4
投稿遅くなりました。
連休前で仕事が詰まっていて…。
休み中はもう少しペース上げたいです。
この世界には前世で暮らしていた日本と同じように四季がある。ルイーズが転生者だと自覚してから3年目を迎えた春、新緑が目に眩しいうららかな晴天の空の下で王家のお茶会は開催された。
父であるレーヌ伯爵によると、"王家のお茶会"というのは要するに昼間のパーティーのことで、夜に開かれる夜会に対してそのような言い方をするらしい。王家のお茶会は春と秋の年2回開催され、行事の始まりの季節である秋は国王陛下が主催される国の正式な行事としてのものだけれど、春は王妃殿下や王太子殿下が主催されるためそこまで格式ばったものではないのだそうだ。
今回主に招待されているのは、国内の貴族のうち10歳までの子供を持つ家族。ベニエール先生の授業に加えて週1回礼儀作法についても学んでいるとはいえ、ルイーズは今までお茶会どころか他家に招待さえされたことがない。
(いきなり王家のお茶会とか、ハードルが高すぎる!!)
自分付きの侍女アンヌにこれでもかというほど念入りに飾り立てられたルイーズは、王城に向かう馬車の中でガチガチに緊張しまくっていた。
「……なんか姉上いつもより静かじゃない?」
「…………」
「姉上?……気持ち悪いの?」
ジャックが何か話しかけているみたいだけど、ルイーズの頭の中は今日の手順でいっぱいで全く耳に入っていない。
「ふふ…ルイーズは初めてのお茶会で緊張しているみたいね」
「今日は非公式な会だから少しぐらい失敗しても大丈夫だよ、ルイーズ」
「は、はい……」
しばらくすると、白い城壁が見えてきた。城門に向かって、何台もの馬車が列をなしている。
(……これが王城───)
鮮やかな青い屋根の尖塔がそびえ立つ、まるで物語に出てくるようなお城が城壁の向こうに現れる。思わず前世の某夢の国のお城みたいだな、と思ってしまったことはここだけの話。
近づくにつれてその大きさに圧倒されてしまう。ここに本物の王様が住んでいるのだと思うと、何だかとても不思議な気持ちになった。
そんなことを考えているうちにも馬車は城門をくぐり、城壁の中へと入っていく。壁に沿って庭の方へ抜けていく馬車の中からお城を見上げる娘を伯爵が少し寂しそうに見つめていたことに、もちろんルイーズが気づくことはなかった。
◇◇◇◇◇◇
王城の奥、広大な王家の森の手前にある離宮が今日のお茶会のメイン会場。お城との間にある庭園にも自由に出入りしていいことになっている。馬車から降りて離宮まで案内される途中で見えた庭園は当然のことながら手入れが行き届いていて、迷路のような小道を形作る灌木も完璧なまでに剪定されている。
案内係の侍女から庭園の中に薔薇園があると聞いてどの辺りだろうと庭の方へと視線をやると、ちょうど父と目が合った。
「薔薇園に興味があるかい?」
「はい、見てみたいです」
「そうだね。王宮庭園の薔薇は素晴らしいから、後で行ってみるといい」
「お父様は見たことがあるのですか?」
「春のお茶会には何度か来たことがあるからね」
ルイーズの問いに、伯爵は薄く微笑んだ。
「今の王太后様が特に薔薇がお好きだというのは有名な話よ。なんでも他の国から取り寄せた薔薇も植えてあるのだとか」
「あぁ、そうだったね」とお母様の言葉に頷くお父様の肩越しに、こちらに向かってくる集団が見えた。先頭を大股で近づいてくる体格の良い男性が、朗らかに声をかけてくる。
「久しぶりだね、ピエール殿。マリーも元気そうで何よりだ」
「お兄様!」
いつもおっとりとしたマリーが珍しく声を上げて破顔する。そっくりの若草色の瞳に栗色の髪をした男性──ドランジュ伯爵にピエールもにこやかに答えた。
「セザール殿、ご無沙汰しています。パオラ様もご機嫌麗しゅう」
「お二人ともお久しぶりね。ルイーズとジャックもずいぶん大きくなって」
「ご機嫌よう、伯父様、伯母様」
「伯父上、伯母上、こんにちは」
この日のために練習してきた淑女の礼を取ったルイーズに続いて、ジャックもぎこちなく紳士の礼をとる。
パオラと呼ばれた赤毛の女性、つまりルイーズ達の伯母にあたる人物は人好きのする笑顔をレーヌ家の姉弟に向けると、振り返り後ろにいる女の子2人に向かって言った。
「ほら、2人もレーヌ伯爵夫妻にご挨拶なさい」
「叔父様、叔母様、ご機嫌よう」
「…ご機嫌よう」
ドレスの端を軽くつまみ膝を折った長女のアマレットは、母親と同じ赤毛、父親似の明るい緑色の瞳を持つ、おしゃべりで世話好きの少女だ。私よりも3歳年上の姉に続いて控えめに挨拶をしたレイラは、父親に似た栗毛の持ち主で、瞳は母親譲りの薄い茶色。ルイーズと同い年である。
2人に最後に会ったのは一年くらい前なのだが、ずいぶん昔のように思える。アマレットはいつも年少の従姉弟達のまとめ役になってくれる頼りになるお姉さんという感じだが、妹のレイラの方はおっとりマイペースな性格をしている。口数は多い方ではないが、この歳にして独特の雰囲気を持っている彼女と一緒にいるのはとても心地いい。ルイーズは正反対の性格をもつこの従姉妹たちが好きだった。
「ルイーズ、今日は私の友人達を紹介するわ。王太子殿下へのご挨拶が終わったら合流しましょう」
「本当?ありがとう、アマレット!」
ルイーズがお礼を言うと、レイラがちょっと顔をしかめた。
「お姉様のお友達っておしゃべりな方ばかり…」
「レイラ、失礼なこと言わないの!」
「だって本当のことだもの」
「何ですって!?」
「あなたたち、こんなところでやめなさい」
言い合いを始めた従姉妹達を諌める伯母様の声の向こうから、どこからともなくざわめきが起こった。
「王太子殿下と妃殿下がおいでになられたようだ。私達も行こうか」
背の高いレーヌ伯爵が離宮の方を見ながら子供達を促した。庭園に散らばっていた周りの貴族達もぞろぞろと離宮に向かい始めている。これからいよいよ人生初の王族の方々との謁見が始まるのだ。
一気に緊張感が高まるのを感じながら、ルイーズは従姉妹達と共に離宮へと向かって歩き始めたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
お茶会まだまだ続きます。




