私うるさすぎなのかなぁ)


お互いに今まで上手くいってないことくらい自覚してた。

どうミリアナに接しても雪音に接されてもお互いに裏目に出てしまう。


「ミリアナちゃん?」


「はぃ?」


「ミリアナちゃんを五歌君が助けたんだよね…」


「…はい。返しきれないくらいの感謝しかありません…」


「そっか…五歌君また頑張ってたんだ」


あれ…今普通に会話出来た?

そっか…五歌君の話ならできるかも…?


「五歌さんは私の母が死んでしまったことまで一緒に悲しんでくれました。もっと早く…気づければ…っと」


「五歌君らしいね」


「そうなのですか?」


「私もね、五歌君と出会ってそんなに年月は経ってないんだよ。たまたま一緒にいることが多くて、話してみたら結構気が合うなぁって感じだったかなぁ」


「今は…どうなんですか?」


今は…


「…ミリアナちゃんはどこまで知ってるかわかんないけど、私達違う世界から来てるの」


「…やっぱりそうだったんですね…」


「あれ? そんなに驚かない?」


私だったら絶対信じないけど…シェルシーさんもミリアナちゃんも…すんなり…

うーん…。

やっぱり魔法がある世界だとそう言うのにあんまり抵抗とかないのかな?

召喚魔法だってあるって聞いたし…


「五歌さんも時々聞きなれない言葉とか、見たことない道具とか使ってるのよくみますし、雪音さんの料理だって食べたことない美味しい料理でした…。そして今日魔女さ…シェルシーさんとの会話が聞こえて確信というか…」


「そっか…やっぱりミリアナちゃんは凄いね」


「え…?」


「私の国でミリアナちゃん位の歳の子なんてほんとに子供なの…もう家族と会えないなんて私は耐えられそうにないよ。絶対塞ぎ込む。でもミリアナちゃんはしっかり前見て歩いてるじゃん? 新しい環境に慣れようって気持ちが凄い伝わってくる。だからかなぁ〜なんか応援したくなっちゃって少し空回りするのかなぁ…あはは…」


「雪音…さん…」


「だからね、何か困ったことあったら私にも言って欲しいなぁ〜」


「雪音さん…」


「さっきの答え。私達ね…この世界に来て最初に死にかけたの…五歌君なんてシェルシーさんが居なきゃ死んでた。でもね、その時自分だって怖くて震えてるくせに必死で私を逃がそうと戦ってくれたんだ」


「その時からもう…好きかな。友達とかじゃなくて…それ以上に…」


「…そうなんですか」


はぁ!!! ミリアナちゃん相手だとしてもなに恋バナしてるんだろ!

まぁでも…今までで1番話せた…んだけど!

でも…良い機会なのかな

私の心の整理ができた気がする。


「あの時逃げることしか出来なかった私なんてもう嫌だから私は頑張って強くなるって決めたの」


「っ…」


「守られるだけじゃない。逆に今度は守ってあげたい。それでね、五歌君からから聞いたんだけどミリアナちゃん強くなるために武器欲しいの?」


「…はい。私みたいな子供でも強くなれる手段があるなら何でもします」


「でももう安全に暮らせるんだよ? 私だって五歌君だってミリアナちゃん大切だと思ってるし、これから一緒にいる家族みたいなものだもん。ミリアナちゃんがこの場所にいるために戦わなきゃいけないなんてそんなこと絶対ないからね?」


五歌君と少しだけ話した。ミリアナちゃんを戦わせる理由なんてないはず。もっと言えば五歌君だって命かけて戦ってほしくない。


「…そんなことありませんっ…私はもう失いたくないんです。村の人たちもお母さんも死んじゃって、そんな私に居場所をくれた五歌さんやこんな私を大切と言ってくれた雪音さんを失いたくないんです」


「…」


「私だって雪音さんと同じなんです! お母さんに助けてくれた時も、五歌さんが戦ってくれていた時もただ震えて何もできなかった自分が嫌だから…強くなりたいんです!」


「…そうだったんだ…私と同じ…なんだ」


「なんかごめんね…ミリアナちゃんの気持ちも知らないで勝手なこと言って…一緒に頑張ろっ!」


私は勢いに任せてミリアナちゃんの両手を掴んだ。思えばこの時初めて…手を握ったことに気づき、今までの反省はどうしたァっと後悔。

今までいい感じだったのに台無しになってしまわないかと恐る恐る様子を伺うと…


「はい。私も強くなります。五歌さんに恩返しができる程には…そして…」









”雪音さんにも負けません”








負けません。その言葉がオドオドしていたミリアナから出た言葉とは思えないくらい意思の籠った熱意ある宣言のように聞こえる…

女子同士…だからなの…?


違う。


「え…? そ、それはどう言う…え…ミリアナちゃん!? ねぇ!? ちょ…なんで無視するのっ!? 負けませんって何に!? もちろん強くなることだよね!? えっ!? ええええええええええええ!!!!!!!!!!!」


明らかにあれは子供のする目じゃなかった。絶対に負けないと心に決めた瞬間にする”女の目”。

それを揶揄するかのように、私の問いかけに全く一切返すことなく私のベットを後にしたミリアナ…ちゃんは空いているベットに潜り込み静かになった。


「え…ミリアナちゃんは…ライバルだった?」


五歌に命を救って貰って惚れ、弱いままの自分じゃダメだと強くなろうとした2人。

同じきっかけ、同じ動機、同じ目的だと知ったミリアナは余計に負けたくないと思った。スタート点はほとんど同じ。若干リードされてるし、スタイル良くて、五歌さんと同い年。魔法って言うアドバンテージがある雪音だとしても、負けたくない。

子供特有の意地があったとしても、五歌に救われたミリアナにとって負けたくない相手…それが雪音だった。


「私はとんでもない子を…トホホ…」


それでも…

雪音がミリアナを見る目に嫉妬の文字はなかった。”まだ”相手は子供という余裕があったからかもしれないけど、まずは家族を失い夢も希望も絶望に消えてしまったミリアナに”新しい目標”が出来たこと。


好きな人の取り合い…かぁ…普通ならドロドロなんだろうけど…このくらいなら…まぁありかな


「私も負けないよ」


そう。ミリアナを思いもよらぬ事で救った雪音が、この時はまだ救ったミリアナに頭を抱えるようになる事など知る由もなかった。















コンコン…気が響くいい音の後に、どこかで聞いたような女性の声が扉越しに部屋に拡がった。


「お夕食の準備が出来ましたので食堂にお越しください。お連れ様も向かっております」


「え。あ、わかりました。わざわざありがとうございます!」


「いいえ〜では」


もう夕食の時間か…この世界の人って朝早くて夜も早いからなぁ。

お陰様で日本での生活もココ最近は調子が良くて、朝食を食べる時間が持てたりする。以外な副産物だった?


「まぁミリアナの装備もあらかた片付いたし、いい区切りって感じだ…お腹も空いたから行くか…」


あまり遅く行ってみんな食べ終わってて、一人で食べる事になるのは少し寂しいから、すぐ向かうことにした。

部屋の扉を開けると確かに肉が焼ける香ばしいスパイスの香りがうっすら漂っていた。

さらに食欲をそそる。


「あ、やっと来たわね。何してたのよ冷めちゃうじゃない」


「待っててくれたんですか? これはすみません…」


「まぁ良いのよ。みんな揃ってるし早く食べましょ」


4人がけのテーブルにシェルシーさんと雪音、ミリアナと俺で座った。

食堂はいい雰囲気のファミレスのような感じだ。

いや違うかな…バー見たいなお酒が沢山並んでるカウンターもある。


居酒屋みたいな…そんなイメージ。


それより…


「なんかミリアナ雰囲気変わったか? …もしかして雪音に何かされた?」


こうも短時間でどうにかなるとは思えないが…雪音は全属性持ちの魔法使いだ。しびれを切らした雪音が精神魔法を使い出さないとも言いきれない。


「もぉっ私そんなことしてないっ!」


「じょ、冗談だって…」


でも明らかにミリアナの雰囲気は変わった。明るくなったというべきか…雪音がなんかしてくれたんかな?


「それでなんですけど、明日って具体的に言うと何すればいいんですか?」


「手をこうして組んで目瞑って祈るだけよ?」


そう言うとフォークを置いたシェルシーさんがまるで神殿で祈る人のように胸の前で手を組んで目を瞑った。


「…それだけ?」


「他になにかすることある?」


聞き返されて少し考えて…確かに葬式って坊さんの念仏を聞いて線香の粉みたいなやつファさぁってするだけだもんな…

葬式に行ったことないからただのイメージだけど


「確かにありませんね。じゃあお墓に埋葬する感じですか?」


「そう。この国では土葬が主流ね。でも今回みたいな村人全員となるときっと共同墓地的な集団埋葬になるわね」


「そう…なんですね」


なんか見送る人が俺達だけで、まとめて埋葬させられるのはなんか寂しいような気もした。


「ただ、ミリアナちゃんのお母さんは別にしてあげたわ。ちゃんとミリアナちゃんが送り出せるためにね」


「シェルシー…さん。ありがとうございます…本当に…」


「良いのよ。そう言えばさっき思い出したわ」


「え?」


「確かにあなたのお母さんに薬渡したのを思い出したの。結構前だったわよね? あの時もっとミリアナちゃん小さかったから」


まだ涙ぐみながらもこくりと頷き返すと、「そうかそうかあの時か」とシェルシーさんが満足したよに料理を口に運んだ。


「そう言えばミリアナの村ってどんな所だったの?」


「普通の村ですよ? 楽しいとこと言えば近くの小川位のなんも無い村でした。私くらいの子供も数えるくらいしかいなくて…」


「でも竜神祭ってやってなかったかしら? それの関係であなたの村にたまたま行ったのよ」


「竜神祭…懐かしいです…時期的には今頃でしょうか。確かにあの時ばかりは色んな人が村に来て楽しかったです」


「竜神祭?」


「はい、元々は私たちの村に伝わる古い言い伝えから生まれたお祭りなんです」


「へぇ〜どんな言い伝えとか聞ける?」


「大した話でもありませんし、本当かどうかもわかりませんよ?」


「言い伝えって大抵そんなもんじゃない?」


「じゃ、じゃあ…」


まぁ、食事中の他愛のない話としておもしらそうだったし、ミリアナの事をもっと知りたいと思っていた俺達は食事の手を少しるるめてミリアナの話に耳を傾けた。


「私たちの村の始まりは終わらない戦争の中、竜族によって作られたとされています。紆余曲折あるんですが、戦乱に巻き込まれて焼かれるはずだったこの村を一体の竜が防ぎ、戦後もその竜と交流があったと言います。しかし、しばらく平穏が続くとその竜は突然村を離れると言い、代わりに村の名前と竜の守護を私たちのご先祖様たちにお与えになったそうで…」


「それが私の村、シァルダーツ村の始まりです。そして…」


ゴソゴソとミリアナが、動き出した。

何をしだすかと思えば、少し長い後ろ髪を持ち上げて細く綺麗な首筋を見せてきた。


「ん…? 刺青?」


「え、そんなのあったの?」


「守護を頂いたご先祖さまの血を絶やさなかった家に生まれた子供にこういう文様が刻まれます。私の家も習わしで血筋を重要視していたようなので、こうして白い文様があります」


何そのファンタジー設定…。

でも見た感じ明らかに人為的なものを感じる。遺伝子がどうのこうので現れるアザのようなものでは無いのは確かだ。

もしかしたら竜の守護と言うのもあながちでたらめでは無いのかもしれない…


「シェルシーさんは知ってましたか?」


「ええ。もちろん気になって調べたことあったけど、確か正体は分からなかったのよ。直接魔法が付与されているとかでもなさそうなの。竜族の魔法って私たちのとは少し違うのよ。それも関係あるかもしれないけど、ずっとその模様が原因で何か起きたなんて無いから、心配はないと思うわ」


模様の正体が分からないって言うのは不安ではあるけど…こうして何代にもわたって実害がないなら確かに気にするようなことでもないのかもしれない


「ならなんで竜は守護を施してから消えたんだろうな」


「そこまでは分かりません。ただ、悪しきものと戦いに行った…や、人里に飽きた…や、仲間の元に帰った…とか色々な解釈があります」


「まんまおとぎ話みたいだけど、唯一合致する竜の守護っていうその模様はやっぱり気になるね…必ずなにか原因があるわけだし」


魔法的なものでは無いってシェルシーさんが言うのだから、多分それは正しいんだろう。

もしかしたらシェルシーさんの言うように俺たちでは感知することも出来ないような高位の魔法なのかもしれないけど、それ以外にあり得るとすれば遺伝子レベルでこの模様に関係する何かが刻まれてるって事になる。

なんにせよ、分からないってのは不安だ。


「でも本当におとぎ話ですよ…竜の守護だって本当に存在してたなら私の村が全滅することなんて無かったでしょうし」


「それは…そうかもしれないけど…」


誰かに聞こうにも当事者であるミリアナ以外のシェルダーツ村の住民は全員死んでしまった訳だ。

ミリアナだって言い伝えの事をそこまで知っているわけではなさそうだ。


「そもそもなんでミリアナの村にそんなに魔物が集まったのかって言うのもまだ謎だよな」


「…はい」


「そういうことって頻繁にあるものなんですか?」


「流石に頻繁に起きてたら一大事よ。でも今回の件について言えば不自然な点はいくつかあるって言うのも確かよ。まだ憶測だし詳しい話は出来ないけど、多分今頃サイガ君がシェルダーツ村に行って調べ事でもしてるんじゃないかしらね」


「え、居ないと思ったらそんなとこ言ってるんですか!?」


「本当に野宿だなんて…」


「いいのいいの。そもそもあの子だって仕事押し付けられて私のとこ来たわけだし、ミリアナちゃんの件もそれに関係があるんじゃないかって私も思ってたの」


「確か…ダンジョン? でしたっけ」


「そ。ダンジョンが出来てそこから魔物が湧き出した。たまたま近くの村がシェルダーツ村だったって事も有りうる話ってことね。そもそもジャイアントオーガなんてあの森にいないわよ。洞窟とか…それこそダンジョンの下層とかに居るやつなの。そんなものが森に出てくるなんて異常ね」


ダンジョンって…あれだよな。上に行ったり下に行ったりするほど出てくるモンスターが強くなるところ。

俺…そんな下層にいるやつ倒したのか…


銃つよ…


会話が一段落した感じになったから、休めていた食事を再開。

ココ最近は雪音が作る料理を食べていたせいなのか、味付けも食感も新鮮に感じる。

家の味と店の味って確かに違うよな…


ん? 雪音の料理が家の味…?


「っ…」


「五歌君? なんか顔赤いよ? それそんな辛かったっけ?」


「え、あ…いゃ…俺辛いの苦手だからね…」


危ない…変な妄想はやめよう。

でも同級生の女子の手料理を毎日食べれるって凄いよな…

俺もなんかしてあげられないものか…料理は絶望的だし…


洗濯するっ言ったら完全に変質者だもんな…自分のだけ洗うって言うにしてもそれは雪音の手伝いにならないし…

うーん。




家事に手を出せない男の図であった。




「本当に大丈夫?」


「いや…なんか最近雪音に頼りっきりだなぁってふと思ったらねぇ…毎日の食事とか洗濯とか家事全般してるじゃん? 俺なにもしてないじゃん? まぁ風呂掃除くらいはした記憶あるけど…」


良い機会だし、直接聞いちゃおうと思い切って話してみることにした。

流石にこのままってのは俺の良心が痛む。


「…っくふ」


「え?」


「あははっ…そんな事気にしてくれてたの?」


「そんなことって…」


「いいんだよそんなの、好きでやってるの。第一五歌君そう言うの不器用そうだし、お風呂洗ってくれた時も滑って転んでたじゃん?」


「っ…」


うわぁっ…バッチリ見られてんじゃん…墓場まで持ってこうって思ってたのに…


「それにね、五歌君の助けになってるって思ったらなんか嬉しいの。それに家ではお姉ちゃん何もしないから私がご飯とか洗濯とかしてたし…これが日課って言うのもあるかな」


「そうは言っても…」


「んー…そこまで言うんなら少し考えてみるね」


「なんかすっかり私の家が雪音ちゃんのお城になったわね…まぁ結構助かってるけど」


なんか前から思ってたけど雪音スペック高いんだよなぁ…

女子ってみんなこうなの?

いや…これは女子力というのか…とにかく凄いよなぁ


ムスッ…


どやぁ〜


え…なんかミリアナと雪音が微妙な感じになってるんですけど…

何これ


(この子達おもしろいわぁ〜)


ただ1人この状況を楽しむシェルシーであった。












コンコン…


「はい?」


「五歌だよ。ミリアナ少し借りて良い?」


「良いけどミリアナちゃん今お風呂入ってるよ?」


「まじか、なら明日にしようかなぁ…」


「なにかあった?」


「昼間ミリアナ用の武器を選定するって約束しただろ? それが終わったから試しにって思ったんだけど」


時間しくったかな

お風呂上がったあとだと寝るの遅くなっちゃうし、出直すか


「ま、待ってれば? もうすぐ上がると思うし」


「いいの?」


「今更だよ」


「それも…そっか。」


部屋は当然だが俺の部屋と変わりはない。

あるとすれば…若干いい匂いって事くらいだ。


シェルシーさんの家で一緒に暮らしてるとはいえ、夜の寝室で2人きりってあまり無いからな…と言うかそんな状況避けてたからな。

お風呂のお湯の音が微かに聞こえてくる以外静かな部屋だった。

隣室の物音も何も無い。


「五歌君…」


「なに?」


「なんか…不思議にならない? この世界にいる時と日本で普通に学校行く生活とで、なんかこう…」


「自分が2人いるみたい…?」


「そうそれ。やっぱり五歌君も思ってたんだ」


「そりゃまぁ…多分このまま元の世界に戻った時…この世界に慣れた俺達って…」


「多分…物足りなさを感じちゃうよね…きっと。そして危険があることは分かってるけどまたこの世界に来ちゃう」


「あの平和な世界をから離れないための…無意識的な心の制御かもね」


何回か全く異なる世界を行き来して、最近感じてきた若干の違和感。

日本にいる時にはこっちに無性にこっちに来たくなって

こっちにいる時には日本に帰りたくなる時がある


それは雪音も同じだった。


「雪音はこれからどうしたい?」


「え、何急に?」


「これからずっとこっちの世界に通い続けるか?」


「…もちろん」


「そっか。そうだよな」


「ミリアナちゃんに挑まれたからね。逃げる訳には行かないからねっ」


「挑まれたって…何を?」


雪音はベットに腰かけて、足をブランブランしながら話した。

その顔はどこか恥ずかしそうで、どこか楽しそうであり、何より…


「っ…」


何より何かを隠すように振舞った笑顔が…陰キャの俺にはだいぶ刺激が強すぎたみたいだ。

胸の高鳴りがうるさいほどに頭に響く。


「ひみつ」













「あれ…五歌さん?」


「あ、やっと上がったか。ミリアナを待ってたんだよ」


「え…私…ですか? 呼んでくれればすぐ上がりましたのに…」


「いやいいんだよ。それより昼間言ってた武器のことでね」


「あっ…確か私用の武器を…」


「そ。時間大丈夫? 眠くないか?」


「まだ何ともないですよ?」


「じゃあ手早く済ますよ」


ミリアナの熱い視線を感じた。

かなり期待されてるみたいだ。もしかしたらこの時をずっと待ってたのかもしれないと思うほど目が輝いて見えた。


でもな…


「最初に言っておくと、ミリアナに使ってもらおうと思ってるのはまず俺が使ってるやつよりも断然弱い。多分人よりでかい魔物は1発では倒せない。ジャイアントオーガレベルになるとまるで効かないやつだぞ」


「…分かってます」


「…じゃあ渡すぞ」


ポチ。


またスマホのフラッシュが炊かれたと思うと、俺の手の中に変わった形の銃が握られていた。

黄土色。一般にはタンカラーと言うのか。


「変な形…」


その奇妙な形の銃を見て、思わず雪音も呟くほとだ。


「これはベクター。クリスヴェクターって言う銃だよ」


「ヴェクター…?」


「まず銃の強さ。つまり威力はこの弾丸に依存する。弾丸がより大きくより速く撃ちだせるほど強い銃って訳だ。当然、強くなる分俺達に跳ね返ってくる衝撃も大きい。…俺は記憶が無いんだけどミリアナ、あの子供の猪をM14で仕留めたんだろ? あの時覚えてるか?」


「…はい。引き金を引いた瞬間、手から銃が離れて…」


「…本当に怪我なくてよかったよ…まぁそれが反動。リコイルってやつで強い銃ほどリコイルも大きくなる。リコイルを抑えられないと銃は使えないってことだな」


要は作用反作用の物理の話だ。強力な弾丸を打ち出すには、同じだけの力がリコイルとして発生する。

弓も銃弾も砲弾も加速させる武器を使いこなすにはリコイルを押さえ込めるだけの体格が必須だ。


「45口径仕様のベクターが今のミリアナが撃てる限界だと思う。実際ミリアナくらいの女の子がヴェクターを使ってるところは見たことあるしな」


45口径なら人はもちろん、中型の魔物にも発射弾数で圧倒できるはずだ。


しかし所詮貫通力の乏しい拳銃弾であるから、ジャイアントオーガみたいな硬い骨や装甲化した皮膚を持つ魔物が居たら対処は難しくなる。

その時はM14の7.62mmのライフル弾だ。もしくはそれ以上の対物ライフルと呼ばれる巨大な弾丸を撃ち出せるものも必要になるかもしれない。


…体鍛えないとな


「ヴェクター…なんか悪魔の武器みたいですね」


「そう…?」


「響きが悪者そうです。…でもそれが少し頼もしいって感じがします」


マガジンを抜いて、確実にチャンバー内に弾が装填されてないかを確認。

問題がないことを確認してミリアナに手渡した。

恐る恐ると言った感じで受け取ろうとミリアナが手を伸ばしてきた。俺はその手にそっと置く。


「不思議な感触です」


「俺たちの世界ではよく使われる素材でプラスチックって言う」


「こ、こう…構えればいいんですか?」


「そそ、そんな感じ」


やっぱりこの世界に銃に似たボウガンが存在してるからなのか、引き金の位置で握る場所はわかるみたいだ。

構え方もそれっぽい。

と言うか、こういう形にしかならないよな、銃って。


「銃って言うのは引き金を引いた瞬間に銃口を向けていた相手を“誰であれ”撃ち抜く。だから弾が入ってなかったとしても不用意に引き金に指をかけちゃいけないし、銃口を向けてもいけない。これ守らないと指摘オジサンたちに叩かれるから注意」


「してき? おじさん?」


「あ、なんでもないよ。そういう訳だから今日はこのくらいな。俺もまだまだ練習が必要な身だし町から帰ったら一緒に練習するか」


「はいっ!」


そんなにヴェクターが気に入ってくれたのか「えへへ」と笑ってくれた。銃をもらって喜ぶ少女というのは世間的にどうなんだと言われるかもしれないが…俺としては…


「美少女と銃ってホントに相性良いんだな」


「へ?」


ボソッと思わず口に出してしまった一言が思いの他響いてしまい…。


「え、あっ…私なんか…そんな…」


ミリアナの顔がぱぁぁぁっと真っ赤に染まってしまった。


「…」


雪音からは心なしか冷たく感じる視線を感じる。

なんか…


「そ、それじゃあ俺部屋戻るよ」


手早くミリアナからヴェクターを貰うと、居ずらくなった部屋から逃げるように自室へ戻った。









その日の朝は早かった。

まだ日が昇っていないうちにベットがきしむ感じをした。


「ん…?」


部屋もまだ薄暗くて、当然まだまだ寝たい気分ですぐに目を閉じようとした。


「五歌君? もう起きないと」


「ぅう? あれ…雪音…?」


「そうだよぉ~ ミリアナちゃんの方がよかった?」


俺のベットの端に腰かけていたのは雪音だった。

薄暗いがそれゆえはっきり朝焼けに映った雪音の姿が見えて、思わず目が覚めた。

やっぱ普通に雪音可愛い。


「なんでミリアナが出てくんだよ…おはよ雪音」


「うん、おはよ」


「随分早いけど…どうしたの?」


「なんかここのお葬式って早朝にするみたいなんだよね。私もミリアナちゃんに起こされて知ったよ。シェルシーさんも言ってくれればいいのに」


「言い忘れたとかじゃない? それより時間ってまだあるの?」


「ご飯食べるくらいの時間はあるって」


「そかそか」


とりあえず着替えるか…

まだ寝ぼけていた俺はベットの上で服を脱ぐ。


「っ…」


「ん? …ん!? あ、いや…着替えるから部屋…」


なんか雪音にじっと見られてる気がした。なんだか最近雪音の視線をよく感じるような気がする。

なぜかはわからないが、昨日の一件と言い…


そんな雪音が部屋を出ていくのかと思いきや


「ちょっ!?」


気づけば間近に雪音を感じるものだから、何事かと後ずさりするが何分急だったものでバランスを崩してベットに横になってしまった。


なんか…雪音に押し倒されたみたいになってるんですけど


「雪音!?」


「…傷跡、完全に残っちゃたね…」


「え?」


雪音がそうつぶやくと、少し冷たくて細い指が俺の腹をなぞるように触れた。

俺の腹の傷と言えば、異世界来て早々掻き切られた大傷の事だ。雪音の言う通り今では何の違和感もないが、傷跡はしっかりと残っている。


次第に雪音の指はわき腹の方に降りていき、先日新しく追加された刺し傷に触れた。こっちも塞がって治っているものの日の浅い傷だからから、傷口も馴染んでいなくて段差がまだある。少々えぐいと思う。


「今度は“私が”守るから」


俺は雪音の言葉にどう返せばいいのかわからなくなって、しばらく口を開けなかった。











「遅いわよ2人とも。一体2人で何してたのよ」


「特に…」


「五歌君なかなか起きなくて〜」


「イチャつくのもいいけど今日くらい控えなさいよ」


「そんなことしてませんって」


「とりあえず、早くたべて行くわよ」


流し込むように朝早いのにも関わらず宿の人に作ってもらった朝食を平らげると、水を飲んで息を整える。

もちろんミリアナは昨日買った服装と言うかドレスだ。色は黒と白で落ち着いてはいるが、フリフリとかリボンとか結構色々あしらわれていて、日本の喪服という感じではなかった。

何となくゴスロリ衣装にも見えなくもない。


「…雪音さん、コルセット閉めてくれませんか?」


「凄い…こんなお姫様みたいなドレス初めて触ったよ…」


当然コルセットなんて着たことなかった雪音だが、試着の時も手伝っているし、紐を締め上げて結ぶだけという言葉を頼りに頑張っていた。

聞けば朝食を食べる時、きつく閉まっていたら食べれないし座れないしで大変だから、紐は緩んでいたみたいだ。


どおりで…胸元が開いてるんですね…


いや…うん。故意で見たわけじゃないからね。


「え、もっと!? キツくないの?」


「まだ大丈夫です」


グッググッと背中の紐を力ずくで締め上げていく雪音。これには俺も苦笑いした。力ずくで切る服ってどうなんだと…まず日本では考えられないからな。

無理やりキッついジーンズ履く人いるけど、辛くないのかなと毎度思う。


「ドレスってやっぱり普通に着てるもんなんですか?」


「ん? まぁ身分によってはね。ただミリアナちゃんとかそこら辺の人は冠婚葬祭とかの行事でしか着ないかしら。貴族とかはほとんどドレス姿だけどね」


やっぱりドレスは日本でいう浴衣とか着物って言う扱いなのかな。

家柄によっては年中着てそうだし


「で、できた…」


「ありがとうございます!」


「いいよいいよ〜えへへ」


相当疲れたんだと思う。そりゃ緩んでるところを1本1本つまんで引っ張って締め付けての繰り返しだもんな。指摩ってるし朝からお疲れ様だ。


「絶対あんな服着たくないよ〜絶対苦しい」


「まぁでも見た感じ凄いスマートに見えるっていうか、お腹周りとか綺麗だよね」


「頑張って締め付けたからね」


ようやく全ての準備が整い、朝早くから朝食を作ってくれた宿の人に軽く挨拶を済ました俺達は、シェルシーさんの後に続いて宿をあとにした。


「朝早いっていうのに結構人通りは多いんですね」


「もうそんなに早くはないわよ。朝市なんかもうとっくに始まってるし、そろそろ品切れも始まる頃よ。保存効かない肉や魚なんて朝の涼しい時間帯にしか並べられないしね」


「あ、そういう事か」


そう言えば昨日の昼間に生鮮食品が全く見なかったのを思い出し納得した。

でもこの町には海も無ければ漁が出来るほどの大河もなかったはず。肉は分かるとしても魚はどうやって運んできているのか…


「魚ってどこから運ばれてくるんですか?」


「大体の魚は隣町のウィンテーヌから乾燥させた干物としてこの町で売られるの。生魚は魔法を施した特別製の馬車で運ばれてくるからこの町では高級品って扱い」


「やっぱり生ものの長距離輸送はまだまだなんだな」


「その言い方だと五歌君の世界だと違うのかしら?」


「違うと言うか、流れとしてはこの世界と同じです。海で取れた魚は直ぐに凍らせて鮮度を保ったまま各地へ運ばれていきます。海から何千キロと離れた他国でも、少し値は上がりますが高級品ではないですね」


「ふーん。面白いわね、そんな長距離を凍結を維持しつつ運べるなんて凄いわね。もちろん魔法なんて使ってないんでしょ?」


「そうですね。魔法は一切ありませんから」


魔法みたいな科学は沢山あるが、本当の魔法は存在しない。


「もしかして雪音、ものを凍させるとかできないのか?」


「やったことないからわかんないよ?」


「そうだよね。ドライアイス作れたら画期的だなぁっと思ったんだよね」


「あー、確か二酸化炭素の氷だっけ?」


「そそ」


「ドライアイス? 乾いた氷? 変わった名前ね」


すかさずシェルシーさんが食いついてきた。

なんかんだ言って、やっぱり俺たちの世界に興味はあるみたいだ。

シェルシーさんから一言も俺たちの世界のことについて聞いてこないものだから…興味無いものとばかり思ってた。

魔法ない世界なんて、魔女にとってみれば…ね


「その名の通り、氷が溶けても水にならないんですよ。さらに冷たさは氷とは比べ物にならないです。不用意に触れば指が凍りつきます」


「へぇ〜面白いわね。それ魔法で作れるのかしら?」


「んぅ〜。作れるはずですね。基本限界まで圧縮するか、温度を下げるかなので」


「圧縮と冷却ねぇ〜風魔法かしら」


「空気を集めるってイメージだとそうなりますね」


「面白そうだからやってみようかしら」


お、もしかしたらこれで炭酸が飲めるかもしれない!

シェルシーさんがやる気になって、魔法で作った炭酸水が飲めるかもしれないと楽しみが増えた。


「なんか、楽しそうな世界なのですね。いつでもどこでも手軽に美味しい魚が食べられて、不思議物が沢山あって、魔法の不得意で他人と比べられないなんて…羨ましいです」


「ミリアナ…」


楽しみが増えたと言わんばかりに意気揚々とするシェルシーとは対照的に、ミリアナのその顔は、本当に羨ましそうでもあったが寂しそうでもあった。


言葉が詰まってしまった俺は助けを求めるように雪音に視線を送るも、雪音も困っていたようだった。










「さて、着いたわよ。とりあえずここがシェルダー村の人達のお墓ね」


着いたのは村から少し離れたところにある墓地だった。

ちょっとした丘の上にあって、景色もいい。

遠くの森との境界線に作が設置されてきて、ここがまだ人のテリトリーなんだと実感できる。


「もう大きな穴は掘られてるんですね」


穴というより、塹壕のような幅2m程の長い溝だった。

深さはそんなに深くないから、遺体を重ねるということは無さそうだ。


「もうそろそろ運ばれてくるんじゃないかしらね」


ちょうど遠くから3台の馬車がこちらに向かってきて居るのを確認する。

ミリアナの肩が小さく萎縮するのをみて、そっと手を置いた。


「五歌…さん?」


「安心しなよ。誰も1人だけ生き残ったミリアナを恨んだりしてないはずだ。生き残ったミリアナがしっかり送り出してやれ」


「…はい」


そうしている間に3台の馬車は俺たちの近くに停車。先頭の一際目立つ馬車から、白いローブを来た初老が降りてきた。第一印象としてはサンタクロースみたいな白ひげだ。


「これはこれは羊飼いの魔女殿。おうわさは本当だったのですかな」


「噂? 何かしらそれ。まぁとりあえず始めてちょうだいな」


「申し訳ありませぬ。もう少々お時間頂きたいですのぉ。して、そちらの少年少女が噂の弟子達ですかな?」


「まぁ、そうよ。あとこの子もね」


「ほっほ、魔女殿が弟子ですか…ほっほ。これまたどんな逸材か…」


そう言うと白いローブの爺さんが俺達に妙に鋭い視線を向けてきた。思わず俺達も身構えてしまうほどに…少し気持ち悪かった。


しかしすかさず間に入ってくれたのはシェルシーさんだった。


「いくら教会でもまだ詮索はしないで欲しいわね。まだまだ半人前でもないんだから表には出せないの」


「…ほっほ。これは失礼しましたな。弟子達殿も何かあれば遠慮なくワシに相談しとくれ ほっほっほ」


そう言い残すと爺さんは準備中と思われる数人の元へ向かって去っていった。

少しシェルシーさんと嫌悪な空気だったのが気がかりだった。


「あれは四大神教会。まぁ胡散臭い連中よ。今回は手続き上致し方なくだけど、関わらない方が良いわね。特に雪音ちゃんは」


「私…ですか?」


「雪音ちゃんの魔法の存在が公になれば、真っ先に動くのは四大神教会よ。それはもう面倒なことになるわ」


「さっきだってあなた達解析魔法されそうになってたわ。もちろん止めだけど、私の弟子ってだけで結構目立っちゃうわね」


「シェルシーさんってそんなに有名なんですか?」


「…まぁ…ね」


微妙にはぐらかされた気もしない感じだったけど、詮索しない方が良い感じなんだろう。

それよりもシェルシーさんにあれだけ言われた四大神教会っていう所に葬式を任せて大丈夫なんだろうかとも思ったが、埋葬自体は普通に行われておるようだった。


馬車から一人一人装飾された担架で運ばれてきて、あの爺さんが十字架を携えてなにか呟いている。念仏のようなものかな。

ミリアナはそうして運ばれてくる一人一人の胸に一輪の花を添えて見送る。


そんなミリアナを俺達は後ろから見守ることしか出来ない。たった1人で村人全員を見送るなんて…ミリアナにとってもかなり酷な事なのかもしれない。


教会も遺体の扱いも雑ではなく、悪い印象はない。

埋葬に限っていえば普通に感じる。恐らくシェルシーさんが言っていたのはもっと目に見えない部分なのだろう。


「辛そうだね」


「あぁ…」


「でもあの子がやらなくちゃいけないの。あの子のこれからにとっても重要なことよ」


「分かってます」


当然小さな村だったのだから、ほとんどが顔見知りなんだろう。

一緒に遊んだ数少ない同年代の子供、おもちゃのボウガンを作ってくれた村人。俺が少し聞いただけでミリアナが村の中でどれだけ大切にされてきたかを感じれた。


しかしもうそのみんなは居ない。

失った悲しみだけじゃなく、失ってぽっかり空いてしまった隙間をどうするのか。

ミリアナ自身が見つけないとダメなんだ。


「ミリアナが失ったものは大きすぎる。でも俺たちがその隙間を埋めてやれないかなって今思ってる」


「うん…そうだね。私も思ってるよ。だけどそれは心配いらないかな」


「え?」


「ミリアナちゃんはもう見つけてるよ。しっかり自分で新しい自分になろうとしてる。五歌君が居ればミリアナちゃんは大丈夫だよ」


「俺? それになんだよその微妙な顔」


「あはは…」


まぁでも、雪音がそこまで言うのならそうなのかもしれない。雪音と同室にして良いか悪いかは別として雰囲気変わったもんな。





30分程だろうか。

遂に最後の一人に花を手向け終わり、運ばれて行った遺体が横一列に並べられた遺体の列に並んだ。

これで村人全員…か。

本当に小さな村だったんだと思う。


ミリアナの顔は見えないが、足元を見れば点々と地面が湿ってる。

確認せずともどうなってるくらいはわかった。


「…帰ったら何してやろうかな」


「一緒にご飯作る?」


「ああ…それも良いかもね」


村人全員が並べられた溝にとうとう土が被せられていく。

数人の教会の人がせっせと儀式用と思われる装飾されたスコップで地道に少しづつ埋められていく。


その光景をミリアナ目に焼きつけるようにずっと眺めていた。


十数分後、全ての溝を土が多いつくしたところで馬車から2人に抱えられて石のようなものが運ばれてきた。

その石には大きくシェルダーツ村とシンプルに掘られている。


墓標…みたいな物だった。


「これで終わり…ですか?」


「ええ。あとはミリアナちゃんのお母さんの埋葬よ」


あの爺さんがミリアナに近寄ってきてなにかを訪ねていた。さっきのこともある。俺もよく耳を済ませて聞いていた。


「あとは君のお母さんだよ。埋葬場所に希望はあるかね?」


「え、選べるのですか?」


「魔女様の頼みだからね。君を最大限尊重するとな…ほっほっ」


「…で、では…村の人達の近くにお願いします」


「承知した。では隣に埋葬しよう」


「ありがとうございます…」


ぺこりと頭を下げるミリアナ。うん。大丈夫そうだ。あの時みたいに心を閉ざすとか…そういうことは無さそうだ。


ミリアナの希望通りにシェルダーツ村のお墓の隣にミリアナのお母さんのお墓が作られることになった。

当然穴を掘るところから始まるから、少々時間が出来た。


「ミリアナ…大丈夫か?」


「…泣かないって決めてたんですけど…結局…泣いちゃいました」


「それは仕方ないよ。ミリアナちゃんは頑張ってるよ! 立派だったよ!」


涙を拭きながらもしっかり落ち着いてるミリアナを見て少し安心した。

やっぱり雪音の言う通りミリアナはいつの間にか新しい自分を見つけたみたいだ。


「喉乾いてないか?」


「…少し」


「飲んどけ」


家(日本)から持ってきたスポドリ。5本持ってきてこれが3本目の未開封。

キャップを開けてあげてミリアナに手渡した。


「え、なんでそんなの持ってるの?」


「あっちから持ってきてたんだよ。あとこれ入れて2本かな」


冷えてないけど気にすることなくミリアナはごくごくと飲んでいる。

やっぱ少し乾いたレベルじゃないんだろうな。

今日は天気もいい。照りつける太陽でこの辺もだんだん暑くなってきてる。

体力も持ってかれているはずだ。


「次がミリアナにとって1番大事なんだから、もう少し頑張れな」


「はい」


「もうそろそろ良いですかな。こちらも準備が終わりましたぞ」


「は、はい! お願いします!」


爺さん達も準備が整い、呼ばれたミリアナ駆け足てたった今作られた穴の前に向かって行く。


埋葬の手順は先程のほとんど変わりはない。でも手向け花のあたりが少し違った。

さっきまでは一輪の花を添えるだけだったが、今度は同じように一輪の花を添えた上で掘られた穴の隙間いっぱいに花を埋めるようだ。

もしかしたらこっちが正式な方法なのかもな。


「おか…お母さん…」


ゆっくりと穴の中へ降ろされておった母の姿にやっぱり言葉が出ない様子だった。


「さぁ。君のお母さんに今伝えたいことは無いのかな。この姿を見られるのもこれで最後。時間は気にせんで存分に話しなさい」


爺さんがミリアナにそう伝えると、馬車の方に消えていった。


「お母さん…お母さん…っ…ごめんねっ…ごめんねっ…うっうあっあ…うっぐ…お母さん助けられなくて…なにも出来なくて…ごめんなさい…」


「私…生きてるよ! お母さんが守ってくれて…生きてるのっ…ちゃんと埋葬出来たの…これもね…みんな私を助けてくれて…大切だって言ってくれる人のおかげなの!」


「助けてくれて…居場所をくれて…強くなりたいって思った私を面倒見てくれる…お母さん覚えてる…? 魔法薬くれた魔女様…私、魔法使えないのに魔女様の弟子にしてくれたの…おっかしいよね…ね…」


「だからね…」


「だからね…安心して眠って欲しいの…」


「ミリアナ…大丈夫なの」


決して返事が帰ってくることは無い。それでもミリアナにとってお母さんに最後に伝えたい沢山の言葉が聞こえてきた。

それはお母さんを安心させるためでもあり、残されたミリアナ自身が救われるためでもある。


「…お母さんにもね紹介したいの。私の…大切な人達」


「え、いいの…?」


突然ミリアナに呼ばれて戸惑いながらも俺と雪音がミリアナの後ろに着いた。


「シェルシーさん…ダメですか?」


「…わ、私なんかがいても」


「シェルシーさんが居なきゃ私もお母さんもここには居ないんです…少しだけ…でもダメですか?」


「…んも…分かったわよ…」


折れたようにシェルシーさんも来た。

顔も知らない俺たちがここに居てもいいんだろうかと、ここまで来て思っているが…来たものはしょうがない。

と言うかシェルシーさん、ミリアナに妙に甘い時あるよなぁ


「シェルシーさん…魔女様なんだよ? お母さんの事覚えててくれたの。今はシェルシーのお家でお世話になってるの」


「…初めまして…では無いのよね。とりあえず…娘さんは大丈夫よ。魔女として立派な…魔女には出来ないけど立派な女にはしてあげる。安心して眠ってなさい」


ちょ…それでいいのか魔女様…

死者に対してくらいその上から目線は何とかならんかったのか…

でもまあ…ミリアナはちっとも気にしてないから…良いのだろう…きっと


「この綺麗な人がね雪音さんって言うの。魔法が得意でね、魔女の弟子って感じなの。料理も美味しいし、家事全部出来ちゃう凄い人なの。それに私に新しい自分を見つけるのを手伝ってくれた恩人なの。私もいつかお返しに雪音さんが手出し出来ないほど完璧に家事こなすの。それに…雪音さんは私のライバルなんだよ…絶対負けないの」


「え、え!? ちょ…お母さんの前で何言って…あ、香坂雪音…です! 私…そんな凄くないです…ミリアナちゃんだって自分で悩んでここまで来たんです…私なんて…なんもしてないです…でも、ライバルやらせてもらってるのは本当です。私も負けるつもりは無いので、天国からこ、公平に見ててもらえると…助かります…」


ちょくちょく聞くけど…ライバルってなんの事だろ…家事勝負?

なんか違う気もするなぁ…

気になるけど…聞いても教えてくれないしなぁ…


…気になる


「そしてね…私を1番に助けてくれた五歌さん。私の1番の命の恩人。そして…大切な人なの。私と同じ魔法使えないのにとっても強いの。魔女様の弟子なんだけど…実際魔女の弟子の弟子なの。五歌さんから沢山教えて貰ってね…私強くなるんだ。大切なみんなを”一緒に守り合う”くらいに強くなるの」


「矢霧五歌です…。もっと早くにあの力が使えていれば…助けれたかもしれなかったんです…。本当に…申し訳ありませんでしたっ。でも…ミリアナは必ず不幸にはさせません。…せ、責任持って一緒に暮らしていきます。不安…かと思いますがどうか見守ってくれたらと思います…」


「…みんな私の大切な人なの。…安心してくれたかな…」


必死で涙を堪えてる。

もう涙でぐっしょりなんだから、もう我慢しなくても…と思うが…









【お母さん…今までありがとぉ…また来るね】










俺達も協力して棚を手向けていった。

花のベットに寝ているよえに見えるほど沢山びっしり花を敷きつめていく。

珍しくシェルシーさんも少しだが手伝ってくれた。

こういう事あんまりしなさそうだから…少々意外だった。

これもミリアナの効果かもな



「終わりましたかな」


「はい…お願いします」


「うむ」


あとは協会の人達がゆっくりと土を上から被せていった。

肉親の最後の姿を目に焼きつけるように、さっきよりもよりじっと見つめている。


「…大丈夫か」


「…はい」


「そっか。偉いなミリアナは…」


「…本当に…偉かったですか…? 私…ちゃんと出来てましたか…? ちゃんとお母さん安心させて送ってあげれましたか…? 私…私…」


「…大丈夫。誰がどう見ても立派だったよ」


「お疲れ様ミリアナちゃん」


「小さいのによく頑張ったわね。偉いわ」


「み、皆さん…」


「もういい。我慢してた分泣いていいんだよ」


「あ…あぅ…本当に…っううっ…いい…っの…?」


無言で頭を撫でると、それがきっかけとなって小高い丘に少女の泣き声が広がった。

今は止めない。泣き止むまで静かに寄り添った。

俺も雪音もシェルシーさんも、こんなにも小さい少女の今の気持ちなんて推し量れない。

だから…静かに寄り添った。




とりあえず…こんな感じで一段落…かな

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