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この話から不定期更新になります。
お店を出る前にパンパンになってしまった金袋から少し出して余裕を持たせ、余った分は鞄の中のものと一緒に金庫に入れた。一気に軽くなった鞄に違和感を覚えつつも、ものがものだし大きさも厳しいので、ということで金庫は先生に持ってもらうことになってしまった。先生は持つのをためらっていたみたいだけど、店員さんが包んでくれたらほっとしたように受け取っていた。
「先生、この後はどうするんですか?」
「そうですね、まずは本屋に行きましょう。本自体高価なものなので、ものがそろっているかはわかりませんが色々見てみましょうか」
「はい!」
お店を出てまた先生と手を繋ぎつつ――片手だととても金庫が持ち辛そうだ――歩く。本屋さんの場所は先生が把握しているようで、迷うことなく進んでいた。
本は邸の中で何度も見たし魔術の教科書も本だけど、どんなものがあるんだろうか。物語はあるのかな。絵本は? コピー機なんてないだろうし、教科書の字は綺麗だったけどいわゆるパソコンで打ち込んだような整ったものではないようだった。もしかして手書きなんだろうか。
「先生、本はどうやって作るんですか?」
「どうやって、というと……?」
聞くと、先生は目を丸くしてこちらを見た。それに頷くと、首を傾げ、難しそうな顔をしてしまう。
「あの、だって世界に一冊しかない、ということはないでしょう? 教本というものが存在している以上同じものが何冊もあるはずです。それはどうやって作られるのですか? 全部手書きなのですか?」
質問が大雑把過ぎただろうかと聞き直せば、先生は「ああ」と頷く。「それはですね」といつものように頷いて言葉を続けようとして、急に立ち止まって私の顔を見た。
「先生?」
私も立ち止って見つめ返せば、先生は小さな声で「いえ」と返事をしてまた歩き出す。
「魔術教本は確かに生徒のほぼ全員が所持しているでしょう。そして巷にあふれる本たちもまた、同じものは何冊もあります。その本はみな、どういえばいいでしょうね。木の板を削り、文字を彫りだしたもので判を押すように作っているんです。ああいや、判というのは……」
困ったように眉間にしわを寄せ首を傾げる先生に、わかりますと伝えれば、安心したように続けた。
「その板にインクを塗り、紙に刷っていくんですよ。そうすることで最初の労力のみで、あとは簡単に本が、いえ文字を写していくことができます」
そうして一枚一枚ページを作り本にしていくんですよ、と言われ、大体最初の説明でわかりはしたがふんふん頷く。懐かしい。テレビで小学生が版画をしていたなあ。
「着きましたよ、ここです」
先生は言うと繋いでいた手を離し、ドアを開けてくれた。金庫を持ってもらっているのに申し訳なくて、先に入ってドアが閉まらないよう押さえる。まだまだ体が小さいおかげで私がいたところで先生は余裕で通れるのである。お礼を言われてちょっと嬉しくなりつつ、改めてお店の中を見た。
「いっぱいありますね」
「そうですね、少し意外でした。好きに見て構いませんよ。気に入ったものがあれば買いましょうか」
先生は「一旦解散しましょう」というと本棚に目を向けたまま離れ、棚の間に消えていった。それを見て私も視線を巡らせ、興味がそそられそうなものを探していく。本屋の内装はあちらの世界とそう変わらなかった。小さなカウンターが一つと、壁いっぱいの本。隙間を埋めるように人が擦れ違える程度の間隔をおいて並べられた本棚。紙とインクのにおいなのか、本屋独特のかおりがする。
どういうジャンルの本なのかも背表紙だけではわからなくて、適当に歩いて見てみることにした。本屋の内装は変わらなくても、邸にある物と同じように本自体は分厚く、重そうだ。ハードカバーってやつである。
『カタリエと近隣諸国』
そう書かれた本を見つけ、手を伸ばす。なんとか届いたそれを引き抜き表紙を開いた。カタリエ、というのはもしかして、私が今住んでいる国の名前だろうか。近隣諸国と並べられるということはそうなのだろう、とあたりをつけページを捲る。
どうやら国との関係というより、自国と周辺国の説明の本のようだった。持っていて損はないだろうけど、先生に聞けばわかるのでは? とも思う。でも知らなければ聞けないしなあ。
カバーだけでも割と重そうな本を開き続けているには筋力がない。閉じて両手で抱えた。買おう。先生にはシルラグル領のことしか聞いていないし、目次を見た感じだと世界地図のようなものも載っているようだ。これも自習である。近場の棚を見て見たがさすがにシルラグル領と近隣の領みたいなものはなかった。
あとはなにかあるかなと視線を迷わせ、歩みを再開する。すると小さな棚だけど、背表紙になにも書かれていない本が並んでいるのを見つけた。平台に抱えていた本を置き、それを引き抜く。表紙にも何も書かれていなかった。
少しざらつく表紙を開き、見返しを捲る。そこにもやはりタイトルはないし、さらに捲っても目次はおろか本文もなかった。首を傾げ本を戻し、隣のものを取る。表紙の色と装丁が違うだけで中身は同じ、白紙だった。
もしかして、これはノートだろうか。
今まで先生に貰った紙をノート代わりにしていたが、これがそうなのかもしれない。パラパラとめくっていれば栞紐が出てきて、それに結び付けられていた値段を見るとなるほど、それなりにお高い。これをメモのように使い捨てるのは躊躇うなと苦笑して閉じた。
棚に戻し並んでいる背表紙を見て、どれにしようかなとすこしわくわくした気持ちで眺める。買うのは決定だ。昔から新しいノートは選ぶのも、使うのも、なんだかとてもどきどきして好きだった。
「んー……」
やっぱり青だろうか。目がファデル様と同じ色、といわれれば、ついそれと同じような色を持とうとしてしまう。人は自分の体にある色を持つと自然だと以前テレビで見た影響だ。本当なのかはわからないけど。でも好きな色は赤だった。
好きな色か、持っていて違和感のない色か。でも用途を考えるとなにも人に見せるわけではないし、好きな色でもいい気がした。ずっと楽しく使うには、やっぱり好きなものが一番だろう。
(よし!)
赤い表紙の物を手に取る。手触りもなめらかに手に馴染むし、これが良いだろう。今の私には大きくても、そのうちこの大きさが普通になっていく。それさえも楽しみで、日々をこれに綴っていくのだとやっぱりどうしようもなくワクワクした。
私がノートを見て一番に思いついたのは、日記を書くことだった。
それはシオル様と文通をするのにまだまだ文字が汚いから練習がしたい、というのもあったけど、なによりここで生きている日々を残していきたかった。一日一日が、他の人にはくだらないことかもしれないけど、私にとってはどれもが大事だから。何年たっても忘れないように。何年たっても日々を大切に生きれるように。
それに私は日本語を書けるという、この世界では特殊な技能を持っているんだ。誰に見られても読まれることのない日記。それはどんなに恥ずかしいことだろうと好き勝手なんでも書けるってことだ。
それでは文字の練習にならないと思うかもしれないけど、実は私が想定しているのは一ページを区切り、上段に好き勝手日本語で、下段に万が一見られても指し障りのないものをここの文字で、そうやって書いていこうと思っている。文法は幸い先生のくれた文字板があるのだ。あれに喋りながら浮かんだ言葉を書いて覚えていけるだろう。毎日繰り返すことで習得だって早くなるはずだ。
そうやってプランを頭の中で考えているだけで楽しみだった。これで決まり。今日買って、今日から書こう。
丁度今日は、区切りにいい日になるはずだから。
邸に戻ってまいりました。本もノートも無事に買い、先生に持ってもらっていた金庫と一緒に部屋に置いてきた後、前庭に先生と来て、授業の開始です。
「もうお嬢様も随分魔術に慣れてきましたね。そろそろ複合魔術を覚えていってもいいかもしれません」
庭に直に座りながら対面するのが授業スタイルとして固定されています。リリシアにはご令嬢としてどうなのです、と嘆かれたけど、最初がこれだったから落ち着いてしまうのだ。ごめんねリリシア。部屋にある勉強机は完全に私一人の自習机になっています。今日は本立ても買ったので、本来先生が座る位置は本と学習用具で埋まりました。私側はそのまま自習スペースです。でも勉強机ってあれが在るべき姿だと思うの、私。
で、先生。そのまえに話すべきことがありますよね。
にっこにっことわざとらしい笑顔を浮かべて先生を見れば、先生は気まずそうに目を逸らし、額を押さえ、深い溜息をついて空を仰ぎ、そうして諦めるように短く息を吐いた。
「学園について、でしたね」
苦い顔でいわれた言葉に、そうですともと頷く。
「なかなか難しい話でもあるのですが、お嬢様にも関係してくる話ですから、詳しく説明していきたいと思います」
そういって口元を擦った先生に、「はい」と挙手をした。「どうぞ」と促され、腕を下ろして首を傾げる。
「私に関係する話なんですか?」
先生は私の質問を聞くと顔を顰め、目を逸らすと難しい顔で唸った。息を吐くと視線を戻し「そうです」と頷く。
「あらゆる国の、人種も、身分も問わず通える場所だといいましたよね? 正しくは違います。悪い言い方になりますが、あらゆる国の未来を、集めているのです」
「国の、未来?」
悪い言い方、というのはどういう意味だろうか。まるで素晴らしいところのように思っていたが、話し始めが余りに不穏だ。
「学園は正式名称をフェントハルト共同学園都市国家、といいます。国家と付いてはいますが、正しくはこれ自体が国なわけではありません。その説明は後に回すとして、この学園の実態は終戦、平和条約の加盟国が貴族だけでなく優秀な子供、つまり国の将来を担う者たちを一か所に集め、同じ教育を施すことで同じ方向を向いている、つまり争うつもりはない、という意思表示とするものなのです。平和の象徴、とでも言いましょうか」
終戦。平和条約。突然の物騒な言葉に急に現実を見せられた気がした。そうだ、ここは世界が違っても国がいくつも存在する場所なのだ。うっすら、その説明だけで話が見えてきそうだった。
「条約に加盟していようとしていなかろうと、学園の敷地内は戦争というものが全面的に禁止されています。国柄や身分、人種などによる差別などもなく入学したものが皆平等に扱われる場所なのです」
先生は私から視線を逸らし、地面に落とした。その表情が苦いものであるのを見て、目を細める。
「ですがそれは表向きは、という話で、実際の学園の中はどの国に逆らうべきではないのか、どの国と良好な関係を築けているのか、という、小さな世界を体感するような場所になってしまっています。差別は存在しますし、身分もなくなりはしません。当然です。その中に入った途端別人になるわけでもなければ、中にいるのはすべて、同じ人ですから。親から伝えられたものをそう簡単に捨てられる子供はいません」
道理というものだろう。人が集まれば差別は存在する。持っていた身分は捨てられるものではないし、その意識も同様だ。そして親から学んだものも。
やる前からわかりそうなものだけど、多分実態などどうでもいいんだろう。重要なのは終戦。つまり自分の国が脅かされないこと。仲間外れになって他の国に結託して叩かれないようにすること。そのためには全員が並び、つまり、そう、
「お互いが国の未来を人質にすることで、手を出せない状態にした、ということですか」
手を出せず、手を出されない。そのためには重要なものを、そしてなくせないものを、同じだけの価値のものを出さなくてはならない。そうすることでやっと、お互いにとって同じ大きさの脅威になるんだ。わかりやすかった。
先生は息を呑んで目を見開くと、ぐっと眉間に皺を寄せた。「その通りです」と絞り出される声に目を伏せる。
私にも関係する、ということは、貴族の子供である以上送られる、ということか。国同士の牽制に利用されるか。だけどそれで戦争が起こらないというのなら、ある意味儲けものだろう。
私は戦争を体験したことがない。平和な時代に生まれたのだ。その壮絶さも、起こる惨劇も、残虐さも、教科書で読んだりその当時を生きた人の話を聞いたくらい。けれどたったそれだけでも、平和な時代に生まれたからこそ、その恐ろしさに震えた。
なにも生け贄にされるわけではないのだ。国の未来を預かるというのだから学園の中は安全であるはずだし、そう悲観するようなものでもない。
リリシアやシオル様があんなにも素晴らしいもののように言うのは、実態を知らないというのもあるだろうが、それ以上にそこで受けられる教育が素晴らしいものであると確信しているからだろうし。
「そしてお嬢様は伯爵家の子です。当然学園へは通うことになります」
でしょうね、と内心頷く。先生は苦虫を噛み潰したように顔を歪めると、目を瞑り息を吐いた。私よりも先生の方が深刻そうな様子だから、なんだか少しおかしい。
「学園へ入学するのは、七歳になる年です」
「――」
それはさすがに、予想外だった。
ぱちり、と瞬きをして、視線を外す。
私は今五歳だ。五歳になってから何カ月経っているのかは知らないが、とにもかくにも、つまりこの一年は六歳になる年、である。そこを過ぎれば、
「あと、一年しか、ないのですか」
ここを離れる。
たったの、まだたったの一か月しかここで過ごしていない。だというのにここでの時間は、あと一年も私に残されてはいないのか。
「お嬢様。なにも学園に入ればずっとそこに閉じ込められるというわけではありません。年に二回は長期の帰郷期間がありますし、逆に外の人を招く公開日というものもあります。暗いことばかりお教えした私がいうのもおかしな話ですが、そう悲観されないでください」
「ですが、それがいくつになるまで続くのですか?」
眉を下げ悲しげな表情で言う先生を見つめれば、ぎゅうと眉が寄せられる。それにああと目を瞑り、浅く、長く息を吐いた。
「十七になる年までです」
私は、ここで後どれだけ、両親に想いを返せるのだろう。
先生の授業も終わり夜。すでに夕飯も済ませて、とっくにリリシアもエーデリア様も夜の挨拶に来た後だ。
シアになってから初めて夜更かしをしていた。
ひっそりと部屋の窓を開け、外に出る。敷地の塀の角まで小走りで進んで振り返った。邸の明かりはすべて消えていて、誰かに見られる心配もないだろう時間だ。
うん、と一つ頷き、笑う。小さな声でアストラを呼べば、空中からひょっこり姿を現し地面に着地した。猫の姿だから音もせず、言う通り鈴を外してよかったなと初めて思った。
「なにをするんだ?」
真っ黒な姿が夜の暗闇にとけて見えずらい。他のところなら月明かりや星の明かりで見えたかもしれないけれど、ここは庭の隅、大きな木の下だ。影になって余計に暗かった。少し考えて目を瞑り、アストラをあの少女の姿に変える。
あちらで、その姿と共に過ごした時間は決して短いものではない。容易く思い出せた。
「――梨夏の葬式をしよう」
言いながら目を開ければ、ぱちりと瞬く瞳と目が合う。そのまま首を傾げられ小さく笑った。
「梨夏の、葬式?」
不思議そうに言われそれに頷く。アストラは首を戻すと視線を外し、すぐにまた目を合わせると「そうか」と静かに頷いた。
心は凪いでいる。不思議はない。今日急に思い立ったようなものだけど、ずっとぼんやりとは考えていたのだ。
「じゃじゃーん。きちんと花とかも用意してきたのでした」
っへっへっへ、と悪戯に笑い、後ろに両手で持っていたものを前につきだす。アストラはそれを見てまた「そうか」とだけ零し、薄い反応を少し残念に思った。わざとらしく拗ねるように唇を尖らせながら見れば、横目で見てため息をつかれる。
買いものの最後に、クッキーのお店に寄っただけでなくお花屋さんにも寄らせてもらったのだ。先生はどうしてとは聞かなかったけど、私が真剣に花を選ぶ姿を見て不思議そうにしていた。特にエーデリア様やファデル様に送るわけでもないことに夕飯の時に気付いたんだろう。余計不思議そうにしていたけど、話すはずもない。
これは私と、アストラだけの秘密なのだ。
場所はきちんと夕飯の時にお二人に使っていいと許可をもらってある。何にかはやっぱり言わなかったけど。
「なぜそんなに嬉しそうなんだ」
へへ、と頬を弛めるとアストラはまた首を傾げて聞いてきた。それに視線を外し、手に持つ花とガラス玉、ロロジーを見る。
「私はね、今日を区切りにするの。梨夏を想う気持ちにここでさよならをする。いろんなものを見て思い出す度気持ちに浸ってたんじゃ抜け出せない。追憶ばかりじゃ前に進めない。今に向き合えない」
手の中で転がしていたロロジーを握りしめ、じっと見つめてくるアストラと目を合わせた。相変わらず真っ黒な瞳だ。見つめるとどうしてか感情が凪いでしまう、不思議な瞳。
「過去に固執するんじゃない。でも消すわけでも、忘れるわけでもない。それも今の私を作る一部だから、決別じゃなくて受け入れる。梨夏の死を受け入れて、自分が違う道を歩き出しているんだって、さようならをするの」
たったの一か月。だけどいっぱいの想いがつまった一か月。私は確かにここで、私として生きている。
最初はあちらで小さい梨夏になった時着ていた黄色のワンピースと、今の目の色ってことで青を選んだ。だけどお姉さんの話を聞いてやめた。
黄色は人との縁。白は人を否定しない、受け入れる心。
梨夏の経験も、時間も、思いも、培ってきた思考も、全て捨てるつもりはない。それでも梨夏が死んでいるという事実を、私が受け止めて、受け入れるのだ。
「君は、変わるのか」
「ううん、変わらない。私は私だから。だけど、」
見下ろして、地面に膝をついた。ロロジーと花を置き手をつく。
「ここからまた、始める」
アストラは正面から私を見下ろしたままで、それでかまわないと思った。アストラは梨夏を送る人では、きっとない。アストラの世界には梨夏がいるままでいい。梨夏の思い出も、場所も、あそこにあってかまわない。
ただ見届けて欲しかった。始まりを知っている人に。
これは私のわがまま。アストラにとって梨夏と私がどんな存在なのかも私にはわからない。
地面に魔力を落としていく。土の基本陣だけだ。今日教えてもらったばかりの魔法陣と呪文の複合魔術。魔法陣だけならもう慣れたもので指の動きに迷いはない。あっさりと描き終えたそれを確認して、間違いも、書き忘れもないことに頷き深呼吸をひとつ。
目を瞑り、ロロジーを包むように手を合わせ、指を組んで目を開ける。
「眠るかの人への弔いを」
呟くように落とせば、途端に魔法陣が光りだす。ずるりと魔力が持っていかれる感覚がした。その先でふわりと光が舞い、散っていく。眩しくて目を細め、目の前で形を変える地面にうまくいく確信をもった。魔術で土を整形し、石に変質させ、最後に花を供えるのだ。
花言葉とかが分かれば良かったんだけど、それよりも見た目の好みを優先した。祈りはロロジーに込めたから。
「ありがとう」
消えた魔術の気配に二つのロロジーと、花束といえるほどもない花を置いて、そっと冷たい石を撫でる。お墓の正しい形なんてわからないから自分なりに作ったつもりだ。滑らかな表面は会心の出来です。大変満足しました。
「さようなら」
こうすることで目に見てわかる弔いとした。もう心はきまっているけど、けじめとしてこうしたかった。
こうすることで、梨夏を送るのだ。
「ああ、梨夏が終わったのか」
アストラは石を変わらない無表情で見下ろしそう呟くと、目を伏せる。手をかざすとそこに花が現れ、そのままはらはらと石の上に散っていった。
「私から、最後の贈り物だ」
読んでいただきありがとうございました。
↓用語説明
◇カタリエ
シアの生まれた国の名前。海には面していない。




