死の連鎖②
外に出て莉奈の家の方へ向かって走り始めてから数分経ったが、人の姿が全くない。誰もいなくなった、僕一人だけの世界を走っている気分だ。でも、それは決して心地よいものではなかった。薄気味悪い、冷たい世界。この街はこんなに息苦しい場所だっただろうか。
莉奈の家に向かう道中、スーパーマーケットから出てくる人影が見えた。僕はその人物に見覚えがあった。しかしその動きにはどこかいつもと違うような、そんな雰囲気があった。
「博貴、大丈夫か。」
僕はその人物に声をかけた。しかし、僕の声は彼には届いていないようだ。
「うぅ・・・。」
涙を流しているのか・・・?僕は心配になって博貴に寄り添おうとした。すると博貴は突然叫び声をあげた。
「うおああああぁぁぁぁぁ!!」
僕は何が起こっているのかわからず、その場に立ち尽くしてしまった。博貴は何かを首にあてがって呻いている。僕が戸惑いながらその光景を見ていると、後方から声が聞こえた。
「見ちゃダメ!今すぐここから逃げて!」
後ろを振り返るとそこには莉奈が息を切らして立っていた。僕にそう言うと莉奈はすぐに走り出した。僕もそれについて行くように走り出した。後ろからただならぬ叫び声が聞こえる。僕は決して振り返るまいと一目散に走った。
気がつけば、目から涙がこぼれていた。
ここまで来ればもういいだろう。僕は何かの建物の裏にまで走ってきていた。いつの間にか莉奈ともはぐれてしまったようだ。――博貴が死んでしまった。僕は何もできないまま、その断末魔を聞きながら逃げることしかできなかった。僕は涙を流しながら、くそっ、くそっ、と壁に拳をぶつけた。博貴を救うことはできなかったのか。そもそも博貴に外に出ることを僕が止めておけば・・・。
「どうしたのですか。」
突然、僕は誰かに声をかけられた。声のした方を見てみると、そこには青く澄んだ目をした少女が立っていた。
「あなたは今、幸せですか。」
何を言っているのだろう。僕の姿を見て、どう考えれば幸せに見えるのだろうか。非常に不愉快に感じながらも、僕は首を横に振った
「幸せではないのですか。」
さっきから何を聞いているんだ。半ば投げやりに僕はうなずいた。
「どうすれば、幸せになりますか。」
少女は僕をのぞき込んでそう尋ねてきた。
「博貴が生き返れば幸せになれるだろうな。それ以外の人も・・・。」
僕がそう言うと、困ったように少女が聞いてきた。
「・・・それは、死んだ人間を生き返らせる、ということですか。」
僕は「そうだよ。」と強く言い返した。
「それは・・・、できません。」
少女がうつむいてそう答えた。それが不可能なことくらいわかっている。だからこそ、僕はこんなに悲しんでいるのに。
「死ぬことは幸せなことではないのですか。」
「そんなわけないだろ。」
少女が訳のわからない事ばかりいうので、僕はとうとう声を荒げてしまった。
「幸せなことではない・・・、ならわたしは・・・。」
そう呟くと少女はどこかに行ってしまった。いったい何だったのだろう。人の気持ちが全くわからない素振りをして。――ただ、皮肉にも、自暴自棄になっていた僕の気持ちが落ち着いていた。
これからどうするか考えないといけない。とりあえず莉奈と合流しなくては。僕はそう思うと再び莉奈の家に向かって歩き始めた。