また明日
今日の授業が全て終わり、放課後となった。
博貴はサッカー部に所属しているが、僕と莉奈は部活に所属していない、つまり帰宅部だ。
僕は単に部活というものに興味がないから所属していないのだが、莉奈は違う。
莉奈の母親は僕らがまだ小学生の頃に交通事故で亡くなった。それからは父親と二人暮らしだ。
莉奈の父親は会社の中でもかなり偉い人だということは親父から聞いている。
そういう事情があって莉奈は家事をしなければならないのだ。
「りっくん、そろそろ帰ろ。」
莉奈が鞄を持ってやってきた。僕らは毎日一緒に帰っている。今日もその例外ではない。
「今日の体育で最後シュート打ってたでしょ? 入れば同点だったのにねー、惜しかったねー。」
やれやれ、見られていたのか。しかし痛いところを突かれたな。
「でも、自分でシュート打ってた姿、かっこよかったよ。」
莉奈は下げて上げるのが得意だ。こういった手法で多くの男どもを射止めたのだろう。
僕は莉奈のことをどう思っているのだろう。
好き、というわけでもないし、ただの友達にしては仲が良すぎる気もするし…。
自分自身の気持ちだというのにどうしてこうも理解できないのか。
ましてや他人の気持ちなんてもっと理解できない。
莉奈は僕のことをどう思っているのだろうな。
「今日は買い物しないといけないんだ。」
莉奈がふと思い出して言う。
手伝うよ、と僕が言うと、ありがと、と頬笑み返してきた。
莉奈のことを助けてやってくれ、そう親父に言われている。
まあ、言われなくてもそうしていただろう。
学校から家に帰る途中にスーパーマーケットがある。
僕らが買い物をする時はいつもここに来ている。
「今日はピーマンが安いね、今日の夜ご飯はピーマンの肉詰めにしよう。」
莉奈が楽しげに商品を選んでいる。僕は挽肉を取ってきてあげた。
こういった手伝いは今までに何度もやってきている。
それで莉奈の家庭で使われる具材の量がだいたいどれくらいかわかるようになっていた。
「りっくん、アイスどれがいい?」
じゃあ抹茶アイスで、と答えた。
僕は買い物の手伝いをしたとき、アイスを買ってもらう。
そして帰り道の途中にある公園で食べて帰るのだ。
買い物を終え公園に行くと、二人がけのベンチに座った。
僕はさっき買ってもらったアイスを食べ始める。
「いつも手伝ってくれてありがとね。」
莉奈が申し訳なさそうに言った。
かまわないよ、と僕は返す。
僕はいつも莉奈に助けてもらっている。具体的に何を助けてもらったかなんていえないが、少なくとも今の僕がいるのは莉奈のおかげだ。むしろ感謝しないといけないのは僕のほうなのに…。
「私ね、今の自分がいるのはりっくんのおかげだ、って思ってるんだ。いつも助けてもらってばかりで…。私家のことばかりで学校でのこと疎かにしちゃって、友達とも上手に付き合えないし、話も合わせられなくて。でもね、りっくんがいつも私の話聞いてくれるから、すごくうれしい。」
僕は黙って聞いていた。僕も同じ気持ちだって何度も心の中で繰り返して。
しばらく沈黙が続いた。莉奈が微笑みながら口を開いた。
「何かごめんね、突然変な話して。」
僕は首を横に振った。
「本当にありがとう、りっくん。」
そう言うと莉奈は立ち上がった。僕もそれを追うように立ち上がって言った。
「こちらこそ、ありがとう。」
僕らは微笑みあった。そろそろ帰ろうか、と言って僕は食べかけのアイスに蓋をする。
そして、莉奈を家まで送った。
「また明日ね。」
莉奈はそう言って手を振った。
僕はそれを見て、手を振り返しながら自分の家に向かった。
辺りははすっかり暗くなり、空には綺麗な三日月が浮かんでいた。
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どんな裕福な人にも、どんな貧乏な人にも、誰にでも平等に「時間」は与えられる。
だからこそ、僕らは未来に希望を抱くのだ。
僕はあの時、希望に満ちた明日が、「幸せ」に満ちた明日が来ることを、信じて疑わなかった。