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それから2年が経ち、ルイーズは7歳になった。この2年間で、ルイーズがあの時夢だと思ったものはかつて別の人物として体験したものだったということ──つまり、どうやらルイーズには前世の記憶があるらしい、ということがわかってきた。

前世の自分自身に関することなど個人を特定するような記憶は思い出せないが、日本人として暮らしていた世界のことは大まかに思い出せるようになっていた。


ルイーズが生まれたグランシェール王国という国は、文化的にはヨーロッパの近世〜近代くらいだろうか?少なくともルイーズが住んでいる王都では上下水道が完備されていたり、毎日とはいかないけれどお風呂に入れたりもする。

ここまで生活環境が整っているにもかかわらず自然科学にあたる分野がないことを不思議に思っていたら、なんとこの世界には魔法が存在することが分かってちょっと興奮してしまった。


この国では、貴族の子女は5〜6歳ごろから家庭教師を付けて基本的な教育を受けるのが一般的となっている。ルイーズたち姉弟は年子ということもあり、1年前から2人一緒に家庭教師の先生の授業を受けている。


今日は、週2回レーヌ伯爵家に来ている家庭教師ベニエール先生の授業がある日。書庫に隣接する小さめの応接室で、楕円形のテーブルを挟んだ向かいに先生、隣には弟のジャック。この世界の魔法について先生が説明を始めたところから、眠くなりかけていたルイーズの頭が俄然冴えてきた。


「生きとし生けるものはもちろんのこと、この世のあらゆるものは魔力を宿しています。天候も魔力に左右されており、そのバランスが崩れた時に災害が起こります。人々は物に宿る魔力を利用することによって、火や風を起こしたりして生活に役立てているのです」


ベニエール先生の説明を聞きながら、この世界の魔法というのは物に宿る魔力を利用することであって、ルイーズが知っているファンタジー小説とかに出てくる魔法とはちょっと違うようだと理解する。


「───ということで、ここまでで今日の授業は終わりにしたいと思います。何か質問はありますか?」


ベニエール先生が、ルイーズとジャックをニコニコと見ながら質問を待つ。かなりお年を召している先生は、一昨年王立学園を退職した、とても品の良い老紳士である。せっかくなので、ルイーズは気になっていたことを素直にきいてみることにした。


「先生、1つお聞きしてもいいでしょうか?」

「はい、ルイーズ嬢。なんなりと」


にっこりと促されて、質問を口にする。


「あの…物に宿る魔力を利用して色々なことができることは分かりました。それ以外に、自分自身の魔力を使って、何かこう…戦ったりとか、そういうことをする人はいるのでしょうか?」


ルイーズの質問を聞いて、ベニエール先生は面白いものを見るような表情で器用に片方の眉を上げた。


「ほう…よくご存知ですね。私達の身体の中には魔力があることは先程説明しましたが、もちろんその魔力には個人差があります。ルイーズ嬢のおっしゃる通り、自分自身の魔力が強い者そして魔力を使うことに長けている者は、生活のためだけでなく、時には武力として魔力を使うことがあります。そのような者のことを魔導士と呼びます」


よっしゃ、魔導士キターーー!!と心の中でガッツポーズをしながら、質問を続ける。


「魔導士はこの国に何人くらいいるのですか?なるのは難しいのですか?」


チラリと隣を見ると、ジャックもこの話に興味があるようで、目をキラキラと輝かせながら先生の答えを待っている。先生は何故かまたニコニコ顔だ。


「おや、ルイーズ嬢は魔導士に興味がおありなのですか?」

「あ、いえ……まぁ、少しだけ……」


ちょっと食いつき過ぎたかな…。ルイーズが遠慮気味に返すと、先生はうんうんと頷きながら答えてくれた。


「現在グランシェール王国には魔導士が11人おります。建国の祖であるシャルル・ド・ラ・グランシェールとその同士であった2人は非常に魔力が高かったそうです。彼らの子孫である王家や高位貴族に魔力の強い者が生まれることが多く、現在の魔導士11人は全員それに当てはまります。子爵家や男爵家などの下位貴族からも魔導士を輩出することがありますが、平民からはまず聞いたことがないですね。ルイーズ嬢は伯爵家のお生まれですから、強い魔力を持っている可能性も十分ありますよ」

「本当ですか!?…どうすれば魔力の強さが分かるのでしょう?」

「そうですね…今すぐ測る方法も無いことはないのですが……」


少し言い澱むベニエール先生に首を傾げると、先生は苦笑しながら続けた。


「今のお歳ではまだ魔力が不安定なので、正確に測ることはできません。大体12歳を過ぎた頃から魔力が安定してくると言われていますし、学園に入る前には魔力測定が必須となっていますから、そう慌てなくても大丈夫ですよ」

「そう、ですか…」


王立学園へは15歳から3年間通うことになっており、貴族の子女は入学が義務付けられている。学園と聞いた時は思わず前世の乙女ゲームを連想してしまったが、もし仮にこの世界が乙女ゲームの世界だったとしても、特に目立つところのない自分はきっと悪役令嬢やヒロインなんかじゃないただのモブに違いない。


12歳になったら魔力測定するのかぁ、と呟いている弟を横目に見ながら、もし魔力が強いと言われたらそれはそれで大変そうだな、なんて考えてしまった。物語として読むのには面白いけど、自分が魔導士になりたいかと言われると微妙なところだ。


(モブで結構、人間平凡が一番だよ。だって私の前世は日本人だもの)


しかし、なるべく平穏に生きたいというルイーズの願いは、この後ものの見事に砕け散るのであった。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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