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「おはようございます。殿下は今日も実に愛らしくておられますなぁ」
「おはようございます、ガルニエ公爵。お褒めに預かり光栄ですわ。本日もどうぞよろしくお願いいたします」
「いやはや、殿下にご教示できる私こそ光栄というもの」
ガッハッハと豪快に笑った公爵が、無駄のない動きで訓練場の結界を張る。ガルニエ公爵をはじめ魔導士トップ3のそれぞれと約10日に一度のペースで行っている魔法実技訓練を始めてから、早くも半年が経とうとしていた。全ての属性持ちのルイーズに対し、ガルニエ公爵は水、公爵の実弟であるペルレ伯爵は風と雷、そしてギャレット辺境伯は火と土の訓練という分担になっている。
今日は、ガルニエ公爵と魔法による防御の訓練をする予定だ。これまで主に攻撃の方を学んできたルイーズだったが、実践となるともちろん相手の攻撃を防ぐことも必要となる。
(どんな防御魔法を教えてもらえるのかしら?)
わくわくしながら訓練場の真ん中に立ったルイーズに人好きのする笑顔を向けていたガルニエ公爵が、一瞬にして魔導士としての顔になる。それを見たルイーズもすぐに表情を引き締めた。
「まず基礎的な防御として、一般的には魔法陣による魔術が使われるいうことはご存知ですな」
「はい。魔法陣についてはアルベール様の講義で練習しました」
この世界では、何らかの属性を持つ魔力によって起こる現象を【魔法】、属性なしの魔法陣を用いることによって起こる現象を【魔術】と呼んでいる。魔法が自然界に存在する魔力や人間が持つ魔力を使うのに対して、魔術を使うには魔法陣を展開する技術が必要となる。
魔法陣は属性に関係なく少しでも魔力があれば作ることができるが、そのためには複雑な詠唱を間違えずに唱えなければならない。多くの経験を積むことにより少しずつ詠唱を省略できるようになり、熟練の魔術師だと無詠唱で魔法陣を展開することができると、ルイーズはアルベールから教えてもらった。
お隣のファールシュタッド皇国は魔法よりも魔術が盛んな国であるのに対して、グランシェール王国は魔術よりも魔法が多く使われる。そのためグランシェール王国では、魔術は魔法の補助的なものとして使われることが殆どだ。
ルイーズの答えに満足そうに頷きながら、ガルニエ公爵がローブを脱いでルイーズから距離を取った。
「それでは、初めは殿下の攻撃を魔法のみで防いでみたいと思います。何でも結構ですので、私に火属性の攻撃を仕掛けてください」
「……わかりました」
自らも後ろに下がり距離を空けたルイーズが、ガルニエ公爵に向かって両方の掌を向けた。目を閉じて集中力を高めると、掌に集めた魔力を一気に放つ。
ゴオオオッ、という轟音と共に熱風が舞う。ルイーズの掌から放たれた炎は、ガルニエ公爵へと届く前に大きな水の渦によってかき消された。
「ホッホッホ、いつ見ても凄まじい威力ですなぁ」
「いえ…そんな、まだまだです。今もすぐに防がれてしまいましたし」
「いやいや。初めから来ると分かっていなかったら、ここまで防ぎきれませんよ」
「そうですか?」
「そうですとも。…このように、突然魔法攻撃を受けた場合、魔法による防御、つまり魔法を魔法で打ち消す方法では、咄嗟に対処できないことも考えられます。特に相手が殿下のような複数の属性を持っていた場合には尚更です」
魔法には属性同士の相性というものがある。例えば、火は水には弱いが風には強かったり、雷は土には弱いが水には強かったりする。そのことをアルベールの講義で聞いた時、ルイーズは前世の黄色い相棒を連れた少年が冒険する某アニメを思い出してしまった。確かそこでも、ポ◯モンのタイプ相性とかがあったような気がする。
「そういう時のために、戦闘態勢に入ったらまず我々は防御の魔法陣を展開します。実際にやってみましょう」
目の前に腕を掲げ指で模様のようなものを描きながら、公爵が短く何かを呟く。その2,3秒後に公爵の前に複雑な模様が浮かび上がりすぐに消えた。
(は、早い……!!)
アルベールの講義で習った防御の魔法陣は、呪文が2行ぐらいあったはずだ。講義の中でルイーズも唱えてみたが、5回目くらいでようやく間違えずに唱えることができた。ここまでのスピードで魔法陣を展開するためには、一体どれだけの練習をしなければならないのだろう?
驚愕に目を見開くルイーズに僅かに目を細めたガルニエ公爵が、魔法陣があった場所に手を掲げたまま再び口を開いた。
「ここから先が今日の講義の内容となるのですが…、今度はこの防御の魔法陣に魔法で属性を付与していきます」
「属性を付与…?」
「ええ、そうです。………はい。今、水属性を付与したので、先程と同じように火属性の攻撃を仕掛けてみてください」
公爵の前に、目には見えないが何か薄い膜のようなものが張られているのを感じる。これが属性付与された魔法陣ということだろうか?
「では…いきます」
目の前に両手を突き出したルイーズがさっきと同じように炎を放つと、薄い膜があると感じた辺りでシュウウッと大きな音を立て水蒸気となって霧散した。
「………すごい」
「うむうむ…この歳になっても褒められるのは悪くないものですなぁ」
思わず出てしまった呟きにニコニコしながら返されて、ルイーズは慌てた。
「すみません!筆頭魔導士に向かって、失礼なことを……」
「いやいや。慇懃無礼な賞賛などよりも素直なご感想の方がよほど嬉しいものです」
「そうでしょうか?」
「そうですとも。政治的な駆け引きの中にいるとつい忘れてしまいがちですが、殿下を拝見しているとそのような純粋な気持ちをいつまでも持っていたいものだと感じますよ」
父親のような温かい眼差しを向けられ、ルイーズがはにかむような笑顔を浮かべる。
(こうして見ると、何処にでもいる可愛らしい少女しか見えないのに……本当に不思議な方だ)
一見すると何の変哲もない普通の令嬢のように見えるが、その瞳の色は彼女がこの国で最も高貴な血筋であることを示している。更にこの少女は誰よりも強力な魔力を持っているだけでなく、東の国で百年に1人とも言われる巫女姫かもしれないのだ。
東の国のことも含め、彼女には自身の身を守る術を少しでも早く身につけてもらう必要がある。そのために、魔導士団のトップ自らがこうして指導にあたっている。
「今は水属性だけを付与しましたがもちろん他の属性も付与できますし、同時に複数の属性付与も可能です」
「え…本当ですか!?」
「はい。私も三つまでしか試した事はありませんので上限がいくつかは分かりませんが、殿下なら全属性を試すことができますね」
「……っ、はい…!!」
サファイア・ブルーの瞳が期待に輝くのを見て慈しむように目を細めた公爵が、サッと手を払い自分の前に展開していた魔法陣を消した。
「では、実際にやってみましょうか」
「はい! 」
「防御の魔法陣の呪文は覚えておられますかな?」
「えっと…後半は少し自信がありませんが……」
「大丈夫ですよ。特別に呪文を省略するコツをお教えしましょう」
「ありがとうございます!」
こうしてガルニエ公爵から魔法陣の呪文省略のコツと魔法陣への魔法属性付与の方法をひととおり教えてもらった後、ルイーズはあることを公爵にお願いするために口を開いた。それはアランが事故で命を落としてしまうというゲームのストーリーを思い出してから、ずっと考えてきたことだった。
「あの、ガルニエ公爵」
「はい」
「もしお時間があれば、少しだけお願いしたいことがあるのですが」
「時間は大丈夫ですよ。改まって言われると何やら緊張しますが……何ですかな?」
「あの、実は…以前フィリップお兄様とアルベール様の手合わせを見せていただいた時に、お二人が《空間魔法》を使っているのを見たんです」
「ほう……」
公爵が顎を撫でながら頷く。感情の読めない公爵の表情を気にしつつ、ルイーズが続きを口にする。
「……その時は、ほんの一瞬のことで何が起こったのか分かりませんでした。ですから…もしよろしければ、《空間魔法》を使うところを実際に見せていただけないかと思いまして……」
「ふむ…なるほど」
いくら王女とはいえ、国のトップである筆頭魔導士に対して図々し過ぎただろうか?
(ここで断られたら、アルベール様かフィリップお兄様に頼むしかないわね…)
相変わらず表情の変わらない公爵の返事を固唾を呑んで見守っていたルイーズに、公爵がニカッと笑った。
「…どのようなお願いかと思えば、《空間魔法》についてでしたか。別に極秘というわけでもありませんし、殿下のお望みとあらばいくらでもお見せしますよ」
「本当ですか!?」
「えぇ、もちろんです」
「ありがとうございます……!!」
パアァッと花が咲いたような笑顔を見せられ、ガルニエ公爵もつられて相好を崩す。
「では、まずはあそこにある私のローブを移動させてみましょうか」
「はい、お願いします!」
期待たっぷりの表情で見守るルイーズの目の前で、10マトル(メートル)以上の距離はあろうかという場所に置かれていた筆頭魔導士を表す赤いローブが、一瞬にして公爵の手の中に収まった。
ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。
年明けからずっと仕事・プライベート共に慌ただしく、しばらく更新出来なくて申し訳ありませんでした。
ブクマがいつの間にか900件を超えていて、嬉しさでニマニマしております。
これからもどうぞ応援よろしくお願いします。




