先触①
莉奈の姿が見えなくなった後、帰りが遅くなってしまったと、陸斗は家まで走った。
食べかけのアイスもすっかり溶けてしまっていた。
家に着くと、玄関には既に父の靴が脱がれていた。
「ごめん、遅くなった。」
陸斗は靴を脱ぎながらそう言い、そそくさと手を洗った。
おかえり、と母は料理をしながら答える。
「今日は俺が早かっただけだ、別に慌てなくてもいいぞ。」
父はそう言って笑った。残業ばかりで、家に帰るのは翌日、
というのが普通だった父が、息子よりも早く帰宅できている。
それだけのことで父はご機嫌になっていた。
「莉奈ちゃんのお手伝いしてきたんでしょ。」
母はわかったように言う。陸斗の帰りが遅くなる理由はそれくらいしか考えられないのだ。
そうかそうか、偉いぞ、と父が笑う。
陸斗はそんな妙に機嫌の良い父を少々気味悪く感じていた。
戸田家では、家族で食事をするときにはテレビを消す。
もちろん、携帯電話も使ってはいけない。家族内の会話を大切にしているからであろう。
陸斗は一人息子なので、いつも会話は陸斗の学校での話になる。
陸斗はそれが恥ずかしいと思う年頃だったので、夕飯を食べ終わるとすぐに部屋に籠もってしまった。
部屋に戻ると、いつものようにゲームをしようとコントローラーに手を伸ばそうとした時、
携帯電話にメールが届いていることに気がついた。
[りっくん、夜遅くにごめんね。もうお父さん帰ってきた?]
莉奈からのメールだ。陸斗はすぐに、帰ってきてるよ、今日は珍しく早上がりだったみたい、と返信した。
[そう…、わかった、ありがとね。おやすみ。]
すぐに返信が来た。莉奈の父親も帰りが早かったのかな、
そんなことを考えた後、陸斗は気にもとめずゲームを始めた。
しばらくゲームをした後、日付が変わりそうになっていることに気づき、
すぐさま風呂に入り、息をつく間もなく寝てしまった。
明日も学校か…、そんなことを考えながら。