【番外編】クリスマス③
圭織は男の背を見送り美紀に訊ねる。
「ねぇ、ベリーニって何?」
圭織の言葉に美紀は「飲めば解るわ」と笑う。ほどなくして男がベリーニとホットワインをテーブルに置き、にこりと微笑んだ。素敵な笑顔に圭織は心を奪われる。
「圭織、飲みましょう?」
「う、うん……」
圭織ははっとし、テーブルに置かれた飲み物にようやく目を落とし感嘆する。 美紀の笑い声が聞こえた。口の広い浅い椀形のグラスには鮮やかなピンクの液体が注がれ、黒いストローが刺さっている。とても綺麗だ。
「うわ、テンションめっちゃ上がる!」
大きな声を出し、すぐに圭織は口を押さえた。
「……煩くしちゃった、ごめん」
「いいのよ。好きなように過ごすのが一番だから」
美紀は優しく言った。圭織は美紀をじっと見つめた。
「どうしたの?」
美紀は言った。圭織はかぶりを振る。
「何でもないんだけど……美紀がすんごく優しくて、気持ち悪いなと思って」
「何よ、それ……」と美紀を呆れている。圭織は唇を尖らせた。
「何って……本音だけど。それにこんな優しくて顔だけは妙に整ってる人が何であたしなのかなぁって不思議に思うじゃん」
「……お褒めの言葉として受け取っておくわ」
美紀は余裕の表情を浮かべ、ホットワインに添えられたシナモンスティックを手に取った。珍しいことに美紀は圭織の言葉を流す。
「冷める前にいただくわ」と美紀は耐熱ガラスの蓋を開けた。途端に蒸気が見え、ワインの香りが広がっていく。甘い香りがした。
「美味しそうね」
美紀は目を細め、シナモンスティックでくるりと弧を描く。濃い赤色がシナモンスティックに揺らされ、一定方向に流れ、静かに回り始める。圭織は美紀を見つめた。美紀の動き、一つ一つに目を奪われていた。圭織は唇を舐め、かぶりを振る。
「あたしも飲もう」
圭織は不自然にベリーニに視線を移し、ストローに口をつけた。圭織はすぐに目を見開いた。
「お、美味しい……」
圭織は美紀を見つめ、呟いた。炭酸の爽やかさと甘み、これは桃のピューレだろうか。アルコールに詳しくない圭織は何が含まれているか全く解らない。だが、飲みやすく、とても美味しい。圭織好みの味だった。
「ふふ、気に入ってくれて良かったわ」
美紀は笑い、今度はホットワインを圭織の前に置く。
「あたし、ワイン苦手なんだけど……」
「解ってるわ。でも、一口でも飲んでみない?」
美紀に促され、圭織は恐る恐るグラスに口をつけ、はっとする。ワインも甘くて飲みやすい。
「ワインなのに美味しい……」
「でしょう? 圭織、飲みやすければワインでも良いのよ?」
その瞬間、圭織は何となく気がついてしまう。美紀が何故、ワインを頼んだかを。
終わりません。そろそろ、料理が来てほしいですね。そして、明日も少しずつ書きますので宜しくお願い致します。