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異世界端役の惨憺たる日々  作者: 小物爺
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第三十六話 タナトスさん家に避難した

先ほど真っ二つになったハリボテ大岩を横倒しにして腰かけ、不機嫌な顔で堅いパンを齧る俺の視界に、黒と金を基調にした輝くブーツが目に入った。間もなく放送予定の『所構わず転生無双』主演のキリットさんである。


「端役くん、最近流行っているアレは何だ? この地区だけの風習か?」


……また聞かれた。なぜ俺に聞く? フランクが代わりに答えてくれた。


「あれ……えっと、小さな幸運が訪れるように、みたいな……女性に人気で……」


不可思議な顔でトコロテンガールズを眺めるキリットさん。昼食を食べながら缶や瓶をカチカチぶつけて「竪琴の加護あらんことを!」とやっているのだ。アラ洒落た乾杯の文句ねー、と瞬く間に女優陣に広まった。ブームというのは一過性のものであり、俺は収束まであと三週間ほどの辛抱だと諦めている。


「……ふむ。竪琴は我が世界でも雅な楽器だった。酒の神が使っていたような……今回の作品で決め文句に使ってもよさそうだな。どう思うかね?」


フランクは諦めて会話から撤退し、昼飯を包んでいた布の端のほつれ具合を丹念にチェック中。酒の神……酒乱どもが始めたことだから無理もない。


「え……いえいえ、やはり前作ご覧のファンが多いんですから、『転生は常に……』のパターンを大きく変えるのはファン的にどうなんでしょ? 転生は常に竪琴とか、少々語呂もいかがなもんかと……」


「うむ、それは一理ある。鍛えられし鋼のイメージ、そこは譲れんな」


「殺陣のリハのとき不思議だったんすけど……左の腰につけた小さい黒剣、使わなかったすね? 何か設定ですか?」


するとキリットさんは掌ほどの短い黒剣をベルトから外して……なにそれ、紙でできてますね? また新しいテクノロジーですか?


「次男が欲しがってな、作ってやったのを家から持ってきてしまったのだ」


はー……元ハガテン嫁軍団、子育て真っ最中って言ってたな。こりゃ微笑ましい話では? フランクもそう思ったのだろう。


「それ、ボクら倒すときに使って、持って帰ったら……息子さん、あとで放映見て喜ぶんじゃないですかー……?」

「ふむ……なるほど。ではせっかくだ、使ってみるか。転生は常に全力、子育ても全力でなければな。おーい、カリム! 提案を聞け」


スタスタと監督のところへ。こちらを見るので指でマルを作って示す。紙の黒剣で刺される役を希望したいもんだ。少しでも怪我が減るのは嬉しい。


◇◇◇


手紙が来ていたようだ。メリッサが取り、差出人をを見てフランクを呼んだ。不死系の連絡かな……しばらくすると二人が俺の部屋の戸口に立ち朗読し始めた。一文ごとに交替しながらだ。アルトと低音の混成二部のおかげで内容が頭に入らない。二回目の朗読に入ったのでひったくる。


◆◆◆


先に出張から帰っていました。ネックレス、気に入ってくれたようです。目立たぬよう騎士服の下につけてくれています。


レポートは優等でした。今期は2人だけ、一人はエルフの子で、今は並んで座ってます。相変わらず容姿を馬鹿にしてくるのは無視しています。先日のお昼休み、土魔法の土や石などは死の象徴だと言われてかっとしました。石と土が育んだものを侮辱するのはエルフの恥だ、純血がなんだ、ハーフやダークにも、あなたが馬鹿にする種族にも私の尊敬する人がいるんだと言い返し、喧嘩になりました。教室で少し魔法を使って先生に初めて叱られました。その子とは今日まで話していません。


フランク風ムニエルとメリッサのブラッディスイートソテーを作ったら、私はそちらでご馳走になったのだから十分だろうといって、私のお皿から半分を持っていきました。滅多にないことなので少し嬉しかったです。


石切り場で見た、私くらいの男の子の話をしちゃいました。母はしばらく黙っていましたが、私の頬に手を当てると、そういうものだ、とだけ言いました。


学期末の考課でも優等をもらえれば課題が免除になります。頑張ってまたお邪魔できたらいいなと思います。ニルヴァーナさんとセルマさん、親方さん、食堂のお姉さんにも心からのお礼をお伝えください。ではまた。ライア


◆◆◆


「なぜお前らが先に読んでんだよ」

「ほら」


一行目に「メリッサ様、フランク様、コモ」と書いてある。私たちに優先的に宛てられた手紙だという理屈でメリッサが持っていき、数日後には食堂の三箇条右下にピンで留められることになった。


◇◇◇


闇エルフは初対面の俺に、デレハラ野郎と因縁をつけてきた記憶がある。そんなヤツらが何故オジサンハラスメントの先鋒に立っておるのか。メリッサが手紙を見せたんだろう、また新しいオッサンいじめが開発された。『おさテン』ヒロインのイローナさん、コズミカさんと一緒に本日ゲストのセルマが騒いでいる。コズミカさんが先日口説かれた折の、勘違い野郎の種々の勘違い言動をあれこれ報告して笑いものにしているのだ。


「あり得なくないー? 」

「ハハハ……!『そういうもの』だわよ。ギャハハ!」

「『そういうもの』、それよ!」

「『そういうもの』なのよねー、やんなっちゃうよー」


これまた流行語になりそうな気配、殆どの連中は知らんのだが、わずか数名の訳知りが腹の中でどれだけ黒い笑いを堪能しているのか考えると飯すら喉を通らない。セルマのギャハハ顔が特に胃に悪い。すると肩を叩かれた。ん? と振り返ると、確か向こうのスタジオで撮影中だったタナトスさん。えー? 今度はタナトスさんにまで理由を聞かれるのかよ……だがさすが転生界人格者不動のNo.1、全く関係のない話であった。


「コモノさん……少しお願いがありまして。食事のあと、少しいいですか?」


えええええ? 何でしょ? 新シリーズ『奥様は転生者』に出ないかとか言ってくれんのかしら? 『奥テン』はアシテン終了後に始まった軽喜劇的な転生ホームドラマ。女優さんが転生者役、タナトスさんはこの世界の平凡な青年を演じ、奥さんが引き起こす各種の暴走を大らかに受け止め、知恵を振り絞り何とか解決するという一種の逆転コメディである。アシテンよりエンタメ寄りだが、タナトスさんの軽い演技も新鮮である。序盤の数字は芳しくないものの、女性受けはいいらしい。


メシを片付けあちらの撮影所に同行。空いているテーブルに座る。こっちもセット組み直しの時間帯で結構騒々しい。


「いつでしたっけ、女優陣と人形劇をおやりになったって聞いたんですが」


……ああ。パクちゃん人形劇の件ですか。


「先日、地元組合の会合に出たら、農協まつりで何かやってくれと言われまして……アシテンで顔を覚えられてまして、色々世話になってる都合もあって……」


「うわ、災難ですね……俺も町会の義理だったんで……分かります。断るってのは無理ですしね。それで人形劇っすか?」

「ええ、田舎ですし、生身で何かやれといわれても、辛いものがありまして」


……農協まつりの隅っこで、一人でアシテンの名シーンやってるタナトスさん……うわー、それは気の毒だ。まばらな拍手とか、涙が出そう。


「……当日含めて手伝ってもらえませんか? お知恵も借りたいし」


多々恩義のある恩人である。日程を聞くと俺の撮りもない日。家にいるとオジハラエルフに襲われる確率が上昇する。緊急避難させていただこう。


「勿論っす。今日、撮りは何時で上がりです?」

「えーと……私は四時だったかな」

「俺もそのあたりです。よかったら家で少し打ち合わせしませんか?」

「じゃ、お言葉に甘えて」


◇◇◇


二人を置いて先に帰った。タナトスさんは端役ハウス初である。どなたも驚いてくださる程度に分不相応な家に住めてる恩恵をしみじみ感じる。モニカさんとご両親にまた手紙を書かねばならん。どうせタナトスさんはシーズ行きの竜車を利用するはず、ご自宅で夕飯となると、7時ごろまでが限界だろう。さっそく台所から鍋つかみを持ち出し、以前の馬鹿騒ぎを説明する。


「はー……これは手軽だし、愛嬌があるなあ。たぶんうちにも幾つか」

「足りなきゃメリッサに言えば幾らでも揃います。どんなのをやる予定ですか?」

「いえ、恥ずかしながらノーアイデアで……ただ、私が段トツで若いといえば、観客層の想像がつきますよね」

「なるほど……ジジババ向きっすか。史実モノですかねー? 他にどなたか出る方います?」

「いやー、実はそれが……私とコモノさん二人で何とかなりません?」


任侠猫獣人のマタタビ時代モノかなー。こっちの作品に詳しくないタナトスさんに幾つかレクチャーしていると、やつらも帰ってきたようだ。ニルセルの声も聞こえるが、いつもより断然静かである。見たかタナトス効果、転生バリア。


「おや、お客さんですか? ……ああ、お二方ですね」

「いーえ、断固として違うっす。あれを客と認める器量は俺にはないっす」


色々紹介した中では『グラスショア』という人情物がよさそうだという感想。これはジジババ向けの王道、笑いの最後にホロリとくる部分もあるし、主要人物は大酒呑みの亭主と口うるさい女房の二人だけ。


「タナトスさん、どっちやります? 俺、できれば是非とも亭主の方を……」

「いえいえ!  コモノさん器用じゃないですか。おかみさんのほうをやってくださいよ」

「とんでもない! 女房にこそ演技力求められるんすよこの話、組合員なのはタナトスさんですし、ぜひとも主演は……」

「何おっしゃいます、あれだけバリエーションのある演技のできる人がそんなに遠慮しなくても、今回はぜひ……」


ああ、醜い押しつけあいが始まった。メリッサが茶を持ってきてくれたのでひとまず中断。挨拶のあと、


「どうしたんです? さっきまで静かだったのに急に盛り上がって」

「いえ、コモノさんに催しを手伝ってもらうので、それで少々……」

「あんた、またトンデモ話をやるの? タナトスさんまで……」


失礼極まりない物言いだ。あの人形劇を破壊したのはどこの魔女なのか。


「安心しろ。元の話に忠実に淡々とやるだけだ。俺たちだけだから話が山に沈んだり海に登ったりする懸念もない。邪魔すんな。あ、あいつら来てるわりに静かだな?」

「あー、いつもこうだと言い繕うように言われてるのよ」


ハハハとタナトスさんが笑い、メリッサは頭を掻きながら出ていった。


「……タナトスさん。とっとと決めましょう。このコインで、能力なしで!」

「……いいでしょう。……表!」


……タナトスさん。何も使ってないっすよね。ホントっすよね。


◇◇◇


竜車場まで見送り帰ってくると、『優しき巨人』亭、珍しく入口近くのテーブルで四人が飯を食っている。半エルフが絡んできた。


「アンタ、転生者さんにまで迷惑かけたら業界いられなくなるわよ。『そういうもの』なのよ?」

「その失礼な口に酒瓶の太いほうを突っ込んどけ。俺はタナトスさんからの信頼篤き、端役界の知恵袋だ」


ニルが皿から豆を飛ばし俺の鼻先を狙ってきた。


「悪知恵の大袋ですね。わかります。また人形劇ですか、本当に芸のないこと」

「仕方ねえだろ。秩序を乱す魔女がいないだけで大助かりなんだ」

「どんな予定なのー?」


概要を話す。フランクはともかく、みな『グラスショア』を知らなかったようだ。腕はいいが気難しく、酒で身を持ち崩している防具職人が、ある朝女房に叩き出され素材集めの迷宮に向かう途中、大金の入った袋を拾う。近くの飲み屋で散々飲んで戻り、酔いつぶれて寝た隙に女房は袋を隠す。亭主に夢だと思い込ませ、女房は長い説教。職人は心を入れかえ酒を断ち、働いて一年後、女房は亭主に袋を示して真相を打ち明け、嘘をついた自分を迷宮に捨ててくれと詫びる。いや悪かったのは俺だという亭主に女房は久方ぶりの酒を出す。一年ぶりの酒を呑もうとして亭主は思いとどまる。「また夢になるといけねえや」という痛快なサゲで終わる名作だ。


全員興味深く聞き入った。いい話だと思ったんだろう。メリッサが言った。


「酒呑まないとこ除けば、あんたがやるのはなかなか似合ってる」

「いや、それがだ。俺はカミさんの役をやることになった」


数秒の沈黙のうち、下町の女房の服装をした俺の姿を各々が脳裏に描いたのだろう。大爆笑で他のテーブルの客が一斉にこっちを見る羽目に。


「脳内映像を消去しろ。パクちゃん人形劇だぞ。……声が頭痛の種なんだが」


フクフクフククフフと痙攣していたニルがナプキンで目元を拭い終えた。


「フフ……フクフクク……はー苦しい、涅槃に旅立つところでした。その声とやら、やってみましょう今すぐここで。プロが演技指導をしてあげましょうククフフク……」


挑発しやがって。涅槃に追いやっちまえと決意し、できる限り真剣に中年女性の声を真似てみる。人が真剣な姿ほど笑いを生むものはない。手元の台布巾を革袋に見立て、開けて驚く芝居をしたあと、


「……『アンタ!……こんな金貨、どこで拾ったんだい!?』……」


再び数秒の間があり、フランクはのけぞってアハハと笑い3名はテーブルに突っ伏して全身を痙攣させて足をバタバタさせている。こうなりゃヤケである。


「……『お前さん、アタシを……アタシを、迷宮に投げこんでおくれ!』……」


よしよし。呼吸すら危うくなってきたようだ。この隙に4人のオカズを食ってしまおう。不審がるイレーヌに手を振り、皿だけ取りにいく。


◇◇◇


「……死ぬかと思ったわ。シフトで見にいけないのが悔しすぎる」

「破壊力、抜群だわー。撮りでアレ思い出したら……撮り直し必至、ギャハハハ……」

「クックク、セルマやめて、それは禁句ですよ絶対フククフククク……」


「……あれさー……アレックスさんの真似してんのかなー?」


ピタッ。


「……暗愚とはいえ、その真剣な努力を笑うのはどうかと思いますよメリッサ」

「セルマ、仕事の関係でプライベート犠牲にする人間、馬鹿にするのは感心しないわ」

「いやその通り。本当に。この世には茶化してはいけないことってあるわ。竪琴の加護のある限り」


………発作に効果あったみたいだなー。よかったー。


◇◇◇


几帳面なタナトスさんとの二人芝居なので、詳細に台詞を書いた台本もどきを二部作った。必要な朗読はフランクに頼み、小型魔晶にふきこんで準備完了。困ったことにジジババは朝が早い。農協まつりは朝7時開場だという。


「前夜から泊まりに来てください。何のお構いもできませんが。家内もそうお伝えするようにと」


お言葉に甘えることにした。共益費から土産代をせしめて夕刻シーズへ。夕闇が迫る中、赤っぽく灯る農家の照明には風情がある。奥さんが迎えてくれた。


「ご無沙汰してます」

「また今回もお世話になってしまって……どうぞどうぞ」


ウラヌスちゃんにさっそく聞かれた。


「カプリスたち、今日はどこいってるの?」


歯列矯正の女神やドラゴンブレスで黒焦げになった回なども詳しく知っている。ファンはありがたいなあ、メリッサ。


他家でご馳走になるのは久しぶりである。心が安らぐ。こういうのが晩餐というものである。はしゃいで疲れておねむのウラヌスちゃんは早々就寝、御二人とお茶をいただく。奥さんが小ぶりの木箱を持ってきた。香木を用いているようだ。


「実はずいぶん前、これが届いたのです。お心当たりは……?」


差出人は住所なし、『大恩を受けし二人より』となっている。開けてみると……。人間界で見ない材質、繊細で複雑なカットの凝ったペアグラスである。片方は深みのある黒、もう一つは乳白色。誰が見ても贈り主が分かるってもんだ。


「先日タナトスさんのおかげで助かった奴とその友達からですね。使ってやってください。あいつら、俺にも何も言わなかったんすよ。俺も何も言ってないけど、考えたんでしょう」


マエ旬と批評の一件、誰も口を割ってないはずだから推測したんだろうな。タナトスさんの協力がなきゃ難しかったし。奥さんなら問題なかろうと思い、概略を話した。タナトスさんは約束を守って、奥さんにも話していなかったようだ。少し恨めし気にご主人を睨む。タナトスさんが困った顔で俺を見た。


「……これを見ていただきたかったんで、お招きしたところもあるんです……最近何か、現場で微妙にご心労もあるようだし……」


そこまで気を遣ってもらうとは。苦笑いして頭を下げるのみである。


「いい遊び道具にされてるんすよ。放置してください。俺は……まあ……」


奥さんが茶目っ気のある表情で俺を見た。


「……楽しんでいらっしゃる?」


顔の前で慌てて手を振り、ついで笑い出すしかない。お二人とも時間帯と状況をわきまえた節度のあるたいへん好ましい笑いだ。どこかの連中に演技の手本として見せたいものである。


◇◇◇


予想通りご年配が中心の人だかり、『グラスシェア』という題名でけっこう期待されていたようだ。タナトスさんがガラッパチな演技をする意外さに暖かい笑いが、俺の真剣な裏声にはたびたび爆笑が起きた。そこそこの受けで無事終了。


「いやー……現場より緊張しましたよ……」


さもあらん、ウラヌスちゃんと奥さんも座っていたのである。パパの熱演にしょっちゅう拍手するウラヌスちゃんとそれを止める奥さん、面白がって奥さんを止める婆さんとオバちゃん達を堪能できなかったのが残念だ。パクちゃん二体はタナトス家に寄付した。さっそくウラヌスちゃんの子分になっている。


「こんなので良けりゃ、またお困りの際は声かけてください」

「では遠慮なく」

「コモノさんも、遠慮なく主人を使ってくださいね。どうせ力は持て余していますし」


野菜をしこたま頂いて帰路に。アスパラは入っていなかった。どこまでも気配りの行き届いたご夫婦である。帰りたくない。ここの子になりたい。


◇◇◇


「ギャラだ。豊作だ。日持ちのする野菜ばかりもらった」

「あらー! 立派なおジャガ! わ、つやつやナス、トゲが元気!」


既にセミプロ、見立てが正確である。野菜評論家にもなれそうだ。


「ウラヌスちゃん、ドラゴンブレスの影響を心配してたぞ」

「え、ホント?」

「おそらくお前よりもお前に詳しいと思う」

「……またお邪魔したいわー」


風呂上がりの巨体から湯気を上げフランクが入ってきた。


「おかえりー。あ。お野菜。お芝居うまくいった?」

「ご家族が見てたんで、タナトスさんがボロボロだったよ。意外」

「そういうもんなんだろうねー」

「あんたのおかみさんはどーだったの?」

「まあ、絶賛という言葉以外は不適当だろう。爆笑の渦ってヤツだ」


フハハ、フハと思い出し笑いをしやがる。懲らしめてやるか。土産に貰った山の実の果汁をメリッサの口元に近づけ、真剣な顔で裏声。


「……『あんた、さあ、えんりょなく呑んでおくれ』……」


身を折って蹲った。肩が痙攣している。フランクも大口開けて動けない。どうせ明日また新しいイジメが来るかもしれん。ここで恨みを晴らしておこう。


「……『どうしたんだい、おまえさん! お腹でも痛いのかい? あたしゃ心配でさ……』……」


ついに二人とも横倒し、涙を流しながら腹を抱えピクピクしている。怪物、吸血、黒白エルフにも笑いは有効であることが証明された。そのうち笑い能力に特化した転生物ってのが始まるかもしれん。そうか、この転生者に匹敵する新しい能力で、俺はやつらを血祭りにあげる定めなのだ。俺が真面目な顔で本番を眺めるだけでも十分だ。愉快である。タナトスご夫妻にまたも感謝である。


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