ショータイム
急いで美紀は残りのチュロスを食べ終え、コーヒーを飲む。
圭織はひたすら、スマートフォンのシャッターを切る。左手には一口も食べていない抹茶のチュロスが握られている。飼育員の軽快な掛け声とともにアシカが真っ白な台に飛び乗り、ポーズを決める。わっと聞こえる観客の声。
「ねぇ、あれ、敬礼?」
圭織が美紀の肩に触れる。
「ええ、可愛いわね」
美紀はちらりと圭織のチュロスに手を伸ばし、「終わるまで私が持つわ」と微笑む。
「ありがとう! わっ!? 今度はイルカが飛んだ!」
圭織は叫び、自由になった手でレンズをステージに向け、何度も写真を撮る。イルカが水面に落ちる瞬間、ステージに近い観客席から悲鳴に似た驚きが聞こえる。水飛沫。遅れて歓声と拍手が聞こえる。イルカが口を開け、飼育員が素早く、魚を口に入れる。
アジかな? 圭織は推測する。ただ、それ以外の魚をぱっと思い浮かべられない。圭織は楽しそうにショーを見つめる美紀に
「わー、あんなに飛ぶんだね。だから、カッパを着てるわけね」
声を掛け、観客席を見つめ笑う。服は濡れないが顔は濡れてしまいそうだ。
イルカショーには、イルカだけではなく、ステージからワシが飛び、観客席を飛び回る。
「腕でもあげたらもっていかれそうね」
美紀はくすくすと笑い、「ちょっと! 危ないことは止めてね!」と圭織に注意を受ける。
その間にイルカが大きくジャンプをし、水面を散らす。大歓声だ。皆、笑顔でショーを見つめ、驚いたり笑ったりする。
「……水族館もいいものね」
美紀がぼそりと言う。ショーはあっという間にフィナーレを迎え、プールに飼育員が飛び込む。
「ね、あたしもそう思ってた」
圭織は言い、目を輝かせた。イルカが鼻先で飼育員を押し、プールをくるりと泳いでいる。飼育員は観客席に手を降っている。
そして、飼育員はプールから上がり、近寄ってきたアシカと手を振っている。
「可愛いね」
「そうね」
美紀と圭織は手を叩き、イルカショーに浸りながら、抹茶のチュロスを半分ずつ食べ、温くなった缶コーヒーを胃の腑に流し込んだ。
「はー! 次はしょっぱいものが食べたくなるね」
圭織はにっと笑い、ゆっくりと立ち上がった。まだまだ、見るところがあるのだ。
追記しましたー!




