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今回少し長めです。

謁見室全体に敷き詰められた踝まで沈み込みそうなフカフカの絨毯の上を慎重に歩いて行く。部屋に入った時にチラリと見えた壁は一面に装飾が施してあり、天井の壁画まで一連の続き絵になっているようだ。


(さすが王家の建物…。離宮といっても本当に豪華だなぁ)


頭を上げてぐるりと見回してみたい衝動を抑えながら、ルイーズは両親に続いて台座の前に跪き頭を垂れた。ピエールが挨拶の口上を述べる。


「レーヌ伯ピエール、王太子殿下ならびに妃殿下の御前でご挨拶できますこと、まことに恐悦至極に存じます。こちらは私の妻マリー、長女ルイーズ、長男ジャックでございます」

「皆顔を上げるがよい」

「は、ありがとうございます」


恐る恐る顔を上げると、王子様を膝に乗せた王太子殿下が4人をさっと見渡した後、伯爵に声をかけた。


「レーヌ伯爵、宰相の下でのそなたの働きは、常より陛下も私も高く評価している」

「勿体ないお言葉にございます」


ピエールが再び深くお辞儀をする。王女様は眠っているらしく、王太子妃殿下の隣にゆりかごが置いてある。


「令嬢と子息はいくつになる?」

「娘は今年8歳、息子は7歳になります」

「そうか。子息は将来国の中枢としてジャンを支える貴族に、令嬢もシャルロットの手本となる貴婦人に成長するであろう。期待しているぞ」

「恐れ多いことでございます」


ピエールがそう答えると、近衛騎士が「では、レーヌ伯爵こちらへ」と反対側のドアを指した。ピエールに合わせて立ち上がると、にこやかに微笑む王太子殿下がルイーズを見ていた。慈しむような優しい眼差しを向けられて、自分も知らないうちに笑顔になるのを感じる。そっと促すように母から背中に手を添えられたルイーズは、もう一度お辞儀をしてから謁見室を後にした。



「──今の令嬢がそうですの?」

「あぁ」

「とても可愛らしい子ですわね」

「……そうだな」


近くに控えていた近衛にさえ聞き取れないほどの小さな声で交わされた短い会話は、他の者の耳に入ることはなかった───。



◇◇◇◇◇



謁見室から出たルイーズ達は、廊下を歩いて再び大広間に戻ってきていた。挨拶を終えた貴族達が、テーブルに用意された軽食や飲み物を手に談笑している。緊張が解けたら急に空腹を感じて、ルイーズは食べ物のテーブルはどこだろうと首を伸ばした。ジャックも同じことを考えたらしく隣でキョロキョロしている。


後ろでピエールが小さく笑う気配がしたかと思うと、肩に大きな手が置かれた。


「2人ともよく頑張ったね。初めてにしては上出来だ。何か食べようか」

「「はい!」」


元気よく歩き出したジャックが、軽食の乗ったテーブルの前で「わぁ…美味しそう…」と目を輝かせた。


カナッペだけでも10種類近く、他にもチーズやテリーヌ、ハムに加えて、ミニグラスに入ったオードブルも並んでいる。どれも色とりどりで見た目にも美しく、食べるのが勿体ないくらいだ。


「う〜ん、美味しい!!」

「ジャック、落ち着いて食べなさいな」


早くもいくつかお皿に盛って食べ始めたジャックにマリーが苦笑を浮かべた。ルイーズも目についた食べ物を取って早速頂いてみる。


「…うん、美味しい…!」


レーヌ伯爵家の食事もなかなか美味しいと思っていたけれど、さすがの王宮クオリティだ。いつもこんないいものを食べているなんて、王族の方々って……


そんなことを考えていると、少し離れたところに立っている女の子がじっとこちらを見ていることに気づいた。黒髪に濃い緑の瞳、少しきつめの顔立ちの美少女だ。歳はルイーズと同じくらいか少し下くらいだろうか?


気にしないように食べ物に集中していたものの、あまりにずっと見られているのでだんだん居心地の悪さを感じてくる。そのまま食べ続けること数分。おもむろに黒髪美少女がこちらに向かってつかつかと近づいてきた。


(え、ちょっとなんでこっちに来るの!?)


さっきのご婦人方のこともあり、とっさに身構えたルイーズだったが、その前に一緒にいた兄弟らしき2人が少女の前に立ちはだかった。何を言っているのかはわからないけど、何やら揉めている様子の3人。ややあって今度は両親らしき夫妻が加わって話を始めた。


ルイーズを見ていた令嬢によく似た父親は、ピエールよりも少し年嵩に見える。黒髪にグレーの瞳の眼光鋭い切れ者といった印象の男性だ。対して母親のほうはこげ茶の髪に緑色の瞳を持つ優しげな印象の女性。息子たちの兄の方は瞳の色こそ父親と同じグレーだが、全体的な雰囲気や顔立ちは母親譲り。弟の方は髪色から瞳の色、顔立ちまで父親と瓜二つだ。


チラチラとこちらを見ながら話をしている家族に伯爵夫妻も気づいたようで、少し心配そうに成り行きを見守っている。どういう経過はわからないが、やがて父親がピエールにニヤリと意味ありげな笑みを向けたかと思うと、なんと5人揃ってこちらにやってきた。


(なんだかんだで結局来るのね……しかも人数増えてるし……!!)



「やあ、ピエール。そちらが君のご自慢のご家族かね」

「宰相閣下……今日は別行動というお話だったはずでは?」

「いやぁ、そのつもりだったんだがな。娘がどうしてもそちらのご令嬢と話をしたいと聞かなくてね」

「はぁ、そうですか……」


どうやらこちらはピエールの上司である宰相───つまりロッシュブール公爵らしい。ということは、ルイーズと話したがっているというのは、公爵令嬢ということになる。一体公爵家のご令嬢が自分に何の用事があるというのか。疑問しかないけれど、とても逃げられる雰囲気ではない。


仕方ないのでまたこちらを見ているご令嬢にニッコリしてみると、ルイーズが笑いかけたことが意外だったのか彼女は面食らったような顔をした後で落ち着きなく視線をさまよわせ始めた。


(こうして見てみるとなかなか可愛い子かもしれない)


公爵令嬢に対する印象が少し良くなったかなと思っていると、公爵様がこちらを見てニコニコしていた。


「ご家族を紹介してはくれないのかね、ピエール?」

「これは失礼いたしました……妻のマリー、娘のルイーズ、そして息子のジャックです」

「マリー・ド・レーヌにございます。いつも主人がお世話になっております、宰相閣下」

「ジャック・ド・レーヌです」

「ルイーズ・ド・レーヌにございます」


伯爵から紹介されて夫人が淑女の礼をとる。続いてジャックとルイーズもそれぞれ紳士、淑女の礼をとった。


「うむ、噂にたがわずお美しい奥方だ。愛らしいご令嬢に利発そうなご子息……将来が楽しみだな」

「恐れ入ります」


ピエールが頭を下げると、公爵様は満足げにうなずいて自分の家族の方に目をやった。


「私の家族も紹介させてもらおう……妻のジュリアだ」

「ジュリア・ド・ロッシュブールにございます。以後お見知りおきを」


見本のような完璧な礼に思わず見とれてしまう。ルイーズの中で淑女といえば母であるマリーだが、公爵夫人はなんというか貫禄のようなものがある。続いて公爵様がお子様たちを紹介する。


「長男のアラン。そして、次男のジョアンと娘のカミーユは双子だ」

「アラン・ド・ロッシュブールです。以後お見知りおきを」

「ジョアン・ド・ロッシュブールです」

「カミーユ・ド・ロッシュブールですわ」


ルイーズより2,3歳年上に見えるアランが柔らかな笑みとともに完璧な所作を披露する。思わず背後に花が見えたような気がして、何度か瞬きをしてしまった。この年でこの優雅さを身に着けている美少年なんて末恐ろしい……。兄の隣で少し硬い表情で挨拶をしたジョアンが年相応に見えて、ルイーズはちょっと安心した。同い年のカミーユはジョアンよりも落ち着いてしっかりと淑女の礼をとると、待ちかねたように父親であるロッシュブール公爵の方を見た。


「お父様……もうよろしいでしょう?わたくしルイーズ様とお話したいの」

「そうだな…きちんと挨拶ができたことだしいいだろう。……ルイーズ嬢、すまないがカミーユが君と友人になりたいらしくてね」

「お父様!わたくし自分で言えますわ!!」

「そうかそうか。……では、あとは任せて構わないかな、アラン?」

「えぇ、お任せください父上」

「せっかくだから、皆で薔薇でも見てくるといい。子供同士の交流というのも大事だからな。アランは弟妹達の面倒を見るのには慣れているから信用してもらって大丈夫だ。それで構わないかな、ピエール?」

「そういうことなら異論はございません。……ルイーズ、ジャック。公爵家のお子様たちに失礼のないようにするんだぞ。あとで離宮で会おう」

「……はい、お父様」

「わかりました」


少しかがんでルイーズ達の頭をなでた伯爵は、夫人と公爵夫妻とともに別の貴族のところに行ってしまった。確かに薔薇園を見たいとは言ったけど、このメンバーでは気を遣ってしまってとても楽しめそうにない……。カミーユがなぜ自分と友達になりたいと思ったのか分からず不安しかないけれど、とりあえず伯爵家令嬢として恥ずかしくないように頑張らなければ……!!


「では僕たちも行こうか?」


さっと差し出された手の主を見上げると、またもやキラキラした笑顔を向けられてルイーズはピシリと固まる。淑女としては手を取るのが正しいと分かっているけれど、前世を通してもこんな扱いを受けたことがないからどうしていいかわからない!!アランの前で硬直しているルイーズの反対側の手に小さな手が重なった。


「お兄様、ずるいですわ!ルイーズ様はわたくしのお友達ですのよ。……さぁ、行きましょう?」

「え、えぇ……」


(……って、すでに友達決定なのね!?)


ルイーズの手を握ってずんずん進んでいくカミーユ。背後から「残念…」というつぶやきが聞こえたような気がしたけど、きっと気のせいに違いない!!


いつのまにか意気投合したようでジャックとジョアンは楽しそうに話しながら歩いている。なんだかドナドナされていく子牛のような気分になりながら、ルイーズは庭園の小径を進んでいった。


やっと主要キャラが出せました…!!

もう少しだけお茶会にお付き合いください。


ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。

少しでも面白いと思っていただけましたら、評価いただけるとうれしいです!!

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