you 圭織side
アーケードを歩いています。
鼻先に冷えた風が当たり、圭織は何度も鼻をすする。アルコールで温められた身体が少しずつ、体温を落としていく。圭織は反芻する。楽しかった。月並みだけど、夢のようだった。圭織は幸福のため息を吐く。気が付けば、笑顔になっている。美紀だからだろう。圭織は美紀を一瞥する。美紀が自分に抱く気持ちは一体、何だろう。
愛? そもそも、愛とは何だろう。
圭織には解らなかった。本気で誰かを愛したことが無いような気がする。いや、どうなんだろう。好きになった人は何人もいたし、男性を付き合ったこともある。
ただ、長続きはしなかった。高揚していた気持ちも付き合ってしまえば、途端に億劫に変わる。デートの約束、相手の好きな服装、メイク。無理して笑ったり、好かれ続ける為の努力。これが永遠に続くことが圭織には負担だった。休日にゆっくり休みたいと思ってもデートで一日が終わってしまう。世界は彼だけじゃないのにいつだって彼とあたしの世界になってしまう。狭い世界に閉じこもりたくなかった。向けられる視線も手も唇も怖かった。こんなこと、誰にも言えないけど。
「本当に好きじゃなかったんだよ」
その言葉が呪いになる。あたしはこれから誰かを愛せるのだろうか。そもそも、こんなあたしを愛してくれるのだろうか。愚頓なふりが心を殺していく。
恋人が欲しいのも結婚を焦ることも本心では決して無くて、誰かを愛することが当たり前の世界であたしはただ、異常者になりたくないだけだ。
「危ないわ」
鮮明な声。圭織はハッとする。引かれる腕。美紀の切れ長の瞳が冷たく光り、足早にすれ違う女を睨むように見つめる。
「あ、ありがとう」
不安定な足取りを美紀はしっかり支えてくれる。美紀は誇らしげに笑った。双眸に映る美紀と暖かな装飾。
「……?」
何だろう、この気持ち。楽しかったはずなのに、意味も無く泣いてしまいそうになる。
飲むと寂しくなりますよね。楽しかった分の反動でしょうか。




