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翔太、異世界で恋に落ちる

「ここは……?」


 薄暗い部屋に居た。

 豪奢な作りの調度品、高い天井に消灯しているシャンデリア。

 足元には魔方陣が描かれていた。


 目の前には80歳を超えているような老婆が立っていた。

「秘術の異世界召還はどうやら成功したようじゃの」

「え、な、何ですか?ここは?」

 さっきまでの風景からガラリと変わった場所に、翔太は戸惑いの声を上げた。

 

「説明は後じゃ。ほれ、こっちじゃ。おい、この召還者を着替えさせとくれ」

 老婆が声を張り上げると、金髪の美少女が動いた。


 翔太と同い年くらいだろうか。

 10台半ばくらいの侍女が翔太に向けてにこやかに微笑んだ。

「お着替えをお持ちしました。私はマリーと申します」

「あ、数奇名 翔太です。16歳です」

「スーキナ様ですね、こちらへどうぞ。お着替えをお手伝い致します」

「い、いいです!自分で着替えますから!」

「貴方のお世話をするために、王は同性の侍従を用意されたのですよ。気にしなくて大丈夫です」

「いや、いいんです!一人で着替える方が落ち着きますから!」


 ……銅製の自重?

 

 言葉に引っかかりを覚えながらも、マリーさんの申し出を固辞する。

「よくわかりませんが、重そうだからいらないです」

 

 綺麗な女性に着替えを手伝わせて裸を見せ付け興奮するような性癖はもっていなかった。

 あるのかもしれないが、女性と付き合った事のない翔太にとっては、恥ずかしさの方が勝っていた。

 

「恥ずかしがりやですのね。では、あちらでお着替えください」

 そして、渡された服を広げて……

 

「何だよ、これ……」

 それは、ヒラヒラがついた豪奢なドレスだった。


「すごく……お綺麗ですわね」

 マリーはドレスに着替えた翔太を見て、うっとりとした溜息をついた。

「黒い髪、黒い目。小柄な身体に気品あるお姿、美しいお顔。スーキノ様ならきっとこの国の王になれますわ。さあ、こちらです」

「お、おう?」


 マリーが歩き出したので、翔太はその後ろを付いていく。

 ドアを開けると、大きな円卓があり、そこに一つだけ席が空いていた。

「さあ、お座りください」

 促されるまま、腰を落とし翔太は円卓を見回す。


 金髪碧眼のお人形のような顔立ちの少女。

 耳が長く、長身モデル体系のエルフのような女性。

 獣耳を生やした愛らしい顔立ちの少女。


 全員、綺麗な整った顔立ちで、美女、美少女勢ぞろい。

 自信に満ち溢れた特有のいい女オーラを持っていた。

 円卓にチョコンとすわる翔太に、全員から刺すような厳しい目を向けられる。


「揃ったようじゃの」

 そして先ほどいた老婆が口を開いた。

「ワシはこのローリバ王国の先王、イスメルという」


「お主達はこの国の王候補として競って貰う」

「王?」

 抜けた声を上げる翔太に、イスメルは咳払いをして話を続けた。

「この国は、女性しか王になれぬのだ。現王はワシの娘なのじゃが、二人の子がおる」

 第一王子は民から好かれ、貴族からの評判も良い。

 第一王女は民から嫌われ、貴族からの評判も悪く、跡を継ぐ場合は戦争が起きるかもしれない、と。


「じゃが、この国は女性しか王になれない。ゆえに、そなた達の誰かが王子と縁を結び、王位を継いで欲しい」


 争って、王の座を勝ち取るがいい、という老婆の話に憤慨し、一人の女性が立ち上がる。

 

「何を勝手な事を言ってるの!私を元の世界に帰してよ!」

「ワシは十分以内に死を迎える美しい異世界の者という条件で召還を行った。戻れば死ぬが良いのかの?」


 翔太は告白を断った時に、トモダチモドキが思いつめた顔をしていたのを思い出した。

 あの告白を断ったから殺されたのか?と内心納得がいかない気持ちを飲み込む。

 

 老婆の言葉に顔を青ざめさせた美女はまた円卓に座りなおした。

 

「私は戦えませんわよ?この猫娘?とかそこの大きな女性が有利ではありません」

「別に殴り合えと言っている訳ではない。お主らの知識、経験を活かし、領地を発展させよ。

最も発展させた者を次の王とする」


 殴りあわなくてもいいんだ、良かったと翔太は安心の息をついた。

 翔太はランドセルを背負った幼女と殴り合っても負ける自信がある男だった。

 

「それに、そんなあった事もないような男と、む、結ばれろなんて。バカにしてるわ!」

「第一王子、イスメリートよ、こちらへ」

「お婆様」


 入ってきた男に、皆が目を見開く。

 美形だった。

 超絶美形だった。

 イケメン、という言葉では足りない程の美形だった。

 

 背が高い。

 見栄えを壊さないような彫刻的な薄い筋肉。

 整った顔立ち。


 円卓の女性達が、王子の微笑みを見て頬を赤く染め俯く。


 イケメンは得だな、と翔太だけが舌打ちをする。


残念ながら、この世界の美形に対する感覚はどうやら共通らしい。


「お婆様、彼女達が……。全員、美しい方ばかりで照れてしまいますね」

 歯が浮くような甘い台詞に、非モテの翔太は顔を背け、イケメン死すべし、と呪詛を吐き出す。


「やりますわ!」

「私もやるわ!」

「あ、じゃあ私も!」


 どうぞどうぞ、というネタを思い出しながら、全員が王子にキラキラした目を向けている。

 今までの人生を流されて生きてきたような翔太も、追従してやります、と言うしかなかった。

  

「全員、参加じゃな。では……」

「お婆様!これはどういう事ですの!?」


 部屋の扉を強く開け、入ってきた女性は……。

 虎のようにやや吊った強気勝ちなタイガーアイ。 

 髪色、目、服は燃える炎のように赤い。

 

 翔太はその火傷しそうなほど力強い睨み付けるような目から、目を離す事ができなかった。

 

「無礼な、神聖な円卓議室へノックもなく押し入るとは。立ち去るがいい、忌み子の第一王女、リズよ」


 民から嫌われ、貴族からの評判も悪く、跡を継ぐ場合は戦争が起きるかもしれない。

 そう形容されていたリズは、顔を真っ赤にさせ、背をむけた。


「後で、説明して頂きますわ、お婆様。いえ、何の権限も持たぬ先王、イスメル」

「リズ」

「イスメリート兄様、貴方はいずれ降婿されるお立場です。お婆様の道楽に付き合うよりもすべき事があるのでは?」


 まくし立てるような言葉を背中越しに浴びせた後、ドアを力強く閉めるリズ。


 ドアが完全に閉まり低く大きな音をたてるまで、翔太はリズが入ってきたドアから目を逸らせなかった。


 美しい?可愛い?綺麗?愛らしい?

 言葉では言い表せない。

 力強い?かっこいい?素敵?

 

 どれもしっくりこない。

 

 翔太が抱いたリズへの印象は言葉では伝えられない。


 ただ、今の状態は言葉で伝える事ができた。

 ああ、と呻きながら翔太は気付いた事を心で繰り返した。

『一目ぼれ。ボクは恋に落ちた』

読んで頂きありがとうございました。

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