【番外編】クリスマス⑦
圭織は目を細めた。次々とテーブルに並べられる料理、青い皿にはスモークサーモンのマリネ、陶器の皿にラム肉の唐揚げが乗っている。圭織は皿に乗るレモンに気が付いた。
スモークサーモンには輪切りのレモン、そして、ラム肉の唐揚げには半月のレモンが一つ。心が奪われる。
「レモンもどうぞ?」
美紀の声、圭織は静かに頷く。レモンが好きなのだ。特に輪切りのレモンが。口内に唾液が溜まっていく。ふと、美紀の指先が伸びた。長い指が半月のレモンを掴んだ。見る間にレモンがぎゅっと搾られる。スリムになったレモンから果汁が滴り、サーモンと唐揚げを濡らし始めた。鼻腔に酸味が触れる。圭織は息を吐き、サーモンを箸を掴んだ。座っている椅子が微かにぎぃと鳴る。無意識に前のめりになっていた。
美紀の笑い声が耳に響く。それは静かな波の音に似て、驚くほど心地好い。波の間をサーモンがゆらゆらと泳ぎ、蝋燭の明かりがその身を鮮明に照らす。圭織はそれを美しいと思った。圭織はサーモンを口に含み、ゆっくりと咀嚼する。目を細め、舌先で味を確かめる。息が漏れた。とても美味しかった。その間、美紀はレモンを陶器の端に起き、卓上のナプキンで指先を丁寧に拭う。ちらちらと美紀の視線が動き、圭織を捉える。圭織は美紀を真っ直ぐ見た。
「美味しいよ。とても美味しい」
「そう、良かった」
美紀は満足感に溢れた笑みを浮かべた。圭織は笑い、箸でサーモンを摘まみ、美紀の方に向ける。美紀の瞳が見開かれた。美紀は動かない。ただ、戸惑いの視線を圭織に向けている。そんなに驚かなくても。圭織は目を細めた。とろんとする。全身が熱い。お酒の力だと思った。圭織は愉快になっていた。美紀は困っている。ああ、とても楽しい。楽しくて仕方がなかった。
「美紀、食べないの?」
「──た、食べるわよ」
圭織はくすくすと笑う。美紀の眉根が不快げに、いや、恥ずかしそうに寄る。圭織はその様子を見つめている、ただ、ひたすらに──
お久しぶりです。クリスマス、そろそろ終わりそうな予感です。では、お読みいただきありがとうございました!




