水族館
駐車場は思ったより混んではいなかった。寒風に舐められながら、圭織は美紀を風除けにしながら水族館に向かう。出入り口からやや離れた場所に少女がオレンジのイルカを胸で抱え、楽しそうに両親を見上げている。
「可愛いわね」
美紀は言った。
「うん。女の子もイルカも可愛いね」
圭織は頷き、チケット売り場でチケットを買い、ゲートを潜った。出入口の傍にある売店とフードコートはぎゅうぎゅうだった。
「わっ、凄いね! やっぱり、休みだからかな」
「そうね。でも、広いから見る分には分散されそうね」
「だね」
パンフレットを見つめながら、圭織は笑う。あと、二時間後にはイルカショーがあるようだ。あと、少しで一年が終わる。毎年のように過ぎていく行事が、年々、早くなっていく。
「圭織、なにか見たいものでもあるの?」
美紀がパンフレットを覗き込む。佳織はハッとする。
「あ、うん。イルカショーと……あ、このペンギンの餌やりがしてみたい!」
「そう。いいわね」
美紀は楽しそうに目を細めた。
「あ、美紀は? なにか気になるショーとかある?」
「そうね……」
美紀は考え込んでいる。佳織は端正な顔をじっと、見つめてしまう。
「あ」
「え?」
美紀の言葉にびくりと佳織は震える。美紀はくすくすと笑う。
「最近の圭織は考え事が多いのね」
「まっ、まぁ……」
圭織は美紀を睨み付ける。何だか、顔が熱い。
いいなぁ、デート。




