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あの日々の祝福を
「私はずっと。ひとりじゃなかった」
「幸せだった。間違いなく、私は幸せだった」
そう綴られた文字を指でなぞり、息を吐いた。
この世界に君が来たのは何故だったのだろうか。私に出会ったわけは。
ここで生きることに、なにか意味でもあったのだろうか。
特別なものなどない。時代に揉まれ、人の思いに揉まれ、翻弄されながらも自分の足で生きたたったひとりの人生だ。
たったひとりが、必死に生きただけなのだ。
君の思いが詰まったそれは、傍から見れば退屈な、つまらない人生かもしれない。それでもその中で出会い、別れ、何かを得て何かを失ってきた。
最後に残ったものがなんであったのかはわからない。君の最初の望みが、本当に叶ったのかさえ私には。
だが少なくとも、無意味ではなかった。
見上げた空は晴れている。風も心地よく頬を撫で、木の枝葉を擦り小さく音を立てていた。
旅立ちにはもってこいだろう。初めは私一人が祝福した君の、新たな旅立ちもまた、祝福されているといい。