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第2章開始です。

よろしくお願いします。

2019年8月15日、一部書き直しました。(内容は変えていません)

ルイーズが王城へ来てから2年近くが経ち、10歳の誕生日を迎えてから間もない、ある朝のこと。


「ルイーズお姉様、もうお食事終わりなの?」

「本当だ、いつもより少ないね。…どうしたの姉上?」


シャルロットとジャンにとってルイーズは叔母にあたるのだが、歳が近いこともあり2人とも彼女のことを姉と呼ぶ。彼らの父親であるアンリがそう呼ぶように勧めたのだ。


「えぇ、そうね…今日は少し食欲がなくて」

「まぁ、ルイーズ。何をするにも腹ごしらえは必要よ」


朝から優雅に食後の紅茶を飲んでいたジャクリーヌが、ゆったりとした調子で言った。


「少し緊張しているだけなので大丈夫ですわ、お母様。お昼はちゃんと食べますから」

「そう?…今日わたくしは公務があるから、お昼は一緒ではないの。残念だわ」


この国の王妃であるジャクリーヌが、美しい眉を寄せて溜息をつく。幼い頃から王妃教育を受けてきた義母は、本当に一挙手一投足全てが優雅で美しい。


この2年間で、言葉遣いから立ち居振る舞いに至るまで、ルイーズはデュマ夫人からみっちりと王女教育を叩き込まれた。王家専属の講師陣からは、グランシェールをはじめとする周辺国に関するあらゆる知識、王家はもちろん国内外の主たる貴族の家系図など、伯爵令嬢として学んだものとは比べものにならないほどの量の内容の講義を受けている。


これだけの教育を受けるということは、国の顔としての国内での役目は勿論のこと、外交的な役割も期待されているということを意味する。事実、まだまだ圧倒的に数は少ないものの、両親とともに式典への出席や慰問などに出かける機会もここ数ヶ月で少しずつ増えてきた。


王城で暮らすようになってからは、忙しさのせいか前世の夢を一度も見ていない。ゲームのことを考えると少しでも情報が欲しいところだが、何かのきっかけでまた思い出すこともあるだろうと楽観的に考えたりしている。


肝心の魔法については、フィリップからの助言に従い、10歳になったら訓練をしたいと父である国王にお願いしていた。王女であるルイーズが魔法の訓練をすることに初めは難色を示していた父だったが、自分の身を守るため以外には魔法を使わないという約束でようやく許可が下りたのだった。


訓練といってもただ実技の練習をするだけではなく、並行して理論の勉強も必要となる。理論の講師はなるべく学園の知識が頭に残っている若い魔道士が適しているだろうということでフィリップが自ら講師に名乗り出たが、身内だとどうしても甘くなりがちだという理由で、最終的にはアルベールに白羽の矢が立った。


アルベールの講義はとても分かりやすく、時にジョークを交えたりと話にも緩急がついていて退屈しない。誕生日が来る前から少しずつ理論の勉強を始めて基礎的な知識を頭に入れたところで、いよいよ実技の初日である今日。朝起きた時から、ルイーズはいつになく緊張していた。


訓練しやすい服に着替えるために、この後一度部屋に戻る必要がある。まだ食べ物が載っているお皿を残していくのは心苦しいが仕方ない。ルイーズは食卓にいる面々に挨拶をして、侍女のマルセラと共に自室へ戻った。


王族の部屋は、廊下のドアを開けるとまず玄関のような空間があり、その先にもう1つドアがある。この玄関だけでも前世の自分の部屋くらいの広さがあり、近衛兵はここと廊下で二重に警備している。ドアを開けた先の応接室はちょっとした来客には対応できるくらいの大きさがあり、調度品もかなり高価なものが置いてある。応接室の奥に3つドアが付いていて、1つはルイーズの私室、もう1つは衣装部屋、そして最後の1つは寝室へと続いている。そして、寝室のさらに奥にバスルームという造りだ。


イメージとしては、かなりゴージャスなスイートルームといったところかな。前世であれば、まず人生でお目にかかることができない部屋だと思う。


衣装部屋から訓練用の簡素な服を出してきたマルセラにより、手早く着替えが済まされる。髪も邪魔にならないよう一つに纏めてもらい、あっという間に訓練スタイルの出来上がりだ。


「参りましょうか、殿下」

「えぇ」


内宮を出て魔法訓練場のある円形の建物に入るところで、向こうから見知った2人連れが歩いてきた。それにしても、遠目にも目立つ親子だなぁ。


「王女殿下、ご機嫌麗しゅう。魔法訓練場に行かれるのですか?」

「おはようございます、侯爵殿。えぇ、そうですわ」

「いやはや、殿下は訓練服でも可憐なのですね」

「まぁ、お上手ですこと」

「いえいえ、本当のことですから」


泣く子も黙る王国騎士団長、キャシュフォール侯爵がその厳つい体躯に似合わず人好きのする笑顔を浮かべる。その隣ではルイーズよりも1つ年下の侯爵家令息エミールが、照れ臭そうにこちらをチラチラと見ていた。


「エミール、殿下にご挨拶を」

「は、はい…王女殿下、おはようございます」

「おはようございます、エミール様」


にっこり笑って挨拶を返せば、エミールは真っ赤になってモジモジし始めた。いや、おはようって言っただけなんだけどな…。


何を隠そう、実はエミールはルイーズの婚約者候補の1人だったりする。ルイーズの婚約者について初めのうちは誰が候補に入るのかザワついたりしたけれど、最終的にはこの2年で3人に絞られた。1人はもちろんアラン、もう1人はデュマ侯爵家のジェラール、そして残りの1人がこのエミールだ。


ルイーズのエミールの印象を一言で表すと「気は優しくて力持ち」。騎士団長の息子だけあって年齢の割に身体が大きく、赤みがかった金髪、琥珀色の瞳に彫りの深い濃いめの顔立ちをしていて一見すると獅子のようなのだが、その見た目に反して優しい性格をしているらしい。そして何よりとてもシャイなのだ。他の2人がどちらかというと歳に似合わずマセた腹黒タイプなので、エミールを見るとなんだかホッとする。


(……とはいえ、私が好きなのはやっぱりアラン様なんだけどね)


「……それでは、わたくしは失礼いたしますわ」

「お呼び止めして申し訳ありませんでした」

「いいえ、構いません。…エミール様、今度のお茶会でお会いできるのを楽しみにしてますわ」

「はい!僕…いえ、私も楽しみにしています!!」


赤い顔で勢いよく礼をするエミールに軽く会釈をしてその場を去る。来週のルイーズの生誕パーティーに歳の近い貴族の子女が招待されているので、そこでエミールにはまた会う予定だ。他の2人の婚約者候補はもちろん、ジャックやカミーユ、ジョアンなど、知り合いはほとんど皆出席する。


以前勉強のついでにグランシェール王国の貴族名鑑を見ていた時に、ルイーズの1つ下の学年に高位貴族の子女が不自然なほど多いことに気づいた。お隣のファールシュタッド皇国の皇子も1つ年下だったことから考えて、もしかしたら『君バラ』と『プリロズ』のメインはジャックの学年なのではないかという気がしていた。主人公マリベルがすでに男爵家の養女になっていればきっと来るはずだと睨んでいるけれど、果たして会えるだろうか?


そんなことを考えながら歩いているうちに、魔法訓練場に着いた。円形の訓練場の入り口には、今日からの私の師匠の姿が見える。ガルニエ公爵の実弟、魔導士筆頭補佐のイザークは、ルイーズ達の姿を認めると穏やかな笑みを浮かべた。


「おはようございます、王女殿下。本日からどうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いいたしますわ、イザーク様」


黒髪に明るい緑の瞳を持つイザークは、はっきりした華やかな顔立ちのジャクリーヌや公爵と比べるとソフトな印象だ。豪快なタイプである公爵に対し、イザークの方は性格も穏やかな感じがする。…もちろんイケメンであることは言うまでもない。


この世界は男女問わず本当にハイスペックな人が多いと思う。その辺も、ここが乙女ゲームの世界なのではないかと疑う理由の1つでもある。


「理論の方もとても優秀だとアルベールから聞いておりますよ」

「いえ…恐れ多いことですわ」

「おや、姫君はずいぶんと謙虚でいらっしゃる。王家とレーヌ家の血を引いておられるのですから、きっと魔力も多いことでしょう」

「……あまりハードルを上げないで下さい、イザーク様」

「いえいえ、決してお世辞ではございませんよ。…まずはピアスを取っていただけますか?」

「わかりました」


魔力を抑えるために付けている両耳のピアスを外してマルセラに預ける。ピアスを外しただけで、なんだかいつもより身体が軽くなったような気がする。


「……やはり思った通りですね。すごい魔力を感じます。鍛錬を積んで魔力をうまく制御できるようになれば、普段からピアスを外していただけますよ」

「はい」

「私と一緒に訓練場の方へどうぞ。…すまないが、君は外で待っていてくれ」

「かしこまりました」


柵の外で待機するマルセラを置いて、訓練場に足を踏み入れる。イザークが柵沿いに置かれた魔石に触れて結界を起動させたのを確認して、ルイーズは訓練場の真ん中まで歩いて行った。


「…では、始めましょうか」

「はい。よろしくお願いします」


待ちに待った実技練習の始まりに、ルイーズはドキドキを抑えられずにいたのだった。


ここからまた登場人物が増えていく予定です。

作者もたまに分からなくなるので、そろそろ登場人物一覧を作った方がいいですかね?

(追記: 2019年8月16日、登場人物紹介を第2章冒頭に割り込み投稿しました)


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございます。

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