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みんなで朝食

「そう言えば、師匠」


朝食の途中、シンディーは手に持っていた木のスプーンを置いて、師匠に声をかけた。


「何かな? 何でも答えちゃうよ?」


師匠は綺麗に切られたリンゴを、器用に両方の前足で支えながら食べている。


「何でカミツミさんが外に出てるんですか?」


突然名前を呼ばれたカミツミは、食べかけのパンを手に首を傾げる。師匠は食べかけのリンゴを置いて話をする体勢になる。


「あれ? 言ってなかった?」

「言ってませんよ。さすがに勝手に出てきた訳じゃないですよね?」

「さすがのカミツミちゃんでも無理矢理は出てこれないよー。昨日の夜にわたしが呼んだの。シン君のために」

「僕の?」


シンディーは昨日のことを思い出すが、夕食以降、更に言えば薬を飲んだ時の記憶を思い出すことが出来なかった。


「夕食の後に、薬を飲んだ後に何があったんですか?」

「いや〜、大したことじゃないんだよ? ただ、薬を飲んだ後、すぐにシン君が倒れちゃって」

「あ〜、そこで頭を打って怪我をしたからカミツミさんに治してもらったと……」

「ううん。怪我はなかったんだけどね。それに、かすり傷くらいならわたしでも治せるし。シン君が倒れた後、急に様子がおかしくなっちゃって、倒れたまま暴れてたの」

「…………」

「釣り上げられたばかりの魚みたいにびっくん、びっくんしててねー。そうそう、目も真っ白になってたんだよ!」


師匠は実に楽しそうにシンディーの様子を語る。次第にシンディーは言葉を無くしていった。


「いつも以上に元気だなぁって思って経過観察してたら、急に静かになったら、口から泡を噴いてその後は何も反応しなくなっちゃった。」


その後、意識が完全に無くなったシンディーに回復魔法を使ってみたが効果がなかったらしい。そして、手を尽くした師匠は最後の望みとしてカミツミをよんだらしい。


「いやー、回復魔法が効かなかった時はさすがに焦ったよー。わたしは回復は専門外だからね。回復専門の召喚獣がいてよかったよー。」

「…………」

「という訳で、カミツミちゃんが外に出てたの。カミツミちゃんを召喚してなかったら今頃どうなってたか……こわいこわい……」


全身をわざとらしく震わせ、怖かったと語る師匠。


「…………」


そんな事を平然と語る師匠にシンディーは二の句が継げなかった。想像の数倍大変な状況だったようだ。


「よく生きてたな……僕……」

「カミツミちゃんには感謝だよ〜」

「そうですね……カミツミさん、ありがとうございました」


カミツミは話を聞いていなかったようで、不思議そうに首を傾げてみせる。そんな姿にシンディーは小さく笑う。


「お礼に何かして欲しい事があれば聴きますよ。僕にできることなら、ですけど」

「やったー! シン君に一日中撫で回されたいです!」


カミツミへのお礼を、何を勘違いしたのか師匠が要求してきた。思わず、シンディーは師匠を睨みつけた。


「師匠は黙って食ってろ」

「し、シン君……うぅ、わたしも頑張ったのにぃ……」


シンディーが敬語をつかわなかったことによほど恐怖を覚えたのか、先程よりも大きく震えている。


「師匠は黙って食べててください。そして、反省してください」

「はい……」


今度は笑顔で告げるシンディー。借りてきたネコのように大人しくなる師匠。声は静寂の中でも宙で消えてしまいそうな程小さかった。


「ん? カミツミさん?」


その時、カミツミが急に席を立ち、シンディーの座る椅子の横までやって来た。真横に着くとくるりと背中を向けた。シンディーの目の前に深紅の翼が広がる。


えいっと効果音が聞こえてきそうな動作でカミツミは後ろに飛んだ。シンディーは膝に飛び込んできたカミツミを、慌てて受け止める。


「おっと。カミツミさん、危ないですよ」


小柄なカミツミがシンディーの膝の上にすっぽりと納まる。ほとんど変化のないカミツミの表情だが、よく見ればほんの少しだけ頬が緩んでいるように見える。


「いいな〜、カミツミちゃん……わたしもシン君の膝に座りたい……そして、そのまま寝たいね!」

「師匠が反省しない内は無理でしょうね」

「はい……反省します……」


元気を取り戻しかけた師匠だったが、シンディーの冷たいひと言でまた大人しくなる。

すると、カミツミはシンディーの使っていたスプーンを手に取り、スープを掬った。そのスプーンを自分の口、ではなく、シンディーの口の前に持ってきた。


「これは……」


カミツミは顔をシンディーの方に向け、口を小さく開ける。シンディーに口を開けろと言っているようだ。

小さく口を開けて見つめてくるカミツミを眺めていたいという感情が沸き上がる。しかし、それを振り払い、シンディーは大きく口を開けスプーンを迎え入れた。口を閉じると、ゆっくりとスプーンが外へ引き抜かれた。


「ありがとうございます。まさか、カミツミさんがこんな事をしてくれるとは……」


カミツミは再びスプーンでスープを掬い、また同じようにシンディーの顔を見ながら口を開ける。そして、先程と同様にシンディーも口を開ける。


師匠はそんな二人の姿を、羨ましそうに見つめていた。


「カミツミちゃんばっかりぃぃ……」

「師匠」

「はい、師匠はしっかり反省しております!」

「よろしい」


シンディーに冷たく対応され、黙って見ていることしかできない師匠。そんな師匠にカミツミは自慢げな表情をみせる。


「…………」


悪魔族のカミツミだが、シンディーから見るとその姿は天使のように可愛らしい。それに対して、ネコである師匠の方が、まるで悪魔のような剣呑(けんのん)な雰囲気を醸し出している。さすがにシンディーも師匠が不憫に思えてきた。


「今しっかり我慢して、反省出来たら、朝食の後に少しだけ構ってあげますよ」


いつもシンディーは少しだけ甘やかしてしまう。この言葉を聞いた師匠の目に輝きが生まれる。はやくご飯を終えたいのか、師匠の食べる速度が目に見えてあがる。


「ごちそうさま!」


あっという間に食べ終えた師匠。はやく食べ終えろとばかりにシンディーに視線を送る。師匠の大きな目はきらきらとした輝きを、シンディーに向かって放っている。


そんな状況でも、シンディーの食べる速さは変わらない。なぜなら、師匠の視線を妨げるように座ったカミツミがスプーンを持って離さないからだ。そのせいでシンディーはカミツミに運んでもらわなければ食事ができない。


「あの、カミツミさん、そろそろ自分で食べますよ」


もうすでに遅刻確定とはいえ、できるだけはやく学園に向かいたい。カミツミにスプーンを返して欲しいと伝えるが、カミツミは聞く耳を持たない。

それどころか、カミツミはシンディーに責めるような視線を送る。シンディーには、さっきして欲しい事を聞いたではないか、と言っているように感じた。


「満足するまでお楽しみください」


どうすることもできないと悟ったシンディーは、カミツミにされるがまま朝食を終えた。


食卓の食器を手早く片付けて、すぐに学園へ行く用意をする。寝間着から学園の制服に着替え、カバンを持って玄関へ行く。そこでは、師匠とカミツミが待っていた。


「今は二限目くらい、かな……?」

「そうですね。そろそろ二限が始まっている頃ですね。着いた頃には三限ですかね……」

「だ、大丈夫だよ、シン君。わからないところはわたしが教えてあげるから!」

「はぁ、その時はお願いします」

「まっかせなさい。わたしはシン君の師匠だからね!」

「とりあえず、行ってきます。仕事で休むって言わないとですし」

「うん、いってらっしゃい!」


師匠は元気にシンディーを送り出す。カミツミも手を振ってシンディーを見送るのだった。


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