死の連鎖①
莉奈は今、何をしているのだろう。死んでしまった・・・、いや、そんなはずはない・・・・。部屋の隅にうずくまって僕は心の中で何度も何度もそう繰り返した。そんなことを考えても、今のこの状況は何も変わらない事はわかっている。わかっているはずなのに・・・。
そんな事を考えている内に、いつの間にか寝てしまっていたらしい。カーテンの隙間から差し込んだ朝日に照らされて、僕は目を覚ました。――やはり携帯電話に着信はないままだ。リビングに向かうといつもに比べると粗末な料理が並んでいた。家にある食料も限られている。家からなるべく出ないようにしなければならないということが、自分に無関係ではない事を改めて実感した。父さんも会社から帰ってきていないようだ。また、学校からも臨時休校を知らせる電話が来た。外で流行っている原因不明の病がいったい何なのか、それが解明されるまで、家を出ないようにしなくてはいけない。そんな当たり前の事はわかっているはずなのに、僕は家から出たくてしょうがなかった。
部屋に戻ると、携帯電話に通知が来ていることに気がついた。もしかして、と思って急いで確認してみると、博貴からのメールだった。期待していた人物からのメールではなかったので、僕はほっと肩を下ろした。
[なんか外は大変な事になっているらしいな。そっちは大丈夫か?]
僕は「大丈夫だ。」と返信した。実際、この辺では病気が流行っているような兆候は見られない。カーテンを開けて外を見るが人がいる気配はない。誰もが病気を恐れて外に出ないようにしているのだろう。返信を送って何分とも経たないうちに博貴から再びメールが来た。
[うち、食材切らしてしまってさ。買い出しに行かないといけないんだが・・・、この辺あまり被害はなさそうだし、大丈夫だよな?]
確かに僕の目にもそう見えた、しかし迂闊に外に出るのも危険な気がする・・・。博貴には、もし本当に外に出るならできるだけ注意していけという旨を伝えた。それから間もなく、博貴から
[わかった、気をつける]
と書かれたメールが来た。どうやら本当に外に出るようだ。博貴の無事を祈りつつ、携帯電話を置こうとしたとき、また携帯電話に通知が来た。その通知を開いて、僕は目を見開いた。莉奈からのメールだった。
[家に来て]
そのメールを見て、僕は考える間もなく部屋から飛び出して靴を履いた。家を出ようとする僕を母が呼び止めた。
「母さん、ごめん。どうしても外に出ないといけなくなったんだ。」
絶対に止められるだろう、僕はそう思った。しかし母は僕を止めようとはしなかった。
「絶対帰ってきなさいよ。」
僕はその言葉を聞くと、何かに追われるように家を飛び出した。