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ステルア旅行記  作者: 芳賀勢斗
始まり?
11/16

町へ行くっ!

やっと町ですね

「町…ですか?」


「そうよ。ミリアナちゃんの家族も、死んだ他の人たちもその村に運び込まれたの。いくらなんでも私の家で埋葬なんてやらせないわよ」


「それは…そうですね」


どうやら俺が寝込んでいた間にシェルシーさんが亡くなってしまった人達を弔う準備をしてくれていたようだった。

町…と言うのがどう言う規模のどんな町なのかっていうのは全く想像も出来ないが、死んでしまった彼らにとっても正規な方法で葬られる事が最善なんだろう。


「何から何までお世話になりました」


「何言ってんの。あなた達に比べたら些細なことよ」


「えぇ…」


やっぱり自覚はしてるつもりだったけど…俺たちの存在自体がシェルシーさんの胃を痛めつける最大の原因だったらしい。

なにができるかは分からないけど…自重しようという意思は持とうと思った。


「あの…魔女様…」


「あなたもシェルシーでいいわよ。それで何かしら?」


「ぁ…ありがとうございました!」


ミリアナにとっては羊飼いの魔女シェルウォーコッド・シーヤという存在は、かなり特別で敬うべきものらしい。

知らないだけでシェルシーさんがとんでもない人物なのかもという思いは前からあった。

だけどこうもミリアナの反応を目の当たりにするといよいよ現実味を帯びてくるというものだ。


「まだ何も始まってないし終わってないわよ。あなたは今まで必死に育ててくれた母親にしっかりと今の気持ちを伝えて見送るの。お礼はそのあとで受け取るわ」


「え…あ…ぁ」


「泣かない泣かない。あなたのお母さんが見たいのはきっと笑顔よ」


「はぃ…」


泣きそうになるミリアナを宥めるように頭を軽く撫でる。

ちょっといつもの雰囲気とは違うシェルシーさんに少し新鮮味を感じた。






「あ、サイガさん復活してたんですね」


「姉御は怒らすとすんげー怖いっすから気をつけるっ(す)グフッ…」


「ちなみに地獄耳…グハッ!」


一発目は脇腹に肘がクリーンヒット。2発目はこぶしが腹のど真ん中にストライクだ。

多分俺ならっていうか…普通の人なら死んでる…


「余計なことはいいのよ。全く…」


そんなこんなで俺達はシェルシーさんの家を離れて、またあの森に入ろうとしていた。

そしてやっぱり徒歩だ。まぁシェルシーさんの家に馬車なんてなかったし、ファンタジーの世界の移動って馬車のイメージ強かったから…

うぅーん。実際徒歩が主流なのかなぁ〜良く考えれば馬の世話も大変だし。


「それで五歌君の武器って言うの見てみたいんだけど」


「銃ですか?」


「そうそう。話だけ聞くとほんと訳分からない武器なのよ?」


「じゃあ…出します」


ぱっとM14を召喚。俺が気絶する時持っていたはずのM14は何故か消えていた。

サイガさんに聞くと信じられない事にミリアナが自力で撃って子供のイノシシを仕留めたらしいが、そのすぐ後にM14が光出して崩壊するように消えていったらしい。


もしかしたら俺が意識を失うとか気絶するとかしたら自動的に消去されるのかもしれないし、または時間制限的なものがあるとかと不安にもなり昨日から召喚した小物をポケットに入れてるが…

特になんの変化もない。


今のところ前者が濃厚だ。


M14を召喚した瞬間に手に重みがずしりと乗っかってくる。


少しガサツいて荒い木製のストックの感触。

あの時召喚したM14と全く同じであろう銃が再び姿を現した。


「それ?」


「そうです。M14っと言って威力としては中の下くらいの攻撃が出来ます。本当はこんな森の中で使うようなものでは無いんですけど…これより…弱いのだと倒せない敵も多そうなんで…」


「中の下の威力のそれでジャイアントオーガを?」


「そうですね。銃というカテゴリーでは一般的な感じのやつです」


「それよりも強いのがあるって事?」


「あるにはあります。それこそ覚えられないくらい沢山ありますよ。こういう銃は伝説の武器でもなければ特殊なものでもないんです。工場で何千何万と大量生産される普通の武器です」


「おっそろしい話っすねぇ〜。視界外から感知不能の一撃必殺の攻撃。そんな武器が平民たちの手に渡れば…ふぅおっそろしいっす」


「…ただ俺のレベル…実力が足りないせいで使いたい銃も道具も満足に使えないのが現状なんですけどね」


レベルさえあれば車両でもなんでも召喚できるんだ。車両が使えるようになれば重すぎて運搬のしようがない重機関銃とかの重火器の運用も可能になる。

多分銃ならなんとかなるが…スティンガーとかジャベリンとかの誘導兵器が召喚出来てもきっと俺には扱えない。やってみなくちゃ分からないが望みは薄い。

兵器の扱い方なんて本に乗ってるかなぁ…RPGとかはなんとかなるような気がする。


「実力って言うのは戦闘経験とかそういうの?」


「そうだと思います。戦う度に上がっていく気がしますから」


「…実戦あるのみって感じね」


「です」


雪音以外にスマホのことは深くは説明していない。

ただ大事なものと伝えてあるのみだ。


移動中はひたすら足を動かすしかやることが無いので、暇で暇で会話だけはよく弾んだ。

ミリアナにはこの距離歩くの大変かなと様子を見たが、必死に話を聞き漏らすまいと耳を傾けることに忙しそうだった。

自分から話に行くタイプではないからだろうな。周りの話から色々得ようとする。俺も似たようなとこあるから気持ちは共感出来た。


「五歌君」


「ん? どうした雪音」


「あっちに帰ってもそれ持ってたら許さないからね。出すのも禁止」


「そりゃ分かってるよ!」


何故かこうして銃を持ってると雪音から冷たい目を感じて落ち着かない…。

でもなぁ…シェルシーさんやサイガさんが一緒にいるから今まで気にしてなかったけど、これ持ってなきゃ俺丸腰だしな…


雪音やシェルシーさんは魔法っていう正直デタラメな武器を持ってる。サイガさんなんか拳の一撃がきっと12.7mm以上の力を持ってる。

この人たちは丸腰に見えても、既に完全武装な訳だ。


「武器は持ってなきゃね。いざってとき困るだろ?」


「まぁ…そうなんだけど…」


雪音は銃に抵抗があるらしい。ファミレスでスタンガンの話した時も同じような感じの反応だったし、銃というより武器そのものに抵抗を感じているのかもしれない。

でもこの状況では致し方ないと思って、こんな微妙な表情になっているのだろうか?


「あ、あの…」


「ミリアナ?」


いつの間にか俺の服の端を心細そうに握ったミリアナが下から見上げるように見つめていた。


「あの…その…」


物欲しそうな目だなぁっと思えた。

よくよく見ればミリアナの視線が俺の顔とM14を行ったり来たりしているのではと思った瞬間、


「あ、そうかそうか。ミリアナにも必要だよな」


コクリ。


可愛く小さくも力強く頷き返された。


「ただなこいつはミリアナにはキツすぎる。もっと扱いやすいのを見つけるまで待っててな」


「分かり…ました」


意外と素直に分かってくれた…か。それかまだ遠慮があるのか…。

俺としては家族みたいなもんなんだからもう少し近づいてきてくれても良いんだがなぁ…と思ってたりするが…焦らせる事でもないな。


「五歌君…本気でミリアナちゃんに銃を持たせるの?」


「本人の強い希望だしな。実際魔法の才能のない少女が強くなる方法なんて銃くらいしかなくないか?」


「むぅ…。私はただ…これからは平和に幸せに暮らしていけるならそれが一番だと思う」


「俺もそうだよ。争いは好まないし避けれるなら避けたい。でも実際はそう上手くいかないんだ…。だからミリアナは争いが起きても大切なものを守れるだけの力が欲しいって俺達に付いて来たんだよ。俺はそれを全力で支えたいし応援したい」


「もう…怪我だけはさせちゃダメなんだからね」


そう言い残すとまだまだ言い足りないような顔をしつつも、ミリアナの不安げな顔を見て渋々引き下がって行った。


「まるで子供で痴話喧嘩してるみたいっす」


「平和ねぇ〜」


永遠と歩き続けているがシェルシーさんやサイガさんに疲れどころか汗の1つもかいていない。俺も雪音もミリアナも疲れが隠せないってのに…

特にミリアナが苦しそうだ。

声には出さないが限界が見え始めてる。


「ミリアナ、大丈夫か?」


「だ…大丈夫…です」


うん…大丈夫じゃ無さそうだ。


「シェルシーさん、町って後どのくらいなんですか?」


「そうねぇ〜この森を抜ければ目と鼻の先なんだけど…小一時間って所かしらね」


「1時間…」


短いようで長い…でもレベルアップした事で俺の身体能力は若干引き上げられてる。1500m走も今の体なら余裕で走り着れそうなほどだ。


「ミリアナ無理すんなよ。ミリアナが疲れ果てちまったら事だからな」


俺はミリアナの前でしゃがみ、疲れもあってか困惑した表情のミリアナに向けて「乗れ」っと合図してみた。


「え…え? ダメですよそんな…」


「いいからいいから。ぶっ倒れられる方が大変だからさ」


「ぇ…」


「ほら置いてかれるぞ? 早く早く」


「…じゃ…じゃあ…お願いします…」


トコトコと近づいてきたミリアナが細い腕を首に回すと、ゆっくり俺の背中に歩き疲れて少し火照って熱い体がを感じた。


「あの…重くないですか?」


「重くはないよ。子供なんて抱いたことないし、これが普通なんじゃないか?」


「普通…ですか…」


背中に乗ってるミリアナは息を潜めるように静かだった。

これもミリアナなりの気遣いなのかそうじゃないのかは分からないけど、とりあえず…だ。


「はぁ…」


「っ…」


時より耳の近くで吐かれるミリアナの熱い吐息がゾクッとさせる。やばいやばい…

俺はロリコンじゃないぞ…



…ロリが通用するのは二次元だけだぞ…。


ミリアナを異性にカウントするのかって言うのは置いておいて、思えば異性というか女の子を背負うとか人生初じゃなかろうか?


なぜか何の抵抗もなくできてしまったけど…世の中に我が子以外の女子を背負うシチュエーションなんてどれだけの男に起こるのか…


貴重な体験をしているという事だ。


歩き続けること数十分。段々と生い茂っていた木々が少なくなっていく実感があった。

全体的に草木の密度も高さも少し前に比べたら見違えるほど少ない。


少し先を歩いていたシェルシーさんが立ち止まって俺達に振り返る。

シェルシーさんのバックは完全に森を抜けて晴天が強いのか真っ白に見えた。


ラストスパートだと限界に近い足腰に鞭打って気持ち居合入れて一歩を踏みしめた。



「お疲れ様。あれがレストヴァーン王国の辺境の町エストラーニャよ」


「おぉ…すげぇ…」


「いーつーかーくーん…いきなり置いてかないで…よ…って…すごぉぉい!!!!」


すげぇぇぇ!

語彙力の欠如とはこういうことを差すのだろうか…?


とにかくその時は森を抜けた瞬間に突然現れた人工物に目を奪われていた。

雪音も俺もこの世界にきてからきっと一番目が輝いていたかもしれない。


「真っ赤な町ですね! みんな屋根が赤いなんてヨーロッパみたい…」


「ぁあ! これぞ異世界って感じ!」


白い外壁に赤い屋根。

そんな建物が星形要塞のような巨大な壁の内側に密集するように建てられていた。


これが辺境の町? 町なのか? 辺境? そんな疑問符がどんどん湧いてくる程に盛観で疲れなんて忘れたように消えていった。

観光気分になってしまっていたことは否定できないけど純粋にきれいと感じた。そんな“街”だった。


「エストラーニャでそんな喜ばれるとは思ってなかったわ…まぁ喜んでくれたなら良かったけど」


「王都みたら気絶しそうっす」


俺達に田舎者を見る目で見てくる二人だが…いたしかたない。

反論はしない。だって凄いんだもん。


「ミリアナは来たことあるの?」


「はい…でも数えるほどしか来たことはないです。もともと村の外との交流はほとんどなかったですし…たまに行商の人たちから買ったり…エストラーニャには特別な用事以外では来ないです」


「へぇ自給自足系の村だったのか」


「じゃ行くわよ~ 式は明日なんだから早めについて休むんだから」









「はぇ~~~ こうも近くで見上げると…凄く大きい…」


「おいやめろ」


「?」


「いや…何でもない。にしてもレンガ積みでよくこんな壁築けたよなぁ」


今俺達はさらに三十分ほど歩き、守衛の守る巨大な壁に設けられた数少ない門の前に立っていた。


「結構並んでるんだね」


「よくある設定だと荷物検査とかしてるんじゃないか?」


「まぁそれもあるっすけど、基本身分確認すね。追放者とか賞金首、そういうのを取り締まってるんすよ」


「私たちはこっちよ」


門から広野に伸びる一本の道にできた検査待ちの長蛇の列を横目に何ぐわぬ顔で進むシェルシーさんとサイガさんについていく。

待っているのは馬車にのった人が多い。多種多様な形の馬車が何かしらの荷物を積んでたたずんでいた。


(おい…あれ見ろよ)


(あ? って魔女じゃねぇか! なんだってこんなとこに…)


(隣に居るのサイガだよな。この町で何かあったのか?)


(知らね、なんにせよあの連中には関わらないのが身のためだぜ)


(ちーげぇねぇww)



「相変わらずの評判っすね」


「うるさいわよ。今更どうこうしようなんて思わないわよ、第一サイガ君も良い評判じゃない」


「あはは、俺っち達みんなそうっすよ」


なんか…俺が想像していた羊飼いの魔女は世間の羊飼いの魔女と違っていたようだ。

明らかにいい目で見られてはいない。敵意…という感じではないにしろ穏やかな感じではないことは確かだ。


でも…ミリアナの時の反応とは矛盾するんだよなぁ


「雪音?」


「なんか…嫌だねこの空気」


「うん…俺も思ってた」


「シェルシーさん…凄いいい人なのにこれじゃあまるで…」


「…」


シェルシーさんもサイガさんのどちらも気にはとめてない様子だったから、ここで俺らがことを荒立てても仕方ないと思いどうにかプッツンしそうな雪音を宥める。


「五歌さん…もぅ歩けます」


「あ、背負いっぱなしだったな。逆に疲れたろ? ごめんな」


「いえ…とても心地よかったです。寝ちゃいそうでした…」


「そりゃよかった」


ミリアナをゆっくり下ろして、軽くなった体に【よく頑張った】と労いの気持ちを込めた。

人1人背負って1時間の徒歩なんて、日本にいた時の俺なら絶対途中で折れてた。

レベルアップって言うのはかなり身体的に向上するらしい。


「魔女殿。この度はどう言ったご来訪でしょうか」


「そうね、近しい人の葬儀かしら」


「と言いますと、その後ろの少年少女ですかな?」


「そ。みんな私の弟子よ」


「なっ…魔女に弟子がっ…」


「なに? 文句でもあるのかしら」


「いえ…申し訳ありません…お通り下さい…」


この街はレストヴァーン王国って言う国の一部なんだよな。

つまりこの守衛は王国兵…という事なのだろうか。

もしくはこのを治める主の私兵?

いまいちよく分からないけど、とりあえず王国の関係者からは厄介者を見る目を向けられているように感じた。


つまり公に認められる存在ではあるということで、こうして門を事実上顔パスする程度には権限があるんだと予想出来た。


「シェルシーさんとサイガさんのことって、案外何も知らないよな」


「うん…あんまり聞く機会ないしね。そう言うのって聞かれるの嫌じゃない?」


雪音と会話しているうちに、俺達はついに門をくぐろうとしていた。

びっしりと並べられた白いレンガ。どうやってこんなに大量のレンガを用意しているのか…とても不思議だ。


門と言うか…壁の厚さはなんと4m近い。

出口までちょっとしたトンネルのようにも感じた。


「なんでこんな壁が必要なのか…巨人でも襲ってくるのかよって」


「巨人達は襲ってこないっすよ」


「(巨人…いるんだ)じゃあなんでこんな壁が? 戦争でもあったんですか?」


見たところ壁に小傷はあったが戦火のあとのような目立った汚れや傷はなかった。戦争があったとは少し思えなかった。


「魔族に備えてるんすよ」


「魔族…?」


そういや…サイガさん魔族狩りとか何とか…言ってたような…

んー。

ありがちな設定ではあるけど、実際に目の当たりにすると実感がわかないっていうかね…


「魔族は端的に言うと俺らの敵っす。その昔、神話と呼ばれる時代に二つの勢力が大きな戦争したらしいっす。その戦いでとある竜族が一族の命と引き換えに封印したのが魔族。今になって魔族が出没しだして大変なんすよ」


「竜族…俺ドラゴン的なやつ飛んでるの見たんですけど、そう言うのですか?」


「多分ワイバーンよそれ。竜族とは全くの別物でね、あいつらは遊び半分で人を襲うただの害獣で意思疎通は出来ないわ。竜族なんかに会うことなんてないでしょうけど、見分けとしては会話出来たら竜族。私の知る竜族は話のわかるいい奴らよ」


「竜族って今もいるんですか?」


「竜族がそんなに気に入った? まあ居るっちゃいるわよ。とっても数は少ないし人がおいそれと近づけないような奥地でひっそり暮らしてるわ」


「まぁ、竜とかドラゴン的なやつって僕らの世界には居なかったですから」


「でも怖そうだよね…鼻息で飛ばされそう」


「まぁ実際竜族は強いってレベルじゃないっすよ。強すぎるがために他の種族に下手に干渉するとそれだけで火種になるんす。だから人が来れないような奥地に住んでるんす。噂には神の使いである神竜って言う奴が族長やってるって話もあるっすよ」


「神?」


「4大神の事っす。人神のスフィア、妖精神テルー、獣神ルーギー、魔神アモスって言うのがいるらしいっす。大方自分の種族の神を信仰してるっすよ」


「へぇ…この世界には神様は実在するんだな」


「なんか本当にすごいね…」


ちょっとした雑学というかこの世界の常識を一通り2人から教わった。

先程の他種族の話や、貨幣価値に至るまで生活に不可欠な要点を細かく話してくれた。

金貨…見せてもらったけど…これ金なんだよな…


初めて見た金の塊にゴクリと唾を飲んだ。





しかし、ここが町と呼ばれるだけあって、人が多いなと感じた。と言うよりずっとシェルシーさんの家に籠ってたんだし感覚が狂ったんだと思う。

日本では普通に活気のある商店街並の人通りだけど、感覚でいうと祭りの人混みの中にいるような気がしてならない。


「辺境の町って言ってましたけど、結構賑わってませんか?」


「まぁね、ここは言い換えるなら人族のテリトリーの最前線なの。あの森みたいに魔物に襲われるリスクも高い。だけど高報酬の魔物を狩れるチャンスがある町でもある訳よ。だから冒険者とかは集まる。人が集まれば物も集まる。だけど安全な場所では無いから永住する場所としては適さない。ここはそんな町なの」


「まるでカジノ街ですね」


「ふふ、いい例えかもね。…ただ賭けるのはお金じゃなくて命なんだけどね」


急にシェルシーさんの声のトーンが下がったような気がした。

何かと思って周りを見渡すと…


「っ…」


「…」


俺たちが歩いているこの道は門から伸びるメインストリートだろうか。

その道を1台の荷馬車が人だかりを割くようにして向かってきた。


馬車とすれ違った人達は揃って顔を背けたり、悲しそうに祈りを捧げたり。中には泣き崩れる人も見えた。


【賭けるのはお金じゃなくて命なんだけどね】


馬車は止まることなく俺たちの横を通り過ぎた。

荷に載せられているのは…麻布が被せられていてもわかる…死体だった。

3人の遺体が麻布を被せられて荷馬車で運ばれていった。


「力無き者は死ぬ。世界の理ではあるけど、この町ではより顕著よ。自分の強さへの過信、偶発的なトラブル、知識不足で一瞬で終わってしまうの」


「肝に銘じます」


「…はぃ」


死体を見る機会なんてそうそう無い。俺は先日のことがあったが、元々間近な人が無くなったことがまだなかったから慣れるはずがない。

雪音に至っては目が泳ぐほど動揺していた。初めて…見たのだろうか。


初めての異世界の町は煌びやかで美しい部分と過酷な暗い部分も感じた俺達だった。
























「そうだ。今夜の泊まる部屋どうする?」


「部屋…ですか?」


「とりあえず私は一部屋。サイガ君は適当に野宿でもしてればいいわ。あと五歌君と雪音ちゃん、ミリアナちゃんの部屋をどうしようかなって思ったのよ。さすがに結婚前だし同室は不味いかなって」


「けっ…」


「俺っちの扱いがどんどん雑になるっす…」


「結婚前とか誤解ある言い方はやめてくださいっ! っても…ミリアナを1人に…はさすがに出来ないしな。雪音、ミリアナ頼める?」


「え? あ、ぁ…別に私は大丈夫だよっ!?」


「なんでそんなにテンパってんの? ミリアナはそれでいい?」


「…大丈夫…です」


ん…その不思議な間は一体なんだったんだ…?

もしかしてまだ雪音が苦手だったりするのかな…


不安に思って小声でミリアナに尋ねてみた。


「雪音のことまだ苦手?」


「…そんなっ…ことは…ないです」


「隠すの下手すぎ」


「うっ…」


やっぱな…俗に言う波長が合わないって感じなんだろうか。

結構活発な雪音と、引っ込み思案と言うか人見知り気味なミリアナでは少々刺激が強すぎ…なのかもしれない。


でもこれから一緒にいる仲なんだし、これは良いきっかけなのかもしれない。


「雪音も悪いやつじゃないんだ。少し元気すぎな所が良い所でもあるんだけど…」


「わ、分かってますっ!…雪音さんがとてもいい人で色々気にかけてくれてることも分かってます…私が…その…慣れてないだけ…なので」


「それなら良いんだよ。無理にとは言わないけど雪音もミリアナと仲良くしたいって言ってる。少し構ってあげてね」


「…はい。頑張ります」


ほんと人見知りさえ何とかなればミリアナだって普通に話せる。

今のところ普通に会話出来てるのは俺とだけだ。

シェルシーさんとはまだまだ硬い感じが否めないし、サイガさんとは絶望的に会話はないし、少なくとも俺は見たことがない。

雪音と話すミリアナは何度が見かけるも、雪音スマイルが仇をなしてかミリアナが言葉を詰まらせてしまい、申し訳なさそうに雪音が引き下がる。

こんな事が続いている。


家族を失った穴埋めが俺たちにできるとは思ってはいないけど、これじゃあストレス溜まる一方だ。


「あのっ…」


「どした?」


「五歌さんは雪音さんの事、お好きなんですよね?」


「ちょ…え? いきなりどうしたの?」


「いえ…なんでもありません。変な事聞いてすみませんでした」


そう言うとスタスタとシェルシーさん立ちに追いつくように走っていってしまった。

なんであんなことを聞かれたのか…しばらく俺はその事で頭がいっぱいだった。


「決まったかしら?」


「はい。雪音とミリアナで一部屋お願いします」


「じゃあ3部屋ね、わかったわよ。あ、あとあれね。服も仕立てないと」


「服…あ、喪服的なやつですか?」


「そうそう。私達は付き添い人だから別にいいけど、ミリアナちゃんはその格好は少し不味いわね」


なるほど…言われてみれば…葬式に私服で行く奴はいないわな。

でも意外だな。ミリアナは家族なのだから当然として俺達は別に私服でも構わないのか…。

文化の違いってやつなのか…


「宿に寄る前にミリアナちゃんの服を見てからにするわよ」


「ありがとうございます…!」


そんな事でシェルシーさんに連れて行かれるがまま町を結構な距離歩いてとある一見の店に着いた。

生活色がないこの町の中ではかなりお洒落で雰囲気のいい店だった。


「この町でそれなりの服を買える所ってここしかないのよ。店主とも少し面識があってね」


「なんかシェルシーさんって凄い人なんだね…」


「人脈っていうか…どんどん分からなくなるな…」


店の中は外の光が極端に少なくて、代わりに様々な色合いのランタンが商品であろう様々な服を彩り照らしていた。

これも一種の芸術…と呼べるだろう。


「ソミア! シーヤよ! 居るかしらぁっ?」


「シーヤぁ? あれっ、ほんとだ…これまた珍しく大勢でいらっしゃい。今日はどうしたの?」


店に入るなり店主が見当たらないと思ったシェルシーさんが手馴れたように、奥に届くように呼びつけると、奥からシェルシーさんと同い年ぐらいの女性が出てきた。

ソミアという女性らしい。


「この子の母の葬儀があるんだけど、適当に見繕ってあげてくれるかしら」


「あらまぁ、いつの間に子供なんか作ったのよ?」


「話聞いてたかしら?」


「ふふっ冗談よ、それでこの子達はどうしたの?」


結構仲は良さそうな雰囲気だ。ソミアと言う女性からは、シェルシーさんが町の人から受けていたような視線は感じない。普通に友達と話しているような楽しげな目でもあった。


「この2人は家の近くで拾ったの。この子(ミリアナ)拾った子(五歌)が拾ってきて、今は全員私の弟子ってことになってるわよ」


「へぇ〜魔女の弟子ねぇ〜」


ソミアと言う女性からはの視線は俺達に注がれた。

なんか…見られてる…っと感じるほどに観察された…

魔女と言うのはそんなに特別なものなのだろうか…


「まぁ、わかったわ。あなたのお名前は?」


「み、ミリアナ…です」


「そかそかミリアナちゃんね。ちょっとこっち来てくれる?」


「…はい」


2人は服を選ぶためか店の奥に消えていった。

ミリアナから不安げな視線を送られたけど、心配入らないだろ。


「あの方は?」


「あぁ、彼女はソミアって言ってね、彼女の母の病気を見てあげていた時期があるの。結構前になくなっちゃったけど、それからたまにだけどこうして買い物に来るのよ」


「思ってたんですけど…シェルシーさんって医者かなにかなんですか?」


「医者? 何かしらそれ」


あ…そっか。魔法は発達してるけど医学って言うのは全然なんだよな…今まで結構気にしてなかったからうっかりしてた…


「すみません…俺らの世界では病気とか怪我を治してくれる人を医者って言うんです。シェルシーさんが結構魔法で人を救ってるって話を聞くので」


「そういう事ね。まぁ本当に気まぐれよ。ソミアの件だっていきなり目の前で倒れられたんだもの。見て見ぬふりはできなかっただけよ」


なんか、シェルシーさんらしい回答だった。


「あなた達も服選んでいいのよ? お金のことは気にする必要は無いから」


「え、いや、そんな訳には…」


「生活も色々お世話になってるのに…」


「何言ってるのよ。弟子の面倒見るのも師の務め。前にも言ったと思うけど私の稼ぎは凄いのよ? でも使い道ないからこうでもしないと減らないの」


なんか本当にシェルシーさんに感謝しかないよなぁ…

本当にシェルシーさん完璧過ぎ…


そのまま俺達もシェルシーさんに促されるまま店内をぐるりとみて回った。






「あなたも随分角が丸まったわね」


「…あの子の服選びはどうしたのよ」


「今試着中よ。それよりまた人肌が恋しくなったのかしら?」


「バカ言わないで。今回はちょっと事情が複雑なのよ」


「へぇ?」


シェルシーは店内を見て回る雪音と五歌を遠目に見ながら呟いた。


「それに時間もあまりなさそうだし…」


「時間?」


「なんでもないわよ。あの2人も少し見てあげてくれないかしら」


「え、まぁいいけど」











「なんか俺達までこんなに買って貰ってなんかすみません」


「こんなに綺麗なの初めてかも…」


「だから良いのよ。ミリアナちゃんもちゃんと買えたし、もう宿に行きましょ」


10分ほどで宿に到着した。

結構立派な建物で、漆喰? で白く塗られた外壁にぽっかり空いたアーチ状の入口が目立つ大きめな宿だった。


「3部屋1泊できるかしら」


「っ…は、はい! 空室がございます! 朝食はどうされますかっ!?」


「…じゃあ頂くわ」


「畏まりましたっ…銀貨6枚になります…」


手早く受付を済ませると、金貨1枚を手渡した。

貨幣価値がまだまだ分かってないけど…銀貨6枚…6000円くらい?

一部屋2000円…としたら結構安いよな。


「銀貨4枚のお返し…」


「あぁ、それはいいわ。取っておきなさい?」


「え…あっ…ありがとうございます…」


受付の子はなにかを察したように小さくお礼を言うと、スっと銀貨をポケットにしまい込んだ。

そんな何故かお釣りを受け取らなかったシェルシーさんを見て俺達は顔を見合わせて…


【お金持ちの風格っ…】


と共鳴していた。


「シェルシーさん、なんでお釣り受け取らなかったんですか?」


「ただのチップよ。特にこういう宿に気に入られるって重要な事で、寝込み襲われるとか嫌でしょ? だからお金に余裕があるときには積極的に渡した方が色々メリットあるの」


「寝込み…」


「怖い…」


「まぁここは大丈夫よ。料金が割高の代わりに防犯の面で守衛を雇っていて毎晩見張ってくれるから」


ちょうどその守衛らしき剣を腰にぶら下げたごついマッチョがいた。

シェルシーさんはおもむろに近づいてなにぐわぬかおで、部屋の場所を聞く。

マッチョの割に結構フレンドリーに教えてくれた守衛に対しても、見返りにしては少々法外なお金を渡していた。


なるほど…少し理解出来たような気がする。












「あぁ…疲れたぁ…」


早速部屋に着いた俺は荷物をドサッと置いて、とりあえずベットにダイブ。

固くはないが柔らかい…という程でもない普通のベットに感じた。シェルシーさんの家のベットの方が断然寝心地が良さそうだが…疲れきった身としてはある程度硬さのあるベットの方がいいと聞いたような気もする。

なんにせよ俺の部屋のベットよりは寝心地はいい。


このまま寝てしまいそうだ…とベットに縛りつけられそうになるが、寸前のところで戻ってくる。


「荷物…何とかしなくちゃな」


さすがに床にドサッと置いとくのは…不味い気がした。


部屋を見渡すと以外に収納スペースがあって、リュックも余裕でしまえそうだ。


「問題はM14君…盗まれでもしたら一大事だしな…一応消しておくか」


召喚機能を使いM14を消す。代わりに拳銃…もっぱらベレッタを召喚。

ここにいきなり魔獣が出てくるなんてことは考えづらい。襲ってくるとしたら…人だ。

町を歩く人の多くが剣なり弓なりを携帯しているんだし、拳銃持ってても問題ないだろ。


「ホルスター…確かエアガン用の写真撮ったはず…あったあった」


エアガン用に自分で買ったレプリカ安物カイデックスホルスターを召喚して、実物ベレッタを収めてみると…あらピッタリ。やるなレプリカ。


ベルトに適当に通してデカいバックルをカチンと締めた。


試験的にマガジンを抜いた銃で抜き差しを練習してみたが、まぁ問題なさそうだ。銃もホルスターでしっかりとロックされてそう簡単には落ちそうにない。


いいぞ安物レプリカ。


マガジンを入れてスライドを引く。そして上がったハンマーを戻すためデコックしホルスターに収めた。

こうすることでセーフティを解除して引き金を引けば撃てる。

猿真似のような知識だが役に立たないことを祈る。


まぁ今は必要ないからベルトごととっても置いておいた。使う時巻けばいい。


「これでまぁ…良いかな。にしても天気いいな…充電でもしとくか」


リュックから折りたたみ式のソーラーパネルを取り出し展開する。裏にあるUSB端子に線を突き刺し、モバイルバッテリーを充電する。

もう日暮れまで時間はなさそうだが多少はね


(…にしてもやることないな…。シェルシーさんも今日はもう休み。何も無いって言ってたし…久しぶりの休みって感じだなぁ…)


(雪音とミリアナ…上手くやってるといいけど…俺はミリアナのために銃選定しますか…)


話を進ませたいっ!

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