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時間の共有
薄暗い水族館を圭織と美紀は歩く。大水槽には、サメやスナメリ、イワシが泳いでいる。スナメリが渦を巻きながらゆっくりと泳ぐイワシを好奇心で裂いていく。スナメリによってイワシは様々な形となる。
「あ、見て! あそこにイワシが」
圭織は見上げ、指を指す。
「あら……群れから離れたようね」
イワシは人間の目にすら、解るほど慌てていた。必死に群れに戻ろうとするが、スナメリが上手い具合に邪魔をする。
「確か、食べられないようにみんなで泳いでいるんでしょ?」
圭織は美紀を見た。
「そうだったと思うけど……」
「水族館でもやっぱりそうなのかな」
圭織は水槽を見つめる。イワシは必死に群れの中に戻ろうとするが、水槽の奥に泳いでいってしまう。圭織と美紀は水槽を見上げ、イワシを見つめる。
「……あ、戻ったわね」
「ね、良かったぁ。なんか、どきどきしちゃったもん!」
圭織は笑う。たとえ、弱肉強食だとしても何だか可哀想に思えたのだ。
「そうね」
美紀は頷き、圭織の手にそっと触れる。
好きな人とおなじ空間でおなじものを見るっていいなぁ。




