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美紀side。
並んで歩く圭織を見る度に美紀は自分の熱を知る。ずっと、好きだった。別に初恋でも、一目惚れでもなかったけれど。ましてや、圭織のどこが好きだと訊ねられたとしても、きっと私には分からない。ただ、圭織という存在が美紀には愛おしかった。こんなに誰かを好きになることはあるのだろうか。美紀は笑う。本当は諦めようと思ったことも、距離を置こうと思ったことさえあった。
結婚してくれればいい、そう思った時さえも。今の美紀には考えられないことだ。それほどまでに愛してしまっていた。あの時の苦しみや痛みを思い出し、美紀は苦笑してしまう。好きでもない相手と付き合い、身体を重ねることが何よりも苦痛だった。
両想いになることがないのなら、この好きが大きくなる前に私の手の届かないところに行ってほしいと思っていたのかもしれない。女性同士では、結婚も出産も出来ない。自分では圭織を幸せにすることは出来ない。所詮、男性には敵わないと思っていた。
でも、今は私の隣には圭織がいて、幸せそうに笑っている。大切な日に好きな人の傍にいれることが何よりも幸福だった。今まで沢山、諦めてきたけれど、生きてきて本当に良かった。
「圭織」
「え、何?」
立ち止まり、美紀は圭織の腕に自らの腕を絡ませ、スマートフォンを向け、瞬時に写真を撮った。
「え、写真?」
きょとんとする圭織に美紀はくすりと笑い、スマートフォンの画面を指で何度もタップする。
なんかこう、不意に写真撮りたいなって思うことないですか。いや、ないのかな。どうでしょうか。




