オリジナルの地表から
お茶にしようかと、花冠の老婆が話しかけてきた。奇妙だなとは思ったものの、かきむしりたいほど乾いた喉。顔には出さないが喜んで頷く。
花冠、綺麗ですね。
あら、孫がくれたのよ。嬉しくってずっとつけてるの。
紅茶、少し砂糖が欲しいです。
わかったわ。
老婆は砂漠の砂をスプーンで一掬い。なんの違和感もない。自然な動作。
老婆は太陽の光をちぎって紅茶に混ぜた。ちぎれた部分はストンと斜めに砂に消えた。
光が甘いなんて、本当に変な進化をしたものよね。
ええ、でも砂と光以外残ったものは焼け焦げた汚泥。光と砂に甘みを求めるしかないですからね。
汚泥から紅茶は作れたのに。
甘い汚泥があれば良いんですけどね。
不意に老婆が開いたパラソル。空は突如黒く染まり、黒い重たい雨が降る。
パラソルは溶け、老婆を貫く雨粒。
あら、あなたは死ねないの?
えぇ、死ねないんです。
死ねるって良いわよ。先に行った孫たちにようやく会えるもの。
それはおめでたいこと。ご冥福をお祈りしています。
残ったのは、自分のこの身と砂漠と紅茶。
手のひらいっぱいに掬い上げた水晶の粒たちを喉に流し込む。裂けるような痛みもすぐに消える。
死ねない。あっという間に晴れた空には嫌味ったらしい生の象徴。
神様、私は死ねますか。
答えはまだまだノーですから、先の先の先までこの星と共にいなさい。この星が終わる時、あなたにようやく福音が訪れるでしょう。
信じてみることにしたのだ。
とある天界人の日記より