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黄昏参り  作者: 竹屋智晶
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目の前に拡がる朱い世界…

いつもの街角が一面に朱色のペンキをぶち撒けた様な異様な光景がそこにあった。


「な…なんだ、ここは!?」


今しがたまで隣でダベっていたクラスメート達の姿も無く、それどころか周りにうざったいくらい居た通行人の姿も忽然と消えてしまっている。

自分独りだけしか居ない世界――

自分以外の人間がすべて消えてしまったのか、誰も居ない世界に入ってしまのか

そう直感的に感じ取った瞬間、言いしれぬ不安感と孤独感が一気に噴き出してくる。

教室に一人残される寂しさ、友達が皆帰ってしまい一人夕暮れの公園に残される様な孤独感。


「うぅ…」


涙が込み上げてきて泣きそうになる。

その時背後に気配がし、肩をぽんぽんと叩かれた。


「だ、誰か居るのか!?」


もはや、誰でもいいこの寂しさを紛らわせてくれるなら。

一途の望みを抱きながら最早、祈りに近い思いで振り返った…

数日後、記憶を失った状態で彼は発見された。





「ねぇねぇ、黄昏参りって知ってる?」


今この学園で密かに流行っている噂がある。

夕方...太陽が西の山に入り始めてから、入りきる迄に西校舎近くの朽ちかけた神社でお参りすると願いが叶うらしい。

隣のクラスの女子がそれで彼氏が出来たとか、卒業生が一流大学に受かったとかと言う信憑性のない尾ひれが付く。

しかし、実際に試そうとした人が居ないのは話のネタとして割り切っているからだろう。

もしくは、本当に起きてしまったらどうしようと皆思っているからかもしれない。


そんなとりとめのない周りの噂話を榊正輝は斜めに傾けた椅子に寄っ掛かりゆらゆらさせながら聴き流していた。

藤蒼学園高等部1年の廊下は授業間の休み時間にも関わらず、何故か廊下に人がごった返している。

廊下側の窓から1-C教室の中を窺う生徒の視線。

ギラギラして獲物を狙う狩人の目のようで、ちょっとした異常空間である。

この学園に入学してから2日目、小中高大一貫教育(エレベーター)な所に外部転入してきた事や、育った環境の影響であまり同世代の子供との付き合いが無かったせいもあり生徒間の輪に入れないでいる。

それ以外にもあるのだが......。


「――もう、あゆぽんも隅に置けないねぇ......」


先程、剣戟の様な音がして騒がしかった斜め前の席の会話が耳に入って来た。


「ちなみにBL版にはこのクラスの榊くんと真神くんの初夜疑惑(はじめて)と言うのが...」

「なッ!!」


その言葉と共に椅子のバランスを崩して後側に盛大にすっ転んだ。

一昨日の夜の事が既に学園中に知れ渡っている様だった。

しかもかなり脚色された形で面白おかしくなっている。



「痛ぇ......」


とっさに受け身はとったとはいえ背中に鈍い痛みが走る...しかし首には 痛みがない所か後頭部に柔らかい感触がある。


「おやおや、大丈夫ですか?」


頭上から飄々とした声で話しかけられた。

声の主ーー真神涼風がニコニコしつつも少し心配した表情で正輝を見ていた。

どうも着地点が正座していた彼の太腿だったようで軽い膝枕状態になっていた。

なぜそこで正座していたかは謎だが......。


「ああ。で、あんたは何故そこで正座している?」

「いやいや丁度お茶を飲んでいた処にいきなり君が降ってきて少々驚きました」


白と黒の袴の上に学ランを羽織っている彼の姿は何処から見ても大正期の書生にしか見えず、

教室の床に座布団を引いて茶を啜っている姿は廻りから見て場違いな事この上ない。

横に置かれたお盆には桜の形を模した茶菓子まで用意されてある。

休み時間に何をやってるんだかと思いながら正輝は腹筋の要領でよっと起き上がる。


「嗚呼、もうちょっとそのままでも僕は構わないですヨ...」


ふふふ、と笑みを上げながら少し残念そうな顔をする涼風。

流石にこれ以上変な噂にになるのは御免なのでその言葉を無視し、倒れた椅子を立て背もたれを抱えるように逆さに座り座布団の主に対峙する。

丁度彼を軽く見下ろす形になった。


「あのさ、俺としては出来るだけ静かに学生生活を過ごしたい。面倒事に巻き込まれるのは好きじゃない...」

「ほうほう...」

「でだ、一昨日の様な事は正直迷惑と言うか...」

「ふむふむ...しかし、同衾(そいね)など学生生活の上で普通に起きる事では?」

「いやいやいや、おかしいから!!」


遠回しに言おうとした正輝に涼風がはっきり言ってしまい、思わずツッコミを入れてしまった。


一昨日、入学式の前夜。

同じ寮、同室の彼が正輝の寝床にいつの間にか寝ていた。

しかも正輝が寝ている横で...。

早朝突然の事で正輝が大声を出してしまい寮中に知れ渡る事になってしまったのだが。


「流石に僕も驚きましたけどね」

「何でやねん!」

「いやはや、あの辺りの記憶がないと言うか...雪隠(トイレ)に行ったのは覚えているんですが、其の後がどうしても曖昧で...どうしたんでしたかね?」


その言葉に正輝は、はぁ~と溜め息をついていた。

寝ぼけて人の寝床にに潜り込むとはどんな性格してるのだと思う。


「まぁ、今後そうしない様に彼には言って置きますのでーー」

「なぬ?」

「あ~、いえいえこっちの話です」


その言葉と同時に次の時間を知らせるチャイムが教室内に響く。

椅子に座りなおす正輝に涼風の言葉が少し引っ掛かった。

一体“彼”とは誰なんだと。






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