克服
「…あぁそっか。少し待っててくれ…こいつらにと止めっ…を…」
突然彼のお腹に黒い物体が飛び込んだ。
私は最初は何が何だかわからなくて、思わず固まってしまった。
でもすぐに正体がわかった。
「そ、そんな…」
彼もまだ何が起きたか分かってない。だけど私には衣服に徐々に広がっていく赤い染みが見えていた。
成長途中のアイゼンエーバーが、まだ小さいと言っても20cm以上ある鋭い牙を彼の脇腹に突き刺していた。
「あっぐうっがァあっあ!!!!」
ようやく刺されていた事に気づいた彼が子供のアイゼンエーバーを振り払うも、その牙が抜けた反動でさらに傷が開いたのか一層苦痛の声が増したように感じた。
私は動くことが出来なかった。
「あっ…ぁ」
(また…死んじゃう…私のせいで…死んじゃう…)
同様で視界が揺れる。
こんな私を…なんにも返せないのに…助けてくれた人を…私は…
痛みのせいで彼は膝を落として、傷を押さえつけるようにうずくまってしまった。
(ダメっ…立ってよ…ねえ…またその道具で倒してよ…ねぇ!)
なんで声が出ないんだろう。
なんでこの声を彼に届けられないんだろう。
この期に及んで…やっぱり私は臆病…
振り払われたアイゼンエーバーの子供が立ち直る。
頭を軽く振って彼を視界に収めた。
(ダメっ…ダメっ…その人は…)
”俺だってお前を助けた責任くらいっ取ってやる!”
形だけでもそう言ってくれた人っ…
「っ!」
私は逃げちゃダメ…っ。ダメ…なのっ…。
強くならなきゃ…お母さんを…守れなかった…
私を助けてくれて…励ましてくれたあの人まで失いたくないっ…
だからっ…
気づけば私はあの人の所へ駆け寄っていた。
魔獣が睨むその場所へと走っていた。
魔獣への恐怖…
確かにあった。
でもそれ以上に1人になる恐怖の方が何倍も大きかった。
助けてくれた人を何も出来ないまま死なせてしまった自分が嫌だった。
治癒魔法も攻撃魔法も体力もない。…何が出来るか分からない。だけど1人にはなりたくない。
だから彼の元に駆け寄る。
「何して…来る…なっ…」
お腹を抱え踞る彼の側まで行くと、傍らに置かれた”武器”を拾う。
【えぇっと…まぁボウガンの強いヤツだよ】
(お…重い…)
ボウガンは何度か触ったことがあった。
最も仮で使うようなものではなくて、村の人達が私達のおもとゃとしてつくってくれたやつだけど…
でもずっと傍で見てきて使い方だけは何となくわかる気がする。
持ち手、引き金はボウガンとほとんど同じ。照門も照星も見た目は一緒…
そして…
「弦の代わりにこれを引けばっ…」
ガチャっと言う音と共に、薬室に入ってた激発されてない弾丸が宙を舞った。
「ミリア…ナうっぐ…」
あとはこれを相手に向けて…引き金を引けば…
村の人達が作ってくれたおもちゃのボウガンとは比べるまでもない重さの違いに体がついていかない。
それでも見よう見まねで何とか頬付し狙いをつける。
未だ様子を伺う子供のアイゼンエーバー。
これの強さを知っているからか、不意打ち以来なかなか襲ってこない。
それがミリアナには好都合だった。
「…」
銃口が敵を向いた瞬間。
私は止まってしまった。
「わ…私は…」
私は母を殺された。
そして…
今私がしていることは…
「…ぐっ」
唇を噛み締める。
「私だってっ! あなた達に大切なものを奪われたっ!」
「私はもう…もぅ…なにも失いたくないっ! だからっ…」
ミリアナは泣きながらも引き金に置く指を引いた。
【ダダダンッ!】
「キャッ!?」
フルオート状態のM14は、ミリアナがトリガーを引いた瞬間に火を吹き始める。
リコイルの存在自体知らないミリアナは当然のように銃に振り回されて、驚いて硬直した体が引き金を引き続ける。
弾倉に残されていた残弾を全て吐き出すまで銃声は止まなかった。
やがてガチャンと撃ち尽くしたM14がビシャっとホールドオープンすると森に静寂が取り戻された。
「っ…」
撃ち終えるまで何とか転ばずに耐えきるも、銃が静かになった途端に腰が抜けたように座り込んでしまう。
「あ…ぇ…」
肝心の敵は…
「たお…せた…?」
銃というのはどんな大きさであれどんな重さであれ、拳銃であれ狙撃銃であれ、初弾に関して言えば反動…つまりリコイルの影響は受けない。
なぜならリコイルが体に伝わる頃にはもう既に弾丸は銃口から飛び抜けた後だからだ。
ミリアナがしっかりと狙っていたため初弾が命中。
胸から突入した弾丸は、まだ子供サイズの体のため貫通。
ほぼ全ての臓器に対して何かしらの損傷を与えて抜けていった。
もちろん即死。
ミリアナが正気を取り戻す頃にはピクリとも動かない死骸が横たわっているだけだった。
「倒せた…私が…魔獣を…」
「あのっ倒せましたっ…私魔獣を…」
「…」
「ぇ…あのっ…返事して下さいっ!」
(そんなっ…嘘…)
地面に突っ伏して返事も帰ってこない。この人…死んで欲しくない…
せっかく…やっと私が助けれたと思ったのに…
やっと…
【いい戦いっぷりだったっすよ? ミリアナちゃん】
「ぇ…?」
【あとは俺っちに任せるっす。そいつに死んでもらっちゃ俺の命も危ういんす】
「あな…たは?」
【俺っちはサイガ。魔族狩りのサイガっす。そしてそいつの先生っすかね】
「うっ…(あれ…またこの天井…)」
目覚めたのは既視感すら覚えるが、少し懐かしさも感じる天井だった。
(シェルシーさんの家に…戻ってきたのか)
無意識に起き上がろうとするが…何故か嫌な予感がしたから一旦冷静に状況を整理してみた。
「…そうだ。また刺されちまったんだ」
布団をめくると俺は上半身裸で腹には包帯が巻かれていた。
違和感はあるが…異世界初日のあの傷に比べたら…
「いや、あれは普通に死んでた。あれと比べるのはこの先色々とまずい」
あれは例外中の例外。忘れよう。
首だけで部屋を見渡したが、どうやら俺だけのようだ。前回みたいにシェルシーさんが死角から現れることもなさそう。
(ミリアナ…どうしたんだろうか…)
とりあえず痛みはあんまりない。また変な薬でも使ってくれたのか刃物で刺されたなんて思えないくらいに元気だ。
この感じなら動けそう。
「イテテテ…」
少し痛むが常識の範囲内だ。タンスの角に小指ぶつけたとか、深爪の時の方がよっぽど痛い。
「っ! ダメっ! 動いちゃダメ!」
「うえ!?」
馬鹿な…ついさっき誰もいなかったはずっ!
いや…そうじゃなくて…
「ミリアナ?」
「っ…良かった…生きててくれて…よかったぁ…」
「ちょ…泣くな泣くな」
ボロポロと大粒の涙が溢れ出ては流れてを繰り返していた。
(あ…そう言えばベットのすぐ脇は見てなかったなぁ…)
「五歌…君…?」
「あ、雪音」
「あ、雪音…じゃないよ! 体は!? 刺されたんでしょ!? 痛くない!?」
「ちょ…近い近い! あぁ!! 大丈夫っ! 違和感はあるけど前よりは全然平気だって!」
よほど心配かけてしまっていたのか、深刻そうな表情で包帯の上を撫でていた。
「そうよ? 雪音ちゃん、五歌君の事が心配だっ! って森に入ったんだからね」
「え…? じゃあここまで助けてくれたのって…」
「残念、それは雪音ちゃんじゃないわ。…実はサイガ君ずっと五歌君のすぐ側で見てたのよ。さすがにあの森に君1人置き去りにするのは死ねって言うのと同義だし」
「ええぇ…ぇ…」
そんな危険な森だったのかよ…確かに魔物やら色々あったし、触れたら即死系の植物も危うく触るところどったし、危険すぎだなと思ってたけど…まさかそこまでだったとは…
と言うか、見てたんなら助けてくれたっていい場面たくさんあっただろうに…
やっぱりサイガさん…怖い
「それで…サイガさんは…?」
「外で”昼寝”してるわよ? ほらそこ」
ここは2階だ。言われるがままに窓の側まで行って見渡してみると…
「あ…ほんとに寝て…ん?」
一見、日の照った青空の下でサイガさんが大の字で寝転がっていると思いきや、即見たら口から何か出てた。
なんだあれ…てか白目むいてね?
「シェルシーさん…あれ寝て…」
「まだ気持ちよさそうに寝てるわねぇ」
「…」
「…」
あれは…寝ているのか?
どう見ても泡吹いて気絶してるようにしか見えないんだけど…それを指摘するとなんかやばい気がしたから見て見ぬふり…受け流す。
しれっと寝てると断言するシェルシーさんに何かを感じて言葉を失ってしまった俺に、コソッと雪音が耳打ちしてきた。
(五歌君が運び込まれてからすぐに、シェルシーさんがサイガさん連れて外で話してたの…)
(え…あ、うん。それで?)
(そしたら「君がついていながらあの子の怪我はなに!?」って…結構怒ってた)
(シェルシーさんがそんなに…)
(それでね、サイガさんが「し、死んでないっす! 怪我も浅いっすよ!」って…それでシェルシーさんブチ切れて…)
「…」
ブチ切れて…雪音の口からそんな言葉が普通に出てくるレベルで壮絶だったんだと伝わってくる。
でもサイガさんだって絶対弱くない。あんな大勢の武装した大人が手も足も出なかったジャイアントオーガを蹴り飛ばしたり、ウルフの群れを1人であっさり蹴散らしたり。
汗ひとつかかず、顔色一つ変えずにパパっと片付けて観戦していたほどの余裕があるサイガさんだ。
それが…こうも…
シェルシーさん…やっぱり桁違いにすごい人なのかも…
伝説の魔女とか?
こんな秘境で暮らしてるのも深い闇があったりして…
ふとあの夜のことを思い出した。
今になってみるとただの夢…だったのかもしれないが、記憶に根付いてる黒い翼を生やしたシェルシーさんの姿が強烈すぎて脳裏から離れない。
「あら、どうしたのかしら五歌君」
「え、いや。なんでもないですよ?」
その時の俺には作り笑いくらいが精一杯だった。
「それでその子どうするの? 随分五歌君に懐いてるみたいだけど」
「ずっと五歌君から離れなくて、話も出来なかったの…」
「え? あ、ぁ…。この子はミリアナ。親は目の前で亡くなって身寄りもないらしいんだ」
「…」
「まぁ珍しくもないよくある話よ。それで五歌君はその子をどうするの?」
ミリアナは俺の後ろから離れない。顔も俯いて若干不安が伝わってくる。
まるで初めて会った時みたいだ。雪音達とも会話出来てないみたいだし…
また…逆戻りさせちゃったかな…
「俺自身、まだこの世界を全然知らないし1人で生きていく自信も力もないのは分かってます。今だってシェルシーさんの厚意が無ければ生きていないことも重々承知しています」
「そうね」
「だけど…助けたくて助けたのに、今後この子が死んだ方がマシだったって思うような人生にはさせたくない…。それじゃあその場の俺の無責任な自己満足…です。いつかお返しはします。なので居候…もう1人お願い出来ませんかっ!」
「っ!」
初めてする本気のお願いだ。
何せこの子の人生がかかってる。俺が絶対ミリアナを幸せに出来る…なんてことは思ってない。
だけどこの子が幸せになるように手助けすることは出来る。
「はぁ…それで、あなたはそれでいいのかしら?」
「…」
「どうなのかしら?」
詰め寄るようにシェルシーさんの大きくも鋭い目線がミリアナを見下ろした。
これは…はっきり言わないとダメな状況だ。俺が口出しできる事じゃない…
自分の口で決めなきゃ…行けないことだと思う。
「わ…たしは… …たいです…」
「ん? 聞こえないわ」
「私…一緒に…一緒に居たいですっ…1人は…嫌なんです…」
「…そ。ならいいわよ。この羊飼いの魔女シェルシーがまとめて面倒見てあげる」
「ほ…本当ですか!?」
「ただし条件があるわ」
「条…件?」
シェルシーさんは終始真面目だ。いつもは少し軽い感じがあるけど、こういう時はしっかりしてる。
「まずモジモジしないこと。多分森での出来事のせいなんでしょうけど、私に言わせれば”良くあること”よ。両親を失う? 同じような境遇の子がこの国にどれだけいると思う?」
「っ…それは…」
「私はそんな子を何百人と見てきたわよ? だから悲しむのは仕方ないけど世界で1番不幸だ…なんてことは思わないこと。そんなんでクヨクヨしてるんだったら強くなる方法を見つけなさい」
「強く…」
「そうよ。誰だって大切なものは失いたくないわ。でも大切なものほど脅かされるのがこの世界。抗うには守るだけの力が必要なの。いい?」
「わ…私が強くなる…強くなればもう誰も死なないんですか…?」
「そうね。本当に強くなれたらそうかもね」
「…」
思ってもみなかった。そんな顔だ。
この世界で有力な力の一つである魔法という物を持っていない…俺と同じなのかなと感じた。
ミリアナが魔法を使ったところも見た事ないし、少なくとも戦闘系の魔法は使えないんだろう。
「魔法が使えなくても強くなれますか…?」
「なれるわよ。魔法は一つの手段でしかないわ。他の道もあるし、君を助けた五歌君だって魔法使えないわ」
「っ!? そうなんですか!? だって…ぇ…」
「俺のあれは…ちょっと特殊だからね。ミリアナにもその気があるなら”あれ”を扱えるように一緒に練習したって構わないぞ」
それを聞いたミリアナはぎゅっと固く拳を握ると、恐る恐る俺の背中から離れていった。
小さい1歩だが、自分の足でシェルシーさんの前に立った。
「羊飼いの…魔女様…。私…強くなりたいです! もう目の前で大切な人を失っても何も出来ないなんてもう嫌ですっ! もう…嫌です…」
「そう、いいわ。私こう見えて稼ぎ良いし居候の二人や三人どうってことないからね。ただし強くなるって決めた以上必ず強くなりなさい。方法はなんでもいいわ。あなたが守りたいを守れるだけの力をつけなさい。いいわね?」
「はいっ!」
「じゃ改めて。私は羊飼いの魔女、シェルウォーコッド・シーヤよ。名前くらいは聞いたことあるかしら?」
「はいっ! 存じています…覚えておられないかもしれませんが以前私の村によっていただいた時に母に効く魔法薬を頂きましたから」
へぇ…シェルシーさんってそんなことしてたんだ
この世界でのシェルシーさんを全く知らない俺たちからしたら新鮮な情報だった。
やはり羊飼いの魔女って言う名前は結構広範囲に知れ渡ってるらしい。
確かにミリアナだってシェルシーさん呼ぶ時に【様】付けしてたもんな…
結構敬われる存在なのか?
「そうだっけ? まあ気まぐれでそういうこともたまにしてるわね」
やっぱり記憶に残っていなかったらしく「はて?」みたいな顔をしていた。
「初めまして…っと言うのもなんか変だけど、初めまして…ミリアナ…ちゃんだったかな。私雪音、香坂雪音って言います。これからよろしくね!」
「み、ミリアナ…です。よろしくお願いします…」
「こら雪音、そんな迫ったら怖ぇよ。ミリアナも引いてるぞ」
「そ、そんな…」
やっと話せた嬉しさからか陽キャ成分が滲み出た雪音にミリアナも若干困ったような顔をした。
元から自分からあまり話す方ではないのかもしれない。俺も接し方には少し気をつけようと思った。
「今更だけど…俺は矢霧五歌だよ。いつかって呼んでくれていいよ」
「矢霧…五歌…さん?」
「さん…は付けなくてもいいけど…もしかして今初めて知ったの?」
コクリと頷くミリアナ。
え…え?
本気で言ってる?
「た…確かにあの時ミリアナも会話できるような状態じゃなかった…かな…」
「五歌さんっ…助けてくれてありがとうございました…。あの時五歌さんに言われた言葉…五歌さんが眠ってる間ずっと考えてました」
「答えは出たの?」
「はい。お母さんが託してくれたこの大切な命は…絶対に手放したりなんかしません。お母さんが見ても絶対に悲しまないような私になります」
「そっか。やっぱ強いよミリアナは…」
あの時のミリアナからは見違えるほど前向きになれたのか、今のミリアナの顔に一点の曇りはない。しっかりと前を見据えているということなのだろうか。
なんにせよ少しホッとした。
「私嬉しかったんです。孤独になった私にこうして居場所を作ってくれた…それだけじゃなく、色んなことがあって絶望してた私にかけてかれた言葉…。それが1番嬉しかった」
「ん? なんか言ったっけ…」
なんの事だか全く分からなかった。
なんか言ったような気もするけど、沢山話した気がするし何せ死の瀬戸際。
記憶も曖昧で…正直覚えてなかった。
そんな俺をミリアナは見上げるように見つめてきて〜
【責任取ってくれるって…嬉しかったんです】
…ピキっ
「え、あ…確かにそんなこと言ったような…でも、その言い方は誤解を…あ、雪音?」
「こんな子に何してんのよっ!!!!!」
「ええええええええぇ!!!! ちょ…まっ魔法はっ!!!」
雪音の拳が光ったかと思うと、その拳は真っ直ぐに俺の顔面へと迫った。
あとから聞いた話だと身体強化という初歩的かつ実用的な魔法らしい。
とりあえず俺は雪音の拳の直撃とともに体は宙に投げ出され、そのまま窓を突破って落下
「うわぁぁあ!!! ごふぇっ!」
「五歌さんっ五歌さんっ!」
ミリアナの叫ぶ声が聞こえた。
「おぅ…空から何か降ってきたかと思えば君っすか…」
「あ…サイガさん。目覚めてたんですね…」
偶然にも外で伸びてたサイガさんの隣に横たわることになった俺は、仰向けて晴天の空を眺めた。
「綺麗ですねぇ…」
「そうっすねぇ」
いくら地面が柔らかかったとはいえ、2回から落ちたと言う割には体へのダメージは少なかったような気がした。
もう普通に動けたし…あれ?って感じだ。
「なるほどレベルか」
「なんですかそれ」
「え、あぁ。まあ説明は難しいけど命と同じくらい大事なものかな。ついでに俺の力の源みたいな感じ」
「そうなんですか…」
俺が開いたのはやっぱりステルアの俺自身のステータスが見れるページだ。
スキル欄は特に変化はなく、よくわからんフレイムソウルとか言う厨二臭い名前があるのみ。
大幅に変わっていたのはレベルが上がったことによる各パラメーターの数値だ。
「レベル43…かなり増えたな。それに身体能力系も随分伸びたかな…」
あの異世界狼、ジャイアントオーガ、ゴブリンの群れ、そして異世界凶暴猪の群れと戦った結果がこれだ。
命張った割には伸びが弱い気もするけど、確かにゲームだと考えればこんな感じだろう。
命を賭けたゲームなんてやりたくもないが…
ともあれ身体能力系のパラメーターがレベルアップの影響で引き上げられたことで俺の体が若干丈夫になったのかな。
2回から落とされてもこんな程度で済んだのだと仮定した。
「ん?」
ふと項目が増えていることに気づいた。まぁわざわざ未読メッセージのように赤表示で主張されて気づかないのもおかしいが…
「パーティーメンバー? なにそれ」
「パーティーメンバーって冒険者さん同士の仲間になるということとは別ですか?」
「いわゆる冒険者パーティーって感じなのかなぁ」
その仮説でも何ら違和感ないほどにそれっぽい雰囲気はあった。
恐らく仲間になって共に行動する中の人の情報が表示される…その辺だろうか。
とりあえず今この項目がでてきたって事は、状況的に考えてミリアナをパーティーに入れろっと言うことなんだろう。
でも…ミリアナ自身も強くなりたいって言っていたものの、冷静に考えれば俺らから魔物に向かっていく必要は…実際のところないんだよな。
ここに来る前に雪音も言っていたけど、別に戦いに来ているわけじゃないって事だ。
だからミリアナを戦わせる…そんな事をしていい物なのだろうか今更だけど思い始めてきた。
俺だって死んではしまったが、身を呈してミリアナを守ったお母さんに対して後ろめたいことはしたくない。
戦うことは避けられないかもしれないが…自ら行くのはどうなんだ…
「どうしたんですか?」
「いや…ミリアナを戦わせることが最善なのかなって思い始めちゃって」
「…」
その瞬間、急にミリアナが静かになってしまった。
何事かと振り向くと…
「え…な、なんで泣くの!?」
「だって…私…強くなるからって魔女様にお許しを貰ったのに…それを失ったら私…」
もしかしたらミリアナはまだ完全に精神状態が落ち着いたという訳では無いようだった。
まだこうして不安定になりやすい。
でもこれは…安易な俺の言葉のせいか…
「何も敵を殺せることが強いって訳でもないだろ? 」
「でも…私は…」
「知ってる。だからミリアナのお母さんや他の死んでしまった人達を弔ったらまずは練習しよう。誰も怪我しないし死なない練習だ」
「…はい」
これに関しては俺だって練習が必要だ。日本で銃なんて簡単には持てないし、俺もエアガンしか手にしたことは無かった。
たまたま好きな銃だったから操作法もわかったが、根本的に銃に慣れなきゃ行けない。
雪音みたいに魔法が使えない俺達が肩を並べるには…いやこの世界で戦うなら銃器は必須。
ミリアナに…というかこの世界の俺以外の人に銃を持たせるかっていうのは結構考えたけど致し方なしと結論を出した。
やっぱり連射できるからと言って全方位囲まれては対処しきれない。
それが身に染みてわかったからだ。
もちろん無条件に銃を渡すつもりは無いし、そこまでのレベルはない。
恐らくミリアナが最初で最後だろうか…
もしかしら魔法にも欠点があって、雪音がサブウェポンとして使うかもしれないけどそれくらいなら何とかなる。
こうして、これからの方針を考えているとガチャりと部屋の扉が開かれた。
「五歌君、入るね」
「あ、あぁ」
「これお昼ご飯だよ。食べれる? 傷の具合はどう?」
「何ともないよ。刺したのがまだ子供のイノシシでよかったよ…」
「もう…全然良くないよ! 五歌君大怪我しすぎなんだからね!」
そして雪音から昼食と渡されたのは…
「おぉ…異世界でフレンチトースト…ん? 別に普通か」
ホンワカと焼かれた卵の独特ないい香りと、鼻と食欲を刺激するほんのり香るミルクと砂糖の甘い匂い。
控えめに言って美味そうだった。
「なんと全部私の魔法で調理しました! こっちはミリアナちゃんのね」
「あ、ありがとう…ございます」
「ほぇ…そんなことも出来んのか…火とか調節も?」
「もち!」
「すげぇ」
にしし…と笑みをこぼす雪音の顔を見て少し俺も笑えた。
世界をひっくり返すほどの力を持ちながら、トースト焼いてこんなにも満足そうな顔をしてるなんて…笑えるだろ…
ちょっと前から深刻に考えてた俺が馬鹿みたいだよ…
そしてもちろんその味は…
「うま」
「えへへ」
その笑顔を見るとやっと帰ってきたって感じがして、思わず表情が崩れるがバレないようにトーストを押し込んだ。
「五歌さんと…雪音さんは夫婦なのですか?」
突拍子もないミリアナの言葉が俺とミリアナの時間を止めてしまった。
「え、どうして?」
「夫婦なんて…///」
「いえ…私の誤解なら…ごめんなさい。でも、仲良いのでてっきり…」
「違う違う、雪音はなんと言うか…」
何なんだろう。
自分でも困ってしまう…友達?
付き合ってない。
ましてや告白してもいない。
でも…朝の登校とか結構一緒だったり…
教室でも結構一緒にいる。
女子の中で一番仲がいい…?
いや…それは違うな。
雪音は根っから”いい人”なんだ。分け隔てなく万人に笑顔で振り返る。
決して俺だけ…俺だけが特別なんじゃない。俺だけの笑顔じゃないんだ。
「友達だよ」
「…」
「そうなんですか…?」
ミリアナがまだ疑問に思っていそうだったののは、多分雪音の様子を見たからなんだと思う。
怒ってはいないけど…少し表情が曇ったのが俺でもわかった。
「雪音?」
「ん? どうしたの?」
「いや…その…気になることでもあった?」
「どうして? 特に…ないよ?」
「そっか…ならいいんだけど」
そしてトーストと一緒に持ってきてくれたミルクを飲み干す。
日本の牛乳より結構濃厚な感じだ。むせかえる程じゃないし、嫌いじゃない味。
このミルクは何を隠そうここで飼われている羊達の乳だ。
羊の乳って飲むようなイメージ無かったし臭そうなイメージもあったから、後で聞かされた時はびっくりした。
恐らく地球の羊とは若干違うんだろう。
「それより、五歌君。どうやって魔物倒せたの? 私もだけど、シェルシーさんも気になってるみたいだよ」
「んー。なんて言うかなぁ…」
「実は秘められた力があってそれが開放されたとか?」
「なんだよそのありがちなヒーロー設定。でもな…かと言って否定も出来ないんだけどさ」
「えっ!? それ本当!?」
近い近い…
【その話私も聞きたいわ】
「あ、シェルシーさん。別に大した話じゃないですけど…良ければどうぞ」
「ジャイアントオーガ倒しておいて、なにが大した話じゃないよ。…まぁいいわ聞かせてちょうだい」
いつの間にかドアの前に立っていたシェルシーさんが雪音の隣に腰掛けると、興味深そうに頬杖をついて見つめてきた。
雪音も同じような感じだ。
「簡単に言うと…雪音には魔法っていう正直デタラメな力があります。そして気付かなかっただけで俺にもあったってことです」
「ほぉ?」
「結論をいうと…」
ポケットからスマホを取り出して案の定スマホを起動。何度かやってるから流れるように目的のページにたどり着く。
手頃な画像を選択し…【決定】
膝にかかってる毛布の上に、ズシッという確かな重みが生まれた。
突然毛布に沈みこんだ物体に2人の視線は固定される。
「それっ…まさかっ!!!」
雪音が声をはりあげて叫ぶ。それを見たシェルシーが眉を寄せ身構えた。
「それ…本物…なの?」
「本物の銃。俺の能力は俺らの世界の武器を召喚することが出来る力でした」
召喚したのは手頃だった好きで保存してあった拳銃。
ベレッタ…正確には米軍に採用されたM9モデルだ。
「という事はそれが君たちの世界の武器…という事なの?」
「はい。これは銃という種類の武器で、弓やボウガンの完全な上位互換と言う認識で問題ないです」
「上位互換…具体的には?」
「射程に関していえば熟練した人が扱うと3.5km先の人間を殺せます。物によっては数百発単位の連射も出来ます。威力に関しても物によっては人体を貫通どころか両断してしまうほどの物もありますし、何より弓の矢に当たる弾丸の速さは秒速800m以上で的を破壊します」
「…まるで悪魔の武器ね。君たちの世界はそんな武器を使って何と戦ってたのよ」
「…人ですよ。俺らの世界では大きな戦争が2回。小さいのは数え切れないくらいあるしきっと今もやってます。この銃って言うのを兵士一人一人が持って殺しあってます」
「…恐ろしわね。それでその武器は魔法が使えなくとも使えるって事よね…」
「もちろん、銃の世界に魔法なんてありませんでしたから」
それを伝えると、疲れたような顔をしていたシェルシーさんがいきなり頭を抱え初めてなにかを呟き始めた。
なにか考え事をしているようだが…小さくてよく聞こえない。
「正直に言うわよ」
「え、はい…」
「君の話通りならその力は強い。強すぎる。下手すれば雪音ちゃんより厄介なの」
「え…」
「問題はただ1つ。魔法が使えなくてもそんな武器が使えるということ。その銃って言うのは決して他意は無いけど…」
”間違いなく魔法使いや私みたいな魔女。魔法を司る者の敵よ”
「そんな…」
そうだ。この世界の最大の力はなんと言っても魔法だ。魔法を使えれば自ずと金は入るし、自分の価値が上がる。
魔法って言う権力社会とも言えるのかもしれない。
しかし魔法を使えない者に強力な力を与えてしまう銃器は…正しく魔法使いの立場を確実に破壊しうる禁忌の武器だ。
「…」
「でも…ね。これから雪音ちゃんとここを出るならそれくらいの力は必要…なのかしらね」
シェルシーは突然力をつけた少年を少し見くびっていたことに後悔していた。
一緒に現れた雪音の全属性の適合と言う常識外の力があるなら、五歌にも何かしらあってしかるべきと身構えて、魔法とは別の訓練をさせてみた途端…
また世界を変えてしまうほどの力をつけて戻ってきた。
(もう…いくら私でも手に余るわよこんなの…いっそ戦姫に押し付けようかしら)
(…ダメね。良いようにこき使われるに決まってるわ…。でもこの子達を野に放っていいのかしら…)
まだ昼間だというのにどっと疲れが湧いてしまったシェルシーがふと周りを見た時、好き好きオーラ全開の雪音と、それに気づいてないのか照れてるのかドキマギする五歌。
五歌からピタッとくっついて離れそうにないミリアナの姿を見て…
「どうでもいいや…」
「君達、町へ行くわよ」
「へ?」
「町?」
12歳〜14歳程度の女の子が森にはいる時持つとしたら…
散弾銃…扱いきれない…
M4…体格に合うのか微妙だし…
ベクター…45口径なら中型動物になら対応出来るかもしれないし、反動抑制もあるから有力候補かなぁ…
他にないかなぁ…




