弟
エアコンの音が聞こえる。圭織は膝を抱え、ほんやりとソファに座る。濡れたコートはソファに掛けられ、温かな風がコートを撫でている。
リビングにはもう、誰もいない。身体は冷えている。本当はお風呂に入るべきだった。でも、身体が動かない。
もう、なにもしたくなかった。塞ぎこむのは、楽しかった反動だろうか。それとも、惨めになったのだろうか。
わからない。わからないことが至極、嫌で堪らなかった。
「……」
ふと、玄関で音が聞こえる。両親は既に眠っている。ならば、この音は義之だろう。圭織は壁時計を見上げた。今日は終わり、明日に変わっている。
「……あれ? 何かあったの?」
弟が言った。その目は圭織を見つめたまま、ビックリしている。
「今日、美紀さんと一緒だったんだよね?」
「……何で知ってるの」
「え、だって、俺の携帯に電話があって……迎えに行けなかったから圭織、もしかして具合悪くなった?」
「べつに、そういうわけじゃない」
「……良く分かんないけど……一緒に珈琲飲まない?」
「飲む」
頷く圭織に義之はにっと笑い、「ちょっと待って。まずは着替えてくるわ」
そう言って、二階に駆け上がっていく。
紅茶より珈琲派の姉弟。




