こわがりのクマさん
冬童話2019公式設定を使った童話です。
昔々あるところに、逆さの虹がかかる森がありました。
そこに住んでいるクマさんは、とてもとても怖がりでした。
ちょっと動く時でも、あたりをきょろきょろと、怖そうに見回してから動きます。
ある日、クマさんが森の中の一本道を、のっそのっそと歩いていると、向こうから暴れん坊のアライグマさんがやって来ました。
「おい、こらっ!クマ公!、でけえ図体して、道の真ん中なんか歩いてるんじゃねぇよっ!。」
「はい、ごめんなさい。」
クマさんは、そう言って道の横の茂みを、きょろきょろと調べ、枯れた枝を、どずん!、ばりばりばりぃーー!!!、と押し倒して、道をよけます。
「けっ、ちんたらやってんじゃねぇよ!、このでけえ図体の弱虫野郎め!。」
アライグマさんは、はき捨てるようにそう言って、クマさんが避けた道を肩を怒らせながら通り過ぎて行きました。
クマさんはきょろきょろと辺りを見回してから、道に戻り、また、歩き出しました。
クマさんが、さらに森の中を、のっそのっそと歩いて行くと・・・、
「おっと、ごめんねぇー。」
そう言って、いたずら好きのリスさんが、クマさんの頭の上にぴょんと飛び降りて来ました。
そして、クマさんの頭に、このあいだ人間からちょろまかして来た可愛いリボンを結びます。
クマさんは、くすぐったそうにしながらも、リスさんを放っておきます。
リスさんは、リボンを結び終わると、くすくすと笑いながら、クマさんの頭から枝に、ぴょんと飛び移って行きました。
クマさんが、さらに歩いて森の広場に行くと、森のみんなが集まっていました。
ゴッツイ体に可愛いリボンを結んだクマさんの姿を見て、森のみんながくすくすと笑います。
こっそりとクマさんの後をつけていたリスさんは、森のみんなに笑われるクマさんを見て、おなかを抱えて笑います。
そして、そこに、アライグマさんもやって来て、クマさんの姿を見て、大笑いします。
「ぶわっはっはっはー、臆病者のクマ公らしいや、そのまま女になっちまえよぉー、ぶわっはっはっは。」
クマさんは、何でみんなが笑っているのか判らず、きょとんとしています。
そんなみんなとクマさんの姿を見て、お人好しのキツネさんがクマさんのそばにやって来ました。
キツネさんは、苦笑いしながらクマさんに言います。
「クマさん、クマさん、頭に可愛いリボンがついてるよ。」
「え、そうなの?。」
クマさんは、そう言って上目使いに頭の上を見ようとしますが、見えません。
「取って上げるから、頭を下げてもらえる?。」
「うん、ありがとう。」
クマさんは、そう言うと、足元をきょろきょろと良ぉく見てから、そっと頭を下げます。
そうして、キツネさんは、クマさんの頭からリボンを取って上げるのでした。
「クマさんって、いつもきょろきょろビクビクしてるよね。いったい、何を怖がっているんだろうねぇー?。」
「うん、そうだね。あんなに大きな体をしてるのに、おかしいよねぇー。きっと、すごく弱虫なんだね。」
森のみんなは、そんな風にクマさんの事を噂するのでした。
そんなある日の事です。
森に人間たちが探検にやって来ました。
人間と会うと、子供をさらわれたり、鉄砲で撃たれたりと、ろくな事になりません。
なので、それに気付いた森の動物たちは、みんな一目散に逃げて、隠れました。
ところが!。
いたずら好きのリスさんは・・・
「ふふふ、また人間たちが来た。ちょっとからかってやろう。ついでに、また何か盗んでやろう。」
と、いたずら心を出してしまいました。
リスさんは、枝を伝って、こっそりと人間達の後をつけます。
しばらくすると、人間達は森の道端に座って、お弁当を食べ始めました。
リスさんは、クスッと笑うと、人間達の後ろで枝から降り、さっと走って、人間達のお弁当のおかずを盗みました!。
そうして、あわてる人間の頭を踏み台にして、ぴょーんと枝に飛び移ろうとしました。
ところが!。
その人間のもじゃもじゃの髪の毛が足に絡んでしまい、そのまま人間に捕まってしまったのです!。
さあ、大変です。
一方、森のみんなは広場に集まっていました。
そこで、お人好しのきつねさんが、リスさんがいない事に気づいて言います。
「あれ、リスさんがいないみたい。どこへ行ったんだろう?。」
みんなは顔を見合わせます。
リスさんのいたずら好きは、みんな知っています。
心配になったみんなは、こっそりと人間達の近くへ様子を見に行ってみました。
「あ、リスさんが捕まっている。」
高い木の上からコマドリさんが、言いました。
リスさんはいたずら者とは言え、みんなの大切な仲間です。
さっそくみんなはリスさんを助ける方法を相談しました。
リスさんは、小さなかごに入れられて人間達の足元に置かれています。
人間たちの1人は鉄砲も持っています。
でも、すばしっこくて、勇気のある動物なら、飛び出して行って、さっとくわえて助け出せそうです。
自然と、みんなの目が、暴れ者のアライグマさんに、集まりました。
いつも強そうにしてますし、アライグマさんならすばしっこいので、きっとリスさんを助けられるでしょう。
「アライグマさん、リスさんを助けて来てくれる?。」
ところが!、アライグマさんは尻尾を足の間にはさんで震え上がりました。
「そ、そんな怖い事出来るかよっ!、あいつがいたずらすんのが悪いんだろっ!。そんなの『自己責任』だっ!、オレ様は知らないからなっ!。」
そう言うと、ピューッと、森の奥へと逃げて行ってしまいました。
みんなは顔を見合わせて苦笑いします。
「アライグマさんって、威張ってるだけで、本当は弱虫だったんだね。」
さて、では誰が助けに行けば良いでしょうか?。
お人好しのキツネさんが言いました。
「ぼくもアライグマさんと同じくらいすばしっこいから、ぼくが行って来るよ。」
でも、キツネさんの足はちょっぴり震えています。
誰だって、人間は怖いのです。
だから、逃げたアライグマさんを、みんなも本当は笑えないのですが、いつもえらそうに威張っているものですから、どうしてもみんなの目が冷たくなるのでした。
その時です。
クマさんがのっそりと出て来て言いました。
「ぼくが助けてくるよ。ぼくはすばやくないけれど、ぼくの姿を見ればきっと人間達は怖くなって逃げていくだろうから。」
みんなは驚きました!
あの怖がりのクマさんが、そんな事を言うなんて!。
リスさんにいたずらをされようが、みんなにバカにされようが黙っていたクマさんがそんな事を言い出すなんて!、と。
「でもクマさん、人間たちは鉄砲を持ってるよ。撃たれたらクマさんでも危ないよ。」
そう、人間達の持っている鉄砲は、キツネさんやアライグマさんのような、あまり大きくなくてすばしっこく動く動物を撃つのは苦手ですが、クマさんのような大きくてゆっくり動く動物は、撃ちやすいのです。
でも、クマさんは言いました。
「大丈夫。こっそり近づいて、いきなり近くでおどかせば、人間たちはあわてて鉄砲を撃てないよ。」
そうして、クマさんは怖がるそぶりも見せず、こっそり音を立てずに、のそのそと人間達の所へと向かいます。
そして、鉄砲を持っている人間のそばに着くと。
「がぁおおおおおおおっ!!!!!。」
クマさんは、後ろ足だけで立ち上がって、人間達の前に飛び出し、恐ろしい声で叫びました!。
人間たちはびっくりです。
鉄砲を撃つ暇もなく、捕まえたリスさんを置いて、ぴゅーっと逃げて行きました。
クマさんは、リスさんを箱の中から出してあげると、やさしい声で聞きます。
「リスさん、大丈夫?、ケガはしてない?。」
と。
リスさんは、いつもいたずらを仕掛けているクマさんが助けに来てくれてびっくりしました。
「う、うん、ありがとうクマさん。いつもいたずらしてごめんね。」
「ううん、ぼく別に気にしてないから。」
そう言って、クマさんはにっこりと笑ったのでした。
「わーい、すごーい。」
「クマさんえらぁーい!。」
「クマさんありがとー!。」
森のみんなは、口々にクマさんを褒めます。
今や、クマさんは、森のヒーローです!。
でも、みんな不思議でした。
あんな怖い事が出来るクマさんなのに、いつも何を怖がっていたのだろう?と。
「ねえねえクマさん、クマさんはこんなに勇気があるのに、どうしていつもビクビクと怖がっていたの?。」
「あのね、ぼくはとても力が強いから、うっかり手を振ってそれが誰かに当たったりしたらケガをさせてしまうから。もし殺しちゃったら取り返しがつかないでしょ?。だから、ぼくの周りには、あまり近づかないでね。」
そう、クマさんは自分の力を怖がっていたのです。
やさしいクマさんは、自分の力で誰かにケガをさせたくなかったのでした。
こうして、やさしいクマさんは森のヒーローとなり、もう誰にもバカにされることがなくなったのでした。
え?、リスさんですか?。
まだクマさんにいたずらを仕掛けていますよ?。
いたずら好きの性格は早々変わるものじゃありませんから。
でもそれは、やさしいクマさんにじゃれついているような感じではありますけれど。
え?、逃げちゃったアライグマさんですか?。
いまだに威張り散らしてますよ?。
あ、来たみたいですね。
「て、手前ら、な、なめんじゃねえぞ!。お、オレ様は、ホントは強ええんだからなっ!。クマ公が助けただけで、お前らだって見てただけだろっ、一緒じゃねぇかっ!。」
まあ、虚勢を張っているのは見え見えなのですが(笑)。
森のみんなは、そんな、弱虫なのを必死で隠そうとする、アライグマさんを、生暖かーい目で見守ってあげるのでした。
ちゃんちゃん!